42 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:18:52.40 ID:xG/fvu6N0
保護者・・昔の俺はそんなものになろうとは全く思わなかった。むしろ、結婚して親になるなんて 思いもよらなかったほどだ、しかし世界規模で流行していたとある病気のおかげで当時男だった俺は 見事に女になってしまったのだが、そんな俺もいつしか女の体に慣れてしまい気がついてみると恋人という 存在や当時としては思いもよらなかった自分の子供という存在までちらほらと見え始めていた。
時代が流れるまま、親になって早数年・・俺たちが結婚する直接的な原因となった娘は晴れて幼稚園に 入園する歳となった。幼稚園に入園してからここ数ヶ月はいつになく平穏に過ごしていたのだが 最近になってその平穏はとある通達によってかき消されることとなる。
女体化シンドノーム・・かつて世界規模で流行していた病気で難病にも指定されていたほどで今まで男性だった 童貞男性は突如として異性へと変貌を遂げる恐ろしい病気であった。 こんな病気でも60年ほどは特に童貞男性諸君等はいつ起こるかわからない女体化の恐怖に悩まされていたのだが そんな病気も希がこの世から生まれて数ヶ月・・特効薬と言う存在が呆気なく60年近く続いたその脅威を取り除いて しまった。
しかし、病気が無くなってもその弊害は未だに残りつつある・・そんな中で人類はかっての自然の環境に馴染もうと 必死に努力を続けていた。
さて、そんな前置きは置いておいて俺は今、プリントを震える手でじっと見続けていた。 事の発端はある晴れた夕方の事、その日俺はいつものように幼稚園から帰ってきた希を出迎えると希は幼さ全開の 笑顔で俺に衝撃の事実を伝えた。
43 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:20:30.34 ID:xG/fvu6N0
「なッ!! ほ、保護者会・・」
「うん!!!」
どうも希の幼稚園は年に一度、教師と保護者との交友を深めるため保護者会を開くようだ。 希は無邪気に笑って俺に保護者会のお知らせが書いてあるプリントを渡すが・・俺にとっては この知らせがとても重く感じてしまう。希はまだ有り余る幼さゆえかそんな俺を見ながらただひたすら 無邪気に笑っていた。子供というのは時として残酷である・・
「・・ママ行くの?」
「ま、まぁ・・こればっかりは行かなきゃまずいからな」
「じゃあ、幼稚園に来るの?」
「来るといっても希が帰る頃だ。だから当日はツンに面倒見てもらえ」
「うん・・」
俺はそのまま希の頭を撫でて別の部屋で遊ばせると俺は再び困惑しながら案内のプリントを見ていた。 希を産んで親となった俺はこうなってしまうのは致し方ないことなのだがまさかこんなに早くこういった知らせが 来るとは思っても見なかったものだ。 こんなにも早く俺が母親として試される日が来たのかと思うと心の奥底から不安みたいのがぐっと込み上げてくる。 今までのように未熟な自分がまだ許されてた学園生活とは違って、今度はそれが一切許されない難しい大人同士の 話し合いだ。 あいつと一緒に必死になって勉強をバカみたいにしていたあの頃が無性に懐かしく感じてしまう。
それに俺には保護者会に行きたくない最大の理由があった・・
44 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:22:12.61 ID:xG/fvu6N0
「ほぉ・・保護者会か」
「・・ああ、幼稚園での保護者と教師同士のの話し合いだ」
「なら、不安になることないだろ。普段のお前らしく普通にしてればいい」
「簡単に言うな! バカ野郎!! ・・俺はな、今までそういったことなかったからどうすりゃいいのかわからないんだよ」
その夜・・気分の落ち着いたベッドルームで俺は会社から帰ってきたあいつに保護者会について話すことにした。 俺が保護者会に参加したくない最大の理由・・それは今までにまともな話し合いなどしたことなかったので どのようにしていいのか全くわからない、それに今までの俺は男のときと同じように大抵は強気で強引に物事を 押し通してきたため、ああいったチマチマした話し合いなどは性に合わなかったのだ。 だから保護者会での話し合いと言われてもどのようにことを進めていいのかわからない・・ それに親である俺が変なこと言ってしまえば希にも何かしらの影響は及んでしまうだろう、それだけはできるだけ避けたいものだ。
「かと言って・・何も言わないのもまずいだろうな」
「意外だな、お前もちゃんと母親として考えてるんだな。 まぁ、下手に緊張するより今までのお前らしくいけばいいんじゃないのか?」
「それができないからこうしてお前と相談してるんじゃないか!! ・・まぁ、無理に考え込んでも仕方ない。当日は俺なりに頑張ってみる」
変に考え込んでも仕方ないと判断した俺は少し混乱気味になりながらも幼稚園の保護者会に望むことになった・・ のだが、やはりそう簡単には気持ちを切り替えることなど出来ずに俺の心の奥底では不安が蹲っていた。
45 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:26:23.07 ID:xG/fvu6N0
心の奥底で眠っている懸案事項を残しながら、ついに保護者会の幕は開かれた。 なり崩し的に教師と保護者がそれぞれの話し合いを行っている中で案の定、俺は何を話していいのか 全然わからなかった。それに保護者や教師の顔を見てみると、ほとんどは俺よりも年上で同世代の人なんて 余りいそうではなく、少し浮いた形で取り残されそうだった。
「さて次ですが・・保護者の皆様は休みの日はお子さんとどのように遊ばれていますか? お一人ずつお答えてください」
(き・・来たッ!!)
ついにこの時が来てしまった。今までは教師による説明と一部の保護者の質問等などで時間を消化していたのだが・・ 空気から察するとやはり何かしらの意見は言わなければいけなくなってしまったようだ。 それに話題は簡単なものなのだが油断できないもので細心の注意を払わないとまだ保護者の間でも若いということも 助長してか、周りから何を言われてしまうかわからないものである。
何を言おうか長々と考えていたのだが・・即興では当然いい案など思い浮かばず、そんなこんだでついに俺が言う順番が 回ってきしまった。
46 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:28:22.19 ID:xG/fvu6N0
「え~・・中野さんは休日になったらお子さんとどのように過ごされていますか?」
「へっ? あ、俺いや・・休みの日はいつものように家族3人でのんびりと普通に過ごして」
「・・それだけですか?」
「え、ええ・・」
緊張しすぎて頭が抜け落ちた俺はついいつものまんまの日常を喋ってしまった。とはいってもかろうじて理性が残っていたので 昔から褒められてなかった自分の頭脳にここだけは感謝だ。さっきのは希視点であって日曜になると休みで家でバカみたいにくつろいでいる あいつを有無言わさず扱き使っているのだ。まぁ、尤も互いの合意の上だけどな・・
俺は緊張したまま・・じっと周りの反応を待った。
48 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:36:32.19 ID:xG/fvu6N0
「なるほど、希ちゃんのあの明るさは家族の絆で成り立っているのですね。これは素晴しい! 今後、子供たちの教育のいいお手本になります」
「は、はぁ・・」
突然のことで戸惑ってしまった俺だが気がつけば教員を始め保護者の皆から俺に向けて賞賛の拍手などを してくれていた。なんだかよくわからないのだがどうやらうまくいったらしい・・これで子供にも変なこと言われずに 堂々とできるだろう。初めての保護者会の成功に俺は体の奥底から希の親としての自覚が芽生え始めたような そんな気がしてならなかった・・
「では、次の内容ですが・・」
(ホッ・・とりあえずは安心してもいいんだな)
ホッと一息つきながらそのまま席に座ると今まで感じていた不安や重圧などが一気に消し飛んで体が楽になったような 気がした。やはり、俺も何時までもバカやってないでちゃんと希のためにこういった話し合いの経験をたくさん持たなければ ならないのだろう。
女体化していつの間にか出来上がった母性というやつがちゃんと働いたのだと感心してしまうものであった・・
49 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/16(水) 23:40:20.26 ID:xG/fvu6N0
「てなわけで、全く大変だったよ・・ツンもそのうち子供が大きくなるんだから精々気をつけろよ」
「話し合いでそこまで苦労するのはあんたぐらいよ」
「あのなぁ・・少ない経験から割り出した苦肉の策だったんだぞ」
「わかってるわよ。・・それにしても母親って大変なのよね」
ツンの所で預けていた希を出迎えた俺はそのまま今日の戦果をツンに自慢した。しかし・・ツンはそんな俺を少し 呆れ顔で見つめながらもこれから自分も体験するであろう保護者としての覚悟については興味を示したようで 俺はまだ幼いツンの子供とじゃれ合っている希を見るとこれからのことについて考えさせられるものだ。
まだ希は幼いのだが、いつかは大きくなって心の整理がつくことができる歳になれば真実を話さなくてはならない 辛い現実はゆっくりと忍び寄りながら俺の元へと迫ってきている。
でも今の俺には思い出という最大の絆を信じてみようと感じずにはいられなかった・・
「ママ、今度はPTAの話し合いだって」
「な、何だとッ!! またあんな思いしなきゃならないのかよ・・」
数年後、真実とか云々の前にまずは保護者としての話し合いから逃れる術を身につけなければならないと 身をもって思い知らされる俺であった・・
―fin―
最終更新:2008年09月17日 18:57