『ハイライト×ジン』
カランコロン
店の扉の鐘が静かに来客を知らせる音
私は咄嗟に読んでいた雑誌をカウンター下に隠し、接客モードにチェンジする
珍しい、女性の一人客か・・・
私より背が高い、多分170ちょいだろうか
そんな珍しい客は「ジントニック」とだけ言い、一番端のカウンターに腰を下ろした
女性用に少し度数を抑えて出したカクテルを無言で飲む客
グラスの中が半分ほどになった頃に、女性はタバコを取り出し吸い始める
女性でハイライトとはまた珍しい―今日は珍しいことだらけだなぁ
その香りに懐かしみを覚え、少しだけ昔の頃を思い出してしまった
高校時代、休日には誰かの家で酒を飲み
下らないことをよく喋っていた
誰が好きだの、どのクラスのヤツが誰に告白したらしいとか
確か、ハイライトを吸っていたのはあいつだったな
皆がマルボロやセブンスター等吸ってる中
一人だけ渋いタバコを吸ってるヤツが居た。
「マルボロなんて12ミリで軽いしチャラチャラしてる」
「男は黙ってハイライトだ」
そう言ってベース用に買ってきたジンをそのまま飲んでた男らしいやつ
声によって現実に引き戻される、しまった、注文を聞きそびれてしまった
「すいません、何でしょう」
「エクストラドライマティーニって作れる?」
「エクストラ・ドライ・マティーニですか?」
「そう、メニューに載ってないけど」
「かしこまりました」
エクストラ・ドライ・マティーニ
1滴のベルモットにジンを注ぐ、ほぼジンのカクテル
こんなモノ頼むのはほとんど男性だ、今じゃもう誰も頼まなくなってきたが
昔はヤツとよく飲み比べで飲んでいたっけ・・・
氷野・・・あいつとは良くサシで飲み明かしたものだ
元気にしてるだろうか
「今、氷野って言った?」
懐かしすぎて口に出てしまったのか
「すいません、昔の友人とコレを良く飲んでいたので、ツイ思い出してしまって
その友人もハイライトを吸っていたのでなおさら」
マティーニを出しながら謝罪。
「・・・加賀野?」
「え!?」ネームプレートは付けていない、何故この人が私の名前を?
「・・・氷野孝之、私の昔の名前」
「嘘・・・」
「加賀野でしょう?一緒にこれを飲んだことあるヤツは一人しか居ない
・・・そっか、加賀野も女になってたのか」
ハイライトを吸いながらそうつぶやく客、もとい昔のダチは
懐かしむように
「ひさしぶり」まさかこんな形で出会えるとは思ってなかった、と付け足した。
END
最終更新:2008年09月11日 01:03