『礼子先生』(6)

427 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/30(木) 16:41:13.82 ID:ii8HOcYH0

翌日・・私はそのまま登校の支度を始めた。制服やかばんなど学校に必要なものは押入れに放り込んでいたので新品同様まっさらなままであった。 私は、制服に着替えそのまま部屋のドアを開けた。ここから学校まではバイクで数分といったところであった。幸いにも学校はバイク通学は許可されており、私はすぐそこに 停めてあった相棒を見つめた。実はあの後、私はこっそりと相棒を回収しに行ったのだ。幸いにも、相棒は原形をとどめたまま残されており損傷も少なく少しいじればまたいつものように 今までどおり動かせていた。・・相棒のCB400SFは本来の色と形を取り戻していた。やはり今までのカラーで活動していたら流石にまずいと思い、私は1日かけてようやく相棒を本来の色と パーツに仕上げた。

私は上機嫌に歩いていると・・・彼にばたりとであった。

「あ、おはようございます。・・もしかして学校ですか?」

「・・ああ、もしかしてその制服?」

私は彼の着ている制服に見覚えがあった。そう、何を隠そうその制服はこれから通う高校の制服であった。私は軽い驚きを覚えつつも平静を装った。

「ええ・・もしかしてそちらも・・徹子さんからは高校へ行っていると伺ってはいましたが、まさか同じ学校だなんて」

「・・ああ、俺も一応ここの生徒だ。まぁ、単位はもらっている。学校に問い合わせたら是非きてくれとお達しがあってな。 ・・ま、よろしく頼むわ」

「ええ・・よろしくお願いします」

私はそういうとバイクで学校へと向かっていった。でも、なんでだろう、いつものような会話でもなくなんかこう・・自分でもわからないぐらいうれしい感じであった。

429 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/30(木) 17:18:22.33 ID:ii8HOcYH0

バイクを駐車場へ止めた私はそのまま学び舎へと入っていった。ここに越してから早数ヶ月・・思えば学校からは成績表が 郵送で速達されたぐらいであった。校舎へ入ってみると思ったほどざわめきが大きかった。私はそのままシカトを貫き通し自分の席に戻り そのまま持ってきた本を読んだ。周りからは私が登校したことによるざわめきが大きく、朝のHRまで止みはしなかった。

そしてそのままざわめきのまま時が過ぎ、私は普通の生徒として勉学に励んだ。学校側の反応を見るともっと凶暴な反応を予測をしていたのだがあっさりと 毒気を抜かれたようだ。事実、HRが終わってすぐの授業になってもすぐに教員が現れずかれこれ数分間も職員室での篭城が続き、ついには自習となった。どうも、私が登校してから これらしい。そういえばこの学校の出資主は私のかっての両親であった。その影響でいささか混乱があったらしい・・私はシャーペンを回しながらこの暇な時間を勉学に費やすことにした。こうも暇だと やる気がなくすものである。

(はぁ、なんだかな・・いざ登校すると意外に呆気ないもんだ)

結局、私は勉学に時間を費やした。2時間目からはようやく先生が来たものの明らかに混乱しており文字が震えていた。

こんな感じで時は過ぎ、呆気なくお昼休みが来てしまった。私は荷物を整えると屋上へと向かった。私はそのまま屋上へ向かい、屋上から見える壮大な景色をバックにしながら適当に買ったパンに噛り付いていた。

「ッたく・・人が登校したぐらいでいちいち大騒ぎやがって」

明らかに私は不機嫌であった。授業の内容はすでに面白なくこの膨大な時間をどう扱おうかと悩みに悩みまくっていた。正直、学校に登校するよりかはどこかへサボっているほうがよかったのかもしれない。 私はパンを食べながらあたりを見回していると彼を見つけた。しかし彼の周りには女子の大群がずらりと並んでおり彼はそれに対応しながらご飯を食べていた。・・なんだかイラついてきた。

「ケッ・・結局何にも変わらないじゃねぇか」

私はそう思いながら持っていたパンを一気に食べて教室へと戻っていった。

430 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/30(木) 17:37:28.40 ID:ii8HOcYH0

学校の授業は本当に退屈なものであった。数学では小テストが出されたが私はものの数分でやってのけるとそっぽを向きながら 窓に映る光景をじっと見つめていた。

(チッ・・学校なんて来てみたって何ら変わりもしねぇ。授業は簡単なものばかりだし退屈だぜ・・)

私はそんな感じでボーっと窓を見つめていた。ここの学校の不良どもをおちょくってやろうかとも思ったのだがそれもやめた。なぜなら ここの不良たちは見るからに弱そうでからかう価値すらなかった。それに登校そうそう余り目立ちたくはない。私はこの退屈な日々をどう過ごしていこうかと 思いながら授業に励んでいた。

・・結局、お昼を過ぎた頃になっても何らおもしろいイベントすらなく呆気なく放課後へと時は進んだ。私は適当に支度をしてそのままバイクを停めている駐車場へと 向かおうとすると、私以外の1つの足音が聞こえた。・・・彼だ、彼は私を見つけると走りながら声をかけてくれた。

「礼子さ~ん・・初めての学校はどうでしたか?」

彼は生意気にも私の名前を呼んでいたが、学園生活に退屈していた私は別に気にすることもなく彼との雑談に応じた。今日は余り人と話してはいなかったからなんだか 新鮮なものであった。

「別に・・ただ、退屈だっただけだ」

私はそのまま彼に今日の出来事を話した。何も味気ないこの学園生活・・なんだか味気ないものであった。それよりか私が登校したせいでここまで騒がれるとは 心外であった。彼は私の話を聞くとうんうんと対応してくれた。

433 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/11/30(木) 17:43:44.85 ID:ii8HOcYH0

「大体、授業自体も簡単すぎなんだよ!!全く、暇で死にそうだ!!・・それに、人が数ヶ月ぶりに登校したぐらいであんだけ騒ぐもんかね・・」

「仕方ないですよ。だって、礼子さん数ヶ月も登校してなかったんでしょ?そりゃ急に来たら誰だって騒ぎますよ」

「フンッ・・気にいらねぇな」

私はますます怒りを増大させながら今日の学園生活を振り返った。そういえば・・今日はよく彼と喋る。今までの自分の対応が嘘のようだった。

「・・ま、今日は退屈だったな」

「フフフ・・いずれそんな生活が楽しいと感じますよ」

「・・そんなものかね?」

そういいながら私はバイクを引きながら彼と一緒に帰りをともにした。・・今考えればこれは大きな出来事だったのかもしれない。 なにせ、人と喋らなかった私がこうも簡単に人と喋っているのだ。私は昔の私と重ねると・・僅か短い期間でこうも変わっていると思うと 不思議であってならなかった・・

140 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/04(月) 05:17:52.03 ID:edqkVlSJ0

部屋に帰った後、私は適当に買ってきたものを食べながらぼんやりと部屋で過ごしていた。はっきり言ってこんな光景は初めてだ・・ 前ならこんな時間は外で夜な夜な遊んでいたのだが・・どうも、今はそういう気が起きない。私はこの永い余暇をどうすごそうか考えていた。 部屋には一応テレビがあるのだが、私自身は余りテレビを見ないのでそのまま放置してある。それに部屋の電気代もバカにならない。 あの金を支払った後、若干ではあるが私の生活は少々きつくなった。極力無駄な出費は抑えたい・・

「全く、やってらんねよ・・・」

自殺未遂、暴走行為の再開など考えるだけで並の人間ならすぐにやってしまいそうな行為を私はなぜかやらなかった。特に自殺未遂にいたっては すでに1回・・やらかしているので本来、この環境下でやってしまいそうな勢いであったが自ずと自分の中でブレーキされていった。それに・・彼に諭された事が 大きいのだと自分でも思う。

(・・これからどうすっかな)

私は今後の予定を考えながら就寝に着いた。

141 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/04(月) 05:32:11.50 ID:edqkVlSJ0

翌日・・この休みの日、私は気晴らしに撤兵のところへと向かった。中に入ると撤兵は勉強に勤しんでいた。・・とても意外な光景であった。 やはりあの言葉は本当だったんだろう。私はそのまま撤兵の横に座ると窓から見える蒼い空をただじっと見ていた・・

「撤兵、高校は大丈夫なのか?」

「ああ・・勉強は追いつかないと不味いからな。一応学校は入っているがこの怪我治さないとな」

「そうか・・」

私は必死に勉強する撤兵を見ながらなんだか羨ましく思ってきた。今の撤兵には目標がある。だけど・・当時の私には目標などこれっぽちもなかった。 ただ、何もないうだつのあがらない平凡な日々・・目標もなく、ただ学校に通いながら1日を過ごしている。何か・・刺激みたいなのがほしかった。体が震え上がるような 大きな刺激が・・私はそんなことを思いながら撤兵の勉強を手伝ってあげた。

「ここはこうして・・こうやって解くんだ」

「ああ、ありがとう。・・冷夏、俺の夢聞いてくれるか?」

「・・なんだよ突然」

撤兵は筆を止めると、そのまま真剣な表情をしながら自分の夢を語り始めた。

144 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/04(月) 05:51:21.63 ID:edqkVlSJ0

「俺な・・医者になりたいんだ」

「・・えッ!!」

突然のことに私は驚いた。撤兵はさらに語気を強めながら語ってくれた。

「俺・・お袋が女体化した人間らしいんだ。最初聞いたときはショックだった、何せ男なんだぜ。・・だから、俺は女体化を撲滅してぇんだ。 今でも女体化で苦しんでいる奴がたくさんいる。・・今まで、自分勝手に暴れ続けて思っていたんだが、俺はそういうのが性に合わん人間らしい。 自分で・・そう感じたんだ。だから・・罪滅ぼしとも言っちゃなんだが、俺は一流の医者になって女体化を撲滅してやるんだ」

「撤兵・・」

私は撤兵を見て新鮮に感じた。撤兵は目標だけでなく既に自分の夢を持ち始めているのだ。当時の私にはまだ、生きる希望も夢なども持ち合わせていなかった。 彼も医者になるために必死に勉強しているだろう。みんなそれぞれ自分の夢に向かって走り出している・・なんだかそれが羨ましかった。 生きる希望がない私はなんら夢さえも無くしていた・・

撤兵の夢を応援をしたかったが当時の私はなかなかできなかった。

145 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/04(月) 05:51:54.75 ID:edqkVlSJ0

「すばらしいですね」

「お、来たか」

突如として彼がいきなり部屋に現れた。彼はおかゆを置くと撤兵の夢に賛同していた。やはり、彼も医者を志す身・・同じ熱意を感じたんだろう。 2人は意気投合しながら互いの夢について話し合っていた。

「徹子さんは僕と同じく医者を目指しているんですか・・じゃあ、僕たちは同士ですね」

「ヘッ、俺は絶対になってやるぜ!!な、冷夏!!」

「あ、ああ・・頑張れよ。撤兵・・」

私は蚊帳の外になりながら2人の会話を聞いていた。なんだか・・とても羨ましかった。2人は互いの夢について暑く語り合い意気投合している。 それに比べて私はどうだろうか?夢もなければ何もない。高校に通っているとはいえ、それは後の将来のための保険・・なんら楽しさなどこれっぽっちも 感じていなかった。

だから・・2人の姿が別の世界の人間に見えた。

71 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/06(水) 17:37:35.80 ID:uM0LbaCP0

私は自分たちに進路について話し合う彼らを見てどこか違和感を覚えた。目的のために必死に勉学に励む撤兵・・自分の夢のために必死に 経験をつむ彼・・みんながみんなそれぞれの夢に向かっていた。だけど・・私は“止まった”ままであった。撤兵みたいに進路もなければ夢すらない。 かといって彼みたいな経験もなければ歩み続ける気力もない。

私は・・道に止まったままどうすることもできなかった。

「あいつらは・・それぞれに道に突き進んでいるんだろうな。・・俺は止まったままだ」

私は自嘲しながらタバコを口に咥えた。私は逃げるようにしてあの場所を去った。もはやあの場所には私が近づきがたい空気があったからだ。私はそう思っている 自分に嫌悪した。所詮私も自分自身に余裕がないそこに浅い人間にすぎないのだ。だから一度命を絶とうと思った。だけど、あのときの彼の顔は私にそれを止めさせるぐらいの迫力と 意志があった。だから私は手を止めた・・

思えば、小さいころから常に誰かに褒められるようなことばかりであった。勉強、作法、風格・・どれも私自身のことではなく私の“家”の跡取りとしてのことについて周りはみんな私を褒めていた。 それに伴い、両親たちは私にさまざまな能力を与えるために勉強やら作法などを押し付けた。誰も、私自身について見てはくれていなかったのだ。必要なのは将来、家柄に相応しい人物かどうか・・ 私という人間については誰もこれっぽっちも見てはくれなかった。

「・・もう、あいつらには会わないでおこう。俺がいるだけ・・邪魔だろう」

私はタバコの火を消すと自宅へと帰っていった・・

304 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/08(金) 19:20:58.56 ID:VBEZQ18s0

翌日、私はそのまま誰とも会わずにバイクで学校へと向かった。学校の授業は相変わらず簡単なものであったが私はそんなことは気にせずに 勉学に励んだ。授業が終わって休憩時間となり、私はそのまま寝ようとすると私の席に数人の女子が現れた。

「礼子さん・・でしたっけ?あなた、ここの部に入ってみない?」

そういって1人の女子が私に紙を手渡した。紙には「来たれ、バレー部!!」と書いてあった。そういえば体育の授業でバレーをして圧勝だったな。その影響かもしれない・・ だが、生憎私は帰宅部で過ごすつもりなので部活に入るつもりはこれぽっちもなかった。

「・・悪い。俺、部活する余裕ないから」

「そう・・惜しいわね。その運動神経があれば全国優勝は間違いなしなのに・・」

女子は悔やみながら私の元を去っていった。私は窓の外を見ると私の心を見透かしたかのごとく、どんよりの曇り空であった。

    • それから月日は無情にも去っていき、私は進路が定まらないまま夏休みを迎えた。本来なら受験のために勉学に励んでいる頃であるが、進学校さえも決まっていない 私はそのまま担任から成績表を受け取るとそのままバイクでその場を走り去った。部屋に帰り成績表を覗くとほとんどの教科は黒で数値は5段階評価で4か5でいっぱいであった。 ほかにも担任からのメッセージみたいなものがこめられているが私はそれを見ずに成績表を閉じた。

308 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/08(金) 20:09:50.65 ID:VBEZQ18s0

「チッ・・退屈だな」

私は寝転がりながら天井を見ていた。私はそのまま近くにあった通帳を拾いじっと見ていた。ここ最近の大きな支出はないがやはりこのまま働かないのは つらい。本来ならここで腐ってないで何か行動を起こすものなのだが、この現実を受け入れないのか体がぴたりと動かなかった。何とか体を動かすとこの状況を考えていた。 だけど考えれば考えるほどつらいものであってますます体がやる気が起こそうとしなかった。

私がこのまま腐りきっている中、ドアからノックの音が聞こえた。私はその音に導かれるようにドアを開けると意外な人物がたっていた。“彼”が立っていた。私はそのまま部屋のドアを 閉じようと思ったのだが体がそれを許さず、そのまま彼のほうをじっと見ていた。

「何の用だよ」

「あの・・今後は暇ですか?」

  • ・私はドアを閉じようと思った。だけど彼はそれを見越したのか、そのまま言葉を続けた。

「あ、違いますよ。・・その、うちの診療所で手伝ってもらえないですかね?夏になると人手が多くなるので・・」

「・・んなもん、俺よりも撤兵にやらせりゃいいじゃねぇか。あいつは医者になりたがってるから大歓迎だぞ」

せっかくの申し出・・まぁ、今後の退屈しのぎにはなると思ったのだが、私はそのまま断ろうとしたのだが・・なぜか本能的にストップがかかった。

309 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/08(金) 20:18:22.99 ID:VBEZQ18s0

「あ、徹子さんなら現場のほうを手伝ってもらうつもりです。・・僕と一緒でメスすら握れませんが、あなたにはその・・接客を担当してもらいたいんですよ」

「・・ハッ、俺がナースって面か?でもまぁ、退屈しのぎになっていいかもな。・・いつだ?」

「あ、ありがとうございます!!・・じゃあ、明日からお願いできますか?」

そういって彼は今後の予定と時間について私に説明した。彼が帰った後、私は“なぜこんなことを引き受けたんだろう”と自問自答したのだが当然答えは 返ってこず、接客を担当をすることにした。今思えば私は退屈したかったんじゃなく、彼と純粋に接したかったのかもしれない・・でなければ本能的に承諾などしなかったであろう。 それに当時の私はまだ自分自身に目を背けていた、人と接したい・・だけど、それをなぜか許せない。気持ちが矛盾しながら余計に1人で押さえ込み尚更答えが導き出せない・・ これが男の頃であったらどんなに楽だっただろうと何度も考えた。男の頃は力があふれるぐらいにありすべてに満ち溢れていた。だけど、女になってから“それ”がぴたりと止まったように なくなり意地を張りながら突っ張るのがとてもつらくなった。

     誰もいない・・

            自分は一人だ・・

そう常に自分自身に言い聞かせていた。だけど彼に出会ってから不定期ではあるが無性に誰かと接したくなってきた。自分を押し殺すのはもうつらくなってきた。そんな生き方をするのはモウ疲レタ・・ 私は、自分自身の急激な変化に戸惑っていたのかもしれない。

・・何はともあれ、とりあえず私は寝ることにした。明日に備えるために・・ 寝るとき私の中にはほんの僅かではあるが好奇心が存在した・・


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最終更新:2008年09月17日 19:13
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