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◆YPPZoWABRI :2008/02/17(日) 07:29:16.97 ID:4GhouBAwO
まだ女体化者が少なく人々から奇異な目で見られていた頃、童貞のままでいた俺は女体化してしまった。
人は自分達と違う者、特異な者を虐めの対象にしてしまう。
同じ学校の先輩で昨年、女体化したが為に虐めに会い、耐え切れずに自殺した人の話しを聞いた事がある。
今度は俺の番か?虐めや迫害を恐れた俺は住み慣れた町を離れ、一人暮らしを始める事にした。
両親は俺の提案を何の反対も無くすんなり受け入れ、アパートや転校手続きをあっと言う間に済ませてしまった。
体のいい厄介払いが出来て嬉しいんだろう。
仕方ないさ、こんな変わり種が一緒に居たら回りから何言われるか分かった物じゃないもんな。
でも少しは反対して欲しかったな…
俺は友人にも付き合い始めたばかりの彼女にも別れを言えず、独り住み慣れた街を後にした。
277 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 07:34:20.41 ID:4GhouBAwO
新しい街は小さな商店や工場、それに民家が混在する下町で、所々にコインパーキングと真新しいテナントビルがあった。
明日から俺は商店街の近くのこのアパートから学校に通う事になる。
6畳一間、バス、トイレ付き、一応3畳程のキッチン付き、今日からここが俺の我が家だ。
昼間は荷物の整理をしたり買い物をしたりで忙しかったが、始めての一人暮らしの夜、独りで食べるお弁当は味気無く孤独感が募るばかりだった。
テレビを見てもつまらなく、さっさと片付けて布団に入って寝た。
夜早く寝たら目覚めも早い。
俺はテレビのニュースを聞きながら身支度を整え、軽く食事を摂っていた。
テレビは今日も女体化した人の自殺を伝えていた。
「負けるもんか」
278 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 07:37:28.56 ID:4GhouBAwO
新しい土地で俺は女性として生きていく為、少しでもボロを出さない様に付き合いを必要最小限に留め、誰とも深く付き合わない様にした。
寂しいのは仕方ない、それより正体を知られ、虐めに遭う事の方が怖い。
始めはあれこれ接触してきたクラスメイトも俺の頑なな態度に挨拶と必要な時以外は話し掛けて来なくなった。
気を遣わなくていいが、やはり寂しい。
アパートに帰ってもする事がほとんど無かった俺は料理を始める事にした。
始めは本を見ながら、ある程度出来る様になってからは本は参考程度に留め、自分なりにアレンジしたりしてレパートリーを増やしていった。
まだ人に食べさせた事が無いけど、他の人が食べても美味しいと言ってくれると思う。そんな日が来る事は無いだろうが…
279 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 07:41:40.16 ID:4GhouBAwO
料理とかしてもそれでもまだ時間が余る。
パソコンが欲しくなっていた俺は近所のお惣菜屋さんで夕方の3時間程アルバイトをする事になった。
ちょうど前の娘が辞めたとかで、アルバイト募集の貼紙をしようとしていた所に偶然行き当たり、お願いしたら直ぐに雇ってくれる事になった。
店主夫妻は気さくな人で俺は学校で人と話せない分、店の小父さん小母さんといっぱい話しをした。
でも、友達の事を聞かれた時、話す事が無くなり暗くなってしまった。そんな俺の事情を察してこれから後、友達の事を聞いてくる事はなかった。
アルバイトを続けている内に俺は何時しかアルバイトの時間が楽しみになっていた。
その内、馴染みのお客さんとかも出来て人と話す機会が増え、少しずつ孤独感が薄れていった。
最初はパソコンを買うまでのつもりのアルバイトだったけど、卒業までの間ずっと続いた。
大学へ進学が決まって夫妻と別れる時、奥さんは俺の手を取って涙を溢れさせながらおめでとう頑張ってねって励ましてくれた。
私はこの時の別れが1番辛かったと思う。
小父さん、小母さんありがとう。私は貴方達のお陰で寂しい思いをしなくて済みました。いつまでもお元気で…
280 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 07:46:07.65 ID:4GhouBAwO
人生2度目の引越し、私は学校の近くにアパートを借りた。
大学生になった私は今までと違い少しは回りの人とも付き合う様にした。
でもそれは表面上だけの付き合いに留め、深く付き合う事は無かった。
男の人から誘われる事もあったが全て断った。
お陰で男の人からはどこかの城の名前で呼ばれているらしい。難攻不落だからだそうだ。
結局、この城は卒業迄一度も陥落する事は無かった。
そして就職、この間、私は一度も実家に帰った事は無かった。また人が訪ねてくる事も無かった。
この頃になると女体化は一般的になり、虐めの対象になる事もほとんど無くなっていた。
ある日、ほとんど忘れかけていた番号から電話があった。
恐る恐る電話に出ると声の主は母さんだった。
兄貴が病気でもう長くないらしい。最期に私と話したいって言ってるから帰ってきてくれとの事だった。
背筋を冷たいものが流れ、真っ白な頭で呆然と立ち尽くした。
まさか、あの兄貴が…
今まで一度も連絡をくれなかった家族だが病気と聞くと心が平静じゃ居られなくなる。
私は休みが来るのを待たずに兄が入院している病院に向かった。
281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。:2008/02/17(日) 07:52:41.81 ID:4GhouBAwO
久しぶりに見る兄は青白く痩せこけ以前の面影は無くなっていた。
兄は私に綺麗になったなと言い、私の女体化の時、庇う事が出来なかった事を詫びた。
それから両親の事を頼むと、これには上手く返事が出来なかった。
私みたいな変わり種じゃ不幸にするだけだから、やっぱり兄貴が良くなってみてあげなきゃ、そう言うだけでいっぱいだった。
私は暫く兄に家を出てからの事を話した。高校時代のアルバイト、大学を卒業後、小さな会社に就職した事等、その都度頷きながら聞いていたが、疲れたから少し寝るよ、そう言って眠ってしまった。
それから少しして母さんと父さんが来た。
直ぐに帰ろうとした私を引き止めると鍵を渡し、今夜は泊まっていきなさいって言ってきた。
思ってもみなかった両親の反応に、私は堪えていたものが一気に噴き出した。
久しぶりに両親の温もりを感じた。父さんは私達が弱いばかりにお前に寂しい思いをさせて悪かったと、母さんは貴女が1番必要としている時に守ってあげられなくてごめんねって…
じゃあ先に帰ってるね、そう言って病院を出た。
実家への帰り道、両親に何か作ってあげようと思いスーパーで買い物をした。
その帰り道、久しぶりに懐かしい人を見掛けた。別れも言う事が出来ずに別れた昔の彼女、私は懐かしさのあまり声を掛けようとして止めた。
彼女は急に振り返ると駆けてきた小さな子を抱き上げた。後から旦那らしき人が子供を抱いて彼女の元に来た。
4人はとても幸せそうだった。
久しぶりに見たあの人はもう奥さんか…
私は4人を見送ると兄の回復を願いながら両親に料理を作る為、懐かしい家に足早で向かった。
最終更新:2008年09月17日 18:26