『礼子先生』(2)

916 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 21:47:29.03 ID:QKwzjW7h0

「さて、保健室の人数チェックでもしますか。これやらないと教頭に小言を言われるのよね・・」

私は保健室の人数チャックを入れた。人数とそれに使った薬を1日ごとにチェックしながら保健室の日誌に書き込んでいく・・これが私の主な役割だ。 保健室は様々な生徒が来たりするところ・・聖のように生理薬の処方の願いやただの世間話・・中には相談事やいろいろなことなどを私に持ちかけてくる。思えば 昔の私はそんなことは一切しなかった。誰も信用せず裏切られることを恐れ続けた日々・・泣く子も黙る暴走族集団金武愚初代総長のこの私もそんな肩書きを取り除けばただの弱い人間だ・・ それを当時の私は断固として認めたくはなかった。己の虚勢の強さが故に・・

そんなことを考えていると私は日誌の筆を止めた。

「あの時、あの人が隣にいなければ・・今の私は成り立たなかったのよね。考えるだけで末恐ろしいことだわ」

あの当時・・ボロアパートの部屋の隣が今の旦那でなければ今の私は成り立たなかったであろう。そう・・自分でも思いたい。 私は・・あの人によって人の弱さや己の弱さを知ることができてそれを踏み越えられた。今の高校生は危険な行為に度々手を染めると世間では言うが・・それはただ、昔の私みたいに 己の存在を確かめたいだけかもしれない。人の弱さや自分の弱さに目を背けたまま・・自分というものを見失っているのかもしれない。 傍に・・人がいない悲しい子供が今の犯罪に手を染めている、そう私は思えてならなかった。

「そういえば、あの後はたしか・・」

私は再び日誌の筆を止めると再び過去のことを思い出していた・・

928 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:07:28.68 ID:QKwzjW7h0

あれから数日してか・・暴走行為も更なる拍車を掛けて散々走りまくった。時には「このまま勢いに乗って県外へも走ろうぜ」っと言う意見もちらほらでて来たのだが 流石にそれは上のほうの意見にそむいてしまうので文句なしに却下した。私たち金武愚はVIP組という指定暴力団のバックがあってこそ成り立っている。 県外の暴走行為はほかの族と揉めるようなことになる。だから、県外への進出は固く禁止されている。私はいつもの場所で集会をしていると私の目の前にとある人がやってきた。

「やぁ・・今日も集金に来たよ」

「ショボンさん・・今月の分です」

彼はショボン・・表向きは大らかで人生経験豊富なおっさんそのものだが、彼はVIP組の幹部だ。いつもこうして月ごとに集金をしにいっている。 ほかの地域の族も取りまとめている。もし、集金が滞れば・・その場合はもれなく血の雨というオプションがセットでつきながら天国へ連れていてくれる。私は今月の分の金を払うと 私はショボンさんに今月の分を渡すと警察の動きを聞いてみた。

「ショボンさん・・奴らの様子はどうですか?」

「はっきり言って・・君たちの暴れようは凄まじいね。僕としても鼻が高い・・奴らについては結構目を光らせているようだ。逮捕されるんじゃないぞ冷夏・・いや、礼子さんだったな」

クッ・・ムカツク野郎だ。だけど、この人に意見できるほど私もえらくはない。そのままショボンさんはご機嫌で俺たちの前から姿を消していった。ショボンさんが姿を消した後・・普段は冷静な撤兵が明らかに ショボンに対して不満を漏らしていた。

「クソッ!!あのクソジジィが!!!!いつもいつも偉そうにしやがって・・・」

「撤兵、俺だってムカつくが仕方ないだろう。俺だって奴には逆らえねぇよ・・・」

あのタコの顔つきはいつもムカつくがその憂さ晴らしはこの暴走行為によって決定した。俺はそのまま作戦を説明するとそのまま全員を率いて相棒のCB400SFを走らせた。

938 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:26:55.45 ID:QKwzjW7h0

今回は2手に分かれて各地へと暴走することにした。警察もいろいろな手を使って私たちをパクリに来るがすべてかわしている。 このまま、勢いに乗って暴走を繰り返してきた私だったが・・ここ数日で私の心にも変化が見え始めていた。いつもいつも暴走で自分自身を満足させてきた私だが暴走の回数を 増やしてくるごとにあのうやむや感が開放されなくなった。むしろ、逆に溜まってきているぐらいだ。原因はわかっている・・ほかならぬあいつだ。

あいつは自宅へ帰るたんびに私と出会うらしく、いつもいつも私にグダグダとした話を吹っかけてきている。私はいつも怒鳴り散らして追い払っているのだがまともな効果も得られない。 一回、あいつの元へ仲間全員と一緒にヤキを入れようと思ったのだが・・なぜか、私の心はそれを止めようとする。だから私のイライラ感がたまりこういった暴走行為に拍車を掛けていった。 そんなことばかり考えていたんだろう・・一瞬の油断からか私は対向車線へと飛び出してしまった。

「し、しまった!!!てめぇら!!俺に構わず逃げろぉぉぉぉ!!!!!!」

しかし、私のこの油断で仲間は混乱状態になっていた。

940 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:29:05.57 ID:QKwzjW7h0

はっきり言って一瞬の油断だった。突然のことで急ブレーキを掛ける乗用車・・しかし、私はとっさの機転でそれを脱したのだが・・私のこの油断によって仲間が混乱状態になり、警察へとパクられてしまった。 この状況は非常にまずい!!私は警察をひきつけたのだが、仲間は混乱により支障をきたしており私の命令が聞けれなかった。次々と逮捕される仲間・・このままでは私が逮捕されてしまう。 そう・・思った私は逃げに逃げまくった。奇しくも、逃げたルートはあの時・・最初に女体化したときのと同じルートであった。

私は逃げに逃げて逃げまくりついにあの崖を相棒と一緒にダイブした・・私の体は相棒から引き離され、私は全身を地面に叩きつけられた。しかも女性の体は男の体と比べてひ弱なものであり、体中に 激痛が走った。私は必死にその激痛に耐えながらも女性の体ではきついものであった。

「―――ッ!!痛ぇ・・だ、誰か・・助けてくれ」

明らかに今の私は人に助けを求めていた。・・激しい痛みに耐えながらも助けを呼ぶ私・・人と接する機会がない私は明らかに人に助けを求めていた。 しかし、助けを求めれば求めるほど激痛は広がるばかりだ・・もうだめだ。もう思っていると私の前に人が現れた。・・あいつだ。声でわかる・・あいつだった。

「だ、大丈夫ですか!!」

「た・・助けて・・・・くれ」

そして私の意識は再び暗闇へと堕ちた・・ その時の私は・・誰かに助けられて安堵しきっていた・・・暗闇の中で僅かにだが暖かみがあった。

それはとても心地よく人の温もりが私を包み込むようであった・・・

948 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:46:18.13 ID:QKwzjW7h0

「ハッ・・ここは!!!―――ッ、イテテテ・・・」

目が覚めるとあの診療所の一角であった。私は体を動かしたのだが体からは激痛が電線のように体中を駆け巡った。私は痛みに耐えながらも あたりの状況を見回した。すると私の右腕にはキプスが装着されていた。私が悶えているとあいつがやってきた。

「あ、気がつきましたね。よかった・・あ、ここはあの診療所です。さっき、先生が治療を終えて僕に任せて帰っていきました。目が覚めて本当によかった・・」

「・・る・・せぇ・・よ。イテテテ・・」

「無理しないでください!!!骨も折れているんですよ。しばらくは絶対安静状態なんですよ!!!」

言葉を返したかったのだが・・私は激痛に耐え切れなくなりそのまま黙るほかなかった。その時の私には悔しさが滲み出ていた。 すると、思いのほか常に笑顔だったあいつが突然私を怒鳴りあげた。

いつも笑顔ののあいつにしてはおかしいぐらいに怒っていた。

949 名前: 以下、佐賀県庁にかわりまして佐賀県民がお送りします 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/07(佐賀県警察) 22:47:30.34 ID:QKwzjW7h0

「あなたは自分の体をもっと大切にしてください!!!もし、命を落とすようなことがあればそれでお終いなんですよ!!!!!」

痛みが染み渡る私の体にこの言葉は思いのほか重みがあって大きいものだった。私はそのままそっぽを向けながら沈黙を突き通した。すると、あいつはさっきの 雰囲気を殺すと悲しげに俺に語ってきた。

「・・・すみません。ちょっとお節介だったかもしれませんね。でも僕、女体化した人を放っては置けなくって・・」

笑顔一点のあいつにしては珍しくかなりの悲しげな口調で私に訴えてきた・・私は・・無視しようと思ったのだが、なぜか無視できなくて結局あいつの悲しげな言葉を ひしひしと感じながらも受け取った。…心なしか傷から出る痛みがあふれんばかりにして痛み始めているような気がした。

「さっきは・・すみませんでした」

「……わかったよ。わかったから、ちょっと寝かせてくれ・・」

そういって私は痛みを堪えながらそのままの体制になり睡眠を取ろうとした。 私の心の中にはさっきのあいつの怒鳴り声と悲しげな声の両方がエコーとなって響き続けていた・・

何度も何度も・・私の心の中に響き続けるその声は傷と同時に心の痛みとなって私を襲い続けた。

177 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 佐賀暦2006年,2006/11/08(佐賀県職員) 18:13:05.33 ID:rJ/JP4Jq0

しばらくしてからか・・お腹が空いた私は何かを口にしたかった。しかし、体中は未だに痛みを残しており、思うように体を自由に動かせれなかった。 するとそんな私を見たのかあいつはお粥を持ってきてくれた。どうやら自作らしい・・お粥が目の前に置かれると私は必死に体を動かし痛みを堪えながら 慣れない左腕で蓮華に手をとった。

「あ、無理しないでください。僕がやってあげますから・・」

「るせぇな!!・・こんなことぐらい俺1人でもできる」

私はそういうと左腕で蓮華を持ちながら土鍋にあったお粥を掬おうとした。しかし、右腕のキプスがそれを邪魔してなかなか蓮華が思うようにもてなかった。私は必死に蓮華で お粥を取ろうとしたのだが・・左腕のおかげで満足に食事すら取れなかった。すると、見かねたあいつはそっと私から蓮華を取り上げてお粥を掬って私に差し出してくれた。しかし、当時の私のプライドが それを許さず私はあいつを睨み付けたまま感情を露にした。

「はい、どうぞ」

「てめぇ・・何のつもりだァ!!この俺をおちょくってるのか!!!!」

「・・人は1人では決して生きられない。それにあなたは今大きな怪我をしている・・僕が手を差し伸べるのは当然のことです。それに、今のあなたの体は活性化のために栄養を欲しがっている さぁ・・食べてください」

そういってあいつは再び私にそっとお粥を差し出してくれた。お粥はとてもおいしそうで栄養満点そうだ。・・私は仕方なくお粥を口にした。その時のお粥の味は今でも忘れない・・ とても温かみのある・・やさしい味であった。まさに今の彼その物の味であった・・・当時の私はそれを食べると傷の痛みが不思議と和らいでいった。

118 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/16(木) 19:32:24.39 ID:Y2uLds7x0?

数週間経ってか・・何とか体も痛みもなくなりほんのちょっとだが体が動けるようにはなっていた。しかし、腕はいまだにキプスが取れない状態であり私は慣れない左腕の生活を 余儀なくされた。箸さえもまともにつかめない左腕・・彼はそれを見越してかメニューをお粥とかにしてくれた。 結局、自宅に帰れるのはまだまだかかりそうだ。

「はい、ご飯です。痛みが引いたとしても余り無理しないでください・・」

「チッ・・」

仕方なく、私は慣れない左腕でお粥を食すことにした。崖から転落して全身打撲とおまけに右腕骨折というおまけまでついていた私は思えば脅威ともいえるぐらいの 生命力だったと思う。彼はそんな私を見ながらも笑顔で接してくれていた。ここの診療所はどうも人の出が少ないみたいだ。そりゃそうだ、どこぞやのボクシングジムみたいに崖の下にあれば 人目は愚かその存在さえもつかめないだろう。それにしてもここの診療所の先生はとんだエロジジィではあるが一応医者らしくそれなりの応急処置をしてくれていた。

「お口に合いますか?」

「るせえよ」

そんな受け答えがここ数週間も続いた。体を動かせるぐらいには回復したものの、食事が終わればいまだに私はベッドの上でこてんとしているだけであった。 彼は私を退屈させまいといろんなことを話してはいるが・・私はただ、無限に広がる空を見続けるだけであった・・

食事が終わって、私はいつもどおりに彼の話を聞き流していた。

121 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/16(木) 19:47:14.16 ID:Y2uLds7x0?

「あのお粥、先生からの直伝なんですよ。それで・・」

正直この会話が鬱々しいものであった。何の変哲もない日常の会話・・私にとってはどうでもよかった。それよりも大切なのは族のことだ。 かれこれ一週間以上も抜けているからちゃんと成り立っているか心配であった。むしろ、あの時は私のミスによってかなりの混乱と支障が出てしまった・・ そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼は何の変哲もない日常会話を私に聞き流していた。

考えてみれば・・私は彼に当時の素性すら話していなかった。彼は私の素性を聞いてきた・・

「そういえば・・あなたのお名前を・・・」

「るせぇんだよ!!!!!!・・どうでもいいだろ俺のことなんか」

私は彼に素性を聞かれてキレた。自分の生い立ちや素性を知られたくなかったのもあるが、恐らく最大の理由は・・・言いたくなかったのだと思う。 ここまで私に付きっ切りで看てくれる人なんていないだろう。はっきり言えばお人好しだ、だから私は彼を嫌っていた・・バカみたいに私に構うからだから当時の私は彼の愛情を理解しようともしなかったし 理解しようとも思わなかった。

しかし・・当時の私は人と接したかった・・・ だけど、それを私自身が許さなかった。自分の弱さを他人に曝け出したくはなかった。

傷の舐めあいなんて・・ただカッコ悪イダケ

それが、当時の私の根本であった。

122 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/16(木) 20:09:27.93 ID:Y2uLds7x0? あれから翌日、さらに気まずい雰囲気のまま私は彼との1日を過ごしていった。私がいつものように用意されたお粥を食すと彼は別の患者のほうへと向かっていった。 どうやら、この病院にも私以外に患者は来るようだ。彼がいなくなったということはジジィと一緒に患者へと対応しにいったのだろう。いつものように1人ベッドで空を見上げたまま ご飯を食べた私は1人の時間を有意義に過ごしていた・・

「おねぇちゃん・・何してるの?」

突然のことだった。私の病室にぬいぐるみを持った小さい女の子が1人私のベッドの前にぽつんと立っていた。その子はじっと私のことを見続けていた・・

「私、お母さんが病気でここの病院に来てるんだ。・・お母さん、治らない病気なんだって」

どうやら女の子は親の連れで来ているらしい。子供だから1人でとことこと歩いていったんだろう・・ 女の子は話を続けるが私はじっと空のほうを見ていた。

    • だけど、女の子の口調は悲しく、冷たいものであった。

123 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/16(木) 20:11:05.08 ID:Y2uLds7x0?

「おねぇちゃんも・・病気なの?」

「・・さぁな」

「お母さんの病気・・治るかな?」

はっきり言って重々しい会話であった。私はどうすることもできずにただ無言で女の子の話しを聞いていた。当時の私はで子供好きの人間もなければ子供に対して 気を利かせた言葉を言う人間でもない。自分しか手の回らないただの人間でしかなかった・・ そして女の子は私に対してこう言って来た。

「・・おねぇちゃんも何か悲しいことでもあったの?なんだか目が・・悲しそうだよ?」

「―――ッ!!!」

正直この言葉は私の傷をえぐるようにして突き刺さった。私はこの言葉にいつもみたいに対応もできなくただ、心の傷の痛みを感じながらこの言葉を受け止めていた。 こんな小さな子供に同情されるなんて・・・当時の私から見ればある意味では新鮮なことであった。私は痛んでくる胸を余り動かせない体で押さえながらこの状況をやり過ごしていた。 ・・女の子は心配げな表情で私の行動を見守っていた。

「おねぇちゃん・・大丈夫?」

「俺にも・・わからねぇよ・・・なんだか・・体が・・・心が・・・痛ェ・・よ・・」

「大丈夫だよ。・・おねえちゃんはきっと大丈夫」

女の子は私の手をそっととり、見守ってくれた。・・私は女の子に見守られながら彼が来るまで傷の痛みにずっと耐えていた。

248 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/17(金) 23:36:55.99 ID:qa7geEUc0

女の子が見守る中、私は必死に心と体の痛みに耐えていた。 私が痛みの中に耐える中、女の子は私の手をぎゅっと握ってくれた。心なしか痛みが少し引いたような気がした・・

「おねぇちゃん・・・」

「クッ!!・・この俺がなんてザマだ」

俺が痛みに必死に耐えていると彼が私の元へ駆けつけてくれた。

「大丈夫ですか!!」

「お兄ちゃん・・おねぇちゃんが・・・」

すぐさま彼は私の怪我に迅速に対応した。どうやら原因は食べ過ぎらしい・・ 彼は薬をすぐに処方すると私のほうへと持ってきてくれた。私は薬を飲みたくはなかったのだが・・仕方なく苦いのを我慢して薬と飲むことにした。 薬が効いてきたのか痛みがあっという間に引いてくると女の子のほうはそそくさと立ち去っていった・・私はなんだか、空しい気持ちで一杯であった。

すると、彼のほうが私に語りかけてくれた。

369 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/18(土) 20:24:42.34 ID:R3tChjWT0

「あの子・・母親が末期癌なんですよ。まだ、あんなに小さいのに・・・」

「・・そうかい」

再び私はベッドに横になるとあの子のことを考え続けた。薬のため体の痛みはあっという間に引いてきているのだが、あの女の子のことを 考えるとどうも寝付けなかった。もしかしたら・・あの子は私に母親というものを求めているのかもしれない。その幼い体で肉親の死という残酷な運命を耐えるのは 余りにも脆すぎる・・だから少しでもそれを逃れようと私に甘えたかったのかもしれない。

だけど、それはとんだお門違いだ。当時の私には子供を愛想という精神などこれっぽっちもないし、ましてや自分の扱いに手一杯な人間だ。 他人の存在に目を向ける余裕などはなかった。だけど・・あの女の子の悲しそうな瞳は私の脳裏からは決して離れようとはしなかった。もしかして、あの瞳は私の心に向けられたものかも 知れない。

    • 今の私の状況に

372 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/18(土) 20:40:13.07 ID:R3tChjWT0

彼は一呼吸置いて母親と手をつなぐ女の子を見ながら悲しげな表情で呟いた。

「人の死っていうものは辛いものです。特に死んだ人と密接に付き合った人はね・・僕自身、そういった体験を過去にしました。 だから思うんです。人は人の死を乗り越えてこそ成長するものだと・・・この診療所でお手伝いしてからも患者さんとの死と直面してきました。その時の患者さんの顔は 安らかなものでしたよ・・」

「・・そんな戯言、ほかの奴らがごまんと言ってやがる。“人は人の死を乗り越えれば人は成長する”ってな、そんなものただの戯言に過ぎない。 人って奴は1人で生きて・・そして1人で死ぬんだよ。どうあがいても死んだ奴が負けだ」

当時の私はその未熟さ故か・・人の死に対して余りにも歓楽的な考え方をしていた。本当の死をまだ見たことがない・・当時の私はまさにそうであった。 ある日突然、両親に捨てられ社会という荒波の中でぽつんとただ1人置き去りにされた・・その中で今必死に足掻こうとしながら生というものを享受している・・だから途中で死んだ 人間に対しては見向きすらしなかった。

「そうなのかも・・知れませんね。でも、僕自身そうなることでありたい・・人の死というのは決して無駄じゃないことを」

「・・勝手にほざいてろ」

そういって私は彼に顔を背けたままそのまま横になった。今はこの怪我を治すことが先決だじゃなきゃやれることもやれない。今を我武者羅に生き続けてこそ意味がある・・そう、当時の私は思いたかった。 寝るとき、あの女の子の悲しそうな顔がいつまでも・・いつまでも脳裏から離れなかった。

まるで私を締め付けるみたいに・・・


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最終更新:2008年09月17日 19:11
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