安価『ピカチュウ』

17 :安価『ピカチュウ』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/28(金) 21:37:10.06 ID:KvBKngXM0
「なんか、リョウってピカチュウみたいだな」

 と、カズが言ってきたのがついさきほど。それだけ言うと納得した様に二回ほど頷き、カズはテレビの世界へと潜って行く。
 俺としてはテレビなんかよりカズと喋っている方がずっと面白いけれど、なかなかどうして心が通じることはないらしい。
 爆笑するカズの細い背中を見ながら、さっきの言葉を反芻する。
「ピカチュウ……?」
 やっぱり、髪のせいなんだろうか。小学生の時から染めている金髪は日光に透けて白く見える。どうやら抜き過ぎたみたいだ。
「ピカチュウ……」
 ほっぺたは赤くないし、電気とか溜まらないし、尻尾付いてないし、サトシいないし。
 ……なんでピカチュウ?
 頭を捻ると、ボロイ蛍光灯が目に入ってくる。そうか、こうして真昼間から電気を消費するところなんか、ピカチュウかもしれない。
 そうかそうかとその光に手をかざしてみる。垂れた紐を掴もうと悪戦苦闘すること三分。いくら俺の背が高くても無理みたいだ。
 いや、逆に良いことだ。座高が高くないという証明なのだから。
 ぼけーっと見つめている俺を嘲笑うかのように紐が揺れる。
 届きそうで届かないところなんか、カズみたいだ。
 あれ? そうするとピカチュウはカズの方なんじゃないか?
 新たな問題に直面した俺は、胡坐をかいて座りなおし、腕を組んで考えてみる。ちなみに俺は腕を汲むとIQが二十上がる。当者比。
 うーんと唸っていると、後ろから背中を蹴られた。
「いで」
「おっまえなあ……なんで腕組んだまま倒れるんだよ。受け身を取れ受け身を」
 呆れたようにアイスをなめるカズは、やっぱり綺麗だ。
 一昨日の昼頃、カズが女になって俺の家に来た時、驚きはしたけれど、やっぱりよっしゃという気持ちが強かった。
 ホモなのかも、とか、引くよなーと毎日思っていたカズへの気持ちが、不正ではないと証明された気がしたからだ。
 カズは変な奴だ。俺が言うのはおかしいかも知れないけれど、俺と仲良くしてくれるから、変な奴。変わった奴。優しい奴。
『何考えてるか全然分からない』
 あまりに言われ慣れ過ぎたこの言葉を、見事に打ち破ったのがカズだった。
 人気あるのに。勝ち組なのに。クラスで一人孤立していた俺に光を与えてくれたカズが、やっぱり愛おしくて堪らない。


18 :安価『ピカチュウ』 ◆9Yp0F0tOG6 :2008/03/28(金) 21:38:04.30 ID:KvBKngXM0
 悶々とした気持ちを抱えたまま潰れそうになっていた俺に救いの手を差し伸べたのが、女体化だ。
 ありがとう不思議現象。ありがとうカズの童貞。
 もしかしたら気持ちが変わってしまうんじゃないかと怖かったけれど、女体化したカズは面白い位に俺のタイプの女になっていた。
「何にやけてんだよ……気持ちわりいなお前は」
 分かってます。本心じゃないのはよぉーっく分かってます。カズは優しい奴だから、俺は幸せだ。
「カズ」
「あん?」
「綺麗だ」
「あーはいはい」
 分かったから、というように手を左右に振られる。おかしいな、初めて言ったんだけど。
 多分、一昨日頭に大きなたんこぶができていたことが関係しているのだろうけれど、生憎記憶が曖昧だ。夜更かしはするもんじゃないな。
 よほど深刻そうな顔をしていたのか、カズが困ったようにアイスを舐めながら上目づかいにこちらを見上げてきた。
 うはっ、そのアングルやばいっす先輩!
「頭」
「……え?」
 頭がどうかしたのだろうか。カズの肩に伸ばしかけた手を音速で引っ込める。
「頭、まだ痛いか……?」
 恐る恐るという感じで、眉根を寄せながら聞かれる。頭ってあれか、たんこぶのこと。
「へーき。母ちゃんが氷袋作ってくれたから、ガンガン冷やしたら引っ込んだ」
 ニヘヘと笑いながらブイサインを作って大丈夫ですよアピールをすると、カズは安心した様に口元を綻ばせた。
 ……あーあーあーやばい。きゅんとしました。どうしよう抱きしめたい。けど怒るよな、ああでも。
 心の中で激しい葛藤を繰り広げていると、カズが吹き出した。腹を抱えて笑っている。
「え、な、何?」
 混乱しながら聞く俺に、笑い終わったカズは眼尻に溜まった涙を拭きながら言うんだ。
「やっぱお前、ピカチュウに似てる」
「え、え? どこが?」
「……可愛いとこ」



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最終更新:2008年09月11日 00:53
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