560 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 12:34:50.21 ID:XYdsQHRS0
それからとんとん拍子に事が運び、収入もお互いの現在のように安定して私たちは結婚した。流石に式をあげる暇はなかったのだが 彼と結婚できたことのほうが大きくてうれしさで一杯であった。彼・・いや、旦那のほうも研修医を経て5年ぐらいは病院での下積み 生活を経て・・今の院長の椅子へと上り詰めた。無論そこには彼の努力と情熱、私のほかならぬ愛情で成り立っていたのは言うまでもない。 私のほうも、仕事に十分慣れ学校を転々としながら今の学校の保健室の先生として落ち着いた。結婚を機に、私たちは今の新居へと移り住んだ。 前のようなボロアパートではなく、しっかりとしたマンションである。そして彼が院長になったのと同時に意外な人物の過去がわかった。 ・・それは彼が師事していた、あの診療所のジジィについてだった。ジジィは昔は誰もが知る凄腕の医者であり、数多くの手術を経験したまさにスーパードクターであった。 だけどとある理由で自ら職を辞しており、あのような診療所を構えるようになったという。意外な事実に彼は無論、私も驚いた。やはりあのジジィは単なる エロジジィではなかったのだ・・
そして、撤兵のほうも遠い異国の地でバリバリ仕事をこなしており、前にも女体化に対する論文を提出したときには世界中で騒がれていたほどだ。今でも遠い異国の地で 女体化の撲滅を目指しながら日に日に精進していっている。それに撤兵も私たちに遅れながらも外国で出会った日本人と結婚して1児の母となった。 前に日本に帰国したときは子供と一緒に私たちの元へと遊びに来てくれた。子供は女の子で名は若菜と名付けたそうだ。若菜はとても元気で人懐っこかったため私たち夫婦にもすぐに懐いた。 だけど・・互いの方向性の違いによりあっさりと離婚してしまった。・・この事実を聞いたときには、驚きよりもこの世の中は不思議だなと思った。
・・だけどあの時、負った傷はまだ完全に癒えたわけではない。今でも時々、伊吹のことを考えると傷が体中から痛み出す。私たちの罪は十字架のように張り付いている。だけどそんなときこそ、私たち夫婦は 互いを慰めあい・・そしてゆっくりと傷の痛みを耐えながら生きている。あの時・・未熟な私たちが生み出した、大きな大きな罪・・・果たしてちゃんと償っているのだろうか?
その意味がスクリーンに映し出されることがなく私は朝を迎えた。
562 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 13:03:11.23 ID:XYdsQHRS0
朝・・それはすべての1日も始まりであり、すべての始まりである。私はシャワーを浴びて簡単に化粧をして着替えて台所に向かうと朝食と 書置きが置いてあった。どうやら旦那のほうは先に私の分の朝食を作った後、出掛けたらしい。それに書置きには大きな手術となるので帰るもの かなり遅くなるようだ。私は仕方ないと思いつつも、旦那が私に作ってくれた朝食を1人寂しく食べながら車で学校へと向かった。 彼と結婚した後、私は車の免許を習得した。いつまでもバイクだときついし、それにせっかく広い家に引っ越したのだから自分の車ぐらいは欲しかった。 自家用車は今まで貯めてきたお金を奮発したものだ。かなりの高性能であり、ゆとりのあるものだった。相棒のほうも引っ越す際はちゃんと引き取ったのだが 最近は余り乗っていない。たまには昔を思い出して乗ろうとは思うのだが、なかなかそんな暇はない。 まだ少し長年付き合ってきた相棒には眠ってもらいたいところだ。
そして今日も車で学校へ向かうといつもの一日が始まる。車内ではタバコ臭いとよく言われるが・・まぁ、それはご愛嬌というものであろう。 そのまま今日も私は数多くいる生徒の相談を受けている。それにいつも懐には麻耶からもらったあのぬいぐるみを肌身離さず持っている。これにはかなり お世話になっていた・・
「礼子先生!!・・ちょっといさせてくれ」
「・・今日は何があったの?」
保健室に来た人物・・かの有名な悪である相良 聖。今は見事な女性であるが、女体化するまでは札付きの不良であり。度々、喧嘩沙汰を起こしてきた超問題児である。 過去の私と比べると・・まぁ、ちょっとはかわいいものだが、それでも過去の私を若干ではあるが見てしまう。だからこそ・・ついおせっかい焼きになってしまうのだろう、私はそのまま書類を 書きながら聖をそのまま出迎えた。なんで保健室に来るかは・・言うまでもなかった。
「で・・今日は何があったの?また愛する彼氏と喧嘩したの?」
「ち、違うッ!!俺はちっとも悪くない!!悪いのは俺に尽くさんあいつだッ!!!」
「はいはい・・頼むからそんなに暴れないで頂戴」
私は聖を抑えると書類を書き続けた。
564 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 13:38:04.97 ID:XYdsQHRS0
書類を書き終えると、私はそのまま聖と話しこんだ。やはり、女体化する前は共に不良だったことから自然と波長があるらしい。それにこの調子だとほかの生徒も 来ないようだったのでこのまま生徒話しこむことにした。 今までにも女体化した生徒を数多く見てきたが、聖のような子は始めてであった。女体化する不良というのは見たことがなかった。 考えてみれば聖はこんなところで油売っても大丈夫かと思っていたのだが、彼である翔が家庭教師をしてあげているらしい・・ それに共に名の知れた不良である2人がこんな形でくっついたことは私自身も驚きだ。だから余計・・感情移転しているのかもしれない。 さらにこの2人は話のネタになるため、遠く海外にいる撤兵にもよくこの2人のことは話している。
だからこそ・・この2人には私と同じような悲劇を歩んでほしくない。教師として・・そして同じ出来損ないの仲間として・・
しばらく聖と話しこんでいた私なのだが、このまま聖と話すとタバコが吸えない事に気がついた私は聖をここから帰すことにした。
「さて、もうすぐで次の授業が始まるわよ。・・ちゃんと、彼とも話し合いなさい」
「わ、わかってる!!・・ただ、ちょっと誰かに話したかっただけだ」
「はいはいわかったから、さっさと次の授業に出なさい」
そういって聖はチャイムと同時に保健室から姿を消した。流石に名の売れたことだけであって気迫と迫力は一人前ではあるが私から見ればまだまだ子供だ。 将来が楽しみな生徒である。もしかしたら・・私のような悲劇を回避できるかもしれない。そう私はタバコを咥えながら信じたかった。
そして聖が去って数分してからか・・また保健室の扉が開かれた。
565 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 14:02:11.42 ID:XYdsQHRS0
「あ、あの・・礼子先生!!相談が・・」
「はぁ~・・てめぇはなんでこんなときに来るんだ!!」
聖と入れ替わりに保健室に入ってきた人物・・彼氏である中野 翔だ。唯一この学園で私の素の部分を知っている人物である。聖よりも勉強がよくでき この学校でもトップクラスのものだ。・・だが、いざ彼女である聖絡みになると自慢の頭脳もあたふたと混乱してしまうようだ。男としては正しいというのかどうであろうか 迷うところである。 それに言っておくが私は悩めるカップルの相談員じゃなくて列記とした保健室の先生である。生徒間の恋の悩みはある程度は答えられるが人のカップルの 痴話喧嘩やも揉めあいなどは専門外だ。このところ、保健室に来る人物はこのカップルである。この2人は保健室の意味を履き違えているのだろうか?
そんなことを考えながらタバコを吸うと翔は保健室に入ってきた。最近の事情により学校内では禁煙化が進んでいる。もし、吸っているところを生徒にでも見られたりしたら示しが つかないどころか下手すれば減給ものである。私は即座に翔に周りを確認させると窓を締め切り、保健室の換気扇を回しタバコを再び吸い始めた。
そして改めて翔の相談に応じた。まぁ、どうせ内容はわかりきっていたのだが・・
566 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 14:02:49.48 ID:XYdsQHRS0
「んで・・用事は?」
「い、いや・・あの、あいつがここに来たかなっと思って」
「はぁ~、お前たちカップルは私を何だと思っているんだ・・」
そういいながらも私は翔の相談を聞いてやった。何でも、喧嘩の原因はどちらかが料理をするかしないかで揉めたらしい。当人同士で解決してれっと思いながらも、やはりこの2人には特別な想いが あるらしく私はタバコを吸いながら対応してあげた。
「いいか、私だってその・・旦那に作ってもらっているが、お前も男なら自分の意見を突き通せ!!旦那の場合は好きでやってくれたがよかったが・・お前は違うだろッ!! こういった喧嘩はな男が骨を折ったら負けだ!!」
「だけど・・もしそれが原因で俺あいつに嫌われたらどうすんだよ・・喧嘩してからもう2週間近くも会話してなんだぜ?」
どうやら惚気といものは男女共に変えてしまうものらしい。私は頭を悩ませながらもタバコを消して、新しくタバコを取り出し火をつけた。
567 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/20(水) 14:18:28.37 ID:XYdsQHRS0
「お前なぁ・・そんな情けない態度だからそういった喧嘩を長引かせるんだ!!!・・まぁ、言いたいのはそれだけだが、後は彼女と話せ。 一言、言ってやるが・・彼女だったらちゃんと信頼しておけ」
「先生・・わかった、何とかあいつと話してみる!!」
そういって翔のほうも保健室の前から姿を消した。私はタバコを吸いながらあの2人の将来を予想してみた。
「はぁ~・・ようやく終わったか。それにしても・・あの2人は雨ふって地固まるっと言ったところかな。良くも悪くもあの2人は互いを惹きつけあいながら離れようとはしないんだからな・・ もしかしたら、俺の頃よりもすぐに結婚してしまうかもしれないな。一応、避妊の確認はさせておくか」
そういって私はいつも聖にあげているピルを確認するともう少し多めに処方しようと思った。もしかしたらもしかしないかもしれないが、万が一ということがある。あの2人には望まぬ妊娠は 絶対にさせたくない。・・でも、あの2人だったら私たちの頃とは違い、どんな困難でも立ち向かえるような気がする。たとえ大きな衝撃があったとしてもあの2人は持ち前の絆の強さで あらゆる事に立ち向かえるだろう。
私はあの2人には私たちとは全く違った“強さ”をもっていることを信じてやまなかった。もしかしたら・・万が一のことがあってもあの2人なら互いに助け合い、支えあいながらどんな苦境でも 立派に乗り越えていける・・そんな気がした。
(私も旦那も・・あれぐらい強かったらもしかしたら今頃、伊吹と一緒に生活できていただろうな・・)
私は今もきっとどこかで私たちを待っている我が子との生活を思い浮かべながら業務を続けた・・
67 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 03:49:49.15 ID:HMk72zMO0
あっという間に月日が経つもので、多数の問題を抱えながらもあの2人はこの学校を無事なんとかこの学校を巣立てた。 でもやはりあの2人がこの学校を卒業後、少し寂しいものであったがそんなことばかりも言っていられないので保健室の業務を続けた。 しかし・・やはりあの2人以来の個性の強い生徒はなかなか入学してこないもので・・贅沢な悩みではあるがもう少し日常に刺激がほしかった。 それに聞いた話だと、あの2人は卒業を機に同棲を始めたらしい・・考えてみれば私たちも半同棲生活であったため人のことは言えないが まぁ・・道を外さないでほしいっと思っておこう。撤兵のほうも最近はあまり休みが取れない状況であるらしい・・しかし、外国へ旅立ってまだ短期間であるのに 持ち前の適応力でドンドン出世をして、今や主任らしい。これには私はおろか彼もかなり驚いていた。彼のほうも比較的短期間の勤務で院長まで上り詰めたのだが 撤兵は慣れない異国の地であそこまで上り詰めるとは正直思わなかった。
そんなこともあったのだが、私は旦那と一緒にいつもと変わらぬ平凡な日々を送り続けていた。旦那のほうも仕事が軌道に乗り続けたのか楽しそうに院長業を続けている。 病院のほうも余り大きくはないのだが、噂に噂を呼びいつも人が多いらしい。それにどうも旦那自身はデスクワークが苦手なようで現場で指揮するほうが得意なようであった。 前にも結婚記念日に手術ですっぽかされたことがある。まぁ、いくら仕事とはいえ結婚記念日をすっぽかされた私は怒りに怒りたかったのだが・・ ちゃんとその日には手術が終わった後、本人曰く、神速の速さで食材を買い込み私のために腕よりの料理を作ってくれた。まぁ、そのおかげで私が改めて旦那に惚れ直したのは 言うまでもなかったのだが・・
そんなのんびりとした日々を送っていると、私たち夫婦の元に一通の封筒が届いた。その日は休みであったので私は旦那の淹れてくれたコーヒーを飲みながらのんびりしながら封筒を空けて 中身を見ると・・・私を驚かせる衝撃の内容が書かれていた!!
72 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 04:02:05.18 ID:HMk72zMO0
「なッ!!あいつらが・・け、結婚だとぉ!!!!!!!!」
封筒の中身・・それは結婚式の招待状であった。そんなことは別に驚きはしなかったのだが、私は結婚する相手に驚いた。・・あの2人が明後日に結婚式を挙げるらしい。しかし・・まだ大学を卒業して就職に 着いたばかりであるのに結婚をするなんてかなりの驚きであった。旦那のほうも横で驚いている私につられるようにして驚いていた。
「ど、どうしたの・・礼子さん?休みの日なのにそんなに大声出して慌てて・・」
「どうもこうもしてられるか!!!・・俺の生徒が結婚するんだよ」
「へー・・よかったじゃん」
「あのなぁ!!・・あいつらはまだ大学出のひよっこだ!!まだ結婚するなんて甘すぎる!!!!」
まだまだ、ようやく社会に出て行っていけれるレベルなのにそのときに結婚とは甘すぎる。私は即座に電話を取り出しそのままあいつらに電話をかけようと思ったのだが・・ 旦那は私の手を止めた。
73 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 04:02:33.87 ID:HMk72zMO0
「まぁまぁ・・確かに早すぎる結婚はよくないと思うけど、この2人は礼子さんがよくかわいがった生徒なんでしょ?なら大人として この2人を信じてあげようよ・・それに、その2人は僕たちのようにはならないよ。なぜか・・そんな気がするんだ」
「・・・そうだな、どれだけもがき苦しむか見ていてやるか」
そういって私は受話器を納めた。あの2人には並々ならぬ強さを感じたのは事実だ。私たちが悲しみを乗り越えそこから得た強さとはまた違う新たな強さ・・あの2人には それがあった。だから私は余計にあの2人におせっかいになったのかもしれない。でも、強さだけでこの現実を乗り越えられるほど甘くはない。時には傷つき絶望することもあるであろう。 だから・・余計心配なのかもしれない。
「なら・・最後に先生として説教でもかましてやるか」
「・・すっかり教師が板についたみたいだね。さ、服でも買いに行こうか・・礼子さんの生徒の晴れやかな舞台だし」
旦那は私に車の鍵を手渡すと、私たちはそのまま車で結婚式の服を買いに行った。
75 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 04:21:23.93 ID:HMk72zMO0
そして結婚式当日・・私は旦那と共に式場へと向かった。偶然にも式場は今の家から歩いていけれるところであったので車を使わなくてすんだ。親族に挨拶を交わすとそのまま席に座った。 まだ本来なら少し早すぎる結婚だが私たちは2人の未来に幸せを祈りながら精一杯祝ってあげた。考えてみると私たち夫婦は結婚式など挙げる暇がなかった。 私の横にいた旦那がこう呟いてくれた。
「ねぇ・・僕たちも式を挙げようか?」
「・・考えてやるよ。まぁ、その前に撤兵の仕事が落ち着いたらの話だけどな」
結婚式など余り考えたことなかった私だったが、ドレスに身を包んだ聖の姿はどことなく美しかった。それに表情のほうも幸せそうで曇りの一点もない満面の笑みを 浮かべていた。私もああいたドレスを着たらあんな表情となっているのかどうか・・だけど、考えてみれば私はもう両親から捨てられた身だ、彼と結婚するときには彼のほうの両親にはちゃんと挨拶をしたのだが 私のほうの両親にも一応、書類で報告したのだが・・返事は帰っては来なかった。それに彼の両親も去年に亡くなっていたので今頃、結婚式を挙げるとなれば寂しいものとなっているだろう。 だけど・・3人で結婚式を挙げるのも悪くはないのかもしれない。
「・・あいつら、幸せそうでよかったな。旦那となったあいつもしっかりとやっていけそうだ・・」
「そういえば、新郎のほうは前に僕の病院に入院してたね。驚いたよ、不良といったらかなり暴れそうだって聞いてたからどんなのか予想したけど、意外と礼儀正しかったのは驚いたな。そういえばあの時、病室に 入っていったね。・・何か言ったの?」
「ん?・・ああ、ちょっとな。同じ男としての心得を教えてやったんだ」
そういって私は幸せ120%の2人を見つめた。旦那のほうにも2人についてはちょくちょく言っていたのだが、やはり何とかやっていけそうなのを私と一緒に確信したようだ。 そういえば・・翔のほうと話したって言ってたっけ?不良にしては感じがよかったと褒めていたな。
何はともあれ・・この2人には決して私たちと同じような悲劇を歩んでほしくないものである。でも、きっと・・この2人なら大丈夫だろう。そう私たちは確信しながら結婚式を楽しんだ。
76 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 04:38:15.01 ID:HMk72zMO0
「――ッ!・・少し飲みすぎたか」
「はぁ・・少し飲みすぎだよ、いくら礼子さんがお酒強いっていっても限度があるよ」
華やかな結婚式の本番・・それは二次会である。かなりの酒を飲んだ私は旦那に連れそられながら帰り道を歩いていた。 時刻はもう夜・・昼間の光景と違って街々にはネオンが暗い夜を照らしてくれた。その光景は高いところから見たらさぞかし幻想的な 光景であろう。・・だけど、ここから見る街並みもそう悪くはない。それにしても・・日本酒を2本までに抑えたつもりなのだが、少し飲みすぎたようだ 夜風が酒で火照った体を心地よく冷やしてくれる。
「ま、あいつらもこれからどうなるかは見物だ・・私たちのようなことにならないことを祈るよ」
「・・そうだね」
旦那に付き添われながら私は街々を歩いていった。待ちにはたくさんの人が連なりながら景色を彩っていった。街にはいろいろな人がいる・・ 私も振り返ってみればいろいろなことの連続であった。何度も何度も悲しみに撃たれてダウンしそうなときに周りの人間が私に手を差し伸べてくれた。 だから私は何度も立ち上がりこうやって歩いている。・・みんな、自分の弱さを隠しながらこうやって生きている。だけど・・いつかはその弱さが身体に染み渡り 徐々に腐らせていく。その弱さに立ち向かうためには同じ人と支えあい乗り越えていくしかない。人間というものは弱くて・・強い生き物なのだから。
そんなことが頭によぎっていると・・とある子供が私たちの前を通り過ぎた。私はそれを呆然と見ていたのだが・・その子供は荷物に私が見覚えのあるとあるものを つけていた。
77 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 04:49:14.62 ID:HMk72zMO0
(・・あれは!!)
私は急に立ち上がり、旦那に荷物を持たせると全速力でその子供の後を追った。
「礼子さんッ!!・・ど、どうしたの?」
「悪い!先に帰ってくれ!!」
私は必死に子供を見失わないようにその後を全力で追いかけた。その子を追いかけていると、私の中ではある思い出がリフレインされていた。 それは・・私の最初の教え子である麻耶と別れるときであった。私は麻耶と別れる際にとあるものを渡していた。それは・・麻耶と一緒に作った人形であった。 せめて、麻耶と別れるときに私という存在を麻耶に留めてあげたい・・そんな想いで私は麻耶にあの人形を渡した。あの子供は持っていたカバンにそれをつけていた。 忘れるはずがない・・あれはどこにも売っていない、世界でたった一つしかない人形だ。 私はあの子を必死に追いかけると・・あの子は1人の女性と合流した。その女性はあの子の母親らしい。顔の感じとか雰囲気がそっくりであった。
・・そして、私は女性に向かって叫んだ。
「麻耶・・麻耶なんだろうッ!!!」
女性は・・私の方向に振り返ると、その顔を見せてくれた。その女性は私の存在に驚きながら私に向けてこう呟いた。
「――ッ!!・・れ、礼子先生・・なの?」
やはり私の記憶に間違いなくどんなに大人になろうとも・・その女性は麻耶であった。
78 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 05:11:44.44 ID:HMk72zMO0
「・・麻耶、なんだな?」
「・・礼子先生ッ!!!!!」
麻耶は泣きながら突然私に抱きついた。やはり・・成長していてもこういったところは変わりなかった。思いがけない再会・・麻耶の横にいた子供はいったい何なのかわからない顔を しながらこちらを伺っていた。私は麻耶を離すとその子供について尋ねた。
「その子は・・お前の子か?」
「はい・・美雪です」
あの日からもう何年経ったであろう・・麻耶は立派に成長して子供まで儲けていた。だけど、いくら月日が経っても麻耶は私に対する思いを失ってはいなかった。 また・・1人、私は教え子の成長を見届けることができた。私たちはそのまま場所を変えて喫茶店へと入っていった。麻耶の子供・・美雪は本当にあの頃の麻耶と似ていて物静かなところは そっくりであった。だけど・・麻耶が私について話すと徐々に懐いてくれた。
喫茶店の店内に入った私たちは・・積もる話を潰すことにした。
「いつ・・戻ってきたんだ?」
「2年ぐらい前です・・旦那の仕事が落ち着いたものですから帰国しました」
そういって麻耶は家族の写真を見せてくれた。そこには幸せそうな家族の風景が写っていた。麻耶の旦那は日本人で海外で大手の商業系の会社に勤めているらしい。 当人たちもとても幸せそうで喫茶店に入ったときは携帯で旦那に連絡していた。見るもうらやむ健全な関係といったところであろう。私はあの日以降・・麻耶の半生を聞いていた。
麻耶が幸せな生活を送ってくれて本当によかった・・
80 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 05:22:34.35 ID:HMk72zMO0
「あの時は連絡が取れなくてすみませんでした。・・慣れない海外の生活に慣れるのが大変でなかなか連絡を取る暇がなかったんです」
「そうか・・まぁ、俺は麻耶が幸せそうな生活を送ってくれるだけで何よりだ」
「そういえば・・礼子先生はちゃんと先生になったんですか?」
「ああ・・まぁ、先生といっても保健室の先生だけどな。それでも・・よく俺の元にはいろんな奴から相談が来るよ」
私は前にいる麻耶にいろいろなことを話した。麻耶がいなくて寂しかったことや撤兵との女の争い・・そして、伊吹のこと・・今まで歩んできた道を麻耶に語った。 今度は麻耶が黙って私の話を聞く番であった。麻耶は驚きながらも私の半生をじっくりと聞いていた。
「そっか・・先生もいろんなことがあったんですね」
「ああ、いろいろなことがあったさ・・」
私は思い浮かべながら今までのことを振り返ってきた・・いろいろなことが思い出となって私の成長の糧になる。時には一生消えない傷も作ってしまった。その傷は 痛みと共に今まで味わった私の辛さを忘れさせようとはしない。いろんな複雑な出来事が絡み合って今の私という人間が出来上がったのだと思う。 一杯辛いことも経験した・・だけど、その度に幸せとなって返ってくることもある。この成長した麻耶との再会のように・・
しばらく私たちは時間を忘れて思い出話に耽っていた。今まで知らなかった麻耶がわかって、とてもいい気分であった・・・
81 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 05:39:17.92 ID:HMk72zMO0
もうしばらく時間の忘れて麻耶といたかったのだが・・麻耶のほうが旦那と会う時間が来てしまったため今日はお開きとなった。私は麻耶にとある紙を渡した。
「・・じゃ、これ俺の携帯のアドレスと家の住所、また暇になったら美雪でも連れて遊びに来てくれ」
「はい、絶対に来ます。じゃあ、旦那を待たせてあるのでこれで・・」
「ああ・・じゃあな」
そういって麻耶は美雪を連れて帰っていった。私は成長して母親の顔となった麻耶が少し羨ましかった。だけど・・いくら成長しても麻耶らしい部分はちっとも 変わっていなかった。だから余計に教師として、子供と歩く麻耶が誇らしかった。
(麻耶・・お前とまた出会えてよかったよ)
そういって私はそのまま家に帰ろうとするが・・道がわからなくなった。私がこのまま意気消沈している中・・私の前にとある人物が現れた。その人物は・・誰かとは言うまでも なかった。私はその人と一緒に帰ると・・とある考えが脳裏をよぎった。
82 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 05:42:35.79 ID:HMk72zMO0
「・・帰ったんじゃなかったのか?」
「礼子さんはどこか抜けているところがあるからね・・もう何年も旦那をやればわかるよ」
「・・そうか」
私はそのまま旦那と一緒に帰り道を歩いた。ふと・・旦那と帰っているといつも思う。
もし・・旦那が私の元に現れなかったら
もし・・私じゃなくて撤兵を選んでいたら・・・
さまざまなifが私の脳裏に飛び交う中・・私は足を止めた。そしてふと空を見上げる・・漆黒の暗い暗い夜の空、すべてを飲み込むかのような深い深い 漆黒の色・・あのまま自分自身が作り出した闇に飲まれていれば、今の私はなかったかもしれない。だから不安だ・・そう考えると今もこうして自分が存在しているのが 怖いぐらいであった。
再び立ち止まった私に彼は再び手を差し伸べてくれながらこう言った・・
83 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2006/12/21(木) 05:50:44.32 ID:t1ZNd9WR0
「さ、帰ろう・・僕らの家へ」
彼は再び純な笑顔に戻り私に手をとってくれた。私は女体化して・・いろいろなことに見舞われた。だけどその度に彼と一緒にそれを乗り越えて 今の幸せを手にした。そう考えると・・先ほどの恐怖心も消え去り自然と笑みが浮かんだ。
「俺は・・女体化してお前と出会えて最高だよ」
心より彼に対する感謝の言葉・・様々なことを考えてしまうが、結果は横にいる彼と出会えて・・最高だ。だから、いろいろなことが 舞い込んでも乗り越える自信と勇気がある。人はそれを持ち続けるからこそ、あらゆる困難に立ち向かう気力と生気が自然と溢れてくるものだ。
彼は・・そんな私の心よりの言葉を聞いてか笑顔になってこう答えてくれた。
「僕も・・君のような女性に出会えて最高だ」
「・・ありがとう」
私は再び彼の手をとりながら漆黒の闇の中にある暖かい道を歩んだ・・これからも不安や困難はたくさんあるだろう、だけどこうして彼と手を繋ぐことによって 不思議とそれらが暖かみのあるものへと変わって私たちを癒してくれる。
だからこうして私たちは一歩、一歩・・・前に進めるんだ。
fin
最終更新:2008年09月17日 19:18