校門を出、我が(と言っていいのかは知らないが)読書部の面々がそろうと
夕暮れにはちと早い空を仰ぎつつ帰路についた。
「意外と早く学校出ちまったな・・・・」
「ゲーセンでも寄って帰りますか?九条の姉さんのいる・・・」
「俺今日はパス。父さん早上がりだから夕飯が早いんにゃ。」
「そですか。」
家族そろっての夕飯は楽しい・・・・のかどうかよくわからないが、
ともかくいつも帰りの遅い父さんがいるってのはいいことに違いない、きっと。
「ん、なんだろ。」
「神社だな・・・そうか、お祭りだ。」
「寄ってく?」
「にゃ~どうしよ?」
「フーッ!フーッ!」
「はいはいこま犬こま犬。」
「イヌ科即刻殲滅すべし!」
「部長、石に爪立てなくても・・・・」
「ちっ、次にあったら・・・・」
「先輩・・・この間イヌから必死に逃げてたじゃないですか・・・・・」
「いま何つった?今。」
「すみません、すみません、すみません、すみません、痛い、痛いです!」
「おk。」
木陰から戻ると高宮が心配そうな目を向けて来たがまあどうでもいいか。
「え・・えっと・・・何かつっつきましょうか?」
「ん・・だにゃ。」
「縁日・・・お祭り・・・なんだろうな?」
さて、玩具を買っても仕方がないしフランクフルト・・・は夕飯に差し支える、金魚すくい・・・
「・・・・・・・」
「爪を仕舞って、行きますよ。」
「俺のさかにゃぁぁぁぁぁぁ・・・・さかにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「部長。」
頭1~2つ分背の高い高宮が俺の肩に手を乗せ睨み付ける。
「少しは・・・ね?」
「ちぇ・・・。じゃあ後は・・・クレープだろ。」
無難、かつ本命を提案する。屋台で甘い物つったらこれだろ。
「いいですね。」
「なんでこういうのってそそられるのかね?」
「屋台じゃないとやってないからじゃにゃい?」
「ん~それは、この辺が田舎だからじゃないでしょうか?」
「そかー・・・でも美味いからいいや。」
もぐもぐ・・・・
もぐもぐ・・・・
「黙って食うのもあれですね。」
「あれだにゃ。」
「華がねーな。」
もぐもぐ・・・・・・・
「ねえねえ?俺達隣町の高校の・・・・」
む、野郎か。背後にはこちらになにやら熱い視線を向ける他数名。
「「「「・・・・・」」」」
平たく言うと『あ゙?』な表情を向ける。
「・・・・;じゃ、じゃね~」
巻き戻し再生よろしく元の軍団に帰っていく。
まあ元男としてそういう趣味はないのであれだが、一抹の空虚感が残るのも本音だったり、少なくとも俺は。
「華がねーな。」
吉塚が復唱した。
「さて、どうしようかにゃ・・・・」
ぱひゅん!
「射的か。」
「射的ですね。」
「ふむ。」
銃か。
「さすが部長、速いw」
声は背後から聞こえた、眼前にはずらりと並んだターゲット。
手中には九九式短小銃をモチーフとしたとおぼしき6mmプラスティック弾ライフル。
「おっちゃん、弾200発。」
「えっ!」
「嘘にゃ、10発。」
「部長、弾幕で薙ぎ払おうとしたでしょ?」
「そんにゃつもりは全然にゃいよ?」
「その銃、腰だめに撃つもんじゃないでしょう。」
む・・・・かくなる上は・・・
「とりゃ!」
「鬼気迫る表情で跳ぶなww」
「撃て、ちゃんと撃て。」
トントン
簡易アスファルトの路面を通学靴で叩きリズムを取り。
「しゃーねーな。」
台にもたれて敵の出方を(ry
「その構えじゃバウンド弾で殺されるんじゃないか?九条的には。」
やっぱり普通にやるか。
弾を込める、最近はBB弾使うのもあるんだね。
右手側に備えられたレバーをスライドさせ装填完了、狙撃体制に入る。
「むにゃ・・・」
やっぱり胸がつかえるか。
「みゃぁぁぁぁぁぁ、ふん。」
適当に押さえ込む、これでいか。
目標は・・・何にしよう、う~んぶっちゃけ大した物ないよなぁ・・・結局の所射的の景品。
ぬいぐるみとか変なプラモとかこれ許可取ってるのか?的なキャラクターグッズとか、そんなもん。
「佐々木、なんかリクエスト有る?」
照星を揺らしながら聞いてみる。
「えっと・・・」
ごもりやがる、適当に小さめの狙うか。
「九条、腰使いがエロイ。」
「ん、にゃぁぁ・・・」
いつもの襲撃姿勢、頭を下げて足を伸ばして。エロイのか?
「んー。無いな。」
吉塚が隣で伏せ、俺と同じ構えを取る。なるほど、だが腰は上がっていない。
「足伸ばしすぎ?」
「ん~、このくらい角度にゃいと落ち着かない。」
「ほら佐々木、先輩がケツ振って誘ってるぞ。」
「うぜぇwwwww」
「そ、いや、あの・・・」
もうどうでもいいので精神を集中する。
照星を揺らし的から的へ。
景品の近くに樹脂製の的が置いてあり、それを落とせばいいようだ。
一番小さいのは・・・エクスデントか。
ゆらゆらと揺れる照星、人間だもの、ぶれるのはしょうがない。しかし狙いを収束させることはできる。
目標、照星、照門、三つが一直線になった瞬間を狙い。
引き金を絞る。
ぱひゅん!
「ざっくざっく。」
銃を杖のようにして構え、景品の並べ替えをするおっちゃんを視界の端に獲得景品の山を見上げる。
撃つのが目的、とりあえず景品は・・・・
「かもんぼーい。これやるよ。」
手元にはプラモデルが何点か、SDガンダムはちとなぁ。
「ありがとー」
「立派なタンクバスターににゃれよ~」
「・・・・?うん。」
ならないだろうな。
そしてぬいぐるみの類が残る。
くまとかうさぎとか、んな少女趣味は・・・・・ふかふか。
「このネズミとクマは俺のにゃ。」
手早く鞄に詰め込み確保、これは寝込みに囓るのによさそうだ。
残りを適当に捌くと鞄を背負い直し時間を確認。
まだ日はあるがそろそろ撤退するか。
「そおそろ・・・・を?」
振り向くと佐々木が何やら銃を持っていじくっている。
と言っても動くのは装填用のレバーぐらいな物なので眺めてるのと大差はないが・・・・・
「・・・やりたいのか?」
「え・・ぅ・・・」
こくん。
なるほど。
「よし、俺が奢ってやろう。おっちゃん、弾。」
ぱひゅん!
スカッ!
白い弾は見事に的を反れ背後の防弾幕を揺らす。
かすりもしない、へなちょこ弾。
射手は無論佐々木である。
台に身体を乗せたいんだか乗せたくないんだかわからない妙なかまえ。弾を装填するたび変わる手の位置。
これじゃあな、仕方ない。
「ふぅ・・・」
佐々木が慣れない手つきで次弾を装填する。ラスト一発か。
「ったく。動くな。」
佐々木の足より台に近く立ち、同じく身体を曲げ。
「ひゃ!」
奴の背中に上半身を預けるように身体を重ねる。
佐々木はまだ中2で、しかも野郎とはいえ小さい方。完全に奴を覆う形になる。
口を耳元に寄せ声が良く聞こえるように。まずは彼を落ち着かせることが第一だと思いました。
これで少しは落ち着くだろ。
「いいか、的の方を向け。身体も、気持ちも。」
耳元でささやくように言い聞かせてみる。
トクン・・・・・・・・トクン・・・・・・・・
佐々木を押さえつけた胸からは奴の鼓動が伝わる、なんとなくだけど。
「はひ。」
そっと腕を伸ばしグリップを握る右手、銃身を握る左手にそれぞれ俺の手を添え銃の安定を促す。
トクン・・・・・トクン・・・・・・・
手が触れるだけで鼓動が高まるのがわかった、やっぱりなんとなくだけど。
「そんにゃびびらにゃくても・・・」
「いや・・そうじゃ・・・」
狙いを付けるのは佐々木だがサポート程度にはなるだろう。
「いいか、動かすの楽だからって緩く持つにゃ。がっつり持てがっつり。でも緊張はするにゃ。」
「は・・・い・・・・」
「狙いを付けるのは引き金を絞るまでじゃない、弾が発射されて的に当たるまでだ。注意しろ。」
「・・・・・」
「・・・・・・」
トクン・・・トクン・・・・
(いいぞ・・・)
正に触れ合おうかという距離の佐々木の顔。
照門に寄らせ、視線が徐々に目標へと収束していくのがよくわかる。なかなかいい顔してるじゃねーか。
トクン・・トクン・・・・
無論近いとはいえ狙いを付けているのは佐々木自身。何処を狙っているのかなんぞ見えるわけはない。
しかし顔付きと鼓動で大体わかる。物を射るというのはそういうことだ。
多分。違うかな?そうだといいな。違ったらどうしよう?まぁいいか。
グッ
右手が強ばる。
鼓動と狙いを付ける腕、身体、そして銃がシンクロする。
(・・・・・撃て)
ぱひゅん!
「あーあ。」
弾は的ギリギリを掠め、またも背後の幕を揺らした。
「残念だったにゃ。」
失意、その心境を正に体言したような佐々木に声を掛ける。
腕に添えた手からはぐにゃぐにゃになっているのがよくわかり色々とアレだが、こうしていても始まらない。
「負の薫りがするぞ、負の。やめれ。」
立ち上がり背中でも叩いてやろうと思い脚に力を入れた・・・・ら。
足が・・・・滑った!
「にゃおっつ!」
「ふぎゃ!」
ナイスクッション、佐々木。
だが、
「くっそ簡易アスファルトめがぁ。」
軽く頭打ったじゃないか。呪うべきはぼろぼろのアスファルトかそれを施工した業者か施工を依頼した神社か。
「・・・・・・・」
「ん?にゃ?佐々木生きてるか~?」
ぶっ潰してしまったようだ。
確かに胸元に人の頭を机に叩き付けた後のような感触が残る?
死んだかな?
ドゥベァァァァァァァァァァァァ
「おぉ!佐々木、吐血ビームか!やるな、マスクネルも一撃!」
佐々木の顔(?)から吹き出した血はぎりぎり的に到達し、それをはたき落とした。
「OK?」
明らかにしょうがねえな顔の屋台のおっちゃん。
「OK。」
「やったな、ささ・・・あれ?」
その後、踊君は大量のほうれん草を持って佐々木家に謝りに行きましたとさ。
最終更新:2008年09月11日 01:08