『夢日和』

136 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:01:52.64 ID:17Lb9mVf0

夢と現実・・この区別は容易につけがたいものである。何でも自分の思い通りになってしまう夢に 現に抜かしながらもやはり辛くともこの現実は居心地がよくなるものである。夢の続きをついつい 求めたくなるものなのだが、辛い現実の荒波にもまれると夢というのはついつい忘れてしまうものである。

この世の中、女体化シンドノームという恐ろしい病気が存在しつつも人はそれの恐怖にめげずに案外と 健気に図太く生きながらこの現実に自分だけの居場所を見つけるのであろう・・そうやって愛する人と 出会って家庭を育むのだと思う。

だからこうやってつい転寝をしてしまって夢を見るのだろう・・

「あの野郎!!好き勝手に散々抜かしやがって・・何がストーカーに遭わない女だッ!!! 俺がその気になれば野郎の1人や2人・・いや、50人はくだらねぇ!!

みんなこの俺様の美貌にひれ伏すのだ!!!」

「はいはい・・わかったからその辺にしてちょうだい。彼氏のほうもそれだけあんたに夢中なのよ」

「んなことはわかってる!」

全く・・毎度飽きない喧嘩というべきなのか、それとも若さ溢れる自然の定理なのかよくわからないものである。 このまま保健室を恋愛話満載の空間にしたら切りがないので、ここはいつものように導きをしてあげることにする。 じゃなきゃ普段の業務が再開できないからであってこう見えても私は結構忙しい身なのだ。 しかし毎度毎度この2人はとんだカップルだ、いつも毎日相談させられる私の身ににも少しなってほしいものだ・・ でも彼女は境遇が昔の私に似ているのでなかなか放っておけずに迎え入れてしまう私も私だ。

なんだかんだ言ってもこの相談事を楽しんでいるのかもしれない・・

137 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:03:19.29 ID:17Lb9mVf0

「・・あのね、仮にあなたがストーカーに遭ったとしてもぞっこんの彼氏がすぐに駆けつけてくれて たちまちストーカーを病院送りにするわよ。だからそんなに心配しなくても大丈夫よ」

「あ、ああ・・ありがとう礼子先生」

「はいはい、薬が切れたら早めに言ってちょうだい」

「わかってるって」

心の中ではたとえストーカーに遭っても本格的な格闘術を身につけているあいつだと逆にストーカーを 殺してしまうのではないかと心の中で呟きながら、また悩める子羊は颯爽と保健室を去っていった。 それを確認すると、私はまたいつものように日常の業務を再開しながらすでにこの日常に馴染んでしまっている 自分に不思議と感心すらしていた。

私の職業は教師・・といっても教卓で生徒たち相手に教鞭を振るうものではなく生徒たちの体の傷を癒したり、 心のケアを目的とした養護教諭・・通称、保健室の先生である。 最初はこの職業には目指すつもりはなかったのだが、いろいろあってか今ではこの職業がすでに板についた みたいで、それになりにより私と同じ女体化に関する相談事も増えている。

これで少しでも女体化の苦しみから和らげられたら過去の私のように捻くれたりはしないだろう・・

138 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:04:30.81 ID:17Lb9mVf0

「さて・・そろそろ来るかな」

私は窓をあけて十分に換気を整えると、懐からタバコの箱から一本を取り出して口に咥えると それに火をつけてある人物の来訪を待った。こうやってタバコの煙を肺に取り込むと心が静まってゆくもので もう何十年とこの行為をやっているが一向に止める気配はない。

私にとってタバコは一種の精神安定剤であり体の一部でもあるのだ。よくテレビとかではタバコの悪影響を 云々と取り上げているが、そんなものははっきりって関係ない。人間は精神的なゆとりさえあれば長生き できるものであるっと私は思っている。

そんなことを考えながら吸っているタバコが6本目に到達するとき・・意外に遅くもこの保健室にほぼ毎日来る 生徒がやってきた。

「先生!大変なんだ!!だから相談を・・」

「・・早くドアに鍵掛けて座れ」

「わかったよ・・」

私は脅しを掛けながら保健室のドアに鍵を掛けさせるとタバコを携帯用の灰皿にもみ消すと、再び箱から タバコを取り出すとタバコに火をつけて肺に取り込んだ。先ほどの女の彼氏・・中野 翔だ、どうも彼とは精神年齢が 合ってしまうのか本来の地が出てしまう。ちょっと前まではかなりの不良だったのらしいのだが、元暴走族の総長の私から 言わせればまだまだひよっこレベルだ。この学校で私の地を知っているのはほかならぬこいつだけである・・

すでに相談内容はわかっていたのでそれまであった経緯は割合させる。

140 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:05:48.01 ID:17Lb9mVf0

「相談内容はわかってる。・・全くいつものように喧嘩したんだろ」

「あ、ああ・・最近流行ってるストーカーについてだったんだけどな。 俺が“お前ならストーカー相手を殺しかねないだろ”ってほんのささやかな冗談のつもりで言ったんだけど・・

そしたらキレちまっていつものように喧嘩になったんだよ」

「当たり前だ!お前バカだろ!!・・いいか、あれでも一応は女の子なんだから彼氏ならもう少し優しく扱え!!」

私はタバコの灰を整えながら再び口に咥えて煙を肺に取り込むと開始早々一発怒鳴りあげた。 本当に恋愛下手というか何と言うか・・手を焼かせられるものだ、いくら成績優秀だといっても 男と女の駆け引きにおいてはまだまだ腰抜けだ。

「だってさ・・つい本当のこと言っちゃってな」

「・・あのなぁ、あいつも男のときは名の知れた不良だったらしいが今はもうただの強い女なんだ。 いくらお前の前では強がってみせてもいつかは女になったら精神的にボロがでるんだよ!!」

「弱いって・・それでもあいつの進化系みたいな先生は全然そんな素振り見せないじゃねぇ・・イテッ!!」

「うるさい!今度言ったら本気で顔面殴るぞ!!」

「殴ってから言うなよ・・」

全く・・こいつは本当に純情のバカだ、一回本気で保健体育を利用して男女の関係について語らせる 必要があるようだ。とりあえず今は不本意ながらもこれでわからせるが、これでもわからないようだったら 矯正するしかなかろう。

141 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:06:47.03 ID:17Lb9mVf0

「早く彼女に謝って来い。俺はお前らカップル専属の相談員じゃないんだ」

「へいへい・・」

本当にこいつはわかっているのだろうかと若干の不安を覚えつつも彼氏のほうも私に殴られてた頭をさすりながら 保健室を後にした。ようやく晴れて自由となった私は疲れたので背伸びしながら椅子を回転させると、とある本が ベッドに落ちていた。気になった私は本を拾い上げると中身は女体化をメインとした小説のようだった。

「こいつは・・今話題になってる女体化を扱った小説か。この際だからじっくりと見ておくか」

私は小説を拾い上げるとタバコ片手にじっと食い入るように小説を見ていてた。内容はシンプルにも女体化のほかに 獣化してしまった女性をメインとした小説でなかなか愉快な短編集をまとめていたものであった。 これなら気軽に読めそうだし話のテンポにも入りやすかった。久しく小説は余り読んではいなかったのだがこの光景を 旦那が見てたらなんと言うかわからないものだ。

タバコをもみ消すとしばらくは保健室でじっと小説を読んでいた私なのだが、いつの間にかトロンっとしたような 空気になって徐々に意識が遠のいていった・・

144 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:09:25.18 ID:17Lb9mVf0

「あれ・・ここは?」

目が覚めると私は学校の保健室にいたのだが、どこか違和感を覚えるものがたくさんあった。 周りを注意深く見回っていると自分が座っている机以外は教室の造りが全然違っており、棚にある 薬の場所とかベッドの位置などがまるっきり違って、終いには棚の引き出しに入っていた 今までのデータを記録した書類がごっそりとなくなっていた。

疑問が確信に変わってゆく中、ふと窓があったので窓越しから学校を見ているとこの学校全体が 自分の赴任している学校と全く異なっていた。

「どういうことなんだ・・ここは一体――?」

とりあえず懐から取り出したタバコを吸いながら精神を落ち着かせるとこの異なっている世界は 何なのだろうと落ち着いて考えることにした。様々な仮説が頭の中で浮かんでは消え浮かんでは 消えの繰り返しであった。

146 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:10:59.55 ID:17Lb9mVf0

一向に考えが固まらない自分にイライラしつつもこの世界について何か情報の手掛かりみたいなのを 部屋中を必死で探していると・・保健室のドアが開かれた。

「先生!相談があるんですが・・」

「えっ? 今は相談どころじゃないんだけど・・まあいいか。適当に座って」

「はい」

探し物をしている途中に生徒が来てしまったのでどうしようかと悩んでしまった私であったが・・ 保健室の先生の習性が働いてしまったのか、探し物を中断して生徒を適当な場所に座らせると 相談に答えてあげることにした。 生徒は女の子でいかにもお年頃相応の悩みを持っているようであった。それにしてもこの生徒は一般人と違って どことなく異なっていて、人間には違いなくともどこか違和感を感じるものがあった。

でもまぁ、それとこれとは関係ないので相談に乗ることにした。

147 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:13:44.06 ID:17Lb9mVf0

「どうしたの?」

「実は・・最近、女体化に馴染んでしまって昔の自分がよくわからないんです。 思い出しても記憶が薄れてはっきりとは・・」

私は思わず驚いてしまった。まさかこんな世界でも女体化があるなんて思いもよらなかったものだ、 自分の世界との共通点が見つけられたのはうれしいものなのだが、それが女体化だとはなんともいい皮肉である。

まぁ・・今はそんなことよりもこの子の相談に乗ってあげないといけないな。 私は驚きを胸にしまうと再び相談に乗ってあげることにした。

148 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:15:25.63 ID:17Lb9mVf0 「(女体化ってこの世界にもあるんだな・・)なるほどね、でもそれは今の現実に 居心地よくなった証拠よ。確かに昔の思いでも大事だけど思い出ってのはたまに 思い出すから思い出っていうの」

「でも・・まだわかりません」

「そりゃ私だってわからないものよ。あなたの昔は何があったのかはわからないけど 私だっていろいろあってこうやって先生になっているわ。

昔のこともそりゃ大切だけど私にとって今こうして先生やってる楽しさのほうが何よりの大切だわ。 だからそんなにくよくよしなくても思うようにしなさい」

生徒を前向きにしつつ自己の問題点は自分で解決させる・・これは大学の先生の受けよりだ。 養護教諭を目指したときにまずはこのことを一番として教えられた、生徒は様々な 悩みを持っているが最終的にそれは当人でしか解決できないものだ。

だから私たちはあくまで子供を導く存在なんだ・・っと先生に教えられた。 全くもってそのとおりだと私は思ってしまう。・・いや、私だからこそこの教えは身に染みて わかっているのだ。昔から救いようもない悪で誰も人を信用できなかった経験をしからこそ、 ほかの生徒にはそんな自分みたいな人間になってほしくないと常に思っている。

あんな思いをまだ未熟で右も左もわからない子供には決して味合わせたくないという自分への 戒めもこめて私はこの職業を選んだのだ・・

149 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:16:23.94 ID:17Lb9mVf0

「狼子~・・まだいるのか?」

「ほら、早く帰りなさい」

「うん・・ありがとう先生」

狼子と呼ばれた生徒は何かに吹っ切れたのかそのまま元気に保健室を飛び出していった。 それにしても・・狼子という名前はどこか聞き覚えのあるものでなんだろうと考えていた、過去の知り合いの 名前だろうか・・?

だけど私の過去の知り合いにはそんな特徴的な名前をしている人物など誰一人としていない。 それだけどもなぜか頭の片隅に残っていたこの名前・・ふと目を瞑って考えていると、とあることを 思い出した。それは・・

「思い出したぞ!!ここは――・・」

何かを思い出したと同時に周り全体が歪んで再び私は忽然と意識を失った・・

150 名前: プロスキーヤー(広島県) 投稿日: 2007/04/28(土) 21:17:27.98 ID:17Lb9mVf0

「――んんっ・・ここは保健室か。さっきのは夢だったんだな」

目覚めた私は入念に周りを見てみるといつもと変わらない見慣れた保健室の光景が 視界全体に広がっていた。どうやら小説を読んだ後つい寝てしまったのだろう・・窓を見てみると 空はすでに日が落ちていて部活の練習もちらほらと引き上げており、時間を見てみると すでに7時を回っていた。

「やばい・・早いところ日誌出して帰らんと」

私はすぐに日誌を書き上げると帰る仕度をしてそのまま保健室を出ようとしていた。 ふと帰る作業としているとあの小説が目に付いたのでパラパラとめくっていると・・あの夢をつい 思い出してしまった。 夢というのは時には現実の厳しさも忘れられていいものなのだが、やはり夢よりもこの現実のほうが 心地よいと感じてしまうのは私はこの世界に希望を持っているということなのだろう。

だから夢というのは人にそれを再認識させる自然からの贈り物なのかもしれない。

「・・ま、夢の中でも先生やってるなんてな」

改めて現実のよさを再確認した私は帰り支度を急ぐのであった・・

―fin―


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最終更新:2008年09月17日 19:23
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