392 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 15:50:02.47 ID:DKK1zI6n0
休日・・それは教職の日々から一時的にではあるが抜け出せる 悠々自適な日。日々疲れる保健室の先生をやっている私にとっては なんとも有意義な日に違いない。そんな休息のひと時を味わっていると、 これまた珍しく、激務の中で休日を取っていた病院の院長をやっている 旦那からこんな申し出をされた。
「礼子さん、なんかペットでも飼って見る? 例えば猫とか」
「ハァ・・何言ってるんだ。俺はペットなんて世話できるほど暇はないんだぞ」
「そうだけどさ、この際だから何か飼おうよ」
旦那の申し出とは、この家にペットを飼おうという提案だった。 幸い2人ともはペットとかのアレルギーは皆無であったのと現在住んでいる マンションがペットOKでペットを飼うには申し分ない環境なのだが、なぜ そこまでして旦那がペットを飼いたがる理由がわからなかった。 とある事情で子供を産めなくなった体になった私は何とか旦那と共に その傷から癒えつつはあるのだが・・
まさか旦那は子供の代わりを欲しがっているのだろうか・・
396 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 15:59:36.29 ID:DKK1zI6n0
「いきなり何だ。それに俺はともかく、お前はペットの世話できる時間すらないじゃないか」
「だから、夫婦一緒に世話するんだよ。職場でも話の輪が広がるかもよ」
「バカバカしい・・」
懐からタバコを1本取り出すと、そのまま口に咥えて火をつけた。 タバコから伝わる特有の味が私の肺を心地よく刺激してくれる。もう、何年も喫煙をして いるが、この感覚を覚えてしまえばやめられないものだ。 いつもと同じのタバコの味を味わいながら私は旦那の提案を飲もうとはしなかった。 それに職場では旦那が心配しなくともちゃんと教師同士のコミュニケーションはとっているし、 昔みたいに人付き合いから逃げてなどさらさらない。 これでも、特有の生徒の相談に乗りながら慎ましくも保健室の先生を楽しんでいる。 何を今更ペットなんか・・ そのまま私は2本目のタバコに手をかけると旦那は少し寂しそうな表情をしていた。
「だけどさ、ペットのいる生活もいいかもしれないよ」
「やなこった。ペットの世話なんてめんどくせぇよ・・」
「でも・・」
何気に吹いたタバコの白い煙が今の私を象徴しているかのように消え去った。 子供はともかく、私にとってペットなんて余りいい印象がない。旦那は子供の代わりになれば それでいいようだが私にとっては気の進むのもじゃない。人間の子供と動物では比べ物に ならないほどの大きさがある。それに、ペットは人間よりも早く成長してその分だけ・・死んでしまう。 そんなことは自分の子供だけで十分だ・・
それが私がペットを飼いたくない尤もな理由であった・・
397 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:05:23.79 ID:DKK1zI6n0
それから数日後、ペット騒動は私の記憶の底にあるタンスの 引き出しの中に奥深く眠ってしまった。
あれ以来、旦那も諦めたのかペットのことで口を開くことはなかった。 私もいつものように保健室の先生をしながら生徒の相談や、女体化した 生徒の精神的な相談を再び受け持つ日々が始まった。 やはり、この職業をしていると生徒の悩みとぶつかる事の難しさを日々 痛感させられる。女子は単なる恋愛の相談とか体の不調・・男子に至っては 特に女体化に関する相談事が圧倒的に多い。
私自身もこの病の複雑さには頭を悩ませている、幸いにも昔の自分とは 違ってこの学校の生徒たちは前向きなのか、女体化による自殺者もでていない。
今は保健室には誰もいないので、いつものように換気に気をつけながら タバコを吸っていると、生徒の忘れ物だろうか・・ベッドの上にある雑誌に ふと目がいった。誰もいないことを入念に確認しながら、雑誌を覗くとペットの 特集が目に付いた。
398 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:05:51.65 ID:DKK1zI6n0
「全く・・しかし、なんであいつはペットに拘ったんだろ。 あんなもの妙な愛着持ったら後がめんどいんだよな・・」
タバコを吸いながら私は雑誌に書いてあるペット特集をしみじみとみていた。 やはり人間はペットというものは恋しいのだろうか・・ ふと、大きな写真出てた外国産の猫に目がいってしまった。しかし、私は逃げる ようにしながら、雑誌のページを強引にめくってもとの場所に放り投げた。
「ペットでは所詮、あの子の代わりなんてならねぇょ・・」
自棄気味になりながら灰皿でタバコの煙を揉み消すとそんな自分が妙に虚しかった・・
399 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:13:13.18 ID:DKK1zI6n0
「旦那はまだ病院か・・」
その帰り、私は呆然としながらも予め、旦那が作ってくれて いたご飯をチンして食べながら1人耽っていた。 旦那の仕事とはいえ、夫婦の片割れがいないと少し寂しいものがある。 頭ではわかっているのだがタバコを吸っても気分が妙に落ち着かない・・
「こういう時は・・酒だな」
台所に入ると、たくさんある酒の中どれにしようかと迷いながらも一本の ブランデーに手をかけた。いつものように適当なつまみと少し小さめの ガラスコップに氷をちょこんと入れながらブランデーを注ぐ。 そんで再びタバコを吸いながら事件やや学校であったことなどを 考えながら物事に耽る・・これが1人でいるときの生活だ。
そんなことを繰り返しながら、私はただ1人部屋で考え事をしていると 突然にインターフォンが鳴り、誰かと思いドアを開けると宅配便だった。 荷物を見てみるとバスケットのようで箱は空気を通すように作られていたのが 奇妙だった。判子を押して荷物を受け取ると何が入っているのだろうかと 気になってしまった。
400 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:16:47.23 ID:DKK1zI6n0
「宛先はアメリカ・・撤兵か。何だろう・・」
私はアメリカにいる友人からの贈り物に期待と困惑を 入り混じらせながらその封を開いてみた。といっても、荷物は バスケットだったので開けるだけだったのだが・・
扉のようなものを開いていみると、中からは意外なものが入っていた。
「なッ!! こ、こいつは――!!!」
「・・にゃぁ?」
「ね、猫か・・なんでこんなものが」
箱の中身・・それは雑誌ででかでかと写真にあったあの猫だった、どうも子供の ようで、その瞳は私のことを食い入るように見つめていた。思わず荷物の中身に 一瞬、戸惑ってしまうが・・なんで撤兵はアメリカからわざわざこんな物を 送りつけてくるのだろう。
今日は誕生日や結婚記念日のような特別な日でもない・・前に撤兵と連絡した ときは大した雑談はしていない、ただの友人同士の他愛のない会話だけだ。 てことは・・誰がどのようにしてこの猫を送りつけたのかは絞れる。 ま、そんなことはともかく・・直接本人に聞いてみるか、今は9時ごろだから 向こうの時差は何とか大丈夫だろう。
私は携帯に手をかけると、海の向こうにある遥か彼方の大陸にいる友人に連絡をとることにした。
401 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:30:21.73 ID:DKK1zI6n0
「もしもし・・早速だが、ありゃなんだ。俺は猫なんて頼んだ覚えはないぞ」
“ああ、そっちの時間だともう届いているっけな。どうだ気に入ってもらえたか? とある患者の伝でもらった猫でな、あれでも立派な血統書つきの猫だぜ”
「あのなぁ・・旦那はともかく俺はペットなんて飼う気しねぇよ。 第一、お前だからわかるだろう・・」
突然の友人の粋な計らいは感謝というべきか・・驚くべきものがあるのだが、 ペットのことになると先ほどの考えが頭をよぎる。いくら誰が何と言おうと私に とって何かを育てるという意欲はあの日を境に徐々に欠落していってる。
撤兵だからこそ今の私の気持ちを十分に理解できると思っていたのだが・・
402 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:31:11.28 ID:DKK1zI6n0
“・・冷夏の気持ちは分かる。忘れろとは言わねぇ、ただな俺は冷夏の力に なりたいんだよ。そりゃ流産して子供が産めなくなった体ってのは辛いものだ。 子供の代わりとは言わない・・ただ、夫婦で何かを育んで愛情を注ぐってのも いいもんだと思う、例えそれが猫だろうとな・・”
「撤兵・・」
“ほら、あれでもペットてのは結構いいものらしいぞ、泰助だって飼いたがって いたっていうし・・この際、お前たち夫婦でこいつを飼って見ろよ”
「でも旦那はともかく、俺はペットの世話なんて・・」
“まぁ、そういうなって。んじゃ、もう少しで会議だから切るな・・ちゃんと飼えよ”
「お、おい!!・・全く、しかし問題はこいつをどうするべきか」
電話を切られるてそのままタバコを咥えて火をつけて煙を肺に取り込んで 気を落ち着かせると、この猫をどうするか考えることにした。確かに猫じゃ伊吹の 代わりにはならない。
だけど・・何かに愛情を持って育てるのに憧れていたのは紛れもない事実だ。 撤兵がアメリカ行って子供を生んで育てているなんて聞いたときには 正直羨ましさに近いものが私の中で溢れ出てきた。
こんな私なんかが・・生き物を育ててもいいのもかと疑ってしまう。
403 名前: バンドマン(広島県) 投稿日: 2007/04/03(火) 16:32:11.10 ID:DKK1zI6n0
「――何かを育てる・・か」
だけど、もらったからには何とか責任もって飼わなきゃいけないだろう。 でも旦那の仕事の都合を考えると圧倒的に私のほうが家にいる割合が高い。 これじゃ、ほかに飼い主を・・
「みゃぁ?」
「何みてんだよ・・別に俺はお前を飼うとは言ってねぇぞ。っておい!やめろッ!!」
不意に猫を抱き上げると激しく抵抗されたのか、猫パンチを数発食らってしまった 私であった。突如私の前に現れたこの猫はいったい何をもたらしてくれるのだろうか・・
fin
最終更新:2008年09月17日 19:22