353 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 19:25:29.32 ID:mZa4EPGj0
その後も私は平日は麻耶の家庭教師を担当した。私も慣れてきたのか少しずつではあるが麻耶とのコミュニケーションを図った。 教師になればこんなことは日常茶飯事なのだろうか・・私はそんなことを思いながら麻耶の家庭教師をしていた。最初の私は 慣れない授業に四苦八苦していたが今では何とか様になっている。最初のほうは麻耶のわからなかった国語や算数の補助的な 部分をしていたのだが、本屋でありとあらゆる家庭教師の本を読み漁って算数、国語の基本的な部分や社会の勉強を指導できる ぐらいになっていた。ちゃんと麻耶を手本とした子供にわかりやすく勉強を教えるコツや部分部分の癖などはノートに書き留めていた。 そんな私の苦労もあってか麻耶のほうは相変わらずの天才ぶりで勉強のほうもぐんぐんと伸びていた。元々、勉学は好きなほうらしい・・ それに私自身も少しずつではあるが、麻耶との家庭教師を通して少し周りに素直になれた気が・・する。
だけど・・麻耶の両親についてはかなり謎が深まるばかりだ。私が麻耶の家庭教師を担当するようになってから全然顔も合わせていない。 一回、彼から麻耶の母親が入院している病院を尋ねたことがあったのだが・・母親のほうは少し挨拶をしたばかりでずっとだんまりしたままだった。 彼の話によると麻耶の母親は精神的な病気らしいから余り喋るのはきついらしい。だから私もそれを察してか簡単な挨拶をして帰っていった。 ・・こうしてみると私も素直に人と挨拶を交わせるような礼儀正しい人間になったのかと少し自分でも驚いてしまった。まぁ、そんなことはさて置き、麻耶との母親との 会話はそれっきりであったが、肝心の父親が一向に私の前に姿を現さなかった。あれから1回、麻耶に父親について尋ねたのだが・・余り麻耶は自身の父親について 話したがろうとはしなかった。私も無理強いはせずそのまま胸の中にしまった。だけど私が帰宅するたびに麻耶は私を送ってくれるのだが、なぜかその顔は とても寂しそうだった・・
そして今日も帰るときに麻耶が少しい寂しそうな顔をした。
354 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 19:26:00.08 ID:mZa4EPGj0
「じゃ・・俺、時間だから」
「・・はい、今日もありがとうございました」
こんな空気が帰るときには続く。前はそうでもなかったのだが、徐々に日が経つにつれて麻耶の表情には暗とも取れる顔つきであった。 流石の私もこれは気まずく、帰るときは麻耶に一、二口・・声を掛けてあげた。
「なぁ・・そのなんだ?あまり考え込むと体に良くないぞ」
「いえ・・大丈夫です。・・お気をつけて」
「ああ・・明後日になったらまた来る」
そういって私は麻耶の家を去った。・・もう麻耶のあの表情は見たのは何回目だろう? やはり・・原因は両親なのだろうか?でも家庭教師の本に書いてあったことだが、余り家庭の事情には深入りするなと書いてある。 それに私自身・・余り人の事情には深入りするほど、安易な考えを持つ人間じゃない。
だけど、私はいつも帰り際の麻耶の表情が気が気でならなかった・・
358 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 19:47:42.78 ID:mZa4EPGj0
そして、部屋に帰宅・・彼の手料理が私を出迎えてくれる。彼自身も別々に自分の料理を作るのはめんどくさいようで、毎日、私の分と自分の分を 作って私の帰りを出迎えてくれる。私はそれを食しながら彼との雑談をしている。まぁ、傍から見れば恋人同士?ってな関係のように見えるが、当時の私は そこまで彼を見ていなく、せいぜい・・友達程度でしか見ていなかった。まぁ、当時の彼は私のことをどう見ていたかはわからないが・・
まぁ、そんなこんだで私はそんな毎日を送っていた。数分して食事を平らげた後、私は食後の一服を愉しんでいた。彼はすぐ目の前で洗物をしながら 私の話に答えてくれた。
「・・しかしまぁ、麻耶の両親はいつになったら姿を現すのかねぇ」
「えっ!!まだ、お父さんのほうは姿を現していないんですか?」
「うむ・・」
私は箱からタバコを一本取り出し火をつけながら麻耶の状況を彼に話していた。彼のほうも未だに麻耶の父親のほうが私に姿を現していないことが驚きだそうで 洗物をしながら私に対応してくれた。
「でも・・お母さんのほうには会ったんですよね?どうでしたか?」
「ああ、会ったよ。・・だけどまともに会話できる状況じゃなかったな」
麻耶の母親のほうは少ししか挨拶を交わさなかった。私としてみれば、今後の麻耶の教育方針などを相談したかったのだが・・余り話すことができなかった。とりあえずなり崩してきな挨拶を 交わして病室をを後にした。正直言ってあまりいい心地ではなかった。
360 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 20:06:59.09 ID:mZa4EPGj0
「それにしても麻耶は・・俺みたいに両親には余り構われていないように見えるな。・・なんだか俺が帰るとき、結構寂しそうな顔してたしな」
そう、麻耶は昔の私みたいに両親に構われていないのだと思う。だとしたらあの寂しさは不足している愛情からきているものかもしれない。 ・・もしかして、麻耶は私に家庭教師以外のものを求めているのではないのだろうか?私はそう思えてならなかった。
「でも・・なんだか不思議ですね。最初の頃の礼子さんと比べると、なんだか最近の礼子さん・・心にゆとりがありますよね。 もしかして教師としての自覚が・・・ウゲッ!!」
「余計なこと抜かすな!!!」
私はそこらへんに転がっていたゴミ箱を彼の後頭部めがけて投げた。ゴミ箱は見事にヒットし彼は頭をさすりながら洗物をこなしていった。 やはり当時の私はそういった自分の未知なる才能を認めるにはまだまだ時間がかかるようであった。
「イテテ・・まぁ、ぼくが言いたいのは出会った頃の礼子さんと比べて、今の礼子さんはなんだか温かみがあります」
「ケッ!!・・俺にはそんなもんねぇよ。ただ・・ちょっと心残りなだけだ」
私はタバコの火を消しながら、また別のタバコに手をだしそのまま吸い続けた。でも、麻耶のことはやはり数日間、家庭教師をしていただけあってか 心残りなものであった。
362 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 20:32:58.01 ID:mZa4EPGj0
休みの日・・私は撤兵の元を尋ねた。撤兵は私とは違い家族と一緒に暮らしており、どこか懐かしい雰囲気を出していた。 私は相棒で撤兵の家につくとそのまま部屋の中へと入った。どうも、撤兵の両親はどこかへ出かけており、家は撤兵1人であった。 撤兵はそのまま手招きをしながら部屋へと案内してくれた。
「おぅ、冷夏!ちょうどいいところに来てくれた、勉強教えてくれ」
「ああ、いいぜ」
私は撤兵の勉強を見てあげることにした。どうも撤兵のほうも成績が少しやばいらしい・・だからこうして私に勉強を教えてほしいらしい。 撤兵はノートに英語の文章や数学の方程式等などいろいろ教えてあげた。それに私にとっても家庭教師のいいレクチャーにもなるので こうした機会はありがたいものであった。
勉強が着々と捗っている中・・撤兵が麻耶について聞いてきた。
「なぁ・・例の家庭教師は進んでいるのか?」
「ああ・・何とかな」
すでに麻耶のことは撤兵に話しているので私は撤兵に淡々と今の現状について語った。撤兵のほうも勉強をしながらも私の話を聞いてくれた。 どうやら撤兵も麻耶にはうすうす気になっているらしい・・
「じゃあ・・そいつはいつも冷夏が帰るとき寂しそうな顔するのか?」
「ああ・・家庭教師をしている身として、情が移ってしまったようだな・・」
私はそう呟きながらタバコに手をつけた。
367 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 21:14:49.80 ID:mZa4EPGj0
「んじゃあ・・たまには勉強以外にも何かやってあげればいいじゃねぇか」
「おいおい、無理言うなよ・・」
撤兵の提案に私は微笑しながら現在吸っていたタバコの火を消しながらまた再びもう一本のタバコに手をつけた。たまには勉強以外の ことをあの麻耶に教える・・どこぞやの熱血教師じゃないんだからと考えていると、さらに撤兵はこう付け加えた。
「でもよ、そいつのこと・・気がかりになってるんだろ?なら、なんかやってやれよ。そいつだって案外そんなことを望んでいるのかもしれないし・・」
「そうは言ってもな・・」
私はタバコの灰を落としながら仰向けになった。勉強以外で麻耶に教えてあげれること・・案外、簡単そうでなかなか見つからなかった。 麻耶は・・いったい私に何を望んでいるのだろうか?私は部屋に転がっていた雑誌を見ながらポツリと考えていた。流石に喧嘩の指南はまずいで あろう。それに麻耶の性格上を考慮すると何か内面的なものが妥当であろう。だけど・・私は芸術的なことにはまるで無関心だったので麻耶に取り入って 教えることが何もなかった。
「はぁ~、教えることが何もなければな・・ん?そうだ!!いっそのこと教えてもらえばいいんだ!!!」
「れ、冷夏・・どうしたんだ?」
「思いついたんだよ!!」
そういって困惑する撤兵を無理やり納得させた私はあることを閃くと早速、そこらへんにあった紙にとあるリストを書き込んだ。後かこのリストどおりの 材料を次の家庭教師の日に揃えば何とかなるかもしれない。私はそんなことを画策しながら休日を過ごした・・
370 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 21:32:16.24 ID:mZa4EPGj0
そして学校が終わり、いつもならそのまま相棒で麻耶の家へと向かうのだが、とあるものを買いに今日の私は少し寄り道をした。そしてそのまま 私は相棒を最高速度でぶっ飛ばし麻耶の家へと向かった。麻耶の家に着くと、いつものように麻耶が出迎えてくれたのだが、麻耶は少し滑稽な顔を しながらこちらの様子を伺っていた。
「よぉ、元気してたか?」
「え、ええ・・あ、あのその荷物は?」
「あ、これか?まぁ、中に入ってからのお楽しみだ」
そういって私は麻耶の家へと入り込んだ。そのまま私は麻耶の勉強の用意をしながら袋の中身を取り出した。袋の中身は棒針や毛糸やら、いろいろな編み物の セットであった。これでもかなり値切って買ったものだ。麻耶はそれを不思議そうな目で見ながら尋ねてきた。
「あ、あの・・これは?」
「ああ、お前確か編み物できるだろ?今度さセーター編むんだ。教えてくれないか?」
そう、私は今までの家庭教師みたいに別のことを教えてもらうんじゃなくて、別のことを教えてもらおうとした。これなら互いに教え教え合いの関係が生まれ 更なるコミュニケーションが期待できるだろう。それに、麻耶は編み物が得意らしくここの周りにあるぬいぐるみなどはすべて麻耶のお手製である。麻耶のほうも教えてもらって ばかりいてはさぞかし退屈であろう。だから私はこの方法に賭けた。
当の麻耶は不思議がりながらも・・しばらく考え込んでこう言ってくれた。
373 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/14(木) 21:46:14.47 ID:mZa4EPGj0
「・・・はい、いいですよ」
「本当か!よっしゃぁぁ!!」
麻耶は驚きながらもセーター作りを承諾してくれた。私は歓喜に溢れ喜んだ。すると・・麻耶はそんな私を見ながらクスクスと笑いながら 私を見つめていた。思えば・・麻耶が笑った姿は初めてみたのかもしれない。麻耶は微笑むように笑いながらこう言ってくれた。
「なんだか・・嬉しいです。こんな気持ち初めてです・・」
「・・そうか、んじゃ俺も麻耶の勉強を平行して教えてやるから麻耶は俺に編み物を教えてくれ」
「はい!」
初めて・・麻耶がしゃんとした返事で私に答えてくれた。賭けは大成功であった。早速私は麻耶の勉強をみながら麻耶に棒針編みの手ほどきを してもらった。流石に編み物を長くやっているだけあって私に丁寧に棒針編みの基本を教えてくれた。それに・・麻耶のほうも心なしか楽しそうであった。 私は麻耶の楽しそうな表情につられながら自然と楽しい気持ちになっていった。考えてみれば・・こんな気持ちは本当に久しぶりなのかもしれない。人と心を 通わせ楽しみながら教えあいこをする・・考えてみてら結構おもしろいものである。
私は麻耶の勉強を見ながら初めての棒針と格闘していた。思えば・・これがきっかけで私の中での教師が本格的に目覚めたのかもしれない。 でなければ、こうして教えることの楽しさを学べなかったのかもしれなかった。教えることで一番大切なのは人から自家に教えられること・・これを認識するにそう時間は かからなかった・・
87 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 17:46:30.71 ID:CkZag5Kj0?
その後も、麻耶の家庭教師をする日は私は編みかけのセーターを持参しながら麻耶に勉強を教えながら編み物を教えてもらった。 学校でも休みの時間にはこつこつと編んでいるのでセーター作りが思いのほか順調に進んだ。私のほうも受験勉強は滞りなく進んでおり まさに順調と呼べる日々であった。麻耶のほうも以前のような無愛想な顔の中に少しずつではあるが表情をみせてくれている。やはり、麻耶のほうも 趣味を活かしたことをするのはおもしろいらしく、心なしか楽しいそうだった。
そして、明日には大学受験を控えた私はいつものように帰ろうとすると麻耶に呼び止められた。
「あの・・これ?」
「何だ・・人形??」
麻耶に呼び止められた私は麻耶からとあるものを渡された。渡されたのは小さな人形でご丁寧にもキーホルダーがついていた。それにデザインも女の子らしく 愛らしい小熊のものであった。しかも、お店とかで売っているものよりも精巧なつくりで細やかなところまで縫い付けてあった。
麻耶は私に人形を手渡すとこう言ってくれた。
88 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 17:47:03.36 ID:CkZag5Kj0?
「あの、明日の受験・・頑張ってください」
「麻耶・・」
私は手の平サイズの小熊のぬいぐるみを見つめると、手作りならではの暖かさと温もりがじんわりと伝わってきた。やはりこれは麻耶なりのエールなんだろう。 これから受験を控えている私に少しでも力になりたい・・そう思ってこのぬいぐるみを一生懸命に作ったんだろう。そんなことを思いながら麻耶から受け取った ぬいぐるみを懐へとしまった。
「・・ありがとよ、俺・・頑張るからさ」
「絶対、合格できます!!・・私はそう信じていますから」
「ああ・・絶対合格してやるよ」
私はそういいながら腕を伸ばし親指を突きたてた。麻耶もそれを見たのか安心して微笑んでくれた。この受験・・絶対に制覇してみせる。 自ずと私の心は燃え上がっていた。
90 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 18:19:49.31 ID:CkZag5Kj0?
自宅に帰ると私は彼に麻耶からもらったぬいぐるみを見せびらかした。やはり、初めて人からもらったものはうれしいものだ。 しかも、あの麻耶から・・私は喜ばずにはいられなかった。彼のほうもぬいぐるみを見つめてか、すこし羨ましがっていた。
「よかったですね。なんだか羨ましいな・・」
「まぁな・・明日は受験だし、俺も気合を入れんと」
食後、私は彼と一緒に最後の受験勉強に打ち込んだ。私はほとんどの問題はできているので受験当日も楽勝なのだが、私は最後まで気を抜かず 最後まで勉強することにした。彼もそんな私の姿勢を見たのか一緒に勉強を付き合ってくれた。
「そういや、お前は確か・・撤兵と同じ新設医科大学へ受けるんだよな?」
「ええ、細かいところは違いますが・・大まかに言えばそうですよ。担任の先生からもまぁ、大丈夫だろうと何とかお墨付きをもらいましたけどね」
元来努力家である彼はすごい努力もしたんだろう。事実、高校の成績も余り悪くはない。こないだのテスト発表のときにも順位は上位から私の1つ下を いっていた。このまま勉学を続ければ何とか目標の大学に合格するだろう。まぁ、彼は成績は私と微妙にしか変わらないので合格はすると思うが、問題は 撤兵のほうだ。あいつは今までに勉強をしたことがなく、とてもじゃないが彼と一緒の大学に合格できるとは思えない。まぁ・・本人曰くそれ相応の努力は しているらしいのだが・・心配だった。
「でもなぁ・・あの撤兵が合格するとは到底思えんな・・」
「そんなこと言っては失礼ですよ。・・徹子さんだって必死で頑張っていますし、ここは合格を祈りましょう。僕たちにできるのはそれだけです」
「・・まぁ、そうするしかないかな。ま、それよりも人のことよりも自分のことからだ」
そういって私は彼と一緒に受験勉強を再開した。
91 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 18:46:08.47 ID:CkZag5Kj0?
そして翌日・・十分な睡眠を取り、私は受験の日を迎えた。私はペンケースにあの麻耶からもらったぬいぐるみをつけると、いざ受験に望んだ。 心なしか、心の負担はぐっと軽くなり力強い脈動を感じた。
(よし・・!!)
私は体中からあふれる自信と不安を入り混じらせながら受験会場の中へと入っていった。染めていた髪は元に色に染め直し、制服もきちんと 調えて受験に望んだ。会場の中は周りの緊張感で一杯であった。だけど私はその度にあのぬいぐるみをみながらやる気を養っていた。 あの時、麻耶からこのぬいぐるみを貰わなければ私は意気消沈していたのかもしれない。だけどこのぬいぐるみがある限り私はこうして受験することが できるのだ。
(やることはすべてやった・・後は自分を出しきれるかだ。俺は頑張るぜ・・)
そして受験開始の合図がなると、一斉にプリントに書き込む音が鳴り響いた。
数時間経過してか・・ようやくすべての教科の試験が終わり、私はそのまま受験会場を後にすると意外な人物が私を出迎えてくれた。・・撤兵と彼であった。2人はそのまま受験会場から出てきた私を暖かく 出迎えてくれた。
「お疲れさん、戦況はどうだ冷夏?」
「ああ・・やることはすべてやったはずだ。・・後は結果を祈るだけだ」
「教育学部も医学部と同じで合格するのはかなり難しいそうですからね・・うまくいく合格すればいいのですが」
彼は自分のケースと当てはめながらしみじみと考えていた。
94 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 19:05:07.58 ID:CkZag5Kj0?
「ま・・運は天のみが知るってところかな?」
私はそう呟きながら自分の合格を祈ってはいられなかった。そして、そのまま私たちは私の合格とそれぞれの受験を改めて 神社で祈りながら3人で和気藹々としながら1日を過ごしていった。一応、滑り止めのほうも受験はしたのだが・・希望としては本命の この大学の合格が一番いい。この受験で私の明暗が別れていた。
更に翌日、受験を終えた私はそのまま編みかけのセーターを持っていきながら麻耶の家へと向かった。麻耶は私を出迎えると 戦況を興味津々になりながら聞いてきた。
「あの、受験のほうはどうでしたか?」
「ああ・・やれるだけやったさ。後は・・発表を待つだけだ。ああ、あれありがとな。受験のとき何度も助けられたよ」
「そうですか、それはよかったです」
麻耶はいつものように微笑みながら私の受験の状況を聞いていた。考えてみれば・・まだ出会ってほんの数ヶ月なのに麻耶は私に心を開いてくれている。 私自身も麻耶と出会ってから、以前感じていた心の痛みがすっぱりと消え去った。それに以前よりと比べて私は遥かにほかの人とこうして喋っていた。前までは 余り他人との係わり合いをもとうとしなかった自分とはえらい違いだった。
だけど・・麻耶は以前よりも増して私に心を開いてくれているのだが、自分の身内・・すなわち両親については余り口にしようとはしなかった。やはり・・麻耶はあまり 両親と係わり合いをもとうとはしないのだろうか?いくら私に心を開いたとしてもまだ・・自分の内面をすべて出し切れていないのかもしれない。
私は心の片隅でそんなことを想いながら麻耶の勉強を見ながらセーターを編んでいた。
97 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 19:22:43.52 ID:CkZag5Kj0?
それからかなり月日が経ち、いよいよ本命の大学の合格発表が来た。彼や撤兵たちも一緒に大学を受験して・・見事に合格通知を貰った。 彼はもちろん合格していたのだが、驚くべきことに撤兵も揃って合格を飾った。撤兵は夢か夢かと私に迫りながら自分の合格を半信半疑になりながら 自分の合格通知を受け取った。撤兵と彼の合格は私に大きな勇気と・・そして大きな不安を同時に与えてくれた。私は彼と撤兵と一緒に緊張と不安を 入り混じらせながらゆっくりと合格通知が入った封を開いた。
私の全生涯と麻耶の想いをかけた渾身の結果通知は・・・・・“合格”であった!!
通知に堂々と○○大学 教育学部 合格と書かれた書かれた紙を私は隅々まで何度も何度も見回した。
98 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 19:23:25.10 ID:CkZag5Kj0?
「よっしゃぁぁぁぁぁ!!!!合格か!!合格なんだな!!!!」
「やったな!!冷夏!!!!」
「すごいです!!!本当におめでとうございます!!!」
私はついに成し遂げた。こんな気持ちは初めてだ・・人から支え支えあい、ようやく掴み取った合格通知。これはただの合格通知ではない、私と・・そして私を支えてくれた 人が頑張って掴み取った合格通知だ。今までのように自分1人の力でやっていたらできないものだろう。だからこの合格通知の存在は私にとってはとてつもなく大きいものであった。 思えば・・私は大きく傷ついた。時にはこの世から姿を消そうとした。だけど・・思えばそれを克服できたのも周りの人たちのおかげなのかもしれない。決して私は1人で生きていたんじゃないんだ。 こうして誰かに頼って時には喧嘩して、悩みながらも私はここにいる人たちと一緒に成長していった・・
初めて私はほかの人の大きさを改めて感じ取った。
決して自分は1人でやってたんじゃないと・・
数少ない仲間たちとともに私自身を成長させたんだと・・
そして・・ようやくあの頃の私にさよならということができた。
100 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 19:44:26.31 ID:CkZag5Kj0?
私の合格の発表の後、その晩は3人で大盛り上がりのまま夜が更けていった。しかし、たった1日で私たちの歓喜は収まるわけがなかった。 体中からあふれ出してくる、この歓喜と興奮・・これを1日で抑えれなくて当たり前だった。 そして私はその歓喜をまといながら麻耶との家庭教師の日を迎えた。私は歓喜のまま麻耶に合格通知を見せた。合格通知を見た麻耶は我がことの ように私の合格を心から喜んでいた。多分、私が見た中で最大の笑顔だったのかもしれない。それぐらいマヤは私の合格を喜んでいた。
「おめでとうございます。合格できて本当によかった・・」
「ああ、思えばこいつのおかげかもしれないな。麻耶からこいつを貰わなければいったいどうなっていたことやら・・」
私は懐から麻耶から貰ったぬいぐるみを取り出した。本当にこれがなければ合格なんて貰えなかっただろう・・こいつはこの受験の影の功労者だ。麻耶も 自分が力になったことを察してかかなり喜んでいた。それからというものの麻耶は私のどの大学を受けたのか、どういった風に勉学するのかと私に聞いてきた。 麻耶がこれだけ喋るのも珍しかったので、私もこの日は麻耶の質問攻めに答えていた。麻耶の方も私の話を深々とした態度でじっくりと聞いていた。たまには こんな日もあってもいいかっと思いながら、この日は私の戦況報告と合格祝いの歓喜に打ち震えていた。
私の合格発表から数日してか・・私がこつこつと編んでいたセーターが完成の時を迎えていた。麻耶に教えてもらいながらゆっくりとゆっくりと編み続けた このセーター・・学校の休み時間やはたまた撤兵との家庭教師の合間・・それに暇な間はちょくちょくと編んでいた。その私の小さな努力が少しずつ身を結び こうした大作が出来上がったのだ。ときたまには修正が難しいほど大きな失敗もやらかした。だけど、そんなときでも麻耶が私に親身になりながらわかりやすく修正の 手ほどきをしてくれた。そんな困難もあってか、セーターはついに完成した。
それに、今はセーターが欲しい寒い時期・・まさにぴったりな代物であった。だけど・・ここでとある問題が浮上した。
101 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 19:53:51.62 ID:CkZag5Kj0?
「やったぜ!!ようやくできたぁぁぁ!!!・・・っとはいってもこれ誰にあげよう?」
最後の部分もしっかりと編みこみ、セーターはようやく完成した・・のだが、問題はサイズであった。セーターは今の私のサイズよりも 少し大きく、私が1度着てみたのだが・・かなりのゆとりがあった。
「う~ん、麻耶と一緒に編んだこのセーター・・1度も着ないのも惜しいよな。かといって、俺のサイズに全然合わないし・・」
「じゃあ、誰かに差し上げればいいと思いますよ。貰った相手はさぞかし喜びますよ」
「誰かにあげるって・・なぁ」
私はセーターを脱ぎじっと見つめていたのだが、あげる相手があまり思い浮かばなかった。一度は撤兵にあげようかと考えたのだが、やっぱり 人にあげるのは惜しいのですぐに取りやめた。しかし、せっかく麻耶と一緒に編みこんだこのセーター、全く着ないのはとても惜しいものであり もったいない気がしてならなかった。
「まぁ・・差し上げる相手は後で考えればいいですよ」
「そうだな」
私は出来上がったセーターを袋にしまうと麻耶との勉強を再開した。
103 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 20:05:38.89 ID:CkZag5Kj0?
その後も、私は彼の料理を食しながらセーターについて考えていた。彼は私を不思議な顔で見ながらこちらの様子を伺っていた。
「どうしたんですか?そんなに考え込んで・・」
「あ、ああ・・なんでもねぇよ」
そういって私はご飯を食べながらセーターについて考えていた。食後、彼がいつものように洗物をしていると、私は袋からセーターを取り出し 彼の身長と比較しながらセーターを見比べた。そして洗物を終えた彼は私の方向へ振り返るとセーターを見て驚愕していた。
「あれ?そのセーター・・どこで買ったんですか?ってイタッ!」
余りにも失礼なことを聞くので私は頭を叩き上げると、事情を説明した。
「バカヤロウ!!買ったんじゃねぇ、俺が麻耶と一緒に編んだんだ!!」
「えっ?本当ですか!!すごいじゃないですか!!」
彼は驚きながらも頭をさすりながらセーターを触っていると「着てもいいですか?」と聞いてきたので私は着させてみることにした。 驚くべきことにサイズは寸分も狂いもなく彼にぴったりであった。
105 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/15(金) 20:17:45.83 ID:CkZag5Kj0?
「うわっ・・ぴったりじゃないですか」
「あ、ああ・・俺だとサイズが大きいらしい」
私は箱からタバコを1本取り出しタバコに火をつけながら彼に事情をポツリと説明した。しかし・・なんだか彼に着てもらうと、その・・うれしい? いや、違うか。なんかこう・・ドキドキ感が出てきた。しかし、当時の私はまだそういったドキドキ感が異性を肌で感じている女性特有の感覚だとは まだわからず。この感情を何とか抑えようと必死であった。
(な、なんだよ・・このドキドキ感は!!)
「?・・どうかしましたか?」
「う、うるせぇ!!」
私は震える手でタバコの火をもみくしゃに消しながらまた次のタバコに手をかけようとした。しかし、震える手が邪魔してなかなか箱からタバコが取り出せなかった。 初めて彼という異性を肌で感じていた当時の私は、とんでもないことを口走ってしまった。
「・・そ、その、なんだ?そ、そそそれやるよ・・い、今のじ、じ時期にはピ、ピッタリだろ・・」
「えっ・・いいんですか?ありがとうございます!!大切にしますよ!!」
「わ、わかったからそうはしゃぐな!!」
「?」
私はそういって何とかタバコに火をつけて彼にセーターを贈与した。これで万事解決と言ったところだが、私の心のモヤモヤはそう簡単にはとれず取ろうとするとかえって ドキドキ感と緊張感が私を襲った。私がこの緊張感とドキドキ感を心地よく感じるのはまだしばし時間が掛かるのであった・・
177 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 12:22:01.80 ID:73nBpuN00
受験という最大の困難も乗り越えた私は高校の卒業式を控えていた・・とは言ってもほんの数ヶ月しか通っていなかったので 余り卒業という実感がない。でも、今までの単位も含め十分に卒業できるそうで担任からも生徒代表でやってくれないか?といった ことも言われたのだが、麻耶の家庭教師があるので丁重にお断りした。麻耶のほうだが、以前と変わりなく私には笑顔になっているものの ここ最近になってか・・少しまた別の意味で表情を曇らせていた。何かあったのだろうかと?私は気になって仕方なかったのだが肝心の麻耶からは 余り話してくれなかった。
・・そして、決定的な出来事が起きた。
その日、時間を見て私がいつものように帰ろうとすると麻耶から・・腕を押さえられた。それもかなり力強く、まるで私の帰りを 認めたくない・・そんな感じであった。私は突然の麻耶の行動に戸惑いながらも何とか離そうとしたが・・麻耶の表情を見ると下を俯いたまま目から 光るものが見えた。
「お、おい、麻耶・・」
「・・お願いです。もう少しだけ・・もう少しだけ・・いて、頂けませんか?」
「麻耶・・」
麻耶は声を震わせながら、私の帰宅を阻んだ。もしかしたら・・麻耶が今まで感じた寂しさというものが一気に爆発したのかもしれない。おそらく、ここまともに 話していたのが私だけだったのだろう。だから私が帰る際に少しずつ溜まっていた寂しさがこういう形で一気に爆発したのであろう。だけど、私の部屋にはおそらく 彼がご飯を作りながら私の帰りを待ってくれている・・自分自身で取り付けた約束をほかならぬ自分で潰すわけにはいかなかった。
私は何とか麻耶を振り切りたかったのだが・・麻耶は黙ったまま腕の力をさらに強めた。
178 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 12:34:19.85 ID:73nBpuN00
「麻耶、お前・・俺にもっといてほしいのか?」
私はそう麻耶に問いかけると麻耶は黙って涙ながらにこくんと首を縦に振った。私は再び座るとそのまま携帯を取り出し、今私の部屋にいるであろう 彼に電話を掛けた。
「(仕方ないか・・)・・もしもし、俺だ。ちょっと今日はそっちに帰れないかもしれん。実は麻耶がな・・」
私は事の詳細を彼に話すと彼のほうも少ししんみりした声になりながら私の話しを聞いてきた。やはり麻耶をこのまま放って置くわけには行かなかった 麻耶は黙って私の会話を聞いていた。彼は電話越しで私の話をすべて聞き終えると・・微笑しながらも帰宅できないことを承諾してくれた。
「そうか・・すまないな。・・わかった、じゃあな」
私は携帯を切るとそのまま麻耶のほうに振り返った。
「おいおい、もう泣くな。・・さっ、ご飯にしようか?」
「はい!・・ありがとうございます」
麻耶は涙を再び笑顔になり、いそいそとご飯の支度を始めた。
179 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 12:47:18.25 ID:73nBpuN00
幸い、カレンダーをみると今日は金曜であったので泊まっても全然、問題はなかった。麻耶のほうは自宅の台所へと向かい、慣れた手つきで料理をしていた。 私はそのまま、麻耶が作ってくれたご飯を食べ終えるとそのまま女2人でお風呂に入った。しかし、こうして自分の裸をみると・・やはり女体化 はもう体にすっかりと馴染んでいるなぁ・・っと改めて実感した。麻耶のほうも私のほうをじっと見つめていた。やはり少しばかり 成長した女性の体というものに興味はあるらしい。私は湯船につかりながら麻耶にこう言ってあげた。
「なぁに・・麻耶も成長すれば嫌でもこんな体になるさ。・・もしかしたら、俺よりも美人になるかも知れんぞ」
「そうですか?」
「ああ・・多分な」
私はそう微笑しながら麻耶に話すと、麻耶のほうも心なしか笑っていた。そして、風呂上りになりしばらく2人で楽しく過ごした。そんな時間が淡々と 続いていたのだが、就寝の前に私はどうしても麻耶に聞いておきたいことがあった。
「なぁ・・麻耶、さっきはなんで俺を止めたんだ?」
そう、さっきの麻耶の行動について私は聞いておきたかった。もしかしたら私の予測していたように麻耶はきっと両親から・・余り構われていなかったのか? それをはっきりさせたかった。それにこんな時間になっても麻耶の父親は一向に帰宅する気配がなかった。
すると・・私の横でいた麻耶が重たい口をついに開いた。
181 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 13:12:03.09 ID:73nBpuN00
「・・さっきはすみませんでした。私・・お母さんが入院して、お父さんは・・何処かへ行っている。・・昔からそうだったんです。 お母さんは精神的に不安定で私が小さい頃からいつも入退院を繰り返していました。お父さんのほうは・・仕事でいつも何処か 行っているらしいですが・・たまに帰ってきても、すぐに帰ってきても自分の部屋に行って・・小さい頃から両親とは会話も余り していませんでした・・」
麻耶は私の体をぬいぐるみのようにぎゅっと抱きしめ震える声の中、淡々と自分の過去を話していた。やはり、麻耶は私の 読みどおり。余り両親に構われていない子であった。父親は仕事と称して何処か行っているかもしれないが、本当の目的は多分・・愛人や そういったものだろう。母親のほうはやはり、麻耶の小さいころからあんな感じだったらしい。よく、精神安定剤を飲んで気持ちを落ち着かせて いたらしい。
麻耶は・・両親の愛情をいうものを感じたことのないかわいそうな子であった。いや、かわいそうの一言で片付けるのは余りにも言いがたい。まだ、心の整理も つかない年頃で、私と同じ・・いや、それ以上か。心にとてつもなく大きな傷を作っていた。
麻耶が淡々と話していく中、次第に泣き声が混じりながら麻耶は私にしがみついた・・
「私・・私・・いつもただ1人・・ぽつんと暗い中、誰もいなかった。・・もう、1人が怖い」
「麻耶・・安心しろ、俺だってそうだ」
「―――えっ?」
麻耶は驚きながら私を見つめていた。麻耶にかっての私を見たんだろう・・私は自然と麻耶に自分の生い立ちを話してしまった。
182 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 13:21:50.86 ID:73nBpuN00
「俺だってそうだ・・小さいころから勉学を強要させられ、誰からも認めてもらえなかった。だから、中学の頃にはそれが爆発してクソッタレ共を集めて族を作った。 暴走してしまくって自分のそういった自分の淋しい気持ちを無理矢理押し殺してきた。 だけどな、いくらTOPになっても内心ではその中でも誰も私を認めてくれちゃいなかった。だから私は余計、人を拒絶した。1人が心地いいと思ってな・・ だけど女体化したとたん、かっての両親から手切れ金でポイッだ。その挙句にはボンクラ共には裏切られ俺は生きる気力さえもなくした・・
・・でもな、そんな絶望の中で俺を留めてくれたのは僅かな仲間だった。俺は拒絶したと思ってもそいつらはしつこいぐらいに俺についてきた。 そしたらな・・自然と暖かい気持ちになってきたんだよ。だから生きていこうって俺は思った。
麻耶・・お前は俺みたいに道を踏み外すな。そして決して俺みたいになるな・・」
「・・・・」
麻耶は泣き声が響く中、だんまりしながら私の話を聞いていた。かって道を踏み外した私だから言える・・麻耶には決して私みたいに道を踏み外してほしくなかった。 人を信用できなくなった私に再び信用をすることを教えてくれたのは撤兵と・・それに彼であった。
だから余計、麻耶にはそういったことをしてほしくなかった・・
「麻耶、その寂しさに負けたら終わりだ。俺みたいにその寂しさに負けてしまったら駄目だ・・安心しろ、俺は麻耶についている。たとえ目に見えなくても心の中では私は ちゃんとお前の中にいる。麻耶、お前は・・俺よりも強い子だ。そう・・俺は信じてる」
「・・はい」
麻耶も私の存在を心の中で確信したのか私の横でそのまま眠ってしまった。まさか、こんなことをいえるなんて私も成長したのだろうか? そんなことを思いながら私も寝ることにした。
183 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 13:46:03.04 ID:73nBpuN00
高校も無事卒業し終えると、私たちは晴れて大学生活へと駒を進めることとなった。流石に医大に入った彼と撤兵は進学 早々から忙しいらしく、ほぼ毎日出会っていたのもかなり日数を空けてでしか遊べなくなった。それに、私は教育学部へと入学できた のだが、今年の教育学部の合格者は歴代でもかなり多いらしくかなりの倍率が予想された。それに勉強のほうも高校とは比較にならないぐらいに 増えていった。流石に人材を育成する教育学部とあってか、ほかの学部よりも比較にならにぐらいの膨大な量であった。 幸いにも麻耶のほうもあれから精神的に安定を見せており、前みたいに寂しさが爆発することはなかった。大学に入ってから彼とは相変わらず隣の部屋なのだが、会う回数が激減していった。 それに最近は医大の関係でジジィのところへは出かけてはいないらしい。
・・そんな激動の大学生活を送っていた私であったが、悲劇とは突然何も脈略もなしにやってくるものである。
私は普通に久しぶりに休日を享受していたのだが携帯に電話がかかってきた。電話の主は何と今まで私の前に姿を現さなかった麻耶の父親であった。 こういった形で出会ったのはかなり驚きであったが、突然話がしたいと言ってきた。それも・・麻耶に関する重大なことで
私は電話を切ると、すぐに指定の場所へと向かった。
指定された場所はとある喫茶店であった。私は喫茶店の中に入ると麻耶と父親らしき人物が座っているのが確認できた。私はそのまま席に着いたのだが、麻耶の表情はどことなく暗い雰囲気が 漂ってきた。私は麻耶の父親に自己紹介するとそのまま少し談笑をした。麻耶の父親はどっちかというと余り喋らないほうで早く用件を伝えてこのままとっとと去りたい気分がプンプン感じた。 すると突然、麻耶の父親が私の前に分厚い茶封筒を差し出した。中にはお札がぎっしりとつまっていた。
私は突然のことでわからず驚いていると更に麻耶の父親がこう言いあげた。
184 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 13:59:23.54 ID:73nBpuN00
「これは・・今までのお礼です。あなたのおかげで麻耶の学力もあがりました」
「あの・・それはわかりますけど、どういった・・」
私が困惑しながら麻耶の父親と応対していると麻耶の父親はとんでもないことを言い放った。
「実は・・仕事の関係で海外に発つことが決まりまして、その時に妻から離婚を申し渡されてしまったので麻耶は私と一緒に 海外の学校へ行くことが決まりました」
「え!!」
私は突然の麻耶との別れに混乱している中、父親は更なる追い討ちをかけた。
「それは今までのお礼もこめてお支払いしたものです。・・それでは」
「待ってください!!麻耶は・・麻耶はそれを納得したのですか!!」
私は麻耶本人の意思表示を聞いておきたかった。いきなりの両親の離婚、そして交流を深めた私との突然の別れ・・余りにも我が儘な この行動は麻耶を傷付けてしまうこと大であった。だから、私は麻耶の意志を聞いておきたかったのだが・・麻耶の父親は「やれやれ」といった表情で タバコに手を掛けながら語り始めた。
「あなたは何を言っているのですか?偶々、妻との離婚と私の転勤が決まっただけですよ。麻耶の意思なんて関係なく周りが勝手に決めたことですからね。 一番困惑しているのはこの私ですよ。全く・・」
余りにも身勝手な言い分に私は怒りが一気に溜まってきた。麻耶の意思に関係なく勝手に事を進めていく麻耶の父親・・ 私の怒りはついに爆発した。
185 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:13:20.17 ID:73nBpuN00
「・・てめぇ!!麻耶が・・麻耶がどんな気持ちなのかわかってるのかぁぁぁ!!!!!自分の意思も聞かされず勝手に事を 進めやがって・・」
喫茶店の周りの視線がこちらの注目する中、私は憤怒の表情で麻耶の父親に詰め寄った。だけど、麻耶の父親は目を閉じながら 冷静に語気を強めこう切り替えしてきた。
「何言ってるんですか?・・別れなんてこの人生の中、数え切れないほどありますよ。それにあなたはただの一介の家庭教師 ・・こちらの家の都合に一切口を挟まないでいただきたい!!」
「・・クッ!!」
私は自分の中に溢れるこの怒りをこの父親にぶつけたかったのだが、家庭教師という“壁”の前にはどうすることもできなかった。 だけど、麻耶の気持ちは無駄にはしたくなかった。かってに子の気持ちを無視して自分の都合を優先して事を進めていく親・・私は麻耶を救ってあげることが出来ない
自分の不甲斐なさを悔やんだ。私は更に言い放とうと思ったのだが・・ここで渦中の麻耶が沈黙を破った。
186 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:13:30.04 ID:73nBpuN00
「てめぇ!!・・」
「・・やめてください。もう、いいです」
「麻耶ッ!!」
「・・お父さん、最後にこの人と話をさせて。・・お願いします」
麻耶は父親に頭を下げると、父親は時計を見ながらこう告げた。
「・・・フライトまで3時間だけ時間がある。その間に話してこい」
「・・ありがとうございます」
そういって麻耶の父親は会計を払うとそのまま喫茶店を後にした。
189 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:26:40.08 ID:73nBpuN00
麻耶の父親が喫茶店に出て数分してからか・・私たちも喫茶店を後にした。喫茶店を後にした私は限りない時間の中 近くの公園で麻耶と話し合った。私はさっきの内容を麻耶に訊ねると、麻耶は薄っすらと涙を浮かべた。
「麻耶ッ!!・・お前こでれいいのか!!親の勝手で事を運ばれてッ!!!」
「私だって嫌ですッ!!だけどッ!!・・だけど、こればかりは仕方ないです。両親の離婚と父の転勤・・せめてどちらかが遅れてくれれば」
「麻耶・・」
麻耶は私の前でわんわんと泣きながら今回の現実を重く受け止めていた。私だってこんな形で教え子をみすみす失いたくはない。私は・・せめて麻耶にあげるものは ないかとポケットの中を探していると、セーターを編んだ毛糸の余りで麻耶に作り方を教えてもらった小さい人形がでて来た。
「(これは・・)麻耶、これ・・」
「これは・・」
「俺、こんなことしか出来ないからさ・・・麻耶、頑張るんだぞ」
私は麻耶に人形を渡すと、麻耶は涙を堪えて精一杯の笑顔を出すと私の生涯の中で最も忘れられない台詞を残してくれた。
190 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:27:07.45 ID:73nBpuN00
「今まで・・今まで本当にありがとうございました!!」
“ありがとう・・礼子先生・・・”
「麻耶ーッ!!!」
皮肉にも、最後の最後の麻耶との別れの日に麻耶は初めて私のことを先生と呼んでくれた。今でも、あの麻耶の笑顔と言葉は私の中では 一生忘れられないものとなった・・