159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/14(金) 13:57:34.16 ID:umzh14Rj0
安価「シンデレラ」
「今日はお祭りだから少しは遅くなってもいいけど、それでも12時迄には帰ってくるんですよ」
「分かった、じゃあ行ってくるね」
「約束を破ったら来月の外出とお小遣は無しよ」
「はーい!」
夕方、ボクは母さんに着せて貰った紫陽花色の浴衣を着て、途中で待ち合わせた友達数人でお祭りに出掛けた。
浴衣って歩き辛い、これだとスカートの方が全然楽、開かない歩幅に直ぐにみんなに置いて行かれそうになる。
男の子はズボンだし、女の子は慣れた足取りでそれに付いていってる。
「ねぇ、ちょっと待ってよ」
「遅ーい、置いてくぞ」
「そんな事言っても馴れてないんだもん」
しょうがないなって言いながらボクに合わせてくれた。
大勢の人が椅子やらシートを持って土手に集まってきた。
ボク等も土手に着くとシートを広げ、他の人達と同じ様に日が暮れるのを待った。
やがて真っ暗な夜空に大輪の花が開いた。
ボク等は夜空に華やかに咲く美しい光の花に魅せられた。
花火が終わった後って淋しい感じがするのは何故かな?華やかであればあるほど終わった時、より一層淋しさが募ってくる。
160 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/14(金) 13:58:00.19 ID:umzh14Rj0
「じゃあ、屋台とか行こうぜ!俺、うまいもんいっぱい喰うぞ!」
「お前は花火よりそっちがメインだもんな!」
「悪いかよ」
「悪くないから早く行きましょ」
花火が終わってからも色んなイベントがあって、ボク等の楽しい時間はあれよあれよという間に過ぎていった。
みんな自分の好きな物を買いにお店に寄っていた。
ボクも気になったお店を覗いてから辺りを見回した。「誰も居ない…」既にみんな居なくなっていた。
「はぐれた」
急いでみんなを探したけど見付からない、そうこうしている内に11時を過ぎているのに気が付いた。
「ダメだ、もう帰らなきゃ」
ボクは急いで帰ろうとして…転んだ。
「イテテテテ…」
転んだ拍子に右の手の平と膝を擦りむいてしまった。血が滲んでる。
「大丈夫?」
ボクの前に手が差し延べられた。
161 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/14(金) 13:58:16.09 ID:umzh14Rj0
「あれ?青木君?」
手の主は女の子達に人気のサッカー部の青木君だった。
青木君はボクを起こすと草履を拾ってくれた。
「これはダメだな、鼻緒が切れてる」
「えっ、そんな…それじゃ12時迄に帰れない」
「なにかあるの?」
ボクは彼に小遣いと外出禁止の事を話した。
「それは辛いね、それにしても12時迄に戻らなきゃならないなんてまるでシンデレラだね」
「シンデレラだったらいいんだけど、鼻緒の切れたボクじゃ話にもなんないよ。あーぁ、来月はお小遣無しか…」
「ほら、背中におぶさりな」
「えっ?」
「ここで鼻緒を直せればいいんだけど、俺には出来ないから代わりにおぶっていってやるよ」
「そんなの青木君に悪いよ、それに誰かと一緒に来てるんじゃないの?」
「いいんだ、逸れたから」
「じゃあボクとおんなじだ」
「君も逸れたクチかい?」
「うん、お店を覗いている内に置いてかれてた」
「女の子を一人にするなんて酷いな」
「でもしょうがないよ、みんなに比べるとボク遅いから」
162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/14(金) 13:58:33.59 ID:umzh14Rj0
おぶって行くって言う彼に裸足でも大丈夫って言いながら歩いてみせようとしたら、右膝に痛みが走り逆によろけてしまった。
慌てて抱き止める彼、うわっ、顔が近いよ…
「足も痛めてるんじゃないか、見せてみな」
ボクは浴衣の裾を捲って膝を見せた。
「血も出てるじゃないか!ちょっと待ってろ」
彼はポケットからハンカチを取り出してボクの膝に巻いた。
ハンカチを巻いてから彼はボクを見上げようとして急に横を向いた。彼の顔が妙に赤い。
「ゴメン、見るつもりじゃ無かったんだ」どうやら見えてしまったらしい。
「気にしてないからいいよ、それよりハンカチごめんね、今度買って返すね」
色々あって結局、ボクは青木君におぶって貰う事になった。
彼の背中は広くて温かくて、彼の話す声は直接ボクの身体に伝わって何故か胸の中がキュンとした。
家に戻ると青木君は母さんに「彼女、怪我してるんで早く手当してあげて下さい。それとこれ、草履です。
ボクじゃ直せなかったんでこれも直してあげて下さい」
悪いのはボクなのに、そんな済まなさそうな顔しないでよ。
「あと、遅くなったのは彼女のせいじゃないんで許してあげて下さい」そう言って彼は頭を下げた。
「そんな訳じゃ仕方ないね、それより娘を送ってくれてありがとう」
「じゃあボクはこれで失礼します」
えっ、もう帰っちゃうの?
「待って、こんな重い物を運んで疲れてるでしょう?上がってお茶でも飲んで休んでいって」
母さんが引きとめたけど、もう遅いから帰りますって言って帰ろうとした。
「青木君、今日は本当にありがとう。今度お礼させてね」
「気にしなくていいぞ、じゃあまたな」そう言って彼は玄関を閉めた。
163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/03/14(金) 13:58:50.65 ID:umzh14Rj0
「ハイハイ、怪我したところ見せて…あらら、痛そう。これ、先に洗った方が良さそうね…」
彼が帰った後、ボクが母さんに手当てしてもらっている所にみんなが来た。
「なんだ帰ってたのかよ、急に居なくなるんだから探したぞ…ってその怪我どうした?」
ボクは青木君におぶってきて貰った事以外を話した。
「悪い!許してくれ!」
「もう置いてけぼりは無しだからね」
ボクがふてくされていると母さんが余計な事を言い出した。
「あら、そのお陰で素敵な王子様におぶってもらったんじゃない?」
「ちょっと母さん、止めて!」
もう、みんな変な目で見てるよ…
「途中で青木とすれ違ったけど、もしかしてお前、青木におぶってきて貰ったんか?」
女の子達の羨ましそうな目、だから黙ってたのに……
164 :
◆YPPZoWABRI :2008/03/14(金) 14:00:25.19 ID:umzh14Rj0
数年後、ボクは病院のベットの上で赤ちゃんにおっぱいをあげていた。
「コンコン」扉がノックされた。
「入っていいかな?」
「どうぞ」
扉が少しだけ開き、小さな女の子が頭だけ出してこっちを伺ってた。
「こっちへいらっしゃい、おねえちゃん」
「ママ!」
ベットに駆け寄る娘の後ろから、あの日の彼が優しい笑みを浮かべながらやってきた。
最終更新:2008年09月17日 18:24