『看病』

76 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:39:54.86 ID:7uJQyCee0

予定外・・まさに今日はそれに相応しい日であった。 理由はシンプルにして至って単純・・俺の彼女である、相良 聖が急に学校を 休んだからだ。最初は単なるズル休みだと思って解釈をしていたが、どうも あいつの傍にいた取り巻きたちの様子がおかしかったのでズル休みという 案は消え去った。

それに考えてみれば、あいつは俺と付き合うようになってからズル休みなど やったこともなかったし、授業をサボって暇つぶしにこの学校にいる不良どもを ボコすことも少なくなってきた。じゃあ、なんであいつは学校を休んでいるのだろう・・?

その答えはこの授業が終わったらすぐにわかった。

77 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:40:33.36 ID:7uJQyCee0

「風邪だって!!・・あのあいつがか?」

「そうみたいよ。あんた彼氏なんだから心配してあげれば?」

取り巻きの1人に聞いてみるとどうもあいつは風邪で学校を休んでいるようだ。 ・・ちょっと待ってくれ、なんで彼氏である俺には伝えなくて友達にはきちんと 伝えるんだよ!!ああ・・俺って友達以下の存在なのかよ。

「そんなことより・・お見舞い行ってあげたら」

「あ、ああ・・そうだな」

確かに彼氏としてあいつのお見舞いに行かなければ・・それにしてもなんで 彼氏である俺にこんな重大なことを伝えなかったんだろう。 まだ付き合って日が浅いというのも考えられるが、それにしてはちょっと 酷い対応じゃないのかい狂犬さんよぉ・・でもまぁ、何か適当に見舞いの品を 買っておくか。風邪らしいから固形物は余り食えないから柔らかいもので いいだろう。それに今日はバイトは休ませてもらうとするかな・・

79 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:42:20.71 ID:7uJQyCee0

「ここだったな・・」

学校が終わり、俺はそのまま帰りに近くのスーパーで 適当なものを買うとあいつの自宅へと到着した。前にあいつの 自宅まで送り届けたことがあるので道は間違うことはなかった。 家に入るとあいつの母親に挨拶をするとそのままあいつの部屋に 向かうことにした。どうやらあいつの姿がないということは本当に 風邪を引いているようだ、ドア越しからは微かにだがあいつの人気を感じてしまう。

意を決して俺は部屋に入るとそこにはいつものような元気な姿とはかけ離れた、 嫌に弱々しくベッドで横たわってたあいつがいた。

「な、なんでお前が・・ゴホッ!!」

「・・やっぱお前、風邪なんだな」

「て、てめぇ・・・ゴホッ、ゴホッ!!」

弱々しくも拳を突き出すあいつを見るとまだ意地そのものは 死んでないようだ。俺はやれやれと思いながら、そっとあいつの拳を収めて やるとそのままベッドに寝かせてやった。 全く・・本当に意地だけはいっちょまえな奴だ。部屋の周りを見ると土鍋が 転がっていたので、ご飯は食べたのだろうと見受けられた。 そういえば何時ぞやのときにこいつに見舞いに来てもらったことを思い出して しまった。あの時は俺もたいした怪我じゃなかったのでいい思い出となる だろう。

おっと、こっちも感傷に耽っている場合じゃないな。

80 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:44:43.34 ID:7uJQyCee0

「何しに来たんだよ。こんな姿になった俺を笑いに来たのかよ・・」

「ハァ・・見舞いに決まってるだろ。それにしてもなんで俺に知らせてくれないんだよ」

「そ、それはな・・ゲホッ!!」

「おいおい、無理するな・・」

あいつの背中をさすると、買っておいたビタミンCたっぷりのホットの飲み物を 即座に渡した。あいつは慌てながらもゆっくりと落ち着いて飲み物を 飲み干していた。

よほど無理しているのか、喋っているのがどことなく辛そうであった。

「なんかいるか・・?」

「・・いらねぇ」

プイッとそっぽを向かれるとあいつはそのまま機嫌が悪かったのか俺に顔を 向けずに不貞寝してしまった。まぁ、あいつにこのまま不貞寝されては 気まずい空気が流れてしまうのでスーパーの袋に入ってある適当なものを探してみる。

確か柔らかい食べ物を中心に何か買ってあったのだが・・大丈夫なのか不安になってきた。

81 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:47:13.50 ID:7uJQyCee0

「あ、あった。・・おい、適当に買ったから食べようぜ?」

「ゴホッ!!・・何買ったんだよ」

「・・プリン、柔らかいからお前でも食えるだろ?」

スーパーでは風邪を拗らせているあいつに気を遣いながら、柔らかい 食べものを中心としていろいろと買っておいた。俺はスーパーの袋から プリンを取り出すと、あいつも満更ではないのか、重々しくしながら 不貞寝していた体を何とか立て直すと俺はあいつにプリンを渡してやった。 あいつは俺からプリンを受け取ると、しばらくじっとプリンを見つめていた。

普段なら絶対見せない、あいつの珍しい光景を見た俺はちょっとした 悪戯心が体の底からくすりと湧き出てきた。

82 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:47:39.45 ID:7uJQyCee0

「・・もしかして食えないのか?」

「う、うるせぇ!!!・・け、決して食えないんじゃないんだぞ!! 俺はただな・・ゲホッ!!ゲホッ!!」

「無理するなよ。・・ほら」

俺はプリンのふたを開けると、スプーンでプリンを掬うとそのまま あいつに差し出した。あいつはスプーンにちょこんと乗ってあるプリンを じっと見ていると、流石にどうしようか迷っているようだ。

確かに元男としてのプライドがそれを許さないだろう、それに風邪というものは 意外にもあいつの体を抑制しているらしい。普段、こんなことすれば問答無用で 顔面に一発!拳がくるだろう。しかし、今は風邪で体がなかなか動かない状態だ。

あいつはじっとそのままプリンを見ながらようやく決断を下したようでそのまま静かにこう言った。

83 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:50:32.26 ID:7uJQyCee0

「・・向こうむいてろ。見たら殺すからな」

「わかったよ・・」

風邪はひいていても視線だけは一人前なもので、 俺は眼を背けながらただひたすらに感覚を頼りにスプーンに のっかてるプリンがなくなるのを確認するしかなかった。 しかし、こいつの彼氏としては面と向かって素直にプリンを食べる あいつの姿も見てみたい。 一体、どんな表情をしたままであいつはプリンを食べるのだろうか 想像してみたりもする。

ここは・・いっその事、強硬手段に打って出るか。

84 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:51:36.02 ID:7uJQyCee0

「・・どうした、早くしろよ」

「フフフ・・てりゃぁ!!!」

「お、おい!!な、何するんだぁ!! この変態!ブッ殺すぞ!!や、やみゃろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

ここは強硬手段で口移しでプリンを食わせてやることにする。 流石のあいつもいきなり口移しでプリンを食わせると慌ててしまったようで、 風邪が体を抑制した結果、得意の体術も出せずになすがままに俺は 口に含んだプリンをあいつの口に移すことに成功した。

まぁ、あいつの表情を見るといきなりのことで気が動転したのもあるが、あいつの 顔は明らかに赤みを帯びていてかなり恥ずかしがっていてかなり可愛かった。 普段は絶対に見れないあいつの可愛い表情を見るとなんだか俺も欲情してしまいそうだった・・

一通りの口移しが終わった後、あいつは赤くなりながらそのまま呆然としていた。 その姿を見ると、急に罪悪感に近いものが沸いてきた。

86 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:53:29.48 ID:7uJQyCee0

「・・悪かったよ」

「今度やったら絶対にブッ殺すからな・・ゲホッ、ゲホッ!!」

「わかったから、無理するなよ」

「う、うるせぇよ・・」

そのまま俺はあいつを落ち着かせるとそのまま、まったりとしながら 時に身を任せてぶらりとあいつの部屋で過ごしていた。 それにまぁ、部屋をよく見てみるとやはり男の頃の面影は強く 残っているようで、女の子らしいものは何一つなく壁はそこら中にヒビが 入っており、体を鍛えるためにおいてあったダンベルやサンドバックなどが 目立っていた。

まぁ、そこは無理はない。考えてみると女体化という事実は少なからず あいつに衝撃を与えているようだ。それに時間がたつとあいつも少しは 話せるぐらいには回復したようで、俺もあいつとの会話を愉しんでいた。

87 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:55:43.55 ID:7uJQyCee0

「なぁ・・何で俺には風邪のこと教えてくれなかったんだよ。一応これでもお前の彼氏だぞ」

「・・別に何だっていいだろ。ただ、俺はお前にこんな姿を――・・ゴホッ!!」

「お前・・」

こいつは俺に余計な心配掛けまいとこの事実を隠していたのか・・ 俺としてはこいつのこの行動が可愛いのか寂しいのかよくわからないのだが ただ、なんか自分がどことなく情けなく感じてしまうのはどうなのだろうか?

「だからその俺は・・」

「わかったから、それ以上は体に障るから言うな」

「う・・うん」

何だこれは・・いつもあいつがみせる表情とはまるでかけ離れている。 今までにもこんな表情など俺に見せてくれなかった・・いや、見したことも なかった。 普段のあいつは終始、いつもの強気をキープしたまま俺よりも明らかに 優位に立っており、あの血に飢えた狂犬である相良 聖はその根性と 並外れた意地によって周囲に・・いや彼氏である俺だからこそ弱気を見せるはずがなかったのだ。

しかし今のあいつはどうだ、風邪でかなり弱っているに加えて弱気とも 取れるかなり臆した表情となっている。普段のあいつなら絶対に見せない であろうこの表情をこの俺だけにしているってことは・・これが本当のあいつの姿なのかもしれないな。

88 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 20:57:55.25 ID:7uJQyCee0

「・・まだ適当に買ってあるから、ほかに欲しいものはないか?」

「じゃあ、果物・・ゴホッ!!」

「はいはい、台所使うからそこで大人しく待ってろ」

俺は果物を洗うため下にある台所へと向かうことにした。 こうしてみると、弱々しくて俺を頼りにしてくれているあいつも 結構いいものだな。 ・・病気限定なのが玉に瑕だが、そこは俺たちの愛で何とか なるだろう。それにまだあいつと付き合ってそこそこだから焦ることはないか・・

あれからあいつのために果実を下ごしらえしながらさらに時間が 黙々と過ぎていく中、時計を見るとぼちぼち自宅に帰る時間になってしまった。

「あ、悪い。俺・・そろそろ帰るわ。ちゃんと、風邪治せよな」

「・・もう、帰るのかよ」

「何だよ。・・もしかして、俺が帰って寂しいのか?」

「バッ・・バカヤロウ!!俺はべ、別に寂しくなんか・・ゲホッ、ゲホッ!!」

かなり無理しているようだが、やはりこいつでも1人だと寂しいものなのかな。 気持ちは痛いほどわかるのだが、こっちも家の都合が諸々あるから簡単には 変えられないからな。仕方ない携帯で連絡するか・・椿が家にいるから 何とかわかってくれるだろう。 俺は携帯に手を掛けると後は自身の交渉術と、妹の信頼力にかかっている。 頼むぞ・・我が妹よ!!

89 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 21:00:44.11 ID:7uJQyCee0

「ああ・・悪い、父さんと母さんには適当に言ってくれ・・んじゃな。 いいぞ、今日1日はお前に付き合ってやる」

「ゴホッ!――そうか・・悪ぃ」

「俺はお前の彼氏だ。これぐらいは・・当たり前だ」

そのまま携帯を切ると、俺はあいつの傍にいることにした。 心なしかあいつの表情を見るとどこか嬉しそうで少し照れていたのが目に浮かんだ。

90 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 21:01:36.95 ID:7uJQyCee0

「・・眠い。 代わりの布団ないから隣にこいよ・・その代わり今日はなしだぞ」

「はいはい・・わかってる」

飲んでいる薬の影響なのか・・意外にもあいつは早く就寝するようだ。 寂しさは隠せないのか、はたまた単なる意地なのか・・ 俺はあいつに“隣に来い”と直々に命令された。流石にあいつの命令だと 逆らえないのですかさず俺はベッドの隣へと移ることになった。 ベッドは意外にも広くて2人分は入るスペースがあり、俺はいつもとは 違ったあいつの感覚を味わうことができた。

「なぁ・・今日はお前らしくなかったな」

「な、何言ってんだよ!! ゴホッ・・今日は少ししんどかっただけだ。次から調子に乗ったら殺すからな・・」

「へいへい・・承知してますよ」

「――ふぁッ!!バカ!だ、抱きつくな!!・・ゲホッ、ゲホッ!!」

俺は裸とはまた違った衣服越しから感じるあいつの柔らかくてほんのり暖かい体を抱きしめるのであった・・

91 名前: トリマー(広島県) 投稿日: 2007/04/01(日) 21:03:27.00 ID:7uJQyCee0

「頭痛ェ・・結局、あいつの風邪を移されたか」

後日、お約束の展開で自室のベッドで嘆きながら俺は見事にあいつに移された 風邪と闘うのであった。あの時のことを日記帳に書こうと思ったのだが 最近なくなることが多い。あの日記は前に椿に見られてしまった以来・・ちょくちょく 日記がなくなることが多くなった。全く、俺にも一応プライバシーがるのだからな。

そういえば今日は形勢逆転であいつが俺に家に見舞いに来ることになっている。 あいつにどんな風に看病されるのかが楽しみだ。

「おい!!風邪なんてだらしねぇな・・それでも俺の彼氏かよ!!」

さて、俺はこれからあいつにどのように看病されていくのであろうか・・

fin


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最終更新:2008年09月17日 18:55
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