25 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/27(月) 19:32:08.45 ID:sf5hIdkh0
学校から車で数分したところか、少し大きな病院で私の旦那はこの病院の院長をしている。若いながらも腕は確かなようで元来の才能と努力の結果、若くして院長まで上り詰めた。外科か内科どちらか専門かは聞いてはいない。 就任したての最初の頃は若いだけあって病院内からかなりの抵抗があったのだが、持ち前の才能が開花したのか・・今ではなかなか癖のある人たちを束ねて患者を救済している。この病院がほかの病院と違うのは 患者と医者の立場が同等なことである。診察室の椅子を見てみればわかるが、患者と医者の椅子は同等である。それにちらほらと病室を見てみるが医者と患者同士が麻雀やボードゲームをしあっている様子が目に浮かぶ。
それに旦那曰く、病気というものは患者と医者が二人三脚をしなければ治るべきものも治らないらしい。
まさに患者と医者が双方楽しくなっている職場らしい。それに旦那のほうは出世欲というものはないようで教授の推薦の話など蹴っている状態だ。当の本人もこの立場で十分満足しているようだ。 私はそのまま顔パスで病院の中を歩いていると顔馴染みの看護婦さんに出会うと軽く挨拶を交わすと旦那の居場所を聞いた。
「毎日、ご苦労様。・・うちの人いる?」
「あ、はい。今、院長なら院長室にいますよ。それにしても今日はそちらから来るなんて珍しいですね」
「まあ・・ね。たまにはこちらから来るのもいいもんでしょ?」
そう、いつもは旦那のほうから私に会いにきてくれるのだが、今日はこちらから来てみた。旦那がどんな反応をするのか楽しみである。
26 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/27(月) 19:44:52.56 ID:sf5hIdkh0
「相変わらず、仲がいいですね」
「まぁ、あれでも一応、私の旦那だからね」
「フフフ・・院長夫妻のような人たちばかりだったら離婚なんてなくなっていますよ」
「それもそうね・・じゃ、これから驚かしに行って来るわ。ごめんなさいね、業務なのに話しこんでしまって」
「そんなことないですよ?奥さんの話はタメにたっていますよ・・じゃあ、私雑務があるのでこれで」
そういって私は看護婦と別れた。私は院長室のほうへ向かっていくとほかの人たちと挨拶を交わしながら院長室へと進んでいった。 ここの病院のスタッフはさほどが顔馴染みなのでみんなとささやかな会話を楽しみながら私は院長室の扉へとノックをした。
中に入ると私の目の前は書類の束で一杯であった。
27 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/27(月) 19:45:17.12 ID:sf5hIdkh0
「あ、どうぞ・・って、礼子さん。来るなら来るって連絡入れてくれればいいのに・・」
「別に・・ただ来てみただけだ。それにしても相変わらず書類だらけだな・・」
私の目の前で書類と格闘する男性・・これが私の旦那であり、この病院の院長の春日 泰助である。流石に院長とあってか書類の量は結構あった。 旦那は書類1枚1枚にサインをしながら私に応対してくれた。
「今、見てのとおりまだ時間かかるよ。別の部屋で待つ?」
「・・いいよ、ここで待つ。こっちから来てしまったんだしな」
「うん、わかった。じゃあ、もう少し待って・・早く終わらせるから」
そういって旦那は書類の束と格闘を始めた。私はただ、こっくりこっくりとしながらその様子をただじっと見つめる・・すると、夢となって昔のことをつい思い出してしまう。 今度はあのときの事だ。とってもとっても大変だったあの時のことを・・・
私は夢という記憶の奥底から自分の過去を映画の観客のように観始めた。
190 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/28(火) 20:21:53.48 ID:PMYZKAdb0
彼のおかげで何とか自殺を思いとどまった当時の私・・だけど、それは同時に私に大きな苦しみを与えることとなる。自殺者特有の自殺未遂は なかったものの私は今後、どうすればいいのかわからないままであった。幸いにも自殺者特有の自殺未遂などは起こさなかったが、私自身・・今までのような活気もなく ただ、1日のさほどを部屋の前で座って過ごしていた。
「・・フッ、俺がアルバイトする柄じゃない・・か」
そこらへんで見つけた求人雑誌を投げ捨てると私はそのまま部屋の片隅で呆然としながらただ時の流れを過ごしていた。 ・・当時の私は前に歩いていく気力はいまだに養えないままであった。しかし、このまま部屋で腐っていても何も起こるはずがなかった。私は急に立ち上がるとたまには 散歩でもしてみようと思い外に出た。
外に出た私はそこらへんをブラブラと歩いていると今の自分自身の現状が痛いほど身体中から伝わってきた。こうして私が何もなく呆然と歩いている中で周りの人はこの社会という 荒波に挑みながら向かっている。そしてそこから家族やパートナーを見つけて老後を過ごす・・人間はそうやって歴史を重ねてきているのかと思うと感心もしたりする。
- だけど、当時の私の心には何もなく空っぽ同然であった。
(周りの人はこうして生きていく・・なのに私には何もない)
そんな外の状況を見た私はそのままポケットからタバコを取り出そうと思ったが、生憎なくなっていたため仕方なしにほかの場所へと歩いていった。
194 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/28(火) 20:45:13.82 ID:PMYZKAdb0
しばらくして私は歩きに歩き続けると、とある場所へと目に付いた。その場所はとある土手で何の変哲もないところであったが 辺り一面はたくさんの花で一杯であった。私はその土手へと歩いていくと辺り一面の花々に珍しく見惚れてしまった。
「ここは・・この場所に誰かが花を植えたんだな。土手に花なんて余り適さないからな・・」
さらに私は土手を歩いていると、とある人影を見つけた。私はそのまま人影にそって歩いているとそこには一面に大量の花々が散りばめられていた。 私は花々を見ながら歩きながら人影を追いかけていた。そして私はそのまま人影にそって歩いていると目の前にその人影の正体が見えた。・・あの女の子であった。 女の子は慣れた手つきで生えてある花々を摘んでいた。・・私はそのまま帰ろうとしたが、私の姿に気がついたのか女の子は私を呼び止めた。
「もしかして・・あのときのおねぇちゃんなの?もう怪我治ったの?」
「・・・あ、ああ」
私はどうすることもできずにただ目の前に立つ女の子にどう応対すればいいかわからなかった。 いまだにこの子と向き合えるようなことなど当時の私にはできなかった。なぜなら・・この子は、私よりの強くどっしりした心を持っていたからだ。
195 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/28(火) 21:04:22.01 ID:PMYZKAdb0
女の子は笑顔で水を得た魚のように私に話しかけてくれた。
「おねぇちゃん・・もう、どこも痛くないの?」
「・・ここで何してるんだ?」
私はなぜ女の子がこの場所にいるか聞いてみた。すると女の子は少し思いつめた表情をしながら私の質問に答えたくれた。
「お母さんのお墓の花をここでいつも摘んでいるの。・・お母さんこの前、病気で死んじゃったんだ」
女の子は今にも泣きそうな顔をしながら私を見つめた。流石の私も慌てて謝り別の話題を切り出した。・・そういえばこの子のお母さん 病気で亡くなったって言っていたよな。皮肉にも女の子がもっている花は・・アネモネだった。
「わ、悪かった・・あの・・そ、その・・なんだ?」
すぐに別の話題を切り出そうと思っても私は軽いパニック状態に陥り何をどう話していいのか全然わからなかった。すると女の子はそんな 私を見るとすぐにあの笑顔に戻り、私に応対してくれた。
197 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/28(火) 21:08:29.16 ID:PMYZKAdb0
「私・・もう一度でいいからおねぇちゃんに会いたかったんだ。なんだか・・うれしい」
「お、おい・・」
そういって女の子は幼さ故か、私に思いっきり抱きついてきた。母親と過ごした期間が短かったのかあるいは・・ 突然、女の子に抱きつかれた私はあやふやとしながらも慣れない手つきであったが・・その幼い体を恐る恐る抱きしめてあげた。・・だけど、そのたんびに私の心の痛みが じわりじわりと痛さを増していく。
「・・俺は・・・俺は・・もう怖いんだ。人と接するのが・・また誰かに裏切られるかも知れねぇ、そう・・思うだけで
・・・だから俺はもう・・・人と接するのが怖いんだ」
まだ幼い女の子に当時の私は何を言っているのかと思いつつも私の口からは涙越しに思いのたけを女の子にぶつけていた。 すると女の子はそんな私を強く抱きしめながらこう応えてくれた。
「大丈夫だよ。・・私はおねえちゃんを一人ぼっちにはしないよ」
「―――えッ・・」
「・・私はおねえちゃんを一人ぼっちにはしないよ。・・だから泣かないで」
- 私は女の子から伝わってくる優しさとほんの少しの温もりが私の傷を和らげているのを感じていた。
331 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/29(水) 19:40:00.99 ID:12JE8nOa0
私は女の子に抱きつかれたまま今の自分自身を見つめていた。私は・・自分を見つめなおしていた。何もない自分・・先のことさえも見つめられていない 自分・・・私は幼い体からでる温もりをじわッと味わっていた。だけど・・なぜ自分なんだろう?自分はこのことは何も関係ない。それに当時の私はそんな母性本能など もっていないし・・私は女の子を離すとなぜ自分なのかと女の子に聞いてみた。
「・・なんで、俺なんだ?」
「おねえちゃん・・なんだか苦しそうだったから。前にお母さんが言ってたんだ。「困った人にはやさしくしなさい」って・・だから、おねえちゃんが気になったの・・おねえちゃん?」
「そうか・・そうだったんだな・・・」
私は再び泣いていた・・女の子をさすりながら私はようやく人の温もりを受け入れられることができた。・・しばらく泣いてか、私は再び立ち上がった。 なんだか心が暖かい気持ちで一杯だった。すると、女の子はそんな私を察したのかあの笑顔で応対してくれた。
「・・よかった。おねえちゃんが元気になった!」
「フッ・・ありがとよ」
「うん!!じゃあね」
そういえって女の子は花々を抱えると私の前から姿を消した。翌々考えてみるとあの女の子に出会わなければ私は・・人を信頼することができなかったのかもしれない。 だから・・あの女の子はそんな私の前に姿を現したのだと思う。・・あの女の子は私よりも純粋で芯がしっかりしている。多分・・将来は人を癒す仕事をしているだろう。そう・・思いたかった。
私は女の子の姿を目に見えなくなるまでじっと見つめると、撤兵のいる診療所へと向かうことにした。
336 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/29(水) 20:29:29.53 ID:12JE8nOa0
驚いたことに診療所はたった数分でついた。私は中に入ると撤兵のところへと移動した。撤兵のいる病室に入ると驚いたことに撤兵は元気であった。撤兵は私を見つけると いつものような口調で話していた。・・どうやら私が自殺をやらかしたことは知らないらしい。私はホッとすると撤兵と話していた。
「お前・・もう、大丈夫なのか?」
「ああ、幸い骨まで折れていないようだし、もう少ししたら退院できるってよ」
「そうか・・」
私はベッド越しの撤兵を見ていると自分が怪我をしてここで寝ていたことを思い出した。あの時は本当に何もなかったしポカーンとしながら天井をみていた。 骨折していたのもあってか、思うように動けなくいつも窓の外を見つめていた。
「そういやよ、冷夏はこれからどうするんだ?」
「え・・」
思わぬ撤兵の言動に私は驚いた。前に進む気力は何とか回復したもののこれからの進路については全く考えていなかった。とりあえず高校のほうは登校するとして 卒業してからのことは全く考えていなかった。
337 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/29(水) 20:33:44.73 ID:12JE8nOa0
「高校は行くとして・・それから・・」
私は顎に手を置きながら進路のことを考えていた。すると撤兵が驚くべきことを言った。
「俺・・高校でも行ってみる。・・まぁ、高校の資格は大きいからな。冷夏なら頭いいから大学なら楽勝だろ」
「あ、ああ・・頑張れよ」
「おうよ」
撤兵は非常に前向きでこれからの進路も考えているようであった。本人は女体化のことはちっとも気にしていない様子である。 だけど・・私はどうやって生きていこうか未だに悩んでいた。すると、撤兵はそんな私を見ながら励ましてくれた。
「何くよくよしてるんだよ。冷夏は俺よりも頭がいいじゃねぇか・・きっと、大丈夫だ」
「撤兵・・」
大丈夫・・その言葉を人から言われるのは初めてであった。その言葉は・・どっしりとしていて自信のなかった私を癒してくれるものであった。 私は・・高校へと行ってみようと決意した。
最終更新:2008年09月17日 19:13