『ヴォーカリスト響』

題名『ヴォーカリスト響』

ライブ一週間前
メンバーを集めてのミーティング
といっても、俺とベースの信二、ドラムの隆の3人での集まり

「ライブの次の日が、俺の誕生日だ」
『・・・』
「もし、俺の引退に反対のヤツは、殴ってくれてかまわない
今まで約2年間、せっかくレコード会社からもオファーが来てる状況で
解散になってしまうのは俺も悔しい」
「響、本当にもう変えるつもりは無いのか?まだ・・・男のままでも居られるだろ?」
「隆・・・すまない・・・俺、ずっと好きなヤツが居るんだ」
「じゃぁ!さっさと告白して、訳を話してみたらどうなんだ?」
「ソイツ、彼氏がもう居るんだ」
『・・・』
「俺が女紹介してやるよ!たった1回だろ、1回やっちまえば、このまま音楽続けれるんだぞ?」
「信二・・・悪い・・・好きじゃない女の子と寝るのは、嫌なんだ、どうしても」
「でもそれじゃ・・・」
「でも、音楽は続けるよ!誓う!」
「それはつまり、女になっても歌をやめないってことか?」
「あぁ、必ず続ける」

未練が無いというと嘘だ
まだこのまま、この二人と音楽をやりたい、その気持ちはすごく強い
でも、どうしても同じくらい譲れない気持ちもあるんだ。

「わかったよ、響は変なとこで頑固だからな、今更何言っても無駄だろう」
「そうだな、テスト期間中にも関わらず、三日三晩ろくにモノも食べず詩を書いたり
 まったく、変わったヤツだよ、ほんと」

「ただし、さっき言った約束、忘れんなよ?必ず、またお前の歌を聞かせてくれ
たとえ男だろうと、女になろうと、響の詩・歌は響の音楽なんだからな」

「あぁ・・・必ず、また戻ってくるよ」

「んじゃ、最後のライブ、全力でやろうぜ、響の悔いが残らないくらい、死ぬつもりでやってやろーじゃん」


ライブ本番
解散ライブという噂も広がっていたらしく、箱は超満員だ
3曲目、4曲目が始まった
ベースソロでは信二が神がかり的なメロディを奏でてゆく
ドラムの隆も、今までのライブとは明らかに違う
すでにスティックは4本目だ

ラスト、メンバーたっての希望で、俺のソロ曲
この日のために、最後のライブのために、自分で書いた曲
ラブソングだ、決して届くことの無いラブソング
歌いながら泣いている・・・観客も涙を流してる
ただひたすら、最後の歌を歌い続けた

『今日、このライブに来てくれたみんな、本当にありがとう
 そして、大切な知らせがあります。
 本日を持ってV/Rは解散します』

箱が揺れてる
俺の心が揺れる
もう・・・俺はこの声で歌えなくなるとステージ上で思うと
どうしようもない気持ちになる

『そして、南響は、このライブを最後に、引退します!』

会場からは「なんで!どうして!」など様々な声が飛んでくる
予想はしていた・・・だけど、もう変えられないんだ!

『今まで応援してくださったファンの皆様、本当に、本当にありがとうございました!』

そうして解散ライブを終えた俺たちは、楽屋裏で汗を拭きながら今日これからどーするか
話し合った
いつもはファンの子達を数人連れて、打ち上げに行くのだが
今夜は自宅で一人になりたかった
その旨を伝えると
「わかった、響について聞かれたら、適当に話しておくよ、受験勉強に専念するとかさ」
「助かるよ・・ありがとう」
「気にすんな!自分で決めたことだろ?そして俺たちも納得した!」

こーいう時、バンドメンバーってのは、学校の親友とは別なやさしさを感じる

「ごめんな、俺は明日から生まれ変わる!そして、かならず音楽に戻ってくるよ!」
「女になったら、色々大変そうだな・・・定期的に連絡くれよな」
「わかってるさ、必ず連絡する。そして、新しい俺の歌を聞いてくれ」


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最終更新:2008年09月11日 01:02
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