「…雅美、先に風呂入って来いよ」
和樹に促され、先に風呂に入る事にした。
一言「おう」と返し、俺──雅美は浴室へと向かっていった。
全裸になり、洗面台の鏡を見る。
セミロングの黒髪。小さな顔。程良い大きさの胸。丸みを帯びた腰つき。細い手足。
出るところは出ており、引っ込んでいるところは引っ込んでいる理想的なボディライン。
「男の頃に見かけたらナンパの一つもしてるよな、間違いなく」
しかし考えてみれば、自分をナンパする妄想するとかナルシストだな、と苦笑する。
浴室に入り、髪・身体を洗う。
「くそ、どうも長い髪は手間がかかって仕方ないな…」
シャンプーだ、リンスだ、トリートメントだと、男の頃では考えられない手の入れようだ。
いっそ、短髪にしてしまおうかと思うが踏み切れない。
「これで、ヤったら俺も『女』になるのか…」
湯船に浸かり、一人ごちる。
この行為を行わなかったがために女体化してしまった。
『男』として経験できなかったことを『女』として経験する。
増してや、相手は自分が男だった頃からの親友──
自分から『抱いてくれ』と言い出したはいいが、なんとも複雑な気分である。
今夜は母さんはいない。この家には俺と和樹だけ…ロストヴァージンにはうってつけであろう。
「雅美ー!背中流しにきたぜー!」
「お、おまっ!!くぁwせdrfgtyふじこlp;@:」
突然、浴室の戸を開き和樹が乱入してきた。腰にタオルを巻いただけの姿で。
俺は片手で胸を片手で股間を隠す恰好で湯船の隅で小さくなる。
「間に合ってるから、さっさと出てけー!!」
「いや、そうは言ってもどうせ結局入るわけだし。まぁ、久し振りに一緒に風呂に入ろうや。」
俺の抗議を意に介さず、出て行くどころかシャワーを浴びだす。
どうあっても出て行くつもりはないらしい。まったく、仕方のないやつ…
「あのなぁ、俺らが一緒に風呂に入ってたのは小学校の、それも低学年の頃だろうが!!」
普段からお互いの家に泊まりあって遊んでいたが、
俺が女体化してからというもの、泊まりで遊ぶことはぱったりとなくなっていた。
「そんな頃もあったなぁ!
んー、雅美の背中流したかったが、間に合ってるなら俺の背中流してくれよ」
「なんで俺が和樹の背中を流さなくちゃならんのだ」
「昔は良く洗いっこしたじゃないかー」
「昔は昔、今は今だ」
「そんなこと言わないで、頼むよ」
「ちっ、しょうがねーな…あがるから、あっち向いてろ!こっち見たらぬっ殺すからな!」
和樹が壁の方を向いたのを確認し、湯船からあがる。
しばらく浸かってたせいか、かなり身体が火照っている。
「ぜ、絶対に振り返るんじゃないぞ!」
「へいへい…」
垢擦りタオルを湿らせ、和樹の背中を洗っていく。
こいつ…こんなに大きかったっけ…?やけに背中が大きく感じる。
背中だけじゃない。首も腕も足も…和樹の身体の全てが逞しく思える。
「和樹…何かスポーツとかやってたっけ?」
「…いや、別に?」
「だよな」
これが性別の違いによる印象の差、なのかな?
俺と和樹は体格差はあまりなかったはずだから…女体化する前は俺もこんな感じだったのか…
「よし、シャワーで流しておしまい、と」
和樹の背中へ向けてシャワーをかける。
大体流せたかな、というところで、
「じゃ、俺は先にあがるよ。和樹もちゃんと湯船に浸かって暖まりな」
そう言い残し、先に浴室を後にする。
バスタオルで全身を拭き、パジャマに着替える。
「…あとは和樹があがってくるのを待つだけ、か…」
ベッドに腰掛け、じっと待つ。
…
……
………
どうやら、あがったようだ。髪を乾かしているのだろう、ドライヤーの音が聞こえる。
ああ、胸が高鳴ってきた。ドキドキが止まらない。
いつか『恋する乙女のようだ』なんて言われたが、まさにその通りだなと思う。
ドライヤーの音がやんだ。もうじきここへ来るはずだ。
コンコン、というノックと共に自室の戸が開く。
「おまたせ」
「あ、あぁ…」
和樹はゆっくりとベッドへ歩み寄り、俺の隣へ腰を下ろす。
「──雅美、本当にいいんだな?」
和樹が念を押す。
「俺が言い出したことだ。今更引けるかよ」
その夜、俺と和樹は結ばれた。
fin
最終更新:2008年09月17日 17:52