―選択―

―選択―



『・・と』
『・・・こと』
んぁ~、なんだろう、何かが聞こえる―。
体が揺すられる感覚。
薄く目を開けると姉の目の前まで迫っていた。

「ミコト!大丈夫?なんかうなされてたけど」

目だけを動かして時計を見ると、起床予定時間をすぎていた。
タイマーは掛けていたのだが、最近は目覚ましで全く起きられない日が続いて、姉のお世話

になってしまってる

「ごめん、大丈夫、すぐに起きるよ」
「ご飯用意してあるから」




洗面所に行き顔を洗う、いつもの日常だ
洗い終わった顔をタオルで拭き、鏡を見つめ、寝癖が無いかチェック

「・・・女顔・・・」
「これってどー見ても女顔だよなぁ・・・はぁ・・・」

こーやって自分の顔のコンプレックスに自分で突っ込むのも、いつもの日常だ
リビングには姉が作った朝食が用意してあり
姉はもう食べ始めている
自分も急いで支度して食卓に付き

「いただきます」
「ミコトまた自分の顔に文句垂れてたの?」
「あ・・・いや・・・まぁ」

なんともはっきりしない答えだと自覚しながらも
こんな言葉しか出てこない

「いいじゃない、あたしは好きだよ?ミコトの顔
 すっごくかわいいじゃない」
「でも一応男だから、正直微妙な気分になるんだよね」




小さい頃から女に間違われ、姉と一緒に歩くと『姉妹』だと言われ
私服で街へ出ればナンパされ・・・
もう慣れてるとはいえ、未だに自分の性の立ち位置?と言う物が定めきれない

「いっそ女になってみたら?」

TV画面を指差しながらそういうと姉は食べ終わった食器を片付け、学校へ登校して行った。

テレビには「女体化症候群による性同一性障害」とテロップが流れている

女体化症候群―14・15歳、遅くとも20歳前に突然からだが女体に変化する症状
原因は不明、回避方法は初体験していれば、つまり童貞でなくなれば女体化を防ぐことがで

きるらしい

今更女になったとして、なにか変わるんだろうか
そんなことを姉と同じ学校へ向かう途中に漠然と考えていた



教室に入ると同時に「おはようミコト~」なんて挨拶が人2分綺麗に重なって耳へ聞こえてく


クラスの視線が集まるからいい加減嫌なんだけどな、こういうの
自分は固まって座ってる3人の席に近づいてから、挨拶をした

「今日もかわいいねぇ~ミコトちゃんは」

毎回こんな冷かしな台詞を言ってくれるコイツはリョウ
髪に赤メッシュを入れてるイケメンボーイだ
小学校の頃からの幼馴染が男ってのは、ちょっとアレだけど
仲間思いのいいやつで、クラスの人気者だ。
ちゃん付けで呼ばれたりミコちゃんとか呼ばれ続けて
やめろと言っても聞かないのであきらめてる

「リョウ、次その台詞言ったら蹴るよ?」
「でも事実かわいいんだから仕方ないよなぁ?ハヤトもそー思わね?」
「まぁ、確かにミコトはそこら辺の女子より顔が綺麗だしなぁ」

ハヤトの台詞に周囲の女子達の視線がハヤトに一瞬だけ向いた気がした。
コイツは女を敵に回すのが上手い、もはや特技かもしれない。




「もういいよ、短い髪が似合わないから長髪なのも、余計見た目あやふやにしてんだろうし」

朝の雑談をしていると1限が始まってしまった。
まだ少し眠い自分は、1限目の途中あたりから睡魔に負けてしまったらしい。
起きるともう昼休み時間になっていた

「おはよう、ミコちゃん」
「やばっ・・・もしかして古典まで寝てた?」
「ばっちり心地よさそうに寝てたよ、ほら写メ」
「げっ、それ早く消せ!」
「やだ、それに俺の消したって無駄だと思うぜ、休み時間に他の女子も何人か写メ撮ってた

し」
「マジデ?」
「うん、マジ」
「おまえら飯食わねーの?」
「あ、、、そっかお昼か、まだ寝ぼけてるみたい・・・食堂移動しよっか」


「そーいやさぁ」

食堂で各々食事をしながらリョウが話題を持ちかけてきた




「女体化症候群、お前らそろそろヤバイんじゃね?俺はもう童貞捨ててるから問題ねーけど」
「俺この間検査受けに行ったら陰性だったから大丈夫らしい」
「へぇ~、検査とかあるんだ、知らなかった」
「ミコちゃん危ないんじゃね?女子とかには人気だけど、彼女とかできたって話今まで聞いた

ことないし」
「そうだねー不思議と危機感とか無いんだよね、女体化症候群・・・だっけ」
「ミコト絶対検査受けといたほうがいいって、今はかなり技術進化してて、かなりの精度で判

別できるらしいから。突然女になったら困るっしょ?」
「でもさー、ミコっちゃんが女になったら絶対可愛いと思わない?」
「たしかに、元々美人だし、きっとお姉さんに似て超絶美人になるな」

ぁ・・・なんだろ
ハヤト達の声がすごく遠くに聞こえる
急に頭がガンガン痛みだした事に自覚した瞬間―視界がホワイトアウトした―
ガシャン、ドサッという音が聞こえた気がしたが、何が起きたのかわからなかった




―白―
目を開けると白い天井
少し硬いベッドの感触、どうやら病院かどこかに居るんだって事だけは理解できた

「ミコト!」

姉の声
よく周りを見ると、珍しく母親と父親が居た
リョウも、ハヤトも居る

「あれ・・・確か学校で学食食べてたはずじゃ」
「急にぶっ倒れて、病院に運ばれたんだよ」

リョウが簡潔にわかりやすく説明してくれた

「そっか、最近眠気とか変だったんだよね」

そう言って起き上がろうとすると全身の関節に軽い痛みが走った。

「っ・・・」
「もうすぐ先生が来てくれるから、ミコトは無理せず横になってなさい、熱もあるみたいだし」

母親がそう言うと、病室のドアが開かれ、白衣の男性が入ってきた
この人が主治医だろうか




「目が覚めたようですね、体の具合はどうですか?」
「関節が少し痛い、あと少し暑いかも・・・」
「息子は、大丈夫なんですか!?」

良く考えると、インフルエンザで高熱を出したときも、父親は仕事が手放せなくて、駆けつけ

てくれなかったな
父親のこんな心配した顔を見るのは何年ぶりだろう・・・

「その件なのですが・・・えーっと、とりあえず親族以外の方は一時退室していただけますか

?」

リョウとハヤトが病室を出て行く
そんなにヤバい病気なんだろうか・・・もしかして癌とか・・・?
いや、癌だと最初は本人に癌と診断するのはあまり無いんだっけ


「検査をしたところ、原因がわかりました」

家族が緊張しているのが自分でもわかった

「名前はご存知かと思いますが、女体化症候群です」

驚き半分、やっぱりな。と冷静に思考してしまう
一応聞いておいたほうがいいのかな




「それは、もう女になるのは確定なんですか?」
「いえ、まだ少し、ほんの少しですが猶予はあります、ただし防げる確立は30%くらいだと思

ってください。今の段階ですぐに対処処置をすれば、女体化を止められるかもしれません
そこのところを、ご家族で話し合って決めるべきかと思われます」

なるほど、ね
まだなんとかなる『かもしれない』ってことか・・・

「1時間後に、また戻ってきます」

そう言って医師は病室を出て行ってしまった
今から話し合うのか
半ば決心は付いてるけど、どう言おうか
しばしの沈黙の後、親父が口を開いた

「ミコト、お前はどうしたい?」

「お母さんは、ミコトの意志を尊重したいと思ってるわ、だから自分で決めて頂戴」



「正直言うと、受け入れようと思う」

「ミコト本気?まだ、可能性はあるんだよ?」

すると姉はすごく驚いた様子で戸惑ってみたいだ、朝はあんなこと言ったくせに

「お姉ちゃんは、反対?」
「そーいう訳じゃないけど、本当にいいの?」
「まぁ、前々から自分が男だってことに不安って言うか、ちょっと違和感、いや違うかな
そーゆーの感じてたから、いい機会なんじゃないかなって思ってね
友達も、ミコトが女体化したら絶対美人になるはずだ!とか言ってたしね」

少し苦笑交じりに、自分の決意を表現できたと思う
一番の不安は、リョウ達との関係が変化することかな、でも不思議と変わらない気がする。
あいつ等は親友だから




「ミコトにしといて正解だったな、母さん」
「そうね」
「ん?どゆこと?」
「いや、お前が生まれる頃、女体化症候群って何もかも謎な病気だったんだ、だから万が一

息子が女体化症候群だったら、と考えて、男女で使えるミコトって名前に母さんと相談して決

めたんだ」

なるほど、ね
そんな名前にしたから中途半端な容姿に育ったのかもしれない
軽く怒りの感情もあるけど
これからは違う
今まで中性(自分の中では)として生きてきたけれど
ちゃんと女になれるんだ

そう思うと、少し楽になった気がした

「ハヤト達呼んできてくれないかな、心配してると思うし、あいつ等にも伝えておきたい」

姉はまだ少し複雑そうな顔をしながらも、「りょーかい」と言って病室の外へ出て行った



「ミコト、大体の話はお姉さんから聞かせてもらったよ」
「本当に女になるのか?怖くねーのかよ」

ハヤトもリョウも、心配してくれてるようだ
こいつ等には話してもいいだろう、今まで自分の性や顔について疑問を持っていた事を
先ほど両親へ話した内容を簡単に説明すると、二人は「なるほどなぁ」と言い
なんとか理解してもらえた。

最後に最大の問題を解決しなきゃいけない・・・


「女になっても、親友で居てくれる?」


これだけが不安だった、こいつ等との関係が
性別が変わることによって崩れることだけは、嫌なんだ

「当たり前だろ馬鹿!ミコトが男だろうと女だろうと、ミコトはミコトなんだ
それだけは変わらねぇ、これからもずっとダチ同士だ」

「急に女になったからって、急に接し方変えられるほど、俺たち器用じゃないしな」


やっぱり持つべきものは良き友人、かな


医師に女になる旨を伝え、今晩あたりに変性するだろうと診断され
病室で過ごすか、自宅で過ごすか聞かれ
少し体がキツイけど、自宅へ戻ることを医師へ話した




大抵の場合、女体化は初期症状が無く、1夜寝てる間に変性し
痛みも熱も自覚することなく起きたら女に変わっている場合が多いらしい
自分は例外のようだ、ホルモン異常から神経系異常、昼間からの発熱等
緩やかな変化かもしれないと診断され
夜どのような状態になるかわからないから、念のために病室で今夜過ごすことを進められた

が、どうしても自宅で過ごしたかった


「わかりました、では軽い睡眠薬と、鎮痛剤、解熱剤と、1週間分のホルモン調整剤を出して

おきますから、変性後に毎食後調整剤を飲んでください。絶対に無理はしないように、何かあったらすぐ電話してください」

そう言うと医師は今後どうすべきか、今までの事例のいくつか等を話してくれ、退院の準備をしてくれた



明日こそは、鏡を見て自分の顔に愚痴を言うことも無いだろう
なにせ生まれ変わるのだから

「さーて、じゃぁ明日の夜はミコトの女体化記念パーティーでもしようかしらね」
「いいっすねー、俺たちも参加していいっすか?」
「そうね、沢山の方が楽しいでしょうし、いらっしゃいな」
「ミコトは絶対超絶美人になりますよ!俺が保証します!」

みんな楽しそうだ
自分も明日が楽しくて仕方が無い、ちゃんと今夜は眠れるだろうか・・・そっか睡眠薬がある

んだっけ
回らない頭でこれからのことを考える
不安もあるけど、期待の方が多いかな



世の中には、不幸にも女体化症候群によって強制的に女になる人も居る
体が急に女になってしまい、心は男のまま性同一性障害となってる人達も多いと聞く
でも自分は、望んで女になるのだ
思春期男子の恐怖、女体化症候群と言われているが
これはこれで、いいものなのかもしれない



―ある意味、自分で性を選べるのだから―


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最終更新:2008年09月11日 00:58
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