『現実へ・・』

45 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:26:26.95 ID:Vml+ag690

とある病で女体化してから早、数十年・・いまさら昔に未練やそういたのは全くないが全然、後悔していないとは言えない。 病気によって女体化したと言う事実は自然の定理から全く外れており本来ならありえないことなのだが、どこが狂って しまったのかこの病は現にこうやって私たちの生活に何食わぬ顔をしながら云々としている。

でも、この性別変換が暗かった私の過去を一掃してくれたのもまた事実・・こうやって保健室の先生をしているのは 何ともまぁ不思議なものだろう。

「そうして俺様があいつを従わせたわけだ。女になっても俺はすげぇだろ!!」

「はいはい・・わかったから」

この吐息をつくのはもう何回になるだろう・・教師になってからよく周りの人に丸くなったなとか言われるのだが、自分でも あんまり自覚がない。確かにいろいろなことがあって心にゆとりは着実にできつつあるのだがそれでも昔の情熱みたい なのは失ってもいないし失った覚えもない。だからよく周りには若々しいとかいろいろな事を言われるのだろう・・

47 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:28:42.17 ID:Vml+ag690

「はぁ・・なんかここ最近は退屈しっぱなしだ」

「・・あんたね、じゃあなんで保健室に来るのよ。私と話すよりも彼氏と話したほうが楽しいじゃない」

「だって、礼子先生と話すほうが退屈にならいんだよ」

「わかったわよ。もう好きにしてちょうだい・・」

こうでもしないと到底納得してもらえないだろう。この私を慕ってくれるのは大変うれしいのだが、教師である以上 多数の仕事を抱えている私だが、そこまで人に気の回る余裕など余りないものだ。それに彼氏と付き合ってから 保健室に来る回数が極端に多くなり、本人は気がついていないのだが若さ故におきるそのラブラブ振りを如何なく 発揮してくれる。

こんなのに常時付き合えるほど私は寛大な精神を持ち合わせていない、だからといって無理に追い返すのもどこか 忍びない・・だから好きにさせるのだ。

48 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:29:47.06 ID:Vml+ag690

この長い髪と女性の中でも豊満なスタイルが特徴的な女性・・この学園内での超問題児であり職員室の話題を 一気にかっさる歩く爆弾娘、もとい元超悪の札付きの不良・・相良 聖、その名前はかなり知られており この学園に入学したときなんかはかなりの騒動となったぐらいだ。

まぁ、その時の私には全く関係なかったのだが、女体化という奇妙な病が私たちを巡り合わせてしまったもので、 顔とスタイルだけは女性の中でもかなり上の部類に入るもので女体化したときには不良だった名前も手伝ってか、 別の意味で騒動になったのを今でも覚えている。

でもこんな昔の私と似たような経歴を持つ少女だからこそ、何処か自分と照らし合わせてるのかもしれない・・

「でも、授業なんてめんどくさくてやってられないな」

「・・あのねぇ、内心誰だってそう思ってるわよ。 私なんて大学こまめに通い続けてこうして教員になれたんだから・・勉強も捨てたもんじゃないわよ」

「でもよ、俺は何やっていけばいいのかわからねぇな・・」

意外にも、進路についてはある程度悩みを持ち合わせているようだ。 まぁ、それだけ私と違って精神的にも充実して心にゆとりがある証拠だろう、私の場合はそういったゆとりがでるまで かなりの時間を要したのだから聖の事を見ると恵まれているものだと実感させられる。

49 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:31:43.61 ID:Vml+ag690

「誰だってそうよ。たとえ夫婦でも私みたいに共働きがいいって人もいるわけだし」

「まぁ、そりゃそうなのだが・・この俺が仕事をしたり、ましてや専業主婦になるなんて気持ち悪くて想像できねぇな」

まぁ、確かにいずれにしても女性なんだから結婚して子供を産んでいくのは予想は容易にできるものだ。 しかし、この聖が母親業をなし得れるかは少し疑問に残るもので生まれてくる子供はさぞ性格がどぎつく、 かなり破天荒な子供になると思う。将来の旦那さんは大変な生活を強いられるのかもしれない・・まぁ、男と女どちらを とっても容姿に関しては問題ないだろう。 子供と言えば・・どうしても自分の犯した過ちについて考え込んでしまう、もう私は子供が産めない体となってしまった のだが目の前にいるこの女性には私と同じような過ちを犯してほしくないと切に願うばかりだ。

「はいはい、そろそろ授業が始まるから出てちょうだい。私はいつまでもあなた専用じゃないの」

「わかったよ・・また暇になったら来る」

チャイムが鳴ったのを見計らうといつものように聖を保健室から追い出すと人気がいないのをきっちりと確認して 部屋の換気をチェックしながら懐にあるタバコの箱に手をかけた。もうそろそろ生徒は帰り支度をする頃なので やはり仕事の合間の一服と言うのは欠かせないもので、たまっていたストレスやら鬱憤とかがスッと煙となって 消え去ってしまう。 まぁ、この光景を生徒はもとより同職である教師に見つかってしまえば停職は逃れないものとなってしまう、 だけどそういった危険を熟知しつつも長年から染み付いたこの行為はやめられない。

携帯用の灰皿で一本目のタバコをもみ消すとそのまま2本目のタバコを口に咥えながら火をつけた。

50 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:32:28.71 ID:Vml+ag690

「全くあいつらはちゃんとやってけるのか心配になってきたな。ちゃんとピルは支給してやってるから 妊娠の心配はないと思うが・・」

高校にもなると生徒も成長段階の証なのか多種多様な行為をする、特に性教育についても行為がまことしやかに 公認されれば学校の保健室から思わぬ妊娠を防ぐために保健室からピルが無償で支給される。 特に最近は中高校生で女体化してしまう子供が非常に多いので法律が変わり、生徒の行為が確認されると 学校からピルをもらえるシステムとなっている。

でも、いくらピルによって妊娠は防げると入っても完全には防げないもので極稀には妊娠してしまうケースもあるらしい。 私も昔はそういった完備が不十分で子供を流産させてしまった苦い記憶があった・・

タバコの白い煙が静かに保健室中に充満する中で・・あの2人には絶対に私の二の舞にはさせたくなかった。

52 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:34:20.49 ID:Vml+ag690

「礼子先生、今日はどう? 前々から先生とは一度、お酒を飲んでみたかったのよ」

「・・そうですね。行きたいのは山々ですけど私は車ですし・・」

「あ、そうだったわね」

放課後、いつものように職員室に日誌を返すと偶然、鈴木先生に飲みに行かないかと誘われてしまった。 だが、私は学校ではマイカー通勤なので基本的にお酒は飲みたくても飲めないのだ、こうして同僚の先生が 飲みに誘ってくれるのは大変うれしいことなのだが、それに付き合えないのが現状なのだ。

しかしこの鈴木先生は柔軟に物事を考えるようで少し考えると発想を変えてこう提案してきた。

「じゃあ、食事にしましょう。近くにいい店知ってるのよ」

「あ、それならいいですね」

軽いのりで今晩は鈴木先生と食事を共にすることにした。 まぁ、なんとも相手に合わせて考え方を柔軟に変えていくのは難しいもので自然に変えて行く鈴木先生は ある意味大物かもしれない。

一緒に私の車に乗り込むと鈴木先生は助手席に座りながら丁寧に道案内をしてくれた。

53 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:41:09.09 ID:Vml+ag690

「あ、そこ右ね。それにしても車内のほうはすごいタバコ臭いわね・・いったい先生は月、何本ぐらい吸ってるの?」

「そうですね・・1、いや2カートンぐらいですかね? 暇になったら吸うほうなので・・」

「うわぁ、そんなに吸い続けたら絶対にその内に肺がんになるわよ。せめて旦那さんのお世話にはならないようにね」

「そ・・そんな風には絶対になりません!!」

私は慌てながら反論するが鈴木先生はそんな私の反応を見ながら大笑いで私の反応を愉しんでいた。 しかし、本当に言うことは的を得ておりしかも突発的に言うので一瞬だが地が出そうになってしまう、一応この学園では 本来の私を知っているのはとある男子生徒なのだが・・もしかするとこの鈴木先生も本来の私の地を知っているのかも しれない。妙な緊張感を抱きながら私は店に向かって車を走らせた・・

そんな会話を繰り広げている内に鈴木先生御用達のお店に着くと私は車を駐車場に止めてお店の中へと入っていった。 店の中はいかにも女性向けな感じで店の隅々まで高級感を漂わせており、テーブルをよく見てみると料理はフレンチが 多くて私にはどうも馴染めない店だった。

席に案内されると綺麗な音楽が流れる店に少しうっとりとしてしまった。

「どう、見た目の割には料理も結構いけるのよ」

「へぇ・・」

メニューのほうを見てみると見た目の割には結構お手ごろな値段で良心的な店だということが伺えた、しかしどの料理も よく見てみるとどれも旦那が作っているような感じがして妙な親近感が沸いてきてしまった。 結婚してからもやっぱり料理とかは旦那に頼ってしまうところが多々あり病院から帰ってきてもいつもの癖でついつい 料理を催促してしまうことがある。

数分して私たちは手ごろなメニューを頼むと最初に出てきたドリンクで乾杯することにした。

55 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:46:16.97 ID:Vml+ag690

「さて、お酒じゃないけど仕事終わりを祝って乾杯しましょうか」

「あ、はい。お疲れ様です」

「お疲れ様~」

私たちは適当なドリンクで乾杯すると互いの仕事を労いながら話に花を咲かせていた。 やはりクラスを受け持っている教師はかなり大変なようで生徒一人一人のことを考えるのも苦労しそうだ、 しかし鈴木先生はそんなことをあっけらかんとしながらも楽しそうに私に話してくれた。

「まぁ、クラス受け持つのは大変だけど楽しいからこの仕事を選んだわけだしね。先生だってそうでしょ?」

「私の場合は女体化した生徒の心を和らいであげたいと思って選びましたから」

「いい理由じゃない、それに入学式で乱闘騒動起こしたあの相良に懐かれるなんてよほどのものじゃない。 あの子が女体化したときはかなり驚いたけど意外と美人さんよね・・」

そういえばそもそもの出会いはあの子に保健室を貸し与えたことによって交友が生まれたんだっけな。 それからいろいろな話をしているうちに徐々に昔の自分と照らし合わせてしまってどうしても放ってはおけない状態に なってしまったのだ。そういえば他の教員と話していいるときによく聖について相談されることがある。

どうも聖は授業をサボって保健室に入り浸ってしまう性質があり、よく他の先生から何とかして授業に出させてくれと 注文を受けたことがある。

しかしあの2人の絆を見てみるとちょっと羨ましいものを感じてしまうのも事実だ。

56 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:49:06.93 ID:Vml+ag690

「でも、私はほかの生徒の悩みにも受け応えなきゃいけないから1人に構っていられませんよ。 それにあいつらカップルはここ毎日、私の元へと着てますからね、おかげで毎回愚痴を効かされて 疲れますよ・・」

「へー・・でもあの子達、授業のときはちゃんと大人してるわ。精神的に安定してるのは先生のおかげね」

互いに料理をつまみながらも互いの仕事話に華が咲いてかなりの盛り上がりようをみせていた。 流石にお酒は頼めないものの鈴木先生はいつもの調子でハイテンションになりながら仕事のことについて話していた、 やっぱり私も以前に普通の教師を志していたことを思い出すとちょっとだけ鈴木先生が羨ましく感じてしまった。

私は本来かつての麻耶の経験を活かして小学校や中学校の教師を目指していたのだが、自分の過去を振り返ると 女体化によって苦しんでいる子供は多々いる・・その子供たちの不安を少しでも和らいであげたいと思い、一般の 教諭を取り下げて養護教諭の道へと志したのだった。

57 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:50:11.22 ID:Vml+ag690

「私は何にもしてませんよ。私はただどこぞやの結婚相談員みたいにあいつらカップルの愚痴を聞いてただけです」

「・・でも、羨ましいわ。私も人に教えるのは好きだけど礼子先生みたいに生徒の悩みに応えてあげて不安を癒して あげるのもいい仕事ね」

鈴木先生は少し複雑そうな表情をしながらもグラスにあったジュースを一気飲み干すとまたいつもの表情に戻り 私と雑談しながら楽しい時間だけが刻々と過ぎていった。 もしかしたら鈴木先生にも私と同様に仕事に関する悩みや授業に行き詰っているのかも知れない、鈴木先生は 2年生のクラスを受け持ってるのでそこまで忙しそうには見えないのだが、持ち前の人懐っこさから出る明るさと 柔軟な発想をするので生徒はもとより同職である教員の相談も受け持ったりしているらしい。

しかし、人間誰だって他人に相談した時だってあるだろう、だけどあっけらかんとして軽そうな感じの鈴木先生は 案外、人には弱みを見せない。

だからこういう風に人と楽しく飲んだり喋ったりしていることで仕事の鬱憤を忘れているのかもしれない・・

58 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/07(木) 00:52:19.42 ID:Vml+ag690

「今日はありがとうね、久々に誰かと喋れて楽しかったわ。・・旦那さんにもよろしくね」

「ええ、じゃあまた・・」

「明日また職場でね」

割り勘で勘定を支払い、車で鈴木先生を自宅まで送り届けると私は車を自宅へと走らせることにした。 そんな時、ふと考えてしまう・・この職業を通して本当に自分は満足しているのであろうか? 生徒の悩みには 出来る限りではあるが応えているものの果たして本当に生徒の負担は軽くなったのだろうか?  女体化に関しても同じだ、幸いにも私の学校には出ていないものの女体化によって自殺する子供たちは未だに 後を絶たない。何とか女体化を解明しようと私の友人がここ日本から遠く離れた国連の医療機関で日々頑張って くれている。時たま国際電話を通しては互いの心境を報告しあうのだが、やはり研究業は過酷なものらしい。 女体化というのはいったい私たち人類に何をもたらしているのだろうか・・?

赤信号で車を止めると、懐にあるタバコに手を掛けるとすっかり暗くなった夜空を見つめると昔、暴走族をしていた頃に 見つめていた夜空を思い浮かべていた。

「・・俺も帰る場所をちゃんと見つけて、人を信じるようになったんだな」

信号が青になり車の轟音によって私の小さな呟きは簡単にかき消されてしまった。 コオロギの声が響く中、私は今度、長い間ずっと眠っている相棒を再び使ってやろうと画策すると旦那の待つ 自宅へと帰っていった。

―fin―


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最終更新:2008年09月17日 19:21
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