安価#4『一緒にお風呂』

「…雅美、先に風呂入って来いよ」

和樹に促され、先に風呂に入る事にした。
一言「おう」と返し、俺──雅美は浴室へと向かっていった。
全裸になり、洗面台の鏡を見る。
セミロングの黒髪。小さな顔。程良い大きさの胸。丸みを帯びた腰つき。細い手足。
出るところは出ており、引っ込んでいるところは引っ込んでいる理想的なボディライン。

「男の頃に見かけたらナンパの一つもしてるよな、間違いなく」

しかし考えてみれば、自分をナンパする妄想するとかナルシストだな、と苦笑する。
浴室に入り、髪・身体を洗う。

「くそ、どうも長い髪は手間がかかって仕方ないな…」

シャンプーだ、リンスだ、トリートメントだと、男の頃では考えられない手の入れようだ。
いっそ、短髪にしてしまおうかと思うが踏み切れない。

「これで、ヤったら俺も『女』になるのか…」

湯船に浸かり、一人ごちる。
この行為を行わなかったがために女体化してしまった。
『男』として経験できなかったことを『女』として経験する。
増してや、相手は自分が男だった頃からの親友──
自分から『抱いてくれ』と言い出したはいいが、なんとも複雑な気分である。
今夜は母さんはいない。この家には俺と和樹だけ…ロストヴァージンにはうってつけであろう。

「雅美ー!背中流しにきたぜー!」

「お、おまっ!!くぁwせdrfgtyふじこlp;@:」

突然、浴室の戸を開き和樹が乱入してきた。腰にタオルを巻いただけの姿で。
俺は片手で胸を片手で股間を隠す恰好で湯船の隅で小さくなる。

「間に合ってるから、さっさと出てけー!!」

「いや、そうは言ってもどうせ結局入るわけだし。まぁ、久し振りに一緒に風呂に入ろうや。」

俺の抗議を意に介さず、出て行くどころかシャワーを浴びだす。
どうあっても出て行くつもりはないらしい。まったく、仕方のないやつ…

「あのなぁ、俺らが一緒に風呂に入ってたのは小学校の、それも低学年の頃だろうが!!」

普段からお互いの家に泊まりあって遊んでいたが、
俺が女体化してからというもの、泊まりで遊ぶことはぱったりとなくなっていた。

「そんな頃もあったなぁ!
んー、雅美の背中流したかったが、間に合ってるなら俺の背中流してくれよ」

「なんで俺が和樹の背中を流さなくちゃならんのだ」

「昔は良く洗いっこしたじゃないかー」

「昔は昔、今は今だ」

「そんなこと言わないで、頼むよ」

「ちっ、しょうがねーな…あがるから、あっち向いてろ!こっち見たらぬっ殺すからな!」

和樹が壁の方を向いたのを確認し、湯船からあがる。
しばらく浸かってたせいか、かなり身体が火照っている。

「ぜ、絶対に振り返るんじゃないぞ!」

「へいへい…」

垢擦りタオルを湿らせ、和樹の背中を洗っていく。
こいつ…こんなに大きかったっけ…?やけに背中が大きく感じる。
背中だけじゃない。首も腕も足も…和樹の身体の全てが逞しく思える。

「和樹…何かスポーツとかやってたっけ?」

「…いや、別に?」

「だよな」

これが性別の違いによる印象の差、なのかな?
俺と和樹は体格差はあまりなかったはずだから…女体化する前は俺もこんな感じだったのか…

「よし、シャワーで流しておしまい、と」

和樹の背中へ向けてシャワーをかける。
大体流せたかな、というところで、

「じゃ、俺は先にあがるよ。和樹もちゃんと湯船に浸かって暖まりな」

そう言い残し、先に浴室を後にする。
バスタオルで全身を拭き、パジャマに着替える。

「…あとは和樹があがってくるのを待つだけ、か…」

ベッドに腰掛け、じっと待つ。

……
………
どうやら、あがったようだ。髪を乾かしているのだろう、ドライヤーの音が聞こえる。
ああ、胸が高鳴ってきた。ドキドキが止まらない。
いつか『恋する乙女のようだ』なんて言われたが、まさにその通りだなと思う。
ドライヤーの音がやんだ。もうじきここへ来るはずだ。
コンコン、というノックと共に自室の戸が開く。

「おまたせ」

「あ、あぁ…」

和樹はゆっくりとベッドへ歩み寄り、俺の隣へ腰を下ろす。

「──雅美、本当にいいんだな?」

和樹が念を押す。

「俺が言い出したことだ。今更引けるかよ」

その夜、俺と和樹は結ばれた。

fin


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最終更新:2008年09月17日 17:52
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