332 :「高原望の憂鬱・余談」
◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/31(月) 02:02:09.61 ID:ZJTrD5Eei
あれから一緒に寝入ってしまった秋野共々母に起こされ、何故か俺、両親、秋野の四人で食卓を囲む羽目になった。
最初こそ秋野に敵意剥き出しだった親バカ親父も、今では同じ男体化者同士すっかり意気投合している。
――そう、『男体化者同士』だ。
「…つーか母さんたちが性転換者だなんて聞いてねーし」
「だって言ってないもの~」
「言えよ、そういうことは包み隠さず言うべきだろ。てか教えといて下さいお願いしますマジで心臓に悪いから」
「あらぁ、そんなこと言っても望が混乱するだけでしょう?
それに私たち、親の役割はちゃんと果たしてるつもりよ~?」
「そうだぞ望!どんな過去があろうと、父さんたちがお前を愛してることに変わりはない!!」
「親父は黙ってろ。…ったく、道理で俺が女体化しても驚かなかったわけだ」
「ふふ、用意してたお洋服がムダにならなくてよかったわぁ」
自分が女体化した日のことを思い出し、たまらず非難の視線を向ける俺。
しかし精一杯の皮肉も、天然母のスルースキルに打ち勝つことは出来なかった。
(我が親ながらこのアバウトさには泣けてくる…)
溜め息をつきながらちらりと目を転ずれば、親父は親父で秋野を晩酌に付き合わせ何事か喚いていた。
――待て、仮にも人の親が未成年に酒を勧めるな。秋野もナチュラルに飲むな。
何で二人していい感じに酔ってんだよこの野郎。
333 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/31(月) 02:04:37.57 ID:ZJTrD5Eei
「時に遥ちゃん」
「『遥くん』ですお義父さん。何でしょう?」
「貴様におとーさんと呼ばれる筋合いはぬぁあい!!一度言ってみたかったのコレ」
「すみません。で?」
「うむ。正直言いにくい話なんだが、君は…生理痛に苦しむ女体っ子をどう思うかね?」
おい、何の話だ一体。言いにくいなら一生口にするなよこの馬鹿親父が。
「それは…、…至高の萌えでしょう」
は?お前もなに神妙な顔で答えてやがるんですか?
「!…ふ、ふふ…流石は俺が見込んだ漢だ…よく分かってるじゃあないか」
「当然です。女性以上の戸惑いや恥じらい、普段は見られぬ弱気な姿……これらに萌えずして何の女体化萌えですか!」
「おお…同志よ…!!」
「お義父さん…ッ!!」
食卓越しにガシィッ!と堅い握手を交わし、熱く友情を確認し合う変態たち。その目は同朋を見付けた喜びに満ちている。
ダメだこいつら…早く何とかしないと……。
理解の範疇を遥か超えた境地に旅立ってしまった二人を無視し、あくまで冷静に食事を再開した俺は、次の瞬間盛大に口の中のものを噴き出した。
「そういえば~…私が望くらいの頃、生理中にお父さんがハァハァし出しちゃってついロメロスペシャル極めちゃったのよね~」
ちょっ、最強の伏兵がここにいた……!!
「おっ、懐かしいな~。そしたら母さん貧血起こしちゃって」
「そうそう!懐かしいわね~」
「ね~」
何を爽やかに下世話な話をしてやがるんだこの両親は。
バカップルなのは重々承知していたが、年頃の子供を前にしてそんな話題で盛り上がるか普通。
両親のあまりの非常識さに頭を抱えつつ秋野を見る。
ほら、秋野だってドン引きして……ドン、引き……?
334 : ◆JUZWQ1Mxt. :2008/03/31(月) 02:07:08.87 ID:ZJTrD5Eei
「…いいなぁ…」
ちょっと待て(二度目)。何故そこでキラキラした尊敬の眼差しなんですか。
おかしいだろ。明らかに何かが、つーか全てがおかしすぎるだろ。
「高原!」
「ぅおっ!?…な、何?」
「素敵なご両親だな…!俺たちも負けないように良い家庭を築こうなっ」
突然俺の両手を取ってそうのたまった秋野に、俺は椅子から転げ落ちるのを必死でこらえた。
カシャーンッ
刹那。箸の落ちる乾いた音に恐る恐る首を回すと、斜め向かいの親父の肩がふるふると震えている。
もはや嫌な予感しかしない。
「プロポーズ…だと…?貴様ァ、この俺を前にしてよくもぬけぬけと!」
勢いよく立ち上がった親父の双眸に灯るのは、強い敵意。とゆーかすでに殺意の域じゃないかコレ。
それにつられて秋野も腰を上げ、にやりと不敵な笑みを浮かべ返す。
さっきまで意気投合していたくせに、今や二人の間には一触即発の空気が張り詰めていた。
「ふっ…たとえお義父さんでも、こればっかりは譲りませんよ」
「――いい度胸だッ…だが望に手を出してみろ、オレハクサマヲヌッコロォォオス!!」
「あらあらお父さんてば、興奮しすぎてオンドゥルになっちゃって~」
「……っだー!!頼むからあんたらもう黙れェェエッ」
変態だらけの晩餐に俺の叫びが虚しく木霊する。
何で、何で俺の周りにはまともな人間が一人もいないんだ。
あまりにも異常な状況に胃がきりきりと悲鳴を上げる。
俺は拳を握り締め、泣き出したい衝動を必死で抑えた。
俺の苦悩が終わる予定は当分――ない。
最終更新:2008年09月13日 23:46