136 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 17:29:21.06 ID:N7sPcf8j0?
ペットはどうも昔からいけ好かない存在だ。そもそも人間の代わりなんて動物で補おうと言うその思考は 女々しくてどことなくムカついてしまう、所詮は動物は動物だ人間とは勝手が違うものだ。 そんな勝手なエゴイズムに振り回されるほうが散々なものだろう・・
そんな考えを私は持っていた・・つい先日までは。
「にゃ~?」
「・・何だよ、餌ならもうやったろ。早くどっか行け」
私はそのまま2本目のタバコに手をかけるとある日突然やってきた新たなる住人をじっと見つめていた。 人からみれば愛らしくも可愛らしい猫なのだが、今の私にとってはただの付属物に過ぎない。アメリカにいる とある友人から送られてきたこの猫なのだが、立派な血統書つきの高級の猫で後から聞いたがかなりの値段もの らしい。それに旦那のほうももともとペットを飼いたがっていたのか、かなりの喜びようで職場にも2,3回は連れて 行ったと部下の看護婦さんから聞いたことがある。
「全く・・こんなもんがよっぽどいいのかね?」
しかし成り行きとはいえ猫を飼ってしまった以上は責任を持たなければならないのだろう。捨ててしまうのも 気が引けるものだし、後味が悪すぎて洒落にもならない。かといって、必要以上にこんな猫に愛着などそう簡単には わかないものだ。ましてや・・自分の子供の代わりになるはずなどない。あの子、伊吹は僅かな間だけど私のお腹の中で 育った命なのだ・・
薄っすらと白かったタバコの煙が空気と一体して透明になる中で私は自分の手違いで死なせてしまった 我が子を思い出してしまったのかスッと自分の腹を擦った・・
137 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 17:30:46.36 ID:N7sPcf8j0?
「ねぇ、礼子さん。明日から遅くなるからレイの餌でも買ってきてよ」
「やなこった・・」
「全くもう・・」
夜、珍しく早く帰ってきた旦那がいつものように手料理を振るってくれるのだが・・撤兵から送られてきた あの猫が着てからいつになくご機嫌で猫の餌とかも自分で作ってしまうぐらいノリノリだ。それに医療関連の 知り合いに頼んですぐに予防接種とかのいろいろなものをしているらしい・・
それにしても御大層に名前まで付けてあるとは、ますますその存在が気に入らない。ペットなんざやはり所詮は 人間の代わりになるはすなんかない。そんなものにお金なんぞ掛けたくはないしましてや愛情なんか・・
「礼子さんもいい加減レイと戯れようよ。ああ見えても可愛いもんだよ」
「・・いいか、お前が何と言おうと俺は世話なんて絶対にしないからな。ペットなんか認めるか」
強引に飯を食い終えると虚しさだけが私の胸に残った。旦那だって伊吹のことは忘れてはいないだろう、今の私みたいに 無駄な意地も張ってないしそれなりに現実と言うものを受け止めているのだろうし、私はもしかしたら未だにあの事を 引きずって前に進めていないのかもしれない、だから旦那がペットとじゃれあっているのを見ても虚しくなってきている だけだし、その存在を認めてはいないのだろう・・
人を教える教師としてはまだまだ私は半人前のようだ・・
138 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 17:32:33.31 ID:N7sPcf8j0?
「さて、職員室へと向かうか・・」
いつものように車で学校に向かった私は指定の駐車場に車を止めて職員室へと向かおうとした。 やはりこの時代の中、車と言うのは大変便利であっという間に学校へと着いてしまう。最初に教職に就いたときは バイクで来ていたものなのだが、歳が歳ということもあってか車の免許を取って今に至るわけである。 それに親からもらった最後の金も余り手をつけていなかったので予算的にも余裕があったのもその背景にあった。
「ま、下らんこと考えても仕方ないな・・ん?」
「みゃ~、みゃ~」
「お、お前・・何でここにいるんだよ!!」
車から降りた私の目に飛び込んできたのは何とレイであった。どうやら私の知らぬ間に車に乗り込んでいたらしいが・・ 連れてきてしまった以上は何とかしないとまずいだろう、教師が学校にペットなんか連れてきてしまったら それこそ生徒たちにも示しがつかないし、教員同士での私の立場がやばいものとなってしまう。
何とかしてうまいところレイを隠さなくては・・
「こうなってしまった以上・・何が何でもお前を隠さなきゃならんな」
「にゃあ?」
「チッ・・誰に似たのかわからないが気楽な奴だ」
本当に旦那に似て気楽な猫だ。来て早々、こんなところまで似てくるとは本当に悩ましいものを感じてしまう。 さて、この思わぬ訪問者をどこに隠そうかな・・
140 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 17:40:36.55 ID:N7sPcf8j0?
「さて、しばらくお前にはここにいてもらおうか。窓も締め切ったから流石のお前でも出られないはずだ・・」
「みゃ~・・」
私は保健室を一旦、閉めるとそのまま職員室へと向かうことにした。しかしレイの声はいつになく寂しそうだったのだが、 この際は仕方あるまい。まぁ、朝のこの時間だと誰も保健室に入ってはこないだろうし用事なんて余りないだろう・・ 私は猫を保健室に置いておくといつものように挨拶のために保健室へと向かっていった。 しかし、なんで私が離れるとレイもそう寂しがるのだろうか・・?
(・・同情されてるのか?)
そんなことを考えながら職員室へと向かっているとどうもあの声が頭にこびり付いて体が自然とレイのいる保健室へと 向かってしまう。何とか私は必死に自分を自重しながら保健室へと向かってゆくのだが・・やはり、未だに私は自分の子供を 死なせてしまった悲しみから目を背けているのであろうか・・
(クソッ・・あいつが来てから調子が狂ってくる)
誰にも聞こえない私の叫びは虚しく頭の中で響いていった・・
141 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 17:47:38.72 ID:N7sPcf8j0?
職員室に入るといつものように先生方に挨拶をすると自分のデスクへと向かいながら今日一日をどのように過ごして いこうかと悩みに悩んでいた。今日一日はずっと保健室にいなければならないだろう・・
幸いなことに日常のほとんどは保健室にいるので事実職員室のデスクには必要なものが何もないのが現実だ。
「おはようございます。礼子先生」
「――ッ!! す、鈴木先生・・お、おはようございます」
「? あまり生徒の相談事を受けすぎるとお肌に悪いですよ」
「は、はぁ・・」
突然の声で焦ってしまった私は少し声が上がってしまった。どうやら人の声が気づかないほど私は考え込んでいたらしい・・ 挨拶をしてくれた鈴木先生はそんな私を見ながら少し驚きながらも再び笑みの含んだ表情で私を見てくれていた。
143 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:00:07.76 ID:N7sPcf8j0?
「そういえば先生、ペットはどうなんですか?」
「ええ、旦那のほうは気に入っているようなのですが・・私のほうは余り実感がないですね」
鈴木先生は話題を変えて最近の私の様子について聞いてきた。この先生にはどうも話しやすいのか? 私はよく家のことをた面白おかしくしながら話している、鈴木先生は私と同じ女性ながらも大らかで 包容力が高いのが特徴で生徒受けは良いようで授業も結構解りやすいようだ。それに女性ならではの細やかな 気配りとかも目を見張るもので私が教師の中でも見習うところが多い先生だ。やはり私よりも年季が違うのだろう・・
「でも、折角はるばるアメリカにいる友達から送られてきた猫だったら可愛がらないとね」
「・・あまり実感は湧きませんけどね」
「どうして・・?」
鈴木先生はほんわかしたとろけそうな口調でさらに私に聞きだそうとしていた。 こんな口調で話されると私もいつもの癖でボロッと出て鈴木先生にすべてを話してしまいそうだ。やはり生徒から 相談事とかを打ち明けられる立場なのだが、やはりそういう所は私も普通の人間となんら変わりない・・誰かに縋って 楽になりたい気分が出てしまう。
「ペットなんて・・所詮は動物なんですよ」
私は少し自棄気味になって言葉を吐くと鈴木先生は少し厳しくも優しい声でこう言ってくれた。
144 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:03:24.34 ID:N7sPcf8j0?
「あら、そんなことはないと思うわ。先生がなんで動物を嫌うのかはよくわからないけど、人間その気に なればペットだって愛情を持って対等に接していけれるはずよ。
- じゃ、こっちはもう授業だから保健室のほうも頑張ってね」
「は、はい・・」
チャイムが鳴ったのと同時に鈴木先生は朝のHRに行くために出席簿を持って軽やかに職員室から立ち去った。 しかしまぁ・・いつ見ても本当にああいう人間的で大らかな先生になりたいなぁっと常にそう思い続けている。
「・・あんな先生にいつかはなりたいもんだ」
鈴木先生なら私みたいに悩みなんて表に出さずにそのまま自分で解決できそうな感じだ。それに今の私みたいに うじうじ悩んでしまうのではなく前向きに物事を考えてぶつかって行くのだろう。 だから、生徒にも親しまれているのかも知れない・・
そんなことを私は考えながら日誌を取り出すと静かに職員室を後にした。
145 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:06:53.58 ID:N7sPcf8j0?
保健室に向かう中で私は保健室にいる猫が見つかってないかと思うとハラハラものだ。今のところ猫関連の騒動は 出ていないので見つかってはいないのだと思いたいのだが・・何だか少しだけ嫌な予感がビンビンとしてくるのは 気のせいなのであろうか? 今の時間だと生徒は授業中なのでサボるのは皆無なのだが・・いや、そういった輩が1人いる。 早いところ別の場所に移すことも検討しなくては・・
焦る気持ちを必死で抑えて私は静かに保健室に入っていくと・・すでに常連さんがレイとじゃれあっていた。
「よぉ、先生! まさかペット飼ってたなんて驚きだぜ」
「・・いつ来たの」
「ついさっきだ。暇だから授業サボってきた」
懸案事項、言うまでもなくいろいろな意味で教師陣での学校の話題を独占して掻っ攫ってゆく男・・もとい女性、相良 聖だ。 それにしてもまさかこうも簡単にばれてしまうとは思ってもみなかったことだ、女体化してからある程度は勘が鋭くなって しまうのはどうも仕様なようだ、それに意外にもペットの猫とじゃれあっている聖を見ると意外めいたものを感じてしまう・・
それだけこの女性には相当自分のことを照らし合わせてるのかもしれない・・
147 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:09:18.71 ID:N7sPcf8j0?
「まさかこうも簡単に見つかってしまうとは・・」
「ちょっと意外だったけど黙っておくよ。礼子先生には助けられっぱなしだからな」
「・・頼むわ。流石にバレたらクビ覚悟で望まないとね」
「それにしてもまさかペット飼ってたなんてな」
慣れた手つきでレイを抱きかかえる聖を見るとやはりどこか昔の自分と照らし合わせてしまう・・私は昔からペットとかは 嫌いだったのだから余計にその姿が嫌に新鮮に見える。しかし、こんなにも似たような境遇なのになぜかこの子の彼氏で あるほうに本来の地が出てしまうのだから、人間どこか不思議なものだ。
「…その猫はアメリカにいる友人からもらったものよ。旦那は気に入っているようだけどね」
「へー・・でも、可愛いもんだ。先生も飼い主ならじゃれればいいのに」
「・・――何だと?」
「えっ!! い、いや・・その・・」
思わぬ聖の言葉に反応してしまった私は思わず声を重くしてしまった。やばい・・学校では抑えていた地が出てしまいそうだ。 流石に相手が相手だけに今までの寛大なイメージが崩れてしまったら気が引けるものがある。ここは何とか平常心を保ちながら 時に身をゆだねながらクリアするしかない・・
148 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:19:16.79 ID:N7sPcf8j0?
「それにしても・・あなたはもう少しで3年生よ。このままサボってしまったら留年は見え見えね」
「なッ・・なんだと!!」
この状況を打開するために成績の話を振るとレイを抱えていた聖が突如として震え始めていた。実際、聖の成績はつい先日までは 進級ギリギリから普通の学生並みに戻ると言う急成長を見せている。教師の間でも結構な衝撃もので、有名な不良で成績は常に 赤点、補修の常連がここまで成長をみせるのはある意味では驚きものだろう。
女体化してようやく周りが落ち着いてきた今の聖の成績だったら問題なく進級ができるのだが、脅してみるのも少しおもしろい。
「このままサボって保健室に入り浸っていると・・どうなるかしらね?」
「こ、困るよ!! ・・せっかくあいつと一緒の大学に行けると思ったのに」
ま、ぞっこんカップルを抑えるにはいい薬になるだろう。頭が悪い聖はともかくとして頭がいい彼氏のほうは地のほうで圧倒して 抑えるのが最も効率的なものだ。さて・・お説教タイムはここまでにして少し予想外のことで疲れ気味なので雑談に入るか。
「・・私はねただ困ってるだけなのよ。急にこんな猫を送られたらねぇ・・」
「でも、先生のためにわざわざ気を利かせてもらったんだろ? どんな事情があるのかはわからないけどいいもんじゃないか」
「わかってるわよ。・・・わかってるから、辛いんだよ」
地を抑えて思わず吐いてしまった本音に苦笑してしまうのだが・・本当にこのレイについてはこれからどう接していいのか 全くわからないものである、これから先はどのようにこの現実を受け入れられるのであろうか?
149 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/05/22(火) 18:21:08.25 ID:N7sPcf8j0?
あれからレイのことは私の箝口令が効いたのか、はたまた聖自身が元々口が堅いのか・・何とか無事に レイを匿いながら学校を過ごすことができた。しかし、猫と言うのは本来好奇心旺盛で始めて見たこの保健室を 駆け巡るはずなのだがレイの場合はやけに大人しく、どこか自重している部分があった。 もしかしたら、今の私の事情を察していたのかもしれない・・帰りの車を走らせる中で私は少しだけレイを伊吹に ダブらせることにした・・
「俺は・・逃げてのかもしれないな」
「みゃぁ?」
「そんなことよりもな、今日はお前のせいで大変だったんだぞ!! 全く、こんな所は誰に似たのやら・・」
車の振動に揺られながらもレイを見つめたとたん、心が軽くなった私なのであった。
―fin―
最終更新:2008年09月17日 19:22