『甘い思い出』

670 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:33:28.50 ID:YTDstmju0

バレンタイン・・それは女の子が男性にチョコレートをあげるという 由緒正しき日だ。あげる人は人によって様々で古くからお世話になっている 知人、友人や恋人・・はたまた告白のイベントにまで持っていける 非常に応用の利く日だ。そんな俺も妻と娘から毎年のようにチョコレートをもらう。

今日もいつものように会社から帰ると小学校の中ごろに差し掛かった娘からチョコレートを貰った。

671 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:33:45.92 ID:YTDstmju0

「親父~・・はい、チョコレート」

「おう、毎年ありがとうな。希」

俺はチョコを受け取り希の頭を撫でると希は部屋へと戻っていった。 さて、この俺こと中野 翔は今日も家族を養うために必死に働いた!!・・っと 少し大げさすぎたか。 家に帰るまでにも会社から社員の皆様方にかなりの数のチョコを貰った。 希には教育上の問題から一応黙っておこう。 ちなみに・・会社でたくさん貰ったチョコレートは半分は何とか食べれたのだが もう半分は未だにカバンの中だ。後で冷蔵庫に移しておこう・・

「ママから教えてもらったんだよ」

「そうか・・ありがとな。ありがたく食べさせてもらうよ」

しかし、希からチョコを貰ったのは父親として大変うれしいのだが・・まだ妻である あいつから貰っていない。そういやあいつから初めてバレンタインのチョコレートを 貰った日のことを思い出してしまう。

あれは確かあいつと付き合い始めて少し日が経ったあたりだろうか?

672 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:34:57.89 ID:YTDstmju0

季節はバレンタイン・・ちょうどあのヒステッリクの女が引き起こした事件から 丸々3ヶ月近く経った出来事だ。俺はあいつとのぎこちない関係からようやく 進歩できて腰が落ち着けたところだ。バレンタインといえば女の子が好きな 男の子にチョコレートを渡す聖なる日だ。 せっかく苦労して俺の彼女になったあいつからチョコレートをもらえるのだから正直ドキドキものである。

お昼前の授業が終わったとき・・俺は思い切ってあいつに聞いてみた。

「なぁ・・もうすぐでバレンタインだよな」

「そうだな・・ツンは張り切っているようだけど俺には全然関係ない出来事だからな」

あっさりとしたあいつの一言は俺の活力を奪うには十分すぎるほどの威力だ。 関係ないだと・・彼氏の前でよくそんなこと言い切れるよなおい。 玉砕覚悟で望んだ俺だったが本当に玉砕してしまうとは・・

ちょっぴり心が傷ついた俺はゆらりとある場所へと向かうことにした。

673 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:39:03.51 ID:YTDstmju0

俺の向かった場所・・生徒のよろず悩み相談所と化している保健室だ。 あいつを一回り強化させたあの先生なら俺の気持ちをわかってくれるだろう。 そしてよりよいいいアドバイスを貰えるだろう。 俺は勢いよく保健室の扉を開けると・・当の先生は火のついているタバコ片手にいかにも不機嫌そうな顔をしていた。

「あ・・」

「・・何だ?」

この学校の保健室の先生・・礼子先生は一服の途中だったようだ。保健室には ばっちりと換気扇が回っておりタバコ特有の臭いをすぐにでも追い出せそうであった。 学校の禁煙化が進む中で、喫煙がばれたら生徒は無論、教師といってもただじゃ すまないだろう。俺は日を改めて帰ろうと思ったのだが・・礼子先生のその眼光に 睨まれた俺の体は石像のように固まったままだった・・

「・・換気扇開けろ。人が仕事の合間のささやかな一服を愉しんでいるときに 何のようだ。・・ピルなら今日もお前の彼女にちゃんと支給してやったぞ」

「い、いや・・そんなことじゃなくて、バレンタインについてだ」

「バレンタイン・・ああ、あのチョコ渡しの日な。それがどうかしたのか?」

「実は・・」

674 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:40:36.00 ID:YTDstmju0

俺は先ほどの経緯を礼子先生に話した。礼子先生はタバコを吸いながらも 俺の切実な悩みを聞いてくれていた。あいつと似たような経緯を持つ 礼子先生なら俺の気持ちやあいつの気持ちを踏まえながらいいアドバイスを くれるだろう。そう俺は信じきっていた。

礼子先生はタバコの火を灰皿でもみ消すと、箱から別のタバコに 手をかけて火をつけると・・今までの話を整理しながら口を開いた。

「つまり、単刀直入に言うとお前は彼女となった相良にチョコレートを 貰いたいわけだな。そんで、それをばっちりと断られて再びどう貰おうかと悩んだ末に俺に泣きついたと・・」

「少し言い方に問題があるが・・まぁ、そうだ。先生どうすればあいつからチョコを貰えるんだ?」

俺は藁にも縋る思いで礼子先生の言葉を待った。 しかし、礼子先生はタバコを吸うと・・俺に思いがけない言葉を言い放った。

「あのなぁ、こういっちゃ何だが・・俺もバレンタインにチョコなんてあげたことないぞ」

「・・へっ?」

俺は思わず目が点になった。確か礼子先生は人妻だって聞いたな。なら旦那さんとかに チョコレートとかあげているイメージがあったのだが・・ それに少なからずとも付き合っている頃にはあげていてもおかしくはないものなのだが・・

更に礼子先生はさらっとこう言ってくれた。

675 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:42:29.06 ID:YTDstmju0

「別にバレンタインとか拘らなくてもいいじゃねぇか。俺だって男のときは そんなもの全然拘らなかったし・・

旦那だって別にチョコくれなんて全然言っていなかったな」

「で、でもよ・・」

「ま、相良のほうも口ではああ言っても実際は案外考えてるんじゃないのか?」

あれだけ言ったあいつが実はバレンタインについて考えている。 ・・確かに、あの時は聞いたのは本命である俺だから言えなかったものであって 実際は影で考えているのかもしれないな。そう考えると希望が沸いてきたぞ。 そういったことは後で椿に聞いてみるとするか。 だんだんと希望が戻った俺は礼子先生にお礼をいい保健室を後にしようとした。

「礼子先生、なんだかそう考えると前向きになってきたぜ」

「まぁ、お前が前向きになるのは勝手だがな・・見られたからにはこれのことは黙ってもらうぜ。 今後の相談料とすれば格安だろ?」

礼子先生は手に持っていたタバコを指すと目で俺に沈黙を求めた。 俺は軽く頷くとそれに従った・・まぁ、先生がタバコ吸ったって別にいいけどな。 保健室から出た俺はそのまま前向きな気持ちになり、何とか無事に1日を 過ごした。そのまま、帰ってバイト先に向かおうとした時・・珍しくあいつのほうから引き止められた。

なんだろうと思い、そのまま聞いてみるとあいつから意外な言葉が飛び出した。

677 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:45:35.13 ID:YTDstmju0

「なぁ、バレンタインの日だが予定空けといてくれ」

「・・あ、ああ、わかった」

俺は驚きながらもバレンタインの日は何があっても予定を空けておくことにした。 あんなことを言われるとバレンタインの日が少し楽しみだ。少し期待をしてしまう。 なんだろうな?直にチョコレートを渡すなんてそんな生温いものじゃない。 もっと情熱的でロマンチックなものだと思いたい。 まぁ、もっとも・・あいつが元男であったことを考慮するとそれはないな。

ま、いずれにしろバレンタインの日が楽しみになってきたぜ。

679 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 21:46:06.70 ID:YTDstmju0

その帰り、俺はふらっと街へと寄り道してみた。街はバレンタイン一色で いろいろな種類のチョコレートが売られていた。しかしまぁ、よくみてみると いろいろなチョコレートがあるもんだな。 それに本格的に作る人用のために豆から売ってあるところもある。 バレンタインのモデルとなった人物はここまで随分と大きなイベントに なるなんて思っても見なかっただろうな。

俺がそんなことを考えながら歩いていると2人の女子の会話に目がいってしまった・・

「薫ちゃんはバレンタインのチョコレートどうするの?」

「まだ考えていないな・・杉野さんは?」

「私も・・そうだ。今年は友チョコだけにしようか?」

「うん、いいね」

友チョコ・・そういやあいつは女の友達がいたな。もしかしてそいつだけに チョコをあげるとかも考えられなくもないな。まぁ、バレンタインに予定空けといて くれって言われたのはほかならぬあいつだし大丈夫だろう。

俺は考えるのをやめるとそのままバイト先へと向かうことにした。

683 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:01:50.29 ID:YTDstmju0

「お兄ちゃん・・何考えてるの?」

「いや別に・・」

バレンタイン当日・・俺はちゃんと予定を空けておいた。 意外にもあいつのほうから今日は外で会いたいということだった。 俺は出かける準備を一通りすると携帯で時間を確かめた。

「あ、わかった。お兄ちゃん例の彼女とデートでしょ? バレンタインにデートなんて結構乙なものね」

「まぁな。んじゃ、行ってくるよ」

俺は家から出ると待ち合わせ場所へと向かった。 しかしまぁ・・バレンタインの日にデートを申し込まれるとはいいもんだ。 あいつも何か考えがあって俺を誘ったんだな。

歩くたびに期待を膨らませながら俺は待ち合わせ場所へと向かっていった・・

684 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:03:54.09 ID:YTDstmju0

待ち合わせ場所に着くと、すでに可愛らしい格好で荷物を持っていたあいつが 待っていた。その周りには男だったものがたくさん転がっていた・・ まぁ、ナンパを返り討ちにしたのと推測するが・・しかしまぁ、ここまでされたほうも 哀れといえば哀れなのかもしれない。 しかし、こいつがかなりの美人だということもいがめないわけで・・ある意味天運なのかもしれないな・・

「よぉ・・」

「遅せぇぞ!!!お前が来ない間にどれだけの野郎共に声を掛けられたか・・」

「あ、ああ・・悪い。んじゃどこへ行くんだ?」

俺はすかさずあいつから行き場所を決めてもらう。 今日、誘われたのは俺であって行き先はあいつに委ねられている。

さぁって・・どこに行くのか楽しみになってきた。

685 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:05:45.03 ID:YTDstmju0

「まずは・・おなか減ったしラーメン屋でも行こう。無論、お前の奢りな!!」

「ラーメン屋かよ・・」

「文句あるのかよ。ちょうどおなか減ったしな」

まさか・・ラーメン屋に行きたいと言い出すなんてな。ちょっと期待した 俺はバカなのか?こういったシチュエーションはもう少しロマンチックに いきたいものだよな。こんな状況でラーメン屋とかな・・ま、考えるだけ無駄か。 俺もお腹が減ってきた。ここは素直にあいつに従おう。

「ま、いいか。どこがいいんだ?」

「俺、うまいラーメン屋知ってるぜ。餃子とセットで1000円以内で足りるからかなり安い!!」

「はいはい・・」

こいつにロマンチックなんて求めるほうが間違ってたかな・・

686 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:09:14.40 ID:YTDstmju0

「毎度」

「ごちそーさん」

結局ラーメンを食べ終えた俺らは店を後にすると次の予定地を決めた。 まぁ、ラーメンは普通の醤油ラーメンに餃子がセットで安い割には 結構おいしかった。あいつは食に関してすごいのかもしれないな。

でもまぁ・・こんな光景にラーメン屋ってのも不釣合いなものだ。

「なぁ、次はどこに行くんだ?」

「ん?・・んじゃ、次は腹ごなしにここら辺ぐるぐる歩くか」

何だよ・・甘い雰囲気とかそんなものが微塵もない。 やっぱ相手があの相良だとこういったものになってしまうのかもしれない。 いやいや、ここは彼氏として彼女であるあいつを信用しなければならないわけで・・結構悩むな。

「何考えてるんだお前?」

「いや・・」

あれからラーメン屋を出てから適当に歩いている俺たちだが・・ ラーメン屋の店内でもかなり浮いたミステイスト・・・いや、場違いと いうべきだろう。店内の視線が少し気まずかった。 それにどうもあいつはあの店の常連だったわけでかなり割引で支払っていた。 だけど・・しばらくただ歩いていても飽きがくるわけで、なんだか知らぬ間に街から 遠のいてしまった。しかも、あろうことかお客さんまで招いてしまったようだ。 大方、あいつが叩きのめしたナンパ野郎の仲間たちといったところか?

687 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:11:28.15 ID:YTDstmju0

「はぁ・・こういうことか」

「いいじゃねぇか。食後の運動になって」

「お前な・・」

俺らは同時に後ろに振り返ると案の定・・たくさんの角材をもった 野郎共で一杯だった。 まぁ、俺も最近は喧嘩から遠のいているとはいえ恨みは買っていない。 でもまぁ、こうなってしまったからには仕方がない。相手してやるか・・

「さっきはよくもやってくれたな!!」

「フフフ・・この俺様に喧嘩売ったのが間違いだ!!それに前歯欠けて威厳なくなってるぜ!!!」

「何だと・・それに中野もいるじゃねぇか!!!お前らまとめて叩き潰してやる!!!」

そういって男共は角材片手にあいつや俺に向かっていった。流石にここまで来たら相手してやるか!! 俺は向かってくる奴ら全員を相手にする事にした。それにしても全く・・あいつは男の頃から 行動には全然変わらないな。

そう俺はぼやきながらも野郎共を1人ずつ気絶させていった。

688 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:13:30.55 ID:YTDstmju0

「うらッ!!」

「つ、強い・・これがあの相良かよ・・」

あいつも徹底的に倒しているな。男女の差なんて感じられないな・・ おっと、よそ見してちゃまずいな。俺もしっかり倒さないと・・

「俺らに喧嘩売ったのがまずかったな。んじゃな」

「うげッ!!!」

俺は最後の男を倒すと周りをじっと見た。 どうやらこれで最後らしい・・運動にはなったがなんだかなぁ。 もういい年だし喧嘩から引退したい気分だ。少し憂鬱な気分になっていると 後頭部からキツイ一撃をもらった。 まさか生き残りがいるのかっと思い俺は振り返ると拳を振っていたあいつが立っていた。

「――ッ!!・・何すんだよ!!!」

「お前弱くなったよな。・・ちょっとは俺みたいに体鍛えろよな」

「あのなぁ・・」

俺は殴られた後頭部をさすると再びあいつと道を歩くことにした。 しかしまぁ、どんどん街中から遠のいてついには山中まで入ってしまったよ。 流石に山道は堪えるなぁ・・でもまぁ、だんだんと外の街並みを見てみると結構きれいなもんだ。 それに徐々に会話よりもそういった雰囲気が体に伝わっていた。

しばらくして歩くと・・俺たちは頂上に着いた。

689 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:16:48.06 ID:YTDstmju0

「さて・・歩いたな。で、どうすんだ?」

頂上に着いた俺はとりあえず深呼吸をしてみる。 時刻はすでに夜・・星がちらほらと見え始めた頃合だ。街にもネオンが 光っていて別の雰囲気を醸し出している。 昼からまた夜の街へと変化するとき・・人々の顔つきも変わっているようだ。 そんなことを考えているとあいつがバックから筒状のものを取り出した。 もしかして・・それはチョコなのか? じゃ、まさか・・今までのあれはちょっとしたフェイクだったのか? だとしたら可愛げのあることやってくれるじゃないか。

あいつは少し顔を俯かせながら俺に筒状のものをくれた。

「・・ほらよ」

「お、おい・・なんだよそれ」

「お前の欲しいもんだよ・・」

そう言われるとなんだか期待が増していった。それに構わず俺はあいつから 受け取るとそのまま開けることにした。開けてみると・・中身は俺が寄り道していた店で 売っていたチョコレートだった。

690 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:21:40.57 ID:YTDstmju0

「金が余ってたからたまたま買ったんだよ。・・別になお前じゃなくても良かったんだぞ!! あくまで俺の気分であって!!・・お、おい」

「フフフ、まさかお前からもらえるなんて・・俺はすげぇうれしいぞ!!!」

「ちょ、ちょっと・・てめぇな!!」

俺は思わず抱きついていた。 フフフ・・この嬉しさに勝るもんなんてないだろう。何せ彼女からの本命チョコだ!! もう少しわがままを言わせてもらえば既製品じゃなく手作りが良かったのだが・・ まぁ、ここは特別に見逃そう。あいつからもらったものは どんな既製品でも手作りに感じてしまうのだ!!!

「何だよ・・」

「別に・・なんでもねぇよ。――ただ、お前から貰えてうれしいだけだ」

「・・お前はバカか?」

あいつは呆れながらも俺を見つめていた。 俺も思わず笑みを浮かべながらあいつから貰ったチョコを見つめていた。 食べるのが少しもったいない気もするが・・どうしようか迷ってしまう。

やっぱこいつと付き合ってよかった・・

691 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:22:41.66 ID:YTDstmju0

「・・やっぱお前は最高だ」

「ま、まぁな!!そ、その・・そう言われると俺も・・うれしい」

気がつけば俺はキスをしていた。それだけ歓喜あまっていたのかも知れない。 誰も見ていない山中の中・・俺たちのディープなキスだけが刻銘と 浮き出していた。

しばらくの口付けの後、俺たちは互いを見回すと・・漆黒の空から白きものが舞い降りた。

白いものに手をとると冷たさが体に伝わった。

「・・雪か。十分、季節外れだな」

「そうでもねぇぞ・・ギリギリ間に合ってくれたさ」

寒さから逃れるため再び俺はあいつを抱きしめた。あいつからはほんのりと暖かいものが伝わってきた・・

692 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:24:28.13 ID:YTDstmju0

「あんな感じだったな・・」

「親父・・どうしたの?」

「いや、昔のこと思い出してただけだ」

俺は再び娘の頭を撫でると初めてのバレンタインを思い出していた。 あの日はあいつからのチョコを貰ったが本当に嬉しくて食べるのにかなり迷った ぐらいだ。あれからもバレンタインはちょくちょくは貰っていたのだが、ここ最近は 主婦業に忙しいのか少しもらえなくなって寂しいところだった。

そのかわり希からはチョコレートは欠かさずもらえるのだが・・やっぱあいつからのチョコもほしいな。

「ま、しゃあないか・・」

「・・何がしゃあないんだ」

「お、お前・・そ、それはもしかして・・チョコか?」

突如として俺の後ろに現れたあいつ・・しかも持っているのはもしかしてチョコか? 俺は是が非でもあいつのチョコが欲しかった。

すると、あいつはそんな俺の思考を完全に見透かしているのか・・箱をフラフラと振りながらこういってきた。

704 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:52:53.81 ID:YTDstmju0

「これか?これ欲しいのか?」

「お、お前な・・希の前だぞ」

「親父かっこ悪い~」

あいつはチョコレートの入った箱をフリフリさせながら俺にちらつかせてきた。 やっぱ結婚して子供産んでからもこういうところは全然変わっていないな・・ でもまぁ・・子供の前で遊ばれるとは俺も修行不足だ。

そう・・俺は思っているとあいつは素直に俺にチョコが入った箱を手渡してくれた。

「な~んてな・・ほらよ。久しぶりのバレンタインだ」

「お、おう・・ありがとな」

俺はあいつから箱を受け取るとすぐに中身を空けた。 中身はあいつが作ってくれた手作りのチョコで味加減も抜群であった。 俺はしみじみとチョコを味わっていると傍にいた希が付け加えるように説明した。

706 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 22:53:58.18 ID:YTDstmju0

「ママね、今日とっても張り切ってチョコを作っていたんだよ」

「の、希・・」

まぁ~・・今日のあいつはなんてかわいいんだろう。 しみじみとチョコを作っている姿が目に浮かんでくる。俺は幸せもんだ。

「なぁ・・」

「何だよ。チョコはそれ限りだからな」

「俺は幸せもんだよ」

チョコを食べながら俺は時代が経っても変わらないバレンタインの甘さを実感していた・・

fin


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最終更新:2008年09月17日 18:49
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