192 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:44:11.31 ID:73nBpuN00
「・・さん・・礼子さん・・」
「麻耶ッ!!・・ハッ、ここは?・・そうか、眠ってしまったのか」
「なんか、少し魘されていたけど・・どうかした?」
「いや、大丈夫だ」
私は目を覚めると病院の中にいた。そうだった・・旦那の仕事が片付けるまでここで待っていたのだった。おそらく私は 寝てしまって過去の自分を夢で思い出していたんだろう。旦那と一緒に帰る支度を始めた。
「さて、帰るよ。・・さっきはどうしたの?」
「ああ・・ちょっとな、昔のことを思い出しちまった」
麻耶と別れてからもう数年も経つ・・今頃は麻耶は異国の地でどこで何をしているのやら、あれから全く足取りがつかめていない。現在、麻耶が生きてたとしたら 聖よりかは少し年上の立派な大人の女性になっていただろう。もしかしたら、結婚して幸せな家庭を築いているのかもしてない・・ 確か、あの日の後は大変であった。1人永遠と部屋のこもりながら「教え子を救えなくて何が教師なんだッ!!!」っと机を叩きながら1人永延と泣いていた。時には勉強が 全く手につかないこともあった。
だけどその度に、彼や撤兵がそんな私に救いの手を差し伸べてくれた。
193 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/16(土) 14:45:32.26 ID:73nBpuN00
「・・なぁ、子供って1人でたくましく生きていくものかな?」
「どうしたの急に?あの時、もしかして嫌な夢でも見たの?」
「いいから答えろよ!!」
車に乗り込んで、自宅へ帰る帰り道、私は横にいた旦那に質問を浴びせた。突然の質問に最初は焦っていた旦那だったが、一呼吸置きこう答えてくれた。
「さぁね・・でも、その子が明るく強い心を持っていたら、たとえ大きな困難も乗り越えてきっと幸せになっていると思うよ」
「・・そうかい」
私は車を運転しながら懐にある受験のときに麻耶からもらった小熊のぬいぐるみをぎゅっと握り締めながら遠く異国の地で暮らしているであろう 麻耶の幸せを祈った。
305 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 14:18:29.34 ID:zq+z09/K0
そのまま自宅に帰った私たちは旦那の作ってくれた食事を食べた後、自宅の部屋でのんびりとくつろいでいた。とはいっても全く仕事が ないわけではなく旦那のほうはそのまま洗物を終えるとそのまま病院の仕事をやってのけた。やはり院長になると、仕事もぐっと多くなるみたいだった。
「はぁ~・・旦那である僕がいつも料理を作るとはね。やっぱ看護婦さんたちのいいネタになるよ」
「仕方ないだろ。俺、料理できないんだから」
「ま、今に始まったことじゃないんだけどね・・」
そう言いながら旦那は仕事に戻った。病院内の仕事はすっかり片付けていたみたいなのだが、院外の仕事もたくさんあるみたいだ。だけど、旦那はそう 滅多に家には仕事を持ち込まない。旦那が院長になってかなり年数が過ぎるが、こう家に仕事を持ち込むのは珍しかった。考えてみれば結婚してどれぐらい 経っただろう?確か、お互い仕事がまだ新人に近かった時に結婚したのだから・・ま、考えるのはよそう。
しかし、それにしても旦那が仕事を持ち込むのは珍しいことだ。私は旦那に持ち込んだ仕事の内容を聞いてみた。
「しかし、お前が家に仕事を持ち込むなんて・・何があるんだ?」
「ああ、明日ある患者さんの手術があるんだ。手術のプランを練り直さないと患者さんの命に係わることだからね、指揮する立場としてちゃんと真剣に練らないと こればかりはまずいからね」
「そうか・・じゃ、先に寝るわ」
「うん、おやすみ」
そうって私は寝室へと戻った。考えてみれば最近、旦那にかまわれていない。流石に仕事が忙しいのは重々承知であるが、もう少し私にかまってほしいものだ・・ そんなことを考えながら身体的な欲求を叶えられないまま私は就寝についた。
夢というのは突発的でまた私はちょこんと1人スクリーンの前にいた。スクリーンには私の過去が鮮明に映し出されようとしていた・・
307 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 14:39:20.61 ID:zq+z09/K0
麻耶との余りにも突発的な別れは私に大きな衝撃を与えた。あの時、麻耶が別れ際に言ってくれていた言葉・・麻耶はあの時 私のことを先生と呼んでくれた。だけど、その言葉は当時まだ教育の先端を学んでいた私にとっては大きくずっしりとした 重たいものであった。
やはり、言葉ではわかっていても体のほうは簡単に現実を言うものを受け止められていなかった。
「・・先生か」
私は突然筆を止めた。あのときの麻耶の言葉が今でもリフレインされてくる。前にも彼や撤兵に励まされて何とか勉強する気は 起きてはいたのだが、やはりまだ心のつっかえが取れないままでいた。私はあの言葉の重みを必死に考えていると毎度おなじみノックの 音が聞こえてきた。私は出迎えるとやはりノックの主は決まっていた。
「どうしたんだよ・・こんなところで油売っていいのか?」
「ああ、今日は珍しく休みになったので・・どうです?たまには気分転換に外にでてみませんか?」
私はチラッと外を見てみると撤兵がバイクのエンジンを吹かしながらこっちに手を振っていた。私は部屋に戻りメットを取り出した。
「ボサッとすんな・・行くぞ」
そういって私は彼を引きつれ相棒に乗り込んだ。考えてみれば・・こうしてバイクを走らすのは初めてかもしれない。
309 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 14:53:15.61 ID:zq+z09/K0
外の空気というものはこんなにも心地よいものであったかと不思議なものであった。まだ外に出てからそんなに時間も 経っていないのに私の心は晴れ晴れとした気持ちになった。しばらく外を走っていると、大きな公園があったのでそこで 一休みすることにした。バイクを適当に止めると撤兵のバイクに乗っていた彼がジュースを買ってきてくれるという。 私たちは彼の好意に甘えることにした。
「何がいいですか?」
「じゃ、俺コーラ」
「俺は・・紅茶でいいや。ダッシュで言って来いよ」
「はいはい、わかりました」
そういって彼は自販機へと向かった。私はタバコを取り出し撤兵と一服した。
「そういや、撤兵・・どこの学部なんだ?医学部といってもいろいろあるだろう?」
「ああ、俺は女体化専門のところ。泰助は外科と内科両方やってるよ」
「えっ!!両方だと・・」
私はタバコの煙を咳き込みながらかなり驚いた。本来なら外科と内科は一本のはずなのだが外科と内科両方なんてものは 確かできないはずだ。できたとしてもこうして私たちと遊べるはずがないほど忙しいはずだ。
驚く私を見ながら撤兵はさらに詳しい説明をしてくれた。
311 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 15:11:38.81 ID:zq+z09/K0
「ああ、5年ぐらい前まではうちの大学も外科と内科に分かれてたらしいんだ。でもなんか、両方やりたいっていう生徒が 急増してそれで外科と内科両方学べるようになったんだ」
「へぇ~・・なるほどな」
私は感心しながら撤兵の話を聞いていた。しかし、そんな話をしていても彼は遅かった。すでにタバコの本数は5本以上吸っており このまま待つのは少し限界であった。仕方なしに私たちはタバコを消し彼を探そうと思ったのだが・・ そんなときに私たちの前に1匹の・・・猫がいた。猫は黒猫であり私たちをじっと監察するように見ていた。私は撤兵に放っておけと 言ったのだが・・どうも撤兵は黒猫に夢中なようだ。付近に生えていたねこじゃらしをとって黒猫を弄んでいた。
「うりうり~・・冷夏もやってみろよ。楽しいぞ」
「あのなぁ・・その猫、飼い猫か?」
私は撤兵に弄ばれてた猫を見てみるが野良にしてはどうも人懐っこかったので飼い猫と踏んだ。まぁ、彼が来るまでの暇潰しになるとおもい私もどこぞやの 飼い猫かは知らなかったがねこじゃらしを一本とって、撤兵と一緒に黒猫を弄ぶことにした。意外にもこれが楽しく、猫のほうも2本のねこじゃらしにさまざまな対応を みせてくれた。
「うりゃ~・・流石の猫も俺と冷夏のねこじゃらしのダブルパンチには応えているようだな」
「ま、そりゃ猫だからな・・」
しばらく猫と遊んでいた私たちであったが、突然「バーロー、帰るよ」っと叫ぶ女性の声が聞こえた。それを聞いた黒猫は一目散に私たちの前から素早く消え去った。
312 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 15:26:23.66 ID:zq+z09/K0
「チッ、帰っちまったか・・泰助を混ぜてもっと遊びたかったのによ」
「ま、飼い猫ならしゃあねぇだろ」
私は少し不機嫌な撤兵を宥めながら彼の帰りを待っていた。そして、黒猫が去ってものの数秒後・・彼が颯爽と現れた。
「すみません、遅くなりま・・」
「遅すぎだっての!!!・・ったく」
「まぁまぁ・・泰助だってわざとじゃないんだからな」
今度は立場が逆転し私が撤兵に宥められながら彼から紅茶を受け取った。タバコも吸っていたので喉がからからだった私は 紅茶を一気に飲んだ。その後はしばらく3人で公園を散策しながら互いの状況やらいろいろなことを話していた。やはり、彼のほうは 外科と内科の勉強はかなり大変らしく、論文やらいろんなのが鬼のようにドッと出るらしい。それを終えてもこうした休日は僅か1日ぐらいしか 取れず今日もいろいろ大変だったらしい。撤兵のほうも女体化を扱ったものらしく、それにまだ治療法も確立されていない難病中の難病らしいので かなり覚えることもあるらしいのだ。
「ま、俺たちはそんなわけだ。冷夏も教育学部は大変だろう?」
「まぁな・・児童の心理やら学習の指導方法など覚えることはたくさんあるしな」
私はポツリと自分の大学について話すとやはり麻耶のことが気が気でならなかった。携帯の番号も一応教えたのだが、あれから一件も 連絡がない。私の心配は募るばかりであった・・
そんな私の心境を察したのか、2人は私にこう進言してくれた。
313 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 15:42:00.77 ID:zq+z09/K0
「まぁ、確かにその女の子のことは心配だろうけどな・・冷夏だったらお前はなおさら、そいつに誇れるいい先生になるべきだ。 もしもそいつと再会したとき、お前が教師じゃなかったらその子はかなりショックだろうぜ?」
「それはわかってる・・わかってるんだ。だけどな体が・・思うようにいかなくて」
撤兵の言いたいことはわかる。だけど、まだ私の中ではどうも踏ん切りがつかないのだ。麻耶との別れの悲しさに囚われ続けている自分・・ 本来ならこれを乗り越え、また前に進まなければならないのだが・・それをわかっていても私自身はまだそれができずにいた。
「・・礼子さん、彼女はきっとそっち頑張っていますよ。こんなことしか言えないのは何ですが・・“信じて”みることが大事だと思います」
(“信じる”・・か)
思いもよらない言葉に私は立ち止まった。麻耶が外国で幸せに暮らしていることを信じてみる・・確かにそれが一番大事なのだが、もし麻耶と 再会したとき、思いのほか変わってしまった麻耶を私は受け止められることができるであろうか?それが一番の不安であった。
「なぁ、冷夏。俺らはこんなことしか言えないが、何事も信じてみるのも悪くないと思うぜ。・・むしろいいじゃねぇか。俺たちは冷夏とその子に何が あったのかはわからねぇが、冷夏はそれがわかるじゃねぇか。
- なら、信じてみろよ。なぁに、お前はもう1人じゃないさ」
「撤兵・・そうだな。信じてみるか・・麻耶が遠く異国の地で幸せに暮らしていることを」
そうだった、私はまた1人で抱え込んでしまうところであった。私にはもう昔と違い周りに人がいる。だからこうやって前に進めるんだ・・大学で受験したときも みんなで喜びを分かち合ってきた。不安は大きいけれど、今回もその不安を乗り越えてみせる。今までもそうだったから・・
だから・・今回も信じてみようと私は思った。
352 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 19:34:44.71 ID:zq+z09/K0
さて、一応気持ちに踏ん切りがつき現実へ帰還した私は勉学を再会した。大学も順々に慣れた私は莫大に上るレポートやら論文をこなしていった。 流石に資料の少ない自宅では思うようにままならず、場所を図書館に移しレポートをこなしていった。流石に内容はどれも難しく、自動のための よりよい指導法とか、女体化していった生徒に対する精神的なケアや周りの環境への対策等、難しいの一言では片付けられないものとなっていた。 それでも、何とか周りの支えがあってこそ成り立っていたものであったのだが・・私の周りの人間関係も徐々に変化していった。
きっかけは私が彼に電話をしようとした時であった・・
その日、私は珍しく暇だったので彼を呼び寄せようと携帯に連絡を入れた、しばらくして彼は電話先から出たのだが・・どことなく周りのざわめきが 聞こえてきた。
“あ、どうかしましたか?”
「・・いや、今日暇かなって」
私は本能的に不安を覚えながら彼との電話に対応した。しかし・・どことなく会話を続けたがなぜか気まずいものであった。しばらくして会話を続けていたが そのときに撤兵の声が聞こえた。
“あ、すみません。今日は徹子さんに誘われているので”
「あ、ああ・・悪かった。・・またな」
そういって私は一歩的に会話を終えた。どうやら向こうはそのつもりだったらしい。水を差してしまった私は慌てて申し訳ない気持ちになりながら電話を切った。 その時の気持ちは・・どことなく別の意味でつらいものであった。そして沸々と彼に対する想いが強まってきた。
353 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 19:51:16.12 ID:zq+z09/K0
そのとき私はなぜか外に出たくなってきた。気分的なものではない、本能的にだ・・。次第に自分にまとっている気持ちが本能的に出る 嫉妬だというのも自覚するのにそう時間はかからなかった。 やはり、あの時2人はデートに間違いあるまい。女体化してからそういった気持ちにはなぜか鋭くなっていた。どうも 男というものはそういった気持ちは本能的に疎いらしい。私も男だった時はそうだったのだから・・ かといって、本当なら友人としてそういうのは応援してあげるべきであろう。こういった嫉妬に塗れているのではなく素直に2人の友人として 送り届けるべきであろう。だけど・・なぜか私の中の部分が“それ”を許さなかった。
(ざまぁねぇな・・嫉妬なんてよ・・)
私はそんな自分の気持ちを嘲笑しながらとある橋の上に立ち止まりタバコに火をつけた。不思議といつも味わっているタバコの味が今回はまた別に深く苦味のある味へと 感じていた。まるで今の私の気持ちを表しているかのように・・
私はタバコを吸いながら橋の先をただ一点と呆然としながら見据えていた。
「・・・・フッ、俺も知らないうちに女になったものなんだな。あんな奴に恋しちまうなんてよ・・」
煙を吐き出しながら、私はこの気持ちは誰かに恋する故から出る嫉妬だと自覚せざるを得なかった。それに異性をかけた女の戦いなんてバカバカしいにも腹ただしく思える。 自分の都合のために友人を見捨てる人間にはなりたくはなかった。だからといってこの嫉妬はどうにかしなければ後々の私の人間関係や私自身に大きなヒビを入れる。
私は吸殻を川に投げ捨てるとそのまま部屋へと戻ることにした。
355 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 20:09:59.22 ID:zq+z09/K0
それからしばらく月日が経った。あの日以降、3人ではちょくちょく会うのだが・・個人個人と会うとなると、どことなく胸が締め付けられて いるように苦しかった。そんなこともあってか、ここ数日は2人と出会うのも息苦しくなってきた。特に撤兵と2人きりとなると、どうしても彼のことを 思い出してしまうのでいつも胸がつまるような思いであった。いつも普段どおりに話したかったのだが、日に日に私の中で大きくなっている嫉妬がそれを 邪魔してなかなか思うように言い出せなかった。
そんな気持ちのままさらに数日の月日が経過した。そして・・撤兵が私にあることを聞いてきた。
「なぁ、冷夏・・お前、泰助の誕生日って知ってるか?」
その日、珍しく撤兵が私の部屋を訪ねてきたので私はうやむやの気持ちのまま撤兵を迎え入れた。しばらくはお互い、和気藹々とした会話をしていたのだが 突然、撤兵が口調を変えて私に語りかけた。
彼の誕生日を知っているかと・・・
356 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 20:10:16.78 ID:zq+z09/K0
私は体中からビクンッと本能的な危険信号を感じたが、すぐにそれを抑えてすぐに答えた。だけど突如として私の中に溢れ出す黒い黒い・・深い感情は 留まることを知らなかった。
「さ、さぁな・・俺もわかんねぇや・・」
「・・そうか」
あの日から不味いタバコが更にいっそう不味くなった日であった。その会話の後は互いに気まずい雰囲気となり撤兵は帰っていった。私はその空気を何とか 打破したかったのだが・・全身から嫌というほど感じるその感情は私にそのことを喋る事さえも許さなかった。撤兵が帰った後、私の心はぽっかりと穴が開いたかのように 部屋の空気の流れを嫌というほど感じた。
それに堪らなくなり私は部屋の外を飛び出した。
360 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 20:52:57.57 ID:zq+z09/K0
部屋を飛び出した私はそのままあてがいもなく走り続けていた。とにかく私はこの辛い現実から一刻も早く逃れたかった。 早く・・早く・・この迫り来る辛い気持ちやこの現実から逃れたかった。私は走り走りぬき走りながらこの世界を彷徨っていた・・ だけど、いくら私が走り続けていてもそれは単なる逃避に過ぎなかった。結局逃避したって所詮はただの一時しのぎ・・私は走るのを やめた。すると、我武者羅に走り続けて見えなかった周りが徐々に見えてきた。そのまま私は歩き続けていると、とある神社が目に立った。 そこで休憩していこうと思い、タバコに手をかけた。
だけど・・私はそっとタバコを納めた。いや、収めたんじゃないこの身体が吸うことを拒絶したのだ。もう、吸うたび吸うたびに不味い味となり虚しさが 煙とともに身体から充満される・・ 私はそのままタバコを中身の入ったまま投げ捨てるとそのまますとんと力が抜け、その場に立ちすくんでしまった。おのずと私の中からは今まで 溜め込んだ黒い部分が大々的に噴出された。
「畜生!!!!畜生畜生畜生畜生・・・畜生ォォォォォ!!!!!!!!!!」
まるで罪深き人が教会で懺悔するかのごとく・・私の中に堪りに堪り、徐々に肥大していった黒い嫉妬の感情は留まることを知らずに私の中から 放出されていった。
「・・・・・・・糞ッ!!これから俺はどうやってあいつらと向き合えばいいんだ!!素直に祝福できない、かといって!!・・それを許す事もできはしない これから・・これからどうやって生きてゆけばいいんだよ・・・ この想いはどうすりゃいいんだよ・・
わからねぇよ・・」
私はそのままたくさんの感情を放出すると、今度はそのまま脱力し泣いてしまった。もう、私は感情を抑えるのが限界に達していた。素直に2人の仲も祝福できない。 かといって、彼に対するこの想いも捨てきれない・・むしろ徐々に肥大していくばかりだ。取り返しがつかない・・考えれば考えるほど身体がえぐられるように痛く苦しいものだった。
恋と友情の狭間・・これがどんなに辛いのか骨身に嫌というほど染みた夜であった。
362 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 21:08:52.16 ID:zq+z09/K0
しばらく泣いてか・・へなへなとしたままようやく私は自力で立ち上がった。だけど・・気持ちの整理もつかぬまま私は人の通りの多い 繁華街を歩いていった。歩いてみると街にはいろいろな人がいる。希望するもの、絶望するもの、何かをやり遂げたもの、何かに挑もうとするもの・・
いろんな想いの詰まった人たちがこの街という街を彷徨うように歩いていた。
さまざまなネオンが私を照らす中、私は彷徨い歩き続けた。時には誰かに声も掛けられた・・だけど私はそれに気づかずそのまんま歩いた。 人と話すことがこれほど辛いなんて初めて感じた。今の私はもう、理性すら働かない感情的な存在になっているので、話してしまえば誰かを殺してしまいそうな 勢いだった。
しばらくしてか・・何にもなくなった私はそのままあの土手に来ていた。歩いて歩き続けた結果だろう。私は土手に座り込むとそこから見える月をじっと 眺めていた。月は私の心とは対照的にその銀色とコンパスで描いたような球体をじっと維持し続けて私に月光を浴びせてくれた。私が呆然と月を見続ける中、とある声が 聞こえてきた。それもえらく聞き覚えのある・・私は立ち上がり自然とその声に導かれるように声の方向へと歩いた。
そして声の方向へしばらく歩いていると、何とあの診療所のジジィがいた。ジジィは私に気づくと酒を片手に私に突き出してきた。
「あんた・・」
「ほぅ・・お前か?ご覧の通り月夜を肴にして楽しんでいるぞ。ほれ、飲まんか?」
ジジィは酔っているのかどうかわからなかったが私に茶碗を差し出した。
364 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 21:26:21.33 ID:zq+z09/K0
私は黙って茶碗を受け取った。そしてジジィは私の茶碗に日本酒を注ぎ込んだ。
「どうした?死んだような魚のような目をしおって」
「・・うるさい」
私はそのままプイッと顔を背けるとジジィは再び月の方向へ顔を向けた。そのまま静かな時が周辺を支配した。私も酒を飲みながら ジジィと一緒に黙って月夜を眺めた。時折、日本酒から浮かび上がる月の模様はまた色濃く私を酔わせてくれた。しかし・・こうしてジジィと酒を酌み 交わしあっても私の中に残る黒い感情は消えることはなかった。
すると、ジジィが突然語り始めた。
「人間というのは不思議でな互いに誰かを想って愛し合う。・・だけど、それが2人の場合はちと複雑なものとなる。互いの女が1人の異性を好きになり 思いを寄せてしまう・・そしてその女たちはその1人の異性をめぐって自分自身のありとあらゆるものを出し合って最終的にどちらか1人が その異性の心をゲットする・・お前はどう思うかな?」
「・・ケッ、知るか」
私はそのまま酒を飲むと月を眺めた。答えたくなかった・・何せ今の自分と全く同じ状況だったから。だから答えたくなかった・・
そのままジジィの喋りは続いた。
367 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/17(日) 21:34:20.29 ID:zq+z09/K0
「人を好きになるのは仕方のないことじゃ。濃とてこの人生の中、いろんなことがあったな・・」
「ほぉ・・じゃあ、さっきのようなことはあったのか?」
私の質問にジジィは下を向いて少し考えながら再び視線を月夜に戻した。
「さぁってな・・昔のことは覚えてないわい」
「・・そうかい」
その時の酒の味は・・妙に不味かった気がした。そのまま酒に浮かんだ月を見ながら酒を飲んだ。酒に写った月はそのおぼろげな 姿かたちを保ったまま水面にポツリと歪んだ。しばらくそんな月を見ながら互いに酒を酌み交わしあっているとジジィは空っぽになった 日本酒を持ったまま立ちあがった。
「この人生・・いくらでも悩みはバカみたいにある。お前もぐっと悩んで思いつめるがいい。お前の中に秘めている想い伝わるといいがな・・」
「・・お、おい!」
「じゃが・・その秘めたる想い、必ずしも伝わるとは限らん。むしろ、伝わらないこともあるだろう。じゃが、若いうちは何の躊躇いもなくその想い伝えておけ。さすれば気持ち良くなるぞ ・・以上、人生の先輩からのアドバイスじゃ」
そういってジジィは日本酒を片手に足早と立ち去っていった。
最終更新:2008年09月17日 19:17