22 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/10(水) 22:15:02.44 ID:vxqnrGpe0
「ふぅ~・・これで終わりか。ったく、意外と教師ってのも肩がこるものなんだな」
教師になってこういったデスクワークの仕事はつき物なのだが、やはり私は昔から こういった仕事は自分に性が合わないということはわかっていた。そこは昔から変わっていない。 やっぱり自分はこういった作業よりも現場で自家に生徒たちと触れ合うほうが性に合っているようだ。
「ま、何もないっていうのはいいけど・・」
私はそのままタバコを取り出し火をつけた。タバコの味を味わいながらゆっくりと 肺に取り込むとすべての想いやうやむやが煙となって放出されていく・・ 昔から変わっちゃいないある種の癖。 こうもしないと、いろいろなストレスが体の中に溜まって私を壊していく・・私なりの 一種の処世術だ。澄んだ精神状態を維持しないとこういった仕事は長続きしないものだ。 それに時間はすでに放課後・・誰もいない保健室は私にとって第2の私室と同然であった。
こんなことの繰り返しで自ずと保健室内はタバコの白い煙が充満していた。
23 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/10(水) 22:16:19.14 ID:vxqnrGpe0
(礼子先生・・か、俺がまさかこんな職につくとはね)
教師・・それは人を育み送り出す職業。生徒間のあらゆる 悩みにやさしく手を差し伸べながらうまく解決させてゆく・・ それに私は女体化した身でもあったので今でも多くの 生徒からの相談事が絶えないものだ。つい先日も、女体化に 悩まされていた生徒の相談に乗ったばかりだ。 女体化というものは傍からみれば余りわからないようであるが、 なった当人にしてみればかなりの衝撃ものだ。 周囲の支えがなければあっという間に自殺に追いやられて しまう。それに男性にとって女体化は周囲はおろか自分自身の 変化をがらりと変えてしまうものだ。 周りが献身的に接してあげなければ今の環境に馴染めない。
だから私はそういった子の支えとなってあげたいからこうした 教師の道へと選んだのかもしれない。私自身・・人には言えない 辛い過去を経験してきた身、その辛さを子供たちに教えてあげなければならない。 そして辛さを乗り越えた先、何が待っているのか導いてあげるのが私の務めなのかもしれない・・
私はそんなことを呟きながらタバコを携帯用の灰皿で揉み消すとそのまま帰る準備を始めた。
24 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/10(水) 22:18:03.62 ID:vxqnrGpe0
「礼子さん、僕たちもそろそろ結婚式を挙げようか?」
「結婚式・・ああ、前に言っていたやつか」
そのまま家に帰り、私が旦那の手料理を食しているときであった。 私がそのまま食事をしている途中、旦那が結婚式について話を切り出してきた。 時は私のボンクラ生徒が出来ちゃった結婚により結婚式を挙げたことに遡る。 それにしても意外にも旦那のほうから結婚式を挙げたいと提案してきたっけな。
あの時はとっさのことに驚いてつい曖昧に流しておいたのだが・・
「うん、僕たち結婚した当時は互いに仕事で忙しくてなかなか式挙げる暇なんてなかったよね」
「そうだった・・な」
私たちが結婚したときか・・確かにプロポーズらしいプロポーズはなくそのまま 撤兵が渡米した後、すんなりと婚姻届に互いの名前を記入してそのまま役所に 出したっけかな。本来ならその後、結婚式を挙げたかったのだが・・その時は 旦那の仕事がかなり忙しくて私のほうも慣れない教職に悪戦苦闘していたとき だっけな。結局、互いの仕事に悪戦苦闘する日々が続いてようやく今の仕事に 軌道が乗ったときには結婚した時からかなりの時が過ぎていったな。 まぁ、それでもせめてお互いに結婚記念日は何か祝い事をしていたんだっけな・・
とりあえず、引越しだけは済ませたものの互いに結婚式を挙げる時間と余裕もなく そのまま莫大な時間が流れてしまったけな・・
26 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/10(水) 22:20:01.35 ID:vxqnrGpe0
「んで、なんで結婚式なんて挙げたいんだ?もしかしてあのバカップルに影響でもされたのか?」
「まぁ・・それもあるけど、前に看護婦さんたちと世間話したときに結婚式挙げて ないって言ったらかなり驚かれたことかな。みんな口々にこう言っていたっけ・・
“院長はあんなに仲がいい夫婦なのになんでまだ式を挙げないのか”ってね。
最初は僕自身も余り気にしてなかったんだけど・・だんだんと華やかさって のが羨ましくなったのかな? それに最近はおめでたいことが多いからね」
「・・まぁ、特に最近はそうだな。あいつらも子供を産んで、先日はお前の部下の ドクターが結婚式を挙げたしな」
あいつらも結婚式から数日してか・・無事、女の赤ん坊を産んだらしいな。 旦那の言うとおり最近は私たちの周りはおめでたいことが多い。 あいつらが式を挙げた後、旦那のほうの仕事場の関係での結婚式にも参加した ばっかりだっけな。自ずと旦那の心境も変化したのだろうな。 それに・・あの頃と比べて今は時間的な余裕がたっぷりとある。式を挙げる余裕は 十分にある。
私自身も・・たまにはおめでたい出来事を体験してみたいしな。
154 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:17:48.99 ID:4LjYMpir0
「結婚式な・・やろうか?」
私は今までの旦那と共に歩いた道のりを思い出していた。 数え切れないほどの思い出と傷跡・・それらをすべて乗り越えて 私たちは共に支えあいながら道を歩んでいた。 いろいろな障害にぶつかりながらも最後まで私のそばに いてくれたのは旦那だった。この人がいたから私は 存在できるのであり、私がいたからこの人も存在できる・・
なら、共に祝おう。この2人の歩いた道筋を・・結婚式という舞台で
「じゃ、準備しないとね。いろいろ必要なものがあるしね」
「楽しそうだな・・」
「まあね、せっかくの僕たちの晴れ舞台でもあるからね」
楽しそうに式の日取りやらいろいろ考える旦那、こういった光景は本当に 昔と変わらないものだ。その光景がより愛おしく感じる。 私は本当にこいつと一緒に足を並べて互いに支えることができて本当によかった。
だから私たちは夫婦になれたんだろう・・
155 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:20:14.86 ID:4LjYMpir0
「てなわけだ。・・お前も来るか?」
“当たり前じゃないか!!それにちょうどこっちも仕事の 都合がうまくついたところだ。近いうちに若菜連れてそっちに来れるぞ。 それにしてもまさかお前たちが式を挙げるとはね・・”
「長いとこ、やってなかったからな。俺たちには いろいろあったからな・・それに式は3人仲良くいきたかったさ」
“・・ま、そうだな。よし!祝辞は任せとけ!!とびっきりのを読み上げてやるよ!!”
「ハハハ・・じゃ、日取りはお前の帰国に合わせるよ。じゃあな」
私は撤兵との電話を切るとそのまま今までのことを思い出していた。 思えば私たちは撤兵ともいろいろなことがあった。数ある女の争いを 潜り抜け・・その末に旦那は私を選んだ。今の撤兵は子育てと仕事の 二束の草鞋を履いているが、もし撤兵が旦那のことを諦めきれなかったら 今のような関係は持続できなかっただろう。
156 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:20:43.72 ID:4LjYMpir0
撤兵は一時的に私たちの元を去ったが・・しばらくしてまた私たちの 元へとひょっこりと新しい恋人を作って舞い戻ってきてくれた。 それからは友人として私たちを支えてくれた。
それ故に誰よりも撤兵にはこの結婚式を祝ってもらいたかった・・
「・・さて、次はっと」
私は再び受話器を手に取り次の連絡先を入れた。心なしか・・とてもはしゃいでしまいそうだ。 結婚式・・どのような舞台になるのだろう?
きっと・・晴れやかに私たち夫婦を祝ってくれるだろう。
157 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:22:38.78 ID:4LjYMpir0
そしてことはトントン拍子に進み、撤兵の帰国に合わせて式の日取りも 決まった。旦那の両親はすでに両方とも私が籍を入れてから数日後に 共に亡くなっていたので、残るは私の両親だけであった。 まぁ、あの人たちには未練ないことはないのだが・・旦那の意向で 一応、式の招待状は出しておこうと言うことになった。まぁ、あの2人にとって私は“失敗作”であったから 多分、気にはしていないだろう。
もらった預金も車と生活費に使わせてもらったし・・
さて2人も誘っておこうとは思ったのだが、慣れない子育てで 忙しそうだからと思って取りやめた。まぁ、会おうと思えば会えるのだが・・
そして私は今、鏡越しにウエディングドレスを着た自分に見惚れている。 まさか自分自身がこうも変わるとは思ってもいなかった。 旦那はそんな私の姿を見て惜しげもない賞賛を与えてくれた。 撤兵のほうもそんな私の変化を見つめて、しみじみと見ていた。
「どうだ?なかなか似合ってるぜ。何せ、外国から直輸送させた奴だぞ」
「あ、ああ・・自分でも余り実感がなかったが、これが俺だったのか・・なんか、別の女性のようだ」
私は鏡に写った自分を興味津々に見つめた。そのドレス姿はまるで すべての女の子が夢見るようなもので、純白で自分の中にある風格と美貌が かなり引き立っていた。
そのためこのドレスはかなり高価なものだと容易に想像できた。
158 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:23:23.76 ID:4LjYMpir0
「徹子さん・・このドレス幾らなんです?」
「ん~っと、最終的に買い付けたのは 20万ドルだったから1ドルが110円で・・2200万ちょっとだったな?
本来はこれ200万ドル相当らしいけど・・値切りまくってここまで下げた」
「えッ・・お、お前!!こ、このドレスそんなにもするのか!!」
このドレスって2億相当になるのか・・旦那と一緒にこのドレスの値段には驚いた。 ドレスの華やかさからかなりの高額だと予想したけど、まさかここまでするなんてな。
更に撤兵はそのまま笑いながらこう言ってくれた。
「ハハハハ、まぁ安い買い物だよ。俺、国際公務員みたいなものだったから金には余裕があるんだよ。 ま、こんなことしかできないけど俺からの餞別祝いってことで受け取ってくれ」
「撤兵・・十分だ。ありがとう」
「おいおい、ここで泣くなよ。化粧崩れたらこの後に控えている本番に多大な影響がでてしまうぜ」
「ああ・・本当にありがとう」
私はそのままドレスを着ながら友の行為に薄らと涙が浮かんだ。
159 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:32:56.41 ID:4LjYMpir0
「礼子先生・・すごく綺麗です」
「お前にこんなこと言われるのも懐かしく感じるよ。・・麻耶」
「そうですね・・あの頃は私にとってとても大きい思い出です」
撤兵と入れ替わりに来たのが麻耶であった。麻耶は私のドレス姿を見ると 子供の頃の時の変わりないリアクションで私のドレス姿を見ていた。 やはり、大人になってもこういった麻耶の部分は全然変わりなかった。 ちなみに美雪は撤兵が若菜のついでで面倒を見ている。どうも撤兵は私よりも子供受けがよいようだ。
「フフフッ・・あんなに幼かった麻耶も今は立派な大人になって立派な 家庭を築いているもんな。あの時、偶然お前に出会えて本当によかったよ」
「もう、今日はほかならぬ礼子先生自身の式ですよ。 今日は私はゲスト・・だから今日だけは先生は私のことよりも自分を見つめて ください。でも、礼子先生がこんな風になるなんて意外です」
「お前も言うようになったな」
「はい」
返事も相変わらずだ。昔懐かしき教え子とこんな形で交友を深めるのも また一考であろう。さて、時間的にももう少しで式が始まってしまう。 私は慣れないドレスをうまく扱いながら旦那のほうへと歩いていった。 旦那のほうも結婚式らしくちゃんとした制服で身を引き締めていた。
161 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:34:09.10 ID:4LjYMpir0
返事も相変わらずだ。昔懐かしき教え子とこんな形で交友を深めるのもまた一考であろう。 さて、時間的にももう少しで式が始まってしまう。私は慣れないドレスをうまく扱いながら 旦那のほうへと歩いていった。旦那のほうも結婚式らしくちゃんとした制服で身を引き締めていた。
「・・いよいよだな。どうだ、ご希望通りに俺と式を挙げられて」
「満足だよ。・・じゃ、行こうか」
「ああ・・」
私たちは手をつなぎ式場へとゆっくりと向かった。式場からは華やかでまるで 私たちを待ってましたかと言わんばかりの周りからの盛大な祝辞が飛び交った。
その歓声の中・・私たちの元へ幼い子供の声が聞こえてきた。
162 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/12(金) 22:34:48.49 ID:4LjYMpir0
“お父さん、お母さん・・おめでとう”
(お前も俺たちを祝ってくれるんだな。伊吹・・)
今は亡き私たちの子供・・そして私たちの罪。 だけど・・少しだけ私は肩の荷が下りたような気がした。 これからも一生、彼と一緒に歩いていける・・ そんなような気がしてならなかった。隣にいる旦那を見ると 本当にこの日を何年も待ったような気がしているようでとても幸せそうな顔だった。
また3人で歩こう、どこまでも・・
盛大な祝いと祝福をまとって・・
fin
最終更新:2008年09月17日 19:23