24 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:24:25.82 ID:fGIxpcuP0
自宅というのはなんとも心地よいものだ、あったかいご飯に自分の帰りを待ってくれている妻と子供・・ これほど心地良いものはほかにないだろう。今はなき女体化によって全男が羨む綺麗な女性となった俺に 妻とその遺伝子をフルに受け継いだ可憐で可愛らしい娘に囲まれるなんて贅沢以外にほかでもない、理想的且つ 良好な家族関係に惚れ惚れするものだ。
しかし、そんな心地よくも美しい環境に水を差す出来事が起きる。 その日も平和と言う穏やかな時間がゆったりと流れる中で俺はのんびりと自宅で過ごしていた。
「幸せってこういうこと言うんだな・・」
「ジジィみたいなこと言ってるんじゃねぇよ」
柔らかな日差しがのんびりと照らす中で今日も俺はあいつの作ってくれた飯を食べながらこの平和な日常を余す ところなく堪能していた。この家は俺が一発奮起して購入した家で数ある生涯の中の内でかなりでかい買い物で あり、でもこの家は俺にとって新たなる一歩を踏み出した象徴でもある。
何はともあれ俺は幸せな家庭生活を送っているのには変わりない・・
25 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:26:34.57 ID:fGIxpcuP0
「あんなに小さかった希が今じゃあんなに美人になってるんだからな」
「俺の子供なんだから当たり前だ。並の男では到底付き合えまい・・」
「おいおい・・」
ここ数ヶ月は本当に希も精神的にかなり大きく成長したと思う。俺たち夫婦は希にとあることを黙っていたのだ、 今は無き女体化シンドノーム・・希たちの世代にはもうそんな知識もおぼろげになっているだろう。 人間、元来から備わってる環境に対する高い適応性のおかげか女体化の脅威が取り除かれてしまったら忘れ去る のも急速に早まってる。 希が産まれてちょっとしてから女体化は綺麗さっぱりとこの世から消え去ってしまった、あれから10年・・希は 女体化の知識だけは知っているもののその事実は余り信用できていないようだ。だから、あいつが女体化したという 事実を女体化の知識がない希に公表し辛く、希が産まれたころに俺たち夫婦は希の心の整理ができる歳になったら あいつの女体化を公表しようと誓ったのだ。
腐っても女体化はなくなってもその弊害を確実に残していた。
「・・だけどよかったな。希はちゃんとお前のことをわかってくれたようだ」
「まぁ・・俺らの子供だからな」
あいつの場合、真実のあれについては驚くことに俺よりも一番不安がってた、なんだかかなり覚悟していたようだし すべてを話したときも糸が切れたように俺にすがるようにしながら泣いていたのを今でも覚えている。 やはり母親となるとどこか重圧みたいなのを感じてしまうのだろう・・
いろいろ昔を思い出していると柔らかな日差しに包まれながら丁度、起きてきた希と一緒になりながら3人仲良く 慎ましくも幸せな朝食をとっていた。
26 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:28:22.34 ID:fGIxpcuP0
「ねぇ親父、今日は私と久々にどっかいこ」
「あ、ああ・・」
俺たち夫婦の愛情を一身に受けた希もすでに18歳、その面影は妻であるあいつの容姿を色濃く受け継いでいる 立派な娘だ。一般的な女の子だったら反抗期になりやすい年頃なのだが希の場合はそういった傾向もなく小さいころ みたいに俺に懐いている。 元々、希はどちらかと言うと俺によく懐いていたので今でも小さいころと変わらずに俺を親父呼ばわりして慕ってくれて いる。希が小さいころはかなりショックで一時は矯正も試みたのだが・・なんだかんだ言っても納得してしまい今に 至るわけである。 まぁ、父親としては嬉しいものなのだが大人しすぎる娘もちょっとした違和感がわいてしまうものなのだが・・ そこは俺の遺伝子がなせる業だな。
俺は底なしの嬉しさをかみ締めていると・・希の言葉に反応したあいつが急に待ったをかけた。
「ちょっと待った! ・・俺が先だ」
「えええっ!! 私が最初に親父を誘ったのよ」
さぁ、羨ましいというのか何とも奇妙な親子喧嘩の火種がここに開かれようとしていた。 血がなせる業なのか・・互いの主張をそう簡単には引き下がろうとはしないもので、むしろ大人しくするどころか引けを とらずに持ち前の意地で2人とも互いの立場を頑として譲ろうとはしなかった。
俺としてはここまであいつや希にここまで好かれてるのは非常にうれしいことなのだが・・このまま長引かせても あれなので2人を軽く押さえ込むことにした。
28 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:29:14.25 ID:fGIxpcuP0
「おいおい、俺はどっちでも・・」
「うるせぇ! お前に選択権なんてない!! ・・今回ばかりは希でも譲れねぇな」
「ちょっと!! いくらママでも横暴すぎるわよ!!」
やばい・・このままだと極めて危険な方向に発展してしまう。 早く2人を抑えないといけないのだが、既に臨戦態勢に入っている2人を押さえ込むのはかなり至難の技だ、 はっきり言ってこのままだと非常にまずい・・ 今の俺に希かあいつをどっちかを1人選ぶなんてできやしない、この2人を納得させる方法を何としても考えなければ ならないだろう。
それにしてもあいつがこうも希と張り合うなんてどこか不思議でならない、もしかして希に嫉妬しているのか・・?
29 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:30:05.28 ID:fGIxpcuP0
「大体、希には彼氏がいるだろ。お前も健全な女ならそっちに構ってやれ!!」
「私だってたまには親父と過ごしたいわよ! ママはいつも親父とべったりし過ぎよ!!」
火種が徐々に核戦争級の莫大な炎に変わるにそう時間は掛からなく、もはやこうなってしまえば俺の意見など 完全に通らないもので同じ性格の2人が成す言い争いはかなりヒートアップしながらこのささやかな朝食が容易に 最後の晩餐へと変わってしまった。
「あ、あの2人とも・・」
「俺はこいつの妻なんだからこいつをどう扱おうと俺様の自由だ!!」
「いくらぞっこんのママでも親父を独占しすぎよ!!」
こうなってしまうともはや誰も憤怒してしまったこの2人を止められる術はあるまい。 俺は逃げるようにしながらゆっくりと家から立ち去った・・
30 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:33:11.62 ID:fGIxpcuP0
「成り行きで外に出てしまったが・・俺はこれからどうすりゃいいんだよ」
逃げるように家を出てしまった俺だが状況は全く変わりがなく、むしろ悪化の一途をたどっているような気がして なからかった。希とあいつ・・どちらかを選べと言われても俺にはどっちも大切な存在で選ぶことなどそう簡単には できないものであり、そう簡単に決断などできやしない。 この歳になって希から誘われたのも驚きだが、それにあいつが反応して強固に反対するのもまた別の意味で 驚きであった。悩みに悩みまくりながらトボトボと俺であったが後ろからどこと鳴く懐かしい声が聞こえてきた。
「・・中野か?」
「――れ、礼子先生!!」
偶然出会ってしまった人物・・あいつには優しく諭しながらも厳しく道を開いてくれていた。俺の場合にはほとんど 怒鳴られた記憶しかないのだが、それでもちゃんと男としての度胸と厳しさを身をもって教えてくれた悩める 保健室の恩師――・・礼子先生その人であった。 前に偶然にあいつと一緒に買い物をしていたときに出会ったのだが、その性格は全く変わりなくあの時からちょっぴり 老けていても健康体そのものであった。まぁ、今は教職を辞して今まで培った病院の院長を辞めた旦那さんと 一緒にこじんまりとした診療所を手伝っているらしい。どこか法律に引っ掛かるような感じもするが俺たちよりも 肝の据わった礼子先生の場合はそんなことでは動じなさそうだ。
「・・もう、教師は辞めたって前に言ったろ。それよりも家族はどうしたんだ?」
「あ、ああ・・今は別けあって俺1人だ。家にいるよ・・」
「どうもしけた面してるな。・・ま、昔の好として聞いてやるか」
幸か不幸か・・俺には頼るべき人物がいたことに希望を見出すのであった。
31 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:34:50.09 ID:fGIxpcuP0
近くにあった喫茶店に入ると、俺は事の真相を礼子先生に話すことにした。 礼子先生なら今までのようにアドバイスを俺に添えてくれるだろう、すべてを話し終えた俺は目の前で昔と変わらずに タバコを吸っている礼子先生にすべてを託した。なんだか昔を思い出すようで懐かしい・・
「・・今に始まったことじゃないが、お前たち夫婦は似たような相談してくるな。 何時ぞやのときには相良が俺にアレルギーを抑える薬を求めてたことがあったな・・」
「そんなこともあったな・・」
希がまだ小さい頃にどうしても家族全員でオムライスが食べたいとリクエストされたのだが、あいつが卵アレルギーで あったため希の衛生教育上、どうしてもアレルギーを抑える薬が必要だったのだ。困ったあいつは苦心の末に 礼子先生の旦那さんを頼りにどうにかアレルギーを抑える薬をもらったのだが翌日に薬の副作用によってあいつは 1日だけだったが長々と頭痛に苦しめられて今では物置の隅のほうで眠っている。今じゃ懐かしい思い出のひとつだ・・
「それにしても昔に撤兵と出会ったときは小さくて可愛らしかったのに今じゃ相良に似てかなりの美人になってるから 驚きだな。本当にお前の娘か疑いたくなるよ」
「希が産まれた時からあいつに散々言われてるよ。でも・・やっぱり自分の子供って可愛いんだよな」
「・・お前も一人前の親になったんだな」
タバコを吸いながらも礼子先生は満足そうな目で俺を見つめていた。結婚式のとき礼子先生は意外にもだんまりと しながら俺たちの結婚式を見守ってくれており、あの時は初めて大人として俺たちを試していたのかもしれない・・ できちゃった結婚だったけど俺たちは慎ましく暮らしながらも夫婦二人三脚で希を一人前に育てたつもりだ。 あいつの女体化の事実は希にとっては辛いことだけど同時に何かの糧となって絶対に活かされているはずだと 信じたいものだ。
32 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:36:59.08 ID:fGIxpcuP0
「・・ああ見えても希はあいつの性格受け継いでるとこがあるからな・・」
「お前をめぐって親子喧嘩な。・・お前は随分とモテモテなんだな」
「このまま家庭問題に発展したらどうなることやら・・」
これが原因で親子不仲になったら俺の内臓はたちまち蜂の巣みたいに穴だらけとなってしまうだろう、あいつと希が このまま俺をめぐって泥沼の争いが繰り広げられてるのを想像すると気分も良くなれない。でも裏を返せばそれだけ 俺は家族に慕われているという証拠なのだが、これが原因で仲がさらに悪くなければいいのだがな・・
「ま、お前の娘なら大丈夫だろ。・・俺ものんびりと老後を過ごしたいもんだ」
「先生もたまには俺のところでのんびりしたらどうだ? 歓迎するぜ」
「・・やめておく、俺みたいなババァが来たって気を遣うだけで楽しくないだろ。 それに旦那とのんびりしながら徹平たちがいるアメリカへと行くさ」
そういえばアメリカにいる礼子先生の友達ってあの女体化の特効薬を作った木村 徹子だったな。 前に一度だけお忍びで日本に来たときに出会ったことがあった、女体化がなくなったことで女体化を撲滅目的とした 研究所は女体化がなくなった後もその輝かしい実績から存亡しており、難病を治療を目的とした研究所に方針転換した 話だと言うが・・でも、未だに女体化を治した医者として大々的に有名になったあの人は新たな難病を撲滅するために 日々施設で研究しているらしい。
33 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:40:56.02 ID:fGIxpcuP0
「まぁ、俺は俺なりに気ままに過ごすさ。そう心配すんな」
「わかってる。んじゃ、そろそろ家に戻るわ・・ 礼子先生も気が向いたら家に遊びに来てくれ」
「ああ。・・やっぱりお前たちはあの時の俺たちよりも強かったよ」
「先生も立派だったよ。礼子先生のおかげで俺たちはちゃんと前に進み続けられたもんだ・・」
「ば・・バカ野郎!! ・・俺はただ、教師として当然の責務を果たしただけだ」
慌てて礼子先生はふためいていたが俺はどこか嬉しさを感じてしまい、ようやく認められたんだなっと実感させられる。 思えば影ながらも礼子先生が優しくも肝心なところは叱咤してくれたおかげで俺たちは間違った方向にも進まず、 立派に前に進むことができていた。
今俺たちが順調に付き合えたのも礼子先生の影ながらの言葉が響いているのだと思う、卒業したときも礼子先生は 俺たちに“立派になって来い”っと一言だけ言い残してくれた。結婚式に来たときも旦那さんに協力してもらって 式当日まではできちゃった結婚の事実を隠し続けていたのだが、それが発覚しても礼子先生は何も言わず厳しくも 悲しそうな視線でそっと俺に“俺の二の舞だけにはなるな・・”と言い残してくれただけだ。
「さ、もう帰ってもいいんじゃないか? そろそろ収まってるだろうな。 お前も幸せの中でもちゃんと大事なものを忘れるなよ・・」
「当たり前だろ!!」
礼子先生の言葉に妙な違和感を覚えつつも、俺は礼子先生に立派な大人として認められたのがすごく嬉しかった・・
34 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:42:19.71 ID:fGIxpcuP0
喫茶店で礼子先生と別れた俺は恐る恐る家の中に入ってみると・・シーンと静かで人気が全くしなかった。 もしかしたら2人とも度重なる口喧嘩の果てに家を出ていいってしまったのかもしれない。徐々に最悪のケースが 俺の頭に浮かび上がるまま、重たい足取りで玄関に入っていくと寝室のほうで女性の笑い声が聞こえてきた。 寝室の入ってみるとあいつと希がなにやら笑っており、あいつが寝室に入ってきた俺に気がついたようだ。
「あ、親父だ」
「なんだ帰ってたのか。今までどこほっつき歩いてたんだ?」
「お前ら・・何してるんだ?」
1日の始まりである爽やかな朝・・俺の横で壮絶な壮絶な口喧嘩を演じていた2人が急にいつものように 和気藹々と仲良くしているのがとても新鮮で驚きで俺が礼子先生と話している間に何をしたらどうなっているのだろうかと 思うと気になってしょうがない。そんな2人をじっと見つめているととあるものを見ており、よくよく見てみると昔のアルバムであった・・
「あれから希といろいろ言い合っているとだんだんと昔の話になって・・」
「終いには最初のことなんてすっかり忘れちゃった。そういえば親父は今まで何してたの?」
「ちょっとな・・」
このとき俺はふと自覚してしまった。何も女体化というのは何も悪いイメージしか付きまとうものではない、 今こうして家庭があるのもあいつが女体化したから成り立っているものだ。俺は幸せすぎて大切なものを忘れかけていた のかもしれない、だからあいつと希の些細な親子喧嘩でも今までビクビクしていたのだろう。
俺はこの時点で大事なものに囲まれながらとっても幸せなのだ・・
35 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/15(金) 00:43:49.61 ID:fGIxpcuP0
「あ、これ高校の時のママたちだ。・・2人とも今とあまり変わりないわね」
「俺は女体化したときからこの美貌は崩れないと決まってるのだ!!」
一緒になって早何年・・昔から思うがあいつのこの自信はどこから湧き出てくるのだろうな。 歳も変わらない部分を持っているあいつがちょっぴり羨ましい・・
「お前な・・その強気なところは昔となんら変わりないよな」
「うるせぇな!! 俺はこれでもお淑やかになったつもりだ!!!」
「ちょ、ちょっとママ! ムキになるのはいいけど手加減しないと親父が死んじゃうわよ!!」
女体化してからはじめたと言う合気道も今でも健在のようで、すかさずあいつは容赦なく希の目を掻い潜りながら 俺にプロレス技まがいなのをかけられて身動きが取れなかった。一応体は鍛えてるつもりだったのだが、歳が経っても 格闘技を本格的に嗜んでいるあいつに適うはずもなくなすがままにやられていた。はっきり言って若い頃と比べると この歳で本格的な攻撃をかけられるとかなり堪える。
「自分の発言を重さをその鈍った体で味わえ!!」
「痛ッ!! 俺ももう歳なんだからちょっとは手加減・・」
「うるせぇ!!!!」
あいつに技をかけられて体の痛みが全身に回る中で俺はあいつの肌から幸せの何かを感じていた・・
―fin―
最終更新:2008年09月17日 18:56