『ツケ』

125 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:29:05.74 ID:1LqA6bCZ0

私の名前は中野 椿、自分で言うのもなんだけど現在は青春真っ盛りに直面している華の中学3年生。人並みに 遊びながらそれ相応な人生を歩みつつあると自分でも感じているけども、本業である学業は余り積極的ではないの だがそれも当然の結果のように思えてくる。 家族は両親に加えて今年高校を卒業する兄がいる、両親に関してみれば余り不満はない方なので割合させて 貰うけど一番の悩みは兄である中野 翔・・彼は傍から見れば良い子なんだけども実体はまるで違う、兄妹と言う 立場だからこそ常々それを実感させられるものだ。

「まぁ、お兄ちゃんに関してはもう言う事はないんだけどね・・」

朝食を食べ終わっていつものように再び自分の部屋に舞い戻り登校の仕度を整える。動も私は事前に準備するのが 苦手のようで細かくチマチマとするお兄ちゃんとはどうも違うようだ。

「お~い椿、ちょっとブラシを・・」

「お兄ちゃん・・勝手に入るなとは言わないけど無断で人の部屋のドアを開けないでよ。はいブラシ」

「ハハハ、悪ぃな」

どうもこの兄はどこか抜けているみたいだ、そのままブラシを渡すと私も準備を済ませてそのままカバンを持ち母が 作ってくれたお弁当を持って玄関を飛び出す。しかし朝はどうも昔から余り好きに慣れない、一般的に朝と言うと目覚め と言うイメージがちらほらと見受けられるが、私はどちらかと言うと気だるさを感じてしまう。とはいっても夜更かしとかは 全然していないのだが、昔から朝になってしまうと無気力になってしまうのだ。

126 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:29:49.76 ID:1LqA6bCZ0

「椿~、おはよう」

「おはよ~・・」

「相変わらず椿は朝が弱いね」

いつものように友人から悪態を突かれながらちびちびと学校まで歩く、ちなみに兄とは学校の位置が真逆であるので 滅多に遭う事はない。私の学校を卒業しながら高校は真逆の所を選ぶなんてどうかしている、ちなみに兄は高校を 一回だけ変えており表向きの説明は勉強の物足りなさであるが・・実際は教師を殴って今の高校へ転入させられた のが真相である。頭が良いのは認めるがいつまでもこんなアホ臭い事をやってくれなければ妹としては充分に 安心できるのだけども・・なかなかそうはいかないものだ。

127 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:30:47.55 ID:1LqA6bCZ0

「そう言えばもう文化祭よね。椿のお兄さんは来ないの?」

「さ、さぁ・・本人は何だか忙しそうだし」

「それもそうよね・・あんな頭のいい素敵なお兄さんがいる椿が羨ましいよ」

うちの兄は見た目は真面目で顔も良いのだが実体は全然違う、その始まりの起源は古くから遡って小学校中学年に 当たる。ああ見えて兄はかなり喧嘩っ早くて日々喧嘩に明け暮れるという生活を繰り返しており、その界隈ではかなり 有名なもので殺戮の天使とかと言う不名誉なあだ名まで頂戴している。 このような経歴から妹である私は大変苦労をさせられており中学を入学するときはその辺の不良から何にもしていない のに敬意を払われたりとそういった気苦労が耐えない、更には両親にも口止めの為のお膳立てみたいなことをされ 続けていたのだからそれに関しても頭を悩ませられてはいたのだが、そういった事もあってか兄は私には頭が上がら ないようだ。まぁそれでも兄の不名誉が余り広まらなかったのには私の尽力や兄自身の真面目な振る舞いや性格が 大きいのだろう、だけども毎回のようにそのとばっちりを受けるのは流石に勘弁して欲しいものである。

今回の文化祭だって行きたがらないのもその実態を知っている生徒とかに会いたくはないからだと私は思う。

「あ~あ、一回で良いから椿のお兄さんとデートして見たいわ」

(・・無知は罪とはよく言ったものね)

真実を知らないのもある意味では幸せなのかもしれない・・

128 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:31:32.70 ID:1LqA6bCZ0

学校に到着するとそのままいつものように上履きに履き替えて教室に入って席に着く、こうやって友達と何気ない話を するのが一番の安らぎを得られる。

「そういえば今日は英語のテストがあったわ」

「ええっ!! どうしよ、勉強してない・・」

「でも椿はお兄さんがいるじゃない! いつも教えて貰っているんでしょ?」

「まぁ、基本的な事は・・」

過去に私は成績不振を理由に兄から勉強を教えて貰った事があり、そのおかげで私はどうにか人並み上の成績に 持ち直すことに成功する。なんだかんだ言っても兄は頭はいい方なので教え方もそれ相応に巧いものでとりあえず 基礎だけは普通の人と同じレベルまで到達している。それにしても周りは兄の事を余計に知らないだけあって 妄想を膨らませるには絶好のシチュエーションとなるだろう。

「ねぇねぇ、椿・・一回で良いから私にお兄さん紹介してよ~」

「「「あ、ずるい~!!」」」

「まぁ・・本人は色々と忙しそうだけどね」

この麗しき乙女達は兄に彼女がいると聞いたらどんな反応を示すのであろうか?

130 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:32:27.48 ID:1LqA6bCZ0

時間と言うのは私が知らない間でもあっという間に過ぎていくものであり、学校も終わると私は真っ直ぐ家に帰宅する。 前に帰宅途中に他校の男の子からしつこくいい寄られた事もあったのだが、たまたま兄の仲間達に出くわして追っ払って くれて以来、そういった手合いはぷつりとなくなっている。自宅に帰るといつものように母がご飯を作ってくれて 父と兄は未だに帰っていない。父に関しては仕事が忙しいと言う部分もあるけれど兄に関してはまた別だ。

「誰もいないと暇ね・・」

かったるい勉強なんて宿題だけで充分だし、かといって今の時間は遊ぶ友人も少ない・・中にはいそうではあるのだが、 一旦自宅に帰ってしまったのと中学生だという立場を考えると今の時間では遊ぶ事は難しいものでこんなに暇だと 本当に活力やいろいろな面でやる気が削がれるからいい気分はあまりしない。そしてまた私の携帯に兄から電話が 掛かって来る・・

131 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:34:37.81 ID:1LqA6bCZ0

「・・もしもし」

“お、椿か。今日もあいつと一緒で遅くなるからまた頼むわ”

いつものように兄からの電話の内容には呆れを通り越して溜息しか出てこない、それにこう毎回のように両親に 苦心の言い訳をしなければならないこっちの立場と言うのも考えて欲しいものだ。

「・・こう毎回毎回とお兄ちゃんの都合に合わせてお父さん達に言い訳するのも楽じゃないの。 それに正直言っていい加減こっちも我慢の限界があるんだけど・・もう既に聖さんはお父さん達に紹介してるんなら 堂々とすれば良いじゃない?」

“そうはしたいのは山々だが、やっぱり両親の目があると盛り上がるものも盛り上がれないもので・・”

「なら一人暮らしでもしたら? 住む所もあるんだし、バイトもしてるんだから楽勝でしょ」

“い、いや・・まぁ追々考えているよ。んじゃな”

いつものように強引に電話を切られ私は溜息ばかりが残る。兄に関しては自宅以外にも住む家もあるしそれなりに 生活する事も出来る事が出来るのだから、さっさと家から出ればいいのになぜ未だに親に甘えてくらしているのか よく解らない・・とは言っても内心に計画は温めているようで準備は一応していると思われる。

132 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:35:29.54 ID:1LqA6bCZ0

電話を切られた後、私はそのまま兄の部屋へと足を運びいつも小まめにつけている日記をチラホラと読み上げる。 本人は時々日記がない事を自分のせいにしているようであるが、実際の半分は私がこうやって兄の日記を自分の 部屋に持ち込んでクスリと微笑みながら見ているのが真相だ。 それにああ見えても兄は意外に女々しい所もあるのでこうやって赤裸々につけている日記を見ていると嫌でも笑みが 零れてくるのだから非常に面白い。

「全く、高校出てから聖さんと同棲するのは勝手だけど今からでも遅くはないのに・・ちまちまと考えているようじゃダメね」

人の交友関係には案外口を出す癖に自分の事に関しては日記を見ている限り、ぶっきら棒なのだから少しばかり 将来が思いやられる感じもしてくる、兄の彼女である聖さんはこれから私以上の苦労を強いられそうで同じ境遇としては 同情を禁じえない気持ちだ。 まぁだけども、あんな兄でも日記を読み続けている限りではちゃんと真面目な大人の意見も持ち合わせつつあるので そういったところでは誇りに思うし尊敬もする。

普段からそのような面をもう少しだけ私に見せてくれたら余計な苦労する事もないんだろうなぁっと思ってしまう私であった・・

133 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:37:41.90 ID:1LqA6bCZ0

休日、私はちょっとばかりの化粧と服装を整えて1人市街へと出かける。今日はとある人と遊ぶ約束をしているので 自ずと念入りに気合が入ってしまうと言うものだ、電車に揺られながら数分後・・待ち合わせ場所には既に私を待って くれている人物が余裕たっぷりの表情をしたままちょこんっと座りながら私の姿を見ると立ち上がり大きく手を 振りながら笑顔で出迎えてくれた。

「お~い、椿。こっちだ!」

「あ、聖さん!!」

満面の笑みで私を出迎えてくれたのはお兄ちゃんの元ライバルで今は彼女の相良 聖さん。実は私は前の日に 聖さんと一緒に市街地で遊ぼうと言う約束を取り付けていたので今日こうして一緒に相成ったと言うわけ、聖さんは 私を出迎えてくれると今日の予定を私に尋ねてきた。

「すみません、待ちました?」

「いや、俺も今来たところだからそんなに待ってはないぞ。ただ相変わらずナンパとかがウザかったぜ」

そのまま少し歩いて、近くの喫茶店に入るとクーラーの風が非常に心地がいい。それに聖さんを見ていると非常に 羨ましく思う、出ている所はキッチリと出ていて引っ込めている所はすっきりと引っ込めている。非常にバランスの 取れた体型に加えてその美しい顔つきは化粧をしているのかさえも解らない感じ・・同姓から見て女体化と言うのは ここまで凄いのかと言うのを嫌と言うほど見せつけてくれる。もし兄の彼女をやっていなかったら即芸能界入りを 間違いなく果たしただろう、身近な人に聖さんがいる私はある意味では幸せ物なのかもしれない。

134 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:39:56.04 ID:1LqA6bCZ0

「それじゃ、まずは映画でも行こ」

「映画か・・久々だが楽しめそうだ」

普段なら無難な選択なのだが相手が聖さんと言うわけであってこちらもそれに合わせて気を遣わなければならない のかと思っていたのだが、兄とは違ってすんなりと行けれたので本当にそういった面では兄よりも遥かにマシなもの だろう。喫茶店を出て映画館のあるショッピングモールへ向かい、映画館のある階へとたどり着くと聖さんと一緒に 見たい映画を吟味する。

「聖さん、何見ようか?」

「そうだな・・俺ちょっとそういったのは疎いから選んでくれ」

「そうね・・どれにしようかな?」

現在やっている映画はP90さんの作品である「背中だけでは伝わらない」とこれまたコゲ丸さんの作品の「声を聴かせて」 が公開されている。どれも小説が元となっている作品でキャストも私好みの通なものだ、こうみえても私は兄の影響を 受けて本を読むようにしているのである程度は小説の面白さも理解しているつもりだし実写化の抵抗感も少なからず あるけど、予告編を見ている限りでは酷いようなものではないと思う。

まぁ、だけどもこれはあくまで私個人の主観であって聖さん自身の好みに合うかどうか分からない、できるだけあって くれれば私としては非常に助かるし会話も盛り上がっていい物になるだろう。

135 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:40:22.21 ID:1LqA6bCZ0

散々迷った挙句、私はコゲ丸さんの作品を選択する、小説はシリアスな展開だったけどあっさりして読み易かったし 映画の方もそれを再現してくれると映画に疎い聖さんでも観やすいと思う。

「これ見よう!」

「おおっ、中々面白そうだな。まぁ椿はあいつと違って信頼できるのが強みだな」

「聖さんってお兄ちゃんと仲が良いのね」

「あいつは俺がいなきゃ何にも出来ない情けない男だからな!」

まるでどこかの夫婦のようなコメントを残しつつ、心の中で失笑しながら劇場へと歩みを進めた。

137 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:42:16.41 ID:1LqA6bCZ0

映画は中々の作りでおおむね原作を読んでいる人でも何ら抵抗なく見れるいいつくりだった、聖さんも私の隣で じっくりと映画を観てくれていたようでなかなかの好印象で私に感想を述べてくれる。

「中々いい作品だったぜ! 俺なんて思わず感動し掛けたよ」

「よかった、私も小説見てたんだけど聖さんにも喜んでもらえて嬉しい」

「ハハハッ! やっぱり椿は別の意味で落ち着くよ」

聖さんからそう言われると何だかこっちまで嬉しくなってしまう、本当に兄にはもったいないぐらいの女性ではあるけども こうやって真剣に兄の事を想っている姿は同じ女としては憧れでもあるし羨ましい。私も聖さんみたいな強い人になり たいものだ・・

「そういや、次は何処に行こうか」

「そうね・・意表をついてゲーセンなんてどう? 意外に楽しめそうかもしれないわよ」

「ゲーセンか、あいつと一緒にあんまり行かないから久々に行きたかったところだぜ」

意外にも聖さんは兄とデートするときは余りゲーセンとかには立ち寄らないらしい、何故なのかはよく解らないがそんな 疑問などすぐに消えてしまい私達はそのままゲーセンが密集している向かう。ゲーセンに入ると沢山のゲームがあって 私は財布と相談しながら何をプレイしようか迷っている途中にであったが、聖さんのほうは以外にも即決で手始めに レーシングゲームを勧めてきた。

138 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:43:02.43 ID:1LqA6bCZ0

「椿、これでもしようぜ~」

「いいよ。レーシングなんて面白そう~」

お金を入れて座席に座りながら私達は静かにロナーティングの画面をやり過ごしながらゲームを待つ、こう見えても 私はゲームには少し自身があるものでようやく頑張った末に100位以内に扱ぎ付けた経験があるので悪いけど私に 分がありそうだ。それに聖さんの性格上、手加減は許されそうにないので遠慮なく思いっきりやれることが出来るのは 非常に助かる。

勝つ自信が満々の私に対して、隣に座っていた聖さんは手の関節をポキポキと鳴らしながら意味深な言葉を呟き始める。

「さぁ~って・・久々だから腕が鈍ってるかもしれないけどいっちょ始めるか」

「お、お手柔らかに・・」

「おぅ!」

試合前の挨拶と言うべきものであろうか・・レースが始まった時、私はとんでもない光景を目にする事となる。

139 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:44:24.21 ID:1LqA6bCZ0

「う、嘘・・」

「あ~、ちょっと腕が落ちたな」

聖さんは少し結果に物足りなさそうな表情をしながら座席から立った。ゲームの結果は開始早々に私の車を追い 抜いて見事なドライビングテクニックを披露し、私の完敗。しかもそのタイムはTOPから2番目をしっかりとキープして おり、私は言葉すら出ずに見事にその自信を打ち砕かれた。まさか聖さんがこれほどにもないゲーマーだとは思いも 寄らなかったのでまさかこのような結果になるとは予定外もいいところだ。

「聖さんって一体どれぐらいのゲームしてたの・・?」

「ああ、男の頃はよく学校サボってゲーセンに入り浸っていたから喧嘩の時以外は殆どやりこんでいたな。 女になってからは久しくやってなかったが・・この調子だとすぐに感覚が取り戻せそうだ!!」

「そ、そうなの・・」

思わぬ聖さんの経歴に私は苦笑するしかない。 だけどもゲームと言うのは日に日にその技術が進化して行くもので、いくら聖さんがゲームを制覇してようと私にも まだ分がある。そう考えると私の闘志は油を投入されたかのごとくあっという間に火が着き始め、そのまま聖さんとの ゲームバトルが始まった。

「聖さん、こうなったらとことんやるわよ~!!」

「俺も負けないぜ!!」

この日、私はいくらゲーセンにお金をつぎ込んだかハッキリ覚えていない・・

140 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:45:34.45 ID:1LqA6bCZ0

あれからどれぐらい時間が経過したか・・これだけゲームで疲れたのはおそらく生涯初めての事だろう。 格ゲーや音楽ゲームにシュミレーション・・更にはホッケーや身体を使うゲームにも挑戦をしたけども聖さんには 勿論完敗、しかも記録は殆どTOPクラスに並ぶのでちょっとした注目も浴びてしまう。そしてUFOキャッチャーは 殆どの商品を総なめで取ってしまって店員の人は少々困り顔だ、そしてまた聖さんは人形を取ると私に渡してくれる。

「ホラよ。ちょっと取り過ぎちゃったな」

「あ、アハハハ・・」

今になって兄が聖さんと一緒にゲーセンに行きたくないと言う理由がよく解る、この人はとことん男の見せ場を徹底的に 奪うのだ。まぁ聖さんらしいと言えば聖さんらしいのだが少しでも彼女にいい所を見せたいと思う男の立場からすれば 堪ったものじゃないだろう。 そう言えば聖さんとゲームを制覇しているときに私はふとある事に気がついてしまう、数々のゲームをクリアして行った 聖さんではあるがゲーセンの名物でもあるとあるところに行っていない、どうしても聖さんに一泡吹かせたいと思った 私は少し意地悪な提案を思いついてしまう。

「ねぇ、聖さん?」

「ん、どうした? まだ何か取って欲しいのか」

「折角ゲーセンに来たんだから一緒にプリクラでも撮らない?」

「プ、プリクラだとぉ~!!!!!」

予想通り、聖さんはあまりプリクラが好きではないようだ、嫌々な聖さんを見ていると更に私の中の意地悪な心が煽り 立てられ更に増幅してしまう。普段は勝気で男らしい(元男だけど)聖さんでもこんな表情を見せるのかと思うと余計に 興奮を覚えてしまい、もっと意地悪な提案をして見たくなる。

141 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:46:23.42 ID:1LqA6bCZ0

「ねぇ~、一緒に撮ろうよ」

「な、なぁ・・ちょっと別のにしないか?」

「えっ! 折角ゲーセンに来たんだから一緒に撮ろうよ~」

「だけどなぁ・・俺はあんな女ったるいものは絶対に!!」

「・・今は聖さんも女の子じゃん」

冷ややかな私のツッコミに聖さんはたじろくしかない、これを好機とみた私は更に聖さんにたたみ掛けると2階にある プリクラの前へと立つ。

「な、なぁやっぱ俺も撮るのか?」

「当たり前じゃん。大丈夫、お兄ちゃんには黙ってあげるから」

「そ、そっか・・だったらちょっとだけ」

懐柔作戦とはまさにこの事だ、兄の名前を出せば聖さんも少しは大人しくなるかと思っていたのだが・・まさかこれほど までに大人しくなるとは効果は絶大だ。ちょっとは私も兄を見る目が変わってくるのかもしれない。

142 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:48:38.65 ID:1LqA6bCZ0

「女同士の秘密もいいもんでしょ?」

「女ってのもよくわかんねぇな・・」

「そこは慣れよ。さっ、行きましょ」

そう言って私は聖さんを引っ張っていきながらプリクラへと入る、初めは嫌々であった聖さんも徐々に雰囲気に慣れて きたようで私と一緒に色々なポーズをするようになり心行くまでプリクラを楽しんでいるようであった。写真を撮った後の ネーム選びなども私が率先して選びながらも聖さん自身も独特の感性が発揮され、何ともものすごいプリクラが 完成する、そんな聖さんを見ていいると私も何だか楽しい気分になり普段友達と遊ぶのとはまた別の感覚が自分の 中で湧いているのがわかる。

もし聖さんが兄と結婚して私の義姉となるならば兄などほっぽり出して喜んで受け入れたい、まぁ2人の将来は これからどうなるのかは分からないけど間違いなく何かが起きて結婚すると私は踏んでいる、男の時はいがみ合って 憎々しく思っていたようだけどもこうして男女の関係になりこうやって過ごしている。女体化が常のなっている傍から 見れば極普通だと思われがちだが、私から見れば本当に奇妙なカップルだなぁっと常々感じている。

「どうした、なんか俺の顔についてるか?」

「ううん、何でもない」

「そっか? おっ、プリクラってこんなものもあるのか!!」

この2人は何か強い力で結び付けられているのかもしれない・・

143 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:49:28.79 ID:1LqA6bCZ0

夜、自宅に帰ると珍しく私より先に兄が帰宅をしていたのだがその表情はどこか冴えない、そんな兄を見ているとどうも 気になって仕方ないのでいつものように話す事にする。

「あれ? 今日は早かったんだ」

「あ、ああ・・やっぱり早めに家に帰らないと色々とマズイしな」

「ふーん」

いつもの兄にしては珍しくテンションが低い、まぁ毎日のように聖さんと夜遅くまでもう一つの家でねんごろをしているから その事で両親からキツイお説教を受けたのかもしれない。

「まぁ、あまり深くは聞かないけど・・それにもう少ししたら家に出るんだし控えたらどう?」

「・・そこ等はボチボチ考えてあるよ。んじゃ、俺はもう寝るから」

兄は逃げるように立ち去るとそのまま自分の部屋へと入っていった。どうもいつもとはちがう兄の態度に私は更なる 疑惑を覚えてしまい、夜中に全員が寝静まるのを確認するとこっそりと気付かれないように細心の注意を払いながら 兄の部屋に忍び込むと目当ての日記を見つけ出す。

144 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:50:47.63 ID:1LqA6bCZ0

「あったあった、全く本人はあれで隠しているつもりなんだから不思議よね・・」

兄の日記を見つけ出すと即座に自分の部屋に戻って日記のページを開く。いつもは両親に叱られてもあっけらかんと している兄であるが、あんな表情を見せられてしまうとどうも腑に落ちない。真相を究明するためにこの日記には唯一 の手がかりが書かれていると私は踏んでいる、日記帳の内容というのはその持ち主の秘め事が大多数を占めている ものだ。

そう私は確信をしながら日記のページを捲っていると今日の日記に目を通す。

「これね・・」

○月Ω日・・最近どうも両親の風辺りが冷たい。 まぁ、ここ数日はいっつもあいつと一緒に別荘へ行きながらといった生活をしているので家に帰ってこない俺が 心配なのだろう。大して連絡もよこさず椿ばっかりにまかせっきりにしてある俺も俺であるが・・ とはいいつつも、あいつと一緒に生活すること自体が俺の夢であってまるで新婚夫婦のような生活は甘美と言うか 麻薬に近い物を感じる、それはあいつも概ね一緒だろう。椿には悪いがもう少しだけこの生活を続けていたい・・

「何、勝手な事を書いているのよ。人の苦労も知らないで・・」

溢れる感情を抑えながら私は文章に意識を集中させる、こんな日記の内容に意味など考えているだけで馬鹿げているし何よりも時間の無駄だ。

145 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:53:47.97 ID:1LqA6bCZ0

そして今日、折角の休みなのであいつと一緒にどこかへ出かけようと思ったのだが・・なんとあいつの携帯に連絡が 取れない。本来ならここで諦めるべきなのだが、そうも腑に落ちないものを感じた俺は家の周りをみながら椿もいない ことを確認する。もしやと思い、外に出て駅に向かっている椿を見つけるとそのまま見つからないようにしながら後を つけ続けていると・・待ち合わせ場所と思わしき場所へと着く。すると俺は衝撃の光景を目にしてしまう! 

なんと椿が出会っていたのは他ならぬあいつ・・俺の彼女である相良 聖と出会っていたのだ。この衝撃の光景に 俺は溜まらず2人の後をつけ続ける事を決意する!!

そして手始めに2人は喫茶店へと入っていく、おそらくは今後の行く予定を2人で決めているのだろう。俺は2人に 気付かれないように近くの目立たない席に座りながらずっと聞き耳を立ててながら2人の予定を聞いていた。 そのまま予定を聞き終えると2人より先に喫茶店を出て椿たちが向かう予定の映画館へと先周りをし、席を取って 待ち伏せを掛ける。椿の好みのジャンルは大方分かっているし何よりもあいつはこういった映画に疎く、おそらくは 椿に選択を任せるだろう。

席の方はなるべく目立たないようしつつも周囲を見渡せるように真ん中で少し上の席を予約する、こうすればあいつらに 気付かれることもなく様子が伺えるだろう。

「どうしようもない馬鹿兄貴ね・・」

私の中では様々な感情が噴火し火花を散りばめていることだろう、その中にこの兄を放り込んでやりたい。 そしてまた日記に視線を移す。

146 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:54:00.22 ID:1LqA6bCZ0

映画の上映が終わった後、映画のないように存分に感動しているあいつ・・まぁ、見ていても可愛いものだ。 それを確認した俺はそのまま2人の後をつけると椿はあいつをゲーセンに誘う事を提案する。我が妹ながら本当に 無茶な提案を考え付くものだ、俺と遊びに行く時はあいつは何故かゲーセンに行きたがらない・・それを熟知している 俺は十中八九あいつはこの提案を文句なしに蹴ると思い、そのまま帰ろうと思ったのだが・・なんとあいつは椿の 提案をすんなりと受け入れて2人で一緒にゲーセンの中へと入っていく。

慌てて俺もゲーセンの中に入って行き、そこで衝撃の光景を目にする事となる・・

あいつが俺をこうにまでゲーセンに連れて行きたくない理由・・それはあいつが凄腕のゲーマーだったことだ。 きっとあいつは俺がその事を気にするだろうと思っていたのだろう、そんな事俺が気にも留めるはずはないのにな・・ 何とも可愛らしい理由である。それにしてもあいつが俺よりも椿を優先するということはもしかしたら親戚付き合いと いうものも考えているのだろうか? 

そんな心配しなくても俺が精一杯フォローするしあいつを守り通す自信は勿論ある、だけども俺よりも 椿を優先するという事実は・・考えたら考えるだけで少し複雑な心境だ。。。

147 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/29(木) 00:55:33.86 ID:1LqA6bCZ0

日記を読み終えた私は怒りや呆れを通り越して軽い放心状態に陥っていた。この日記にはよくもまぁこんな大層な事を 書いているが、要約すると聖さんに対する溢れんばかりの独占欲に駆られて聖さんと遊んだ私に嫉妬しているのだ。

「真剣に考えた私が馬鹿だったわ。まさかあの時につけていたなんて・・ 私を怒らせるとどうなるか、嫌でも思い知らせないといけないわね」

私は自分の好奇心を恥じりながら、兄を慕っている同級生達にこの日記の内容も見せて上げたい気持ちだ。 こんな兄なら交換してくれても構わないし私の気苦労は多いに軽減されるだろう、だけども聖さんと言う人物と接点が なくなるのはそれはそれで口惜しい・・

だけども日記を読み続けて腹の虫が収まらないのも確かだし、勝手に人のプライベートを覗きこんだのには非常に 苛立たしい。このアホに灸をすえる為、少し考えて一計案じた私はそのままプリンタを起動させ今日の日記の部分を コピーしてコピーした部分を聖さんの住所と切手を貼った茶封筒の中に入れる。そしてそのまま日記を自分の部屋に ある鍵付きの戸棚にしまい込んで封印完了、柄にもない自分の行為に私は内心ニヤリと笑みを浮かべてしまう。

(どんな顔をするか楽しみだわ・・)

翌日、私は学校の登校途中に例の茶封筒を近くのポストに投函して任務を完了する。 この私のささやかな復讐が利いたのかどうかは解らないのだが・・ここ数日間、兄はバイトが終わってから寄り道も せずに大人しく家に帰るようになった。

―fin―


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最終更新:2008年09月17日 19:03
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