『次元の果て・・』

157 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:03:19.94 ID:BWZIuRkN0

「魔王様・・それだけは危険です!!」

「何を言ってるのだ。ワシは今まで魔王になってから いろいろやってきたが・・この魔術だけは誰もやっとらん。

もし成功すればワシは魔王の中の魔王じゃぞ!!」

とある女の子と魔族の会話・・女の子の方は威風や格言はたっぷりでは あるのだが、部下のほうはどことなく哀愁を感じてしまう。察するに女の子のほうが 地位が高いようだ。それもそのはずで、女の子は魔族の中の頂点に位置する 魔王の位置にいるのだが・・とあることでかわいさと幼さがあふれる女の子に なってしまったのである。

「で、ですが・・」

「女になっても魔力は申し分ない。やろうと思えば可能じゃ!!」

魔王は握り拳をしたまま、自信たっぷりになりながら威厳をこめる。 自然と部下との口調にも熱が入るようだ。だけど・・いつもは魔王という位に 位置するこの人物に控えめなこの部下も、今日だけは退くに退けなかった。

何せ、今から魔王のする魔術にはかなりの危険性があったからだ。

158 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:08:25.14 ID:BWZIuRkN0

「魔王様・・確かに魔王様の魔力があればこれからやろうとする魔術は 容易いでしょう。しかし、これからやる“転送術”は余りにも危険です! 転送術を やろうとしたものは皆すべてかの地に飛ばされ行方不明になっており、その 危険性故に今では禁術になっております。

今、この世界に魔族を率いている魔王様がいなければ我々魔族としても困ります!!

ですから、なにとぞご勘弁を・・」

部下に苦言を呈されながらも、魔王にはやりたい魔術であった。 今まではこの地にいる勇者たちはあまり来ないも同然であったため、魔王に とっては暇つぶしにはもってこいの魔術であった。

幸い魔力のほうも女体化してからも今までと同じぐらいの量を誇っていたため やるには容易く、呪文を唱えればすぐにでも可能であった。しかし、部下として みれば魔王の不在はかなりヤバイ・・というかやばすぎる。 いつもは魔王に言われっぱなしの部下であったがこればかりは止めなければ 本当にまずいものだった。

しかし・・魔王にはある秘策があった。

159 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:08:59.78 ID:BWZIuRkN0

「バカモノ!!ワシが何も策なしにこの術を試さないと思ってか!! 転送術は確かに危険じゃが、安心せい!!ちゃんと帰還する術も心得ておる。

前にこの手の書物を見つけたらちゃんと書いておったわ」

「そうですか。てっきりわからないままかと思っていましたよ」

「ワシを誰だと思ってるんじゃ!!・・おやつの時間までには戻るぞ」

そういって魔王は怪しげな呪文を唱えると、徐々に魔王の体は透明になっていき・・ 部下の見守る中、何処へと消え去っていった・・

魔王が消えた中、部下は一息置くと困ったような顔を見せる。

「そういえば・・魔王様がいなくなった後どうしようか考えてなかったぞ!!どうすればいいんだ・・」

どこかその背中には寂しい哀愁を漂わせながら上と下とを奔走する部下であった・・

160 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:10:51.62 ID:BWZIuRkN0

「ふぅ、まずは問題ないようじゃな。しっかりと呼吸もできる」

魔王は無事に転送できたことを確認すると、あたりをふと見回してみる。 やはり自分たちの世界とは違い周りには住居と見られる建物がたくさんあり 不思議なことに魔王の知っている住居とは形すらも違う。 それに建物の形もさまざまで平らな平地が少ないことが見受けられた。 どうやら自分の知らない世界に送り込まれたようだ。魔王はしばらく辺りを 見回してみると辺り一面は山などなく馬が一頭もいなかった。

「おかしいのぅ・・人間の建物の形が様々じゃ。昔、地上を見たときは こんな形の建物などなかったぞ。それになんじゃこの塊はえらく硬いのぅ・・」

魔王は近くに置いてあった塊に目がついた。 試しに触ってみるとその塊はまるで盾のように硬いものでよくよく見てみると 周りに4つ黒くて丸いものがついており、鏡みたいな大きいガラスが周辺に くっついていた。・・俗にいう車である。魔王が行き着いた先は空き地で、 車はその空き地に捨てられた車で廃車になったようだ。

「しばらく地上を見んうちに人間はこんなものを作っておったのか・・」

感慨に車を見ていた魔王をよそに、魔王がいる空き地に2人のある親子がこちらに向かってきた。

161 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:15:20.07 ID:BWZIuRkN0

「親父~、空き地だよ」

「ああ・・そうだな。あんまりはしゃぐなよ希」

まだ幼さが残る娘とそれを見守る父親・・それもそのはずで2人の姓は 奇しくも同じであった。“中野”という姓を共に持つ2人は親子という肩書きで たまたまこの近所を散歩していた。娘の名前は希・・そんんでもって父親は翔。

たまにはせっかくの休日をそこらへんの親父みたいにゴロゴロするんじゃなく娘と 有意義に過ごそうと考えた翔の親心から始まったみたいなのだが・・どうも、事実は違っていたようだ。

162 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:16:46.37 ID:BWZIuRkN0

(せっかくの休日なのに“希と散歩しとけ”ってあいつから強引に言われる なんてな。せっかくの休日だから、のんびり寝たかったのに・・ ま、考えたってんなこと仕方ないか・・

ん、何だあの子は・・やけにすごい格好しているな)

希を見る傍ら翔はとあるものに目がついてしまった。 それは廃車をじっと見つめる女の子・・基、魔王であった。余りにもその格好で 目がいってしまったのだが、子供がこんなところで1人いるのは余りにもおかしい光景だった。

それに元々はお人好しなのか、はたまたどうも放っておけないのか・・ 翔は娘を抱っこすると魔王の元へと向かうことにした。

「(誰の子かはわからないけど一応、警察に届けなきゃな・・)お嬢ちゃん、いったいこんなところでどうしたんだい?」

「に、人間ッ!!!」

「へっ・・?」

魔王の余りにもの突発的な台詞に固まってしまう翔であった・・

163 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:23:22.76 ID:BWZIuRkN0

「あのね・・迷子か何かなの?」

「ち、違うぞッ!!ワシは魔族を束ねる魔王じゃ!! その証拠に魔術だって使えるんだぞ!!・・・・あれ? 魔術が使えない――」

魔王は何かしら簡単な魔術をしようと手をだして軽く念じてみるが 大して何も起こらなかった。転送術によって大幅に魔力を使ってしまったのか、 はたまた全くの別の世界に転送されてしまった影響なのか全然わからない。 魔力が使えないことに驚いた魔王は更に慌ててしまってそれが結果的に 焦りを生み、物事は自然とあまりいい方向へと進まなかった。

魔王のほうは思いもよらない事態に混乱していたのか頭がめちゃくちゃになってしまった。

164 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:23:49.92 ID:BWZIuRkN0

「う、嘘じゃないぞ!!本当だったら何かモンスターを召喚することだってできるんじゃぞ!!」

「(よほどゲームをやり過ぎている子なんだな。でも、関わっちまった以上何とかしないとな・・)

わかったから、俺と一緒に警察へ行こう。・・な?」

「お主!!ワシのことを信じていないなッ!!!」

翔は一旦、娘を放すと魔王と何とかして警察に保護してもらおうと説得するの だが・・最悪なことになかなかうまくいかない。 一方、対する魔王も自分の力を翔に見せ付けようとするのだが、こちらも 思うようになかなかうまく言っておらず、両者とも互いに余りいい方向に行っていなかった。

というのも仕方なく、翔にしてみれば魔王の格好は別として自分の娘よりも 少し大きいぐらいの女の子がこんな空き地で1人きりで過ごしているほうが 不自然で極まりなかった。友達と一緒に遊んでいるのならまだ別なのだが・・ その気配が一向に見えない。

自然と翔のほうには大人としての自覚の表れか・・何とかこの女の子を警察へ保護しようと働きかけた。

165 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:25:49.86 ID:BWZIuRkN0

「とりあえず、お父さんかお母さんの・・」

「まだ信じられぬのか!!・・頭にきたぞ。ファイア!!」

「うぁ!!危ないっ・・ん? これってもしかして火かッ!!!」

「簡単な魔法が使えるのはわかるが・・魔力があんまり回復していないようじゃの」

魔王が苦し紛れにだしたファイアが近くの草にあたった。魔王が手から出した“それ”は 間違いなく火であり、翔も突然のことで驚きながらもとっさの反射神経でよけると 魔王の放たれた火は近くの草に当たり火は燃えながらその勢いを増していた。 しかし、幸いにもまだ勢いは小さかったので人間の足で踏み潰すことができた。

翔は火を踏み潰すとながら考えると、改めて別の意味で魔王の存在を信じざる得なかった。

166 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:28:49.79 ID:BWZIuRkN0

「今は人間でもできる簡単な魔法しか使えぬが・・これで信じたか?」

「あ、ああ・・信じがたい事実だが、実物見せ付けられたら信じざる得ないな」

「まだ、魔力が回復しきっていないから元の世界には帰れぬな・・」

「なぁ・・その、元の世界って何だ?」

「話せば長くなるのじゃが・・」

もはや魔王のファイアによって魔法の存在を信じてしまった翔は改めて 魔王から話を聞くことにした。話を振られた魔王は翔に魔術でこの世界に やってきたことや、元の世界での出来事などをありとあらゆることをを翔に話していた。

普通なら信じられないような話でゲームの領域を出なかったのだが、先ほどの ファイアを見せ付けられると、どうも魔王の話は信憑性の高いものばかりであった。 それに2人には世界を超えたある共通するものがあった。

それは・・

167 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:31:01.70 ID:BWZIuRkN0

「へぇ~・・お前も女体化してるのか」

「何ッ!お主は女体化を知っているのかッ!!」

「知ってるの何も・・俺の妻は女体化したんだしな」

「ほぉ、そっちの人間の世界も少し興味深いのぅ・・・」

魔王は興味津々になりながら今度は翔の話に耳を傾けた。 翔も自分のことについてあらゆることを魔王に話すことにした、魔王は意外にも 深々と翔の話に耳を傾けると少し人間の世界に興味を持ったのか、愛やらいろいろな ことを翔から聞いていた。

しばらく2人が互いのことについて話し合っていると・・遊び疲れたのか、希が2人のほうをじっと見つめていた。

「親父・・おなか減った」

「ああ、もうそんな時間か。どこか飯でも食っていくか? そっちも腹減ってるんだろ、なんか奢ってやるよ」

「ワシは・・・魔王として人間の世話になるのはちと心苦しいがまぁよい・・」

魔王も女体化してからもお腹は減るようで、素直に翔の後についていくことにした。

168 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:33:14.19 ID:BWZIuRkN0

「しかし、人間というのはいつまでも不便な存在じゃのぅ・・お金というものがなければ物を手に入れられないとはな」

「あのなぁ・・」

「まおーのお洋服は・・かわいいなぁ」

「人間、お主がこれを着るにはまだ時間が必要だ・・」

「むー・・いいもん」

あれから、幾場かの時間が過ぎて魔王もようやくこの世界に慣れたようだ。 翔と一緒に街に出たときはその格好が目立ったのだが、周りには一種の コスプレと見受けられたようでたいした混乱はなかった。

外に出ると、余り人間の住む世界に出ていなかった魔王にとっては見るもの 聞くものがすべて新鮮で刺激的なものばかりであった。最初は魔王をじっと 見ていた希も徐々に慣れてきたのか、次第に魔王と打ち溶け合っていた。 やはり子供は見た目を余り気にせず堂々と話しかけれるものらしい・・翔は そんな娘の意外なところに感心しつつ、魔王の女の子らしさを見つめるのであった・・

それからしばらく時間が過ぎると、3人は再びあの空き地へと戻った。 魔王はまず試しに簡単な魔法を土管に向けて放つと、土管は粉々になって 跡形もなく砕け散った。どうやら魔王の魔力が回復したようだ。

魔王は魔力が回復したのを確認すると、すぐさま帰還に向けて再び転送の魔術を唱えることにした。

169 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:39:01.91 ID:BWZIuRkN0

「もう・・帰るのか?」

「ワシにはやる事がまだまだあるからな。人間・・世話になったぞ」

魔王は再び呪文を唱えるために目を瞑ると、翔たちが最後の別れの メッセージを魔王に託すことにした。3人にとっては数時間という短い時間では あるが、一番心通わせることができたと思いたい。

翔はなんだかそう思えて仕方なかった。

「・・また来いよな」

「まおー・・また来てね」

「またこの術を使ってこの世界にこれるかはワシにも判らぬ。 ・・さらばじゃ、人間!!この世界、存分に楽しかったぞ!!」

再び魔王は呪文を唱えると体が半透明になりながら、徐々にその体は 夕日と共にこの世界から消え去っていった。

その時の魔王の表情は笑顔で・・それを見た時、今までとても女の子らしかったと翔は思った。

170 名前: 40歳無職(広島県) 投稿日: 2007/03/20(火) 21:42:43.40 ID:BWZIuRkN0

「魔王様!!戻られましたか・・」

「うむ、世話をかけたな。ワシはどれぐらいの時間いなくなってた?」

「そうですね・・かれこれ3時間位ですかな。それよりも魔王様、かの地はいかがでしたか?」

無事にもとの世界に戻るや否や部下が感想を聞いてくると、ふと魔王はあの 世界で共に過ごした翔たちとの思い出が頭の中に広がっていた。 魔族の寿命は人間よりも遥かに長い・・でも記憶というのは長くもなりながらも ちゃんと忘れずに一緒に存在してくれる。

魔王はそんな自分にふと嘲笑しながらも、決して長くもなかった別の世界の 出来事が永く・・大切にしていきたいと思いたい。 あの2人にもう一度出会えるかは判らないが、再びあの魔術を使う機会があったら――


今度はさっきよりも永くまたあの世界で2人と過ごして生きたいと思った魔王であった・・









fin


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最終更新:2008年09月17日 18:49
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