54 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:54:45.07 ID:JlTdUmSL0
修学旅行・・学校では極当たり前に行われている行事ではあるのだが、その本当の目的を知るものはあまり少なく 知っていても対して特にはならないだろう。私が高校生の頃にも修学旅行と言う行事は存在はしていたのだが 参加したって行事の内容などたかが知れているし、めんどくさいものだ。それらの理由で当時の私は修学旅行当日は 友達と別の場所へと旅行しに行っている・・だけどもそれはもう過去、今は教師として生徒の修学旅行に必ず 付き添わなければならない立場となっていた。
「え~、来月から3年生は修学旅行に入ります。各先生方には・・」
一般的に修学旅行の季節と言えば5月から6月の辺りにかけて頻繁に行われる、それは私の勤めている学校も 例外ではないもので毎年この時期の職員会議の内容と言えば3年生の修学旅行の話で持ちきりとなる。 生徒達も見た目ではそれなりの年齢になったつもりだが、まだまだ精神的に未熟なのは変わりはないものであらゆる 案や策が飛び交う中・・私はボーっと上の空で天井を見つめていた。
「では、各担任の先生方に加えて他の付き添いの先生は例年どおり教頭先生と・・春日先生に任せてもらいます。 春日先生、何かご意見はありますか?」
「え、ええっと・・私は特に異存はありません」
危ない危ない、大事な職員会議中に気を抜けていることがばれたらまたお小言を貰ってしまうところだった。 この時期は例外なく先生方の神経がピリピリしているので余り余計な事を言わない方が得策だろう、鈴木先生も顔は 冷静を装っているつもりだけども内心はとてもピリピリしているようだし、学年主任の木村先生に至っては内外共に 神経質な人間が放つオーラが灯っている。
そんな先生方の話し合いが何事もなくスムーズに進む中でオーラを纏った木村先生が突如としてこんな事を口走る。
55 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:55:24.74 ID:JlTdUmSL0
「今年の3年にはあの相良がいます。いくら女体化したとは言え問題も多々起こしているもので修学旅行当日は 向こうでまたややこしい問題を起こすことも考えられる!
担任である中村先生はどのように考えていらっしゃいますか」
「え、えっと・・」
「相良だけではありません! 他の生徒にも少なからずそういった輩はいます、その辺はどう対策されるのですかな」
木村先生が少し苛立ちながら相良の担任である中村先生に問い質しながら他の先生にも問う正すような雰囲気を 場に放つ、学年主任と生活指導を兼ねている木村先生にとって聖たち不良集団はまさに目の上のたんこぶ・・例の 暴力団の件だって最初は頭ごなしに聖に詰め寄ったぐらいだ。何処の世界にもこういった人間はいるが、私は感情を 出来るだけ抑えて意見を述べる。
56 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:56:20.73 ID:JlTdUmSL0
「・・木村先生、私はこのままでも大丈夫だと思います。確かにこの時期の子供は非常にデリケートですし何を 仕出かすかわかりません。
ですが、それらを食い止めるのが他ならぬ私達の役目だと思いますし、最近はあの子達の精神状態も非常に 安定しています。余程の事がない限りはこのままでも大丈夫かと・・」
「では春日先生、あなたは相良たちが何も問題を起こさないとでも?」
「ええ、私の見る限りでは大丈夫だと思います」
「ですが・・相手はあの相良、聞けば中学時代は中野とのツートップで手のつけようのない問題児だったと聞いています。 今は大人しくしているようですが、またいつか暴れ出す可能性も否定できませんな」
「(この野郎ォ・・)これまでの木村先生の言い分だとまるであの子達の存在が気に食わないようですね」
「なんですと・・」
私のこの発言に木村先生は顔を紅潮させ、身体は見る見るうちに震えている・・どうやら図星だったようだが、私も 少し感情を出してしまった事に内心後悔してしまう。もういい歳になっているのだから本来ならある程度の事は 妥協しなければいけないものなのだが、やはり先ほどの発言が私の怒りに軽く触れてしまったのかもしれない。 他の先生方はもはや発言できないこの雰囲気に何とか耐えているもののどう喋っていいのか全くよく分からない状態に 陥っているようだ、ただ一人鈴木先生だけは事の運びを冷静に見守っているがあまり喋らない。 やはり器用な鈴木先生でもこの場を取り持つのは難しいようだ。
中々言い出し辛いこの状況に校長先生が場の雰囲気を落ち着かせようと含みながら喋り始めた。
57 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:56:54.80 ID:JlTdUmSL0
「木村先生、お気持ちは分かりますが他の先生方もまだ考えがまとまっていないようなのでこの件はもう少し保留と 言う形はどうでしょうか?」
「・・校長先生がそう仰られるなら」
先ほどまで顔を紅潮させていた木村先生だったが、校長先生の取り成しのおかげで何とか言葉の矛を収める。 内心ではざまぁみろと言う気持ちもあったのだがやはり上に立つ人間というのはそれなりに苦労するようだ。私は 胸のつっかえが取れてホッと安心している間もなく私にも校長先生の有難いお言葉が与えられる。
「春日先生もお察ししますが不必要な発言は控えるようにしてください」
「はい・・」
社会の辛さと言うものは永久に逃れられることができない・・
58 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:57:58.48 ID:JlTdUmSL0
「修学旅行・・ああ、もうそんな季節だね」
「こっちはそう呑気になれねぇよ」
自宅に帰ると珍しく私よりも早めに旦那がいたので少し驚きつつも修学旅行も含め先ほどの職員会議についても話す、 レイと一緒に夕食を食べ終えた私はのんびりとタバコを吸いながら溜まりに溜まった疲れを一気に吹き飛ばすため のんびりとくつろぐ・・やっぱり自宅にいるとどこか落ち着く、やはり我が家と言うのはいついてもいい物だ。
「そう言えば昔、礼子さん修学旅行に来てなかったね。あの日は何して過ごしてたの?」
「撤兵と二泊三日の旅行に行ってた。あいつも俺と同じ気持ちだったみたいでお互いに修学旅行を抜け出して バイクでツーリングをしながら行ったんだよ」
「ハハハハ!! 徹子さんと一緒だなんて礼子さんらしいや」
「・・褒めてるのかよ。それ」
近くにいたレイを膝に乗っけながら旦那は笑いながら話を聞く、しかしながら修学旅行当日の事を考えると少しだけ 頭も痛くなるものだ。先の木村先生の事ではないのだが、やはりあの聖たちが何事もなく大人しくするのはあり得ない 話でどのように見てやればいいのかあまりよく解らない。唯一の鍵は中野であるが・・あいつが普段から尻に敷かれて いるし聖を相手に器用な真似など起こすなんてまず無理だろう、2本目のタバコを吸いながら私はいろいろな対策を 考えていた。
61 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:58:20.65 ID:JlTdUmSL0
「ま、大人数の生徒さん達の面倒を見るのは大変だろうけどいつもの礼子さんらしく行けば大丈夫だよ」
「・・いつもの俺らしくね」
「そうだよ、今までのようにいつもの礼子さんらしくやればいいと僕は思うよ」
何年も変わらない旦那のその笑顔はいつでも私を勇気付ける役割を果たしてくれる、それが再び私の原動力となり また再び私は動き出す。
「ま、それなりに対処して見る」
「無理せずに頑張ってね。あ、後お土産も期待しているよ」
嬉しそうに微笑む旦那を見ながら私はタバコを消し終えるとそのままゆっくりと修学旅行の対策について考えていた。
62 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 01:59:23.83 ID:JlTdUmSL0
色々考えていると月日は変わらずに過ぎていき、ついに修学旅行当日・・主役である3年生全員は学校前で点呼を 取って大荷物をバスの中に片付けて簡単な小荷物を手にそのままバスの中に乗り込んだ。先生方もそれぞれ 受け持つクラスのバスに乗り込み、私は中村先生と一緒に相良のクラスが乗っているバスへと乗り込んだ。 相良の友人は然程が別のクラスにいたため万が一のための対策と考えられる。だけども相良には中野がいるので バスの中でも大人しくはしてくれるだろう、席も後ろの方に相良と中野がいる席になったのでまずは問題ない・・ そう考えてた私であったが、隣に座っていた中野が身体の不調を訴えてきた。
「先生・・気分悪くなってきた」
「あのねぇ、こんなときに勘弁してちょうだい」
「いや・・本当に悪いんだよ。・・ウェップ」
まさか中野が乗り物に弱いとは思っても見なかったことだが、今の状態だと本当に気分が悪いらしい。 そのまま私は黙って手荷物から酔い止め用の薬を中野に手渡す。この薬は旦那から貰った酔い止め用のもので 即効性があるから瞬時にいつもの状態へと戻れるだろう、それに持続性もかなり高いので当分は乗り物酔いになる 心配もない。
「・・助かるよ」
「早く飲んで次に備えろ」
小声でそっと中野に薬を渡してやるとそのまま私はじっと窓の外から写る景色を見るが・・中野がダウンして暇を持て 余していた相良が強引に中野を押しのけて私の隣へとちゃっかり座ってここぞとばかりに私に話しかけてきた。
63 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:00:04.83 ID:JlTdUmSL0
「なぁなぁ、礼子先生!! 泊る旅館はちゃんと温泉やサウナも完備してるんだろうな?」
「一応あるわよ。ちゃんと前もって下調べはして置いたから」
修学旅行先についてはちゃんと先生方が下調べをしているので安全性については申し分ないだろう。 それに今回の旅行先についてはお寺や遊園地ぐらいしか観光スポットがないので少し退屈もしてしまうだろうが 楽しもうと思えばそれなりに楽しめる場所でもある。
「よっしゃ! 俺はどっちかというと市街地よりも山奥の方が落ち着ける性質だから丁度良いぜ」
「でも旅館だから少し退屈になるかもしれないわよ」
「マジかよ。なんか暇潰しはないもんかね・・」
「暇が出来たら周辺の散歩にでも付き合ってあげる。こっちもこれからの事を考えると気が休めないわ」
そう言って私は少しでも気を休めるために視線を聖から窓の景色に映す、ここ最近はいろいろな事を考えていたので 最低限の休養だけでも入れたい、それにしても修学旅行というのは生徒たちにとって見れば最大のイベントというのは 代わりはないもので、教師として修学旅行を経験してもそれは身を持ってわかる。
修学旅行に参加していない身とすればちょっぴり寂しさも感じてしまうが同時に楽しめるのも間違いはないもので こういった疲れを感じるのもまた一つの幸せなのかもしれない。
64 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:00:28.16 ID:JlTdUmSL0
「そういやお土産どうすっかな・・」
「あのねぇ、そんな物は後で買えばいいのよ。そんなに買うものなんてないでしょ・・」
「あ、あるに決まってるだろ! 家族とかいろいろな!!」
少し気が早い聖だがそれなりに修学旅行を謳歌している姿なのだろう、友達と一緒に行く旅行と言うのは どんな理由にせよ格別なものだし特別な思い出となるのは間違いはないだろう、聖の場合は友達も加えて 最大の恋人とも一緒にこうして旅行に行けれるのだから非常に幸せなケースに違いない。
そんな修学旅行を過ごす聖を私はどこか羨ましげに感じてしまっていた。
65 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:01:17.75 ID:JlTdUmSL0
学校から高速を乗り継ぎ道から道へ数時間後・・バスは宿泊先の旅館へと到着する。この場所は私が選んだ旅館で 料金の設定やサービスもかなり良くて料理の方もそんじょそこらの店よりも断然違ってかなり美味い、正直言って こんな旅館は滅多にないだろう。旅館に着くと女将さんの簡単な挨拶と各先生方の終わってそれぞれの生徒は 自分の部屋へと戻る。生徒が戻ったのを確認してから私も教師用の部屋へと戻り一息をつきながら旦那にメールをする。 後は事前に決めた生徒の監視のローテーションの時間になるまでは暫しの自由だ、久々のタバコを吸いながらボーっと 旦那からの返事を待っていると従業員が説明のためにゆっくりと部屋に入ってきた。
「失礼します。本日は当旅館に起こし頂きまことに・・」
「よぉ。毎日ご苦労さんだな」
「あなたは前回の・・あの時はお世話になりました」
「別に俺は大した事はしてねぇよ。それにしても相変わらず大変そうだな」
彼女は以前にここの旅館に泊ったときの従業員で見た目からして本物の女性化と思いがちだが実は女体化経験者で あり、聖よりも少し年齢は下だがその柔らかな物腰や言動からとても歳相応とは思えない感じだ。余程、親のしつけが 厳しく行き届いている証拠であろう・・
66 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:02:09.36 ID:JlTdUmSL0
「今日は修学旅行ですか?」
「ああ、ここからだと周辺に観光地が近いって言う事もあるということで決まったんだよ」
事実、この辺りは沢山の観光地がひしめき合っているのと都心に出ればそれなりの街やレジャーランドといった 施設があったのでまさに修学旅行にうってつけの場所であったのだ。
「ま、今日は初日という事もあってそれなりにのんびりできそうだけどな」
「学校の先生と言うのは毎日毎日大変なのですね・・」
「そっちだってまだ若いのにこうやって旅館の仕事を懸命にこなしているのだから大したもんだよ」
「そ、そうですか・・」
まだ高校生ぐらいの娘が大人に混じってちゃんと業務をしているその姿はお世辞でもなく立派なものだ。もう少しだけ この娘とは喋っていたい気持ちもあるのだが流石にこれ以上長居させてしまうと向こうの業務に差し支えてしまうので ここらで解放しておこう。
「さて、まだそっちも忙しそうだから他の客のとこにでも行ってやれ。俺も何もなかったらここにいるつもりだから」
「はい。では・・失礼しました」
静かに部屋を立ち去り再びタバコを吸いながらのんびりと休息をしっかり頭と身体に与えておく、これから先何が あるのか解らないので今の内に休めるだけ休んで置かないと次はいつになったら休めるのか分かったもんじゃない。 女になっていくら体力に自身のある私でも激務の連続だと流石にきつく途中で力尽きてしまいそうだ。
67 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:03:14.59 ID:JlTdUmSL0
「悪いな、散歩に付き合って貰って」
「約束したでしょ、暇があれば一緒に散歩するって」
「そうだっけ」
1日目の夜、聖と一緒に約束どおり散歩に繰り出す。それにしてもこの街の夜は都会とは違ってそれなりの味わいが 持てて視覚的にも和まされる、まるでどこか懐かしさを感じるのは気のせいではないだろう。
「しかし、ここってなんか古臭いよな。何って言うかもっとガツガツしたもんはないのかよ」
「そう? 私は結構好きだけど・・」
「俺はまだピチピチの若さだからな。こういったのも嫌いじゃねぇが、なんかもっとガーッとした煌びやかさが欲しいぜ」
何気にイラッと来てしまうが、まだ聖は高校生・・悔しいが華やかさが似合う若さをまだ持て余している。 やっぱりこういった年代の子は趣よりも目先の華やかさに踊らされる方がいいのだろう。考えて見れば私も昔はこう いった古いものよりも目先にある華やかさが好きだったし、修学旅行でサボった旅行だって奮発してゴージャスな ホテルに泊ったものだ。案外そういった意味合いでは私と聖はどこか似ているのかも知れない。
68 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:03:26.12 ID:JlTdUmSL0
「頼むから後2日ほどは大人しくしてね。彼氏と一緒で舞が上がりたい気持ちもあるだろうけど・・」
「そ、そんなことしねぇよ!! 確かに今回はあいつと泊ってはいるが、俺達はちゃんと分別は付けているつもりだ」
「とりあえず、その言葉を信じるわ」
かと言いつつも、この2人がそう大人しくしているはずがない・・そんな不安を私は徐々に感じつつあった。
69 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:04:39.36 ID:JlTdUmSL0
なにやら波乱が予想されていた修学旅行も初日、2日目の予定を無事にこなし目立った問題もなく予定通りに 消化されあのモヤモヤした想いはどうやら私の杞憂で終わりそうで何よりだ、教員用の部屋で鈴木先生とささやかな 談笑を楽しむ。
「今回も無事に終わりそうですね、修学旅行」
「そうね、今年はいろいろと曲者揃いが多かったから不安だったけど例年どおり何とかなったわね」
互いに安堵のため息をつきながら今回の修学旅行について鈴木先生と色々と語り合うが今回の修学旅行も例年通り 並の疲労感と達成感を感じられるのだが少しばかりの物足りなさも感じてしまう。
「でもあの2人が大人しくしてるなんて珍しいわね。ま、それはそれで良いけど・・」
「多分大人しくしてるのも何かあるはずです。・・今日中に何かあるかもしれません」
この修学旅行が行われていた3日間、意外にも聖は普通に大人しくしており中野や周りが巧く抑え込めているのも 要因なのかもしれないが、あの聖がそれだけで大人しくしているとは到底思えない、今まで大人しかったのには 必ず理由があるはずだ。
「さて私達もそろそろお風呂の準備でもしましょうか、そろそろ寝静まった頃でしょう。一緒にどう?」
「そうですね・・でも私はこれから見周りがありますので、後で入りますからお先にどうぞ」
「何だか悪いわね。じゃ、お言葉に甘えてお先頂きます」
そういって鈴木先生は予め準備していた入浴セット片手にルンルン気分で静かに部屋を立ち去る、私の方もタバコを 吸いながら静かに時の流れを感じてのんびりとくつろぐ。今までにもこの旅館へは泊った事はあるが、やはりどこか 懐かしい感じがして身体のどこかが癒される感じがしてならない。
71 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:06:15.13 ID:JlTdUmSL0
「おっと、監視に出かけなきゃいけないんだった。ま、この時間だからほとんど寝てるだろうけどな・・」
時計を見ると既に見周りの時間となっていたのでタバコを消すと部屋から出てそのまま各部屋の様子を見回る。 だけどももう時刻は既に夜中を回っており部屋を見て見ると全員夢の中で皆静かに寝静まっていた。しかしこの時間 まで起きるのは流石に身体に堪えるもので眠気を感じてしまう。それでも眠たいのを堪え続け各部屋を回りながら 全員が寝静まるのを確認するとそのまま部屋へと戻った、既に部屋の中は布団が敷かれておりお風呂から上がった 鈴木先生が布団に包まりながら静かに寝息を立てていた。
私もそれにつられて寝てしまいそうになったがお風呂に入っていないとどうも寝心地が悪いもので備え付けの入浴セット を片手にここの名物でもある露天風呂へと足を運ぶ、ここの露天風呂は景色もさることながらお湯の効能も大変幅広く 女性特有の病にかなり効くという噂だ。
「フ~、久々に風呂で足を伸ばすのも気持ちいいもんだな」
ゆったりと浴槽の中で足を伸ばしながら私は温泉に浸かりながら月夜が美しい夜の景色をじっくりと眺める。 先ほどまで感じていた眠気が嘘のように消え去りサッパリした感じで肌の艶もどこか良くなった感じがする、女になって から嫌に気持ちが悪いくらいに身体のつくりが大きく変わってしまってそれが嫌になった事もあったのだが、今では それも自分が自分である姿なのだと思い続けている。極上とも言える温泉に浸かりながら私は静かに耳を研ぎ澄ま せると・・何処からか若い男女の声が聞こえてくる。
72 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:07:26.37 ID:JlTdUmSL0
「この時間じゃ誰も起きてないだろ・・」
「全く・・さっきはてめぇが逆ナンされて散々だったぜ」
この男女の声、よくよく聞いて見ると意外にも聞き覚えのあるもので更に会話を聞いてみるとこの2人はカップルで 私の知るカップルのように見せつけてくれる。更に私は相手に気付かれないようにゆっくりと忍び寄る、どうやら2人は それぞれの世界に旅立っており惚気きっていて私の存在に完全に気がついていなかった。
「ま、逆ナンはされたが・・お前が嫉妬している姿は可愛いもんだったぜ」
「バッ・・バカ野郎!!」
(それにしても聞けば聞くほどどこかで聞いて事ある声だな)
私はもう少しだけ身体を寄せながら2人の会話に聞き耳を立てる、しかしいくら声だけ聞いてもよくわからないもので 全視力を使いながらカップルの方角を見ると・・なんとそこには歳相応にじゃれあっている中野と聖の姿があった、突然の 2人の姿に驚きつつも私は立ち上がると2人の元へと向かう。 既に2人は甘くディープな世界に入っており、この後どのようになるか容易に想像がつく、よくもまぁ教師である私の前で 堂々と出来る精神は立派なものだが教師である以上止めなければまずいものだ。
そう決意した私は湯船から立ち上がると静かに2人の方へと足を進める。
73 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:07:52.72 ID:JlTdUmSL0
「こんな真夜中に何やってるんだ・・」
「ゲッ!!」
「れ、礼子先生・・」
2人とも私の顔を見たときには完全に顔が引きつっており心境を察するに現実へと立ち戻りした気分に違いない、 だけどもこのままだとこの2人のためにもならないのでここは2人同時に一発言っておく事にする。
「ま、ここじゃ何だから場所を変えるわ。いいわね?」
「「・・・」」
私の言葉に2人は無言で湯船から上がると一直線に脱衣所の方へと向かう、私達一行は極楽浄土の温泉から とある離れの一室へと場所を移した。
74 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:08:52.80 ID:JlTdUmSL0
さて、離れの一室に2人を連れ出すと私は深呼吸をしながら口を開く。
「さて、2人とも何でこうなったか分かってるわね」
「ああ・・」
素直に聖が弱々しくポツリと言葉を吐くと私は更に言葉を畳み掛ける。
「別に私はあなた達がそういった事をやめろとは言わないわ、そういった年頃なのだから仕方ないと思う。 だけどね今は修学旅行なのよ、もう少し分別をつけなさい」
高校生と言うと多感な年頃で自分をコントロールし辛い微妙な時期だ、だけども自分の核が徐々に見え始める時期で あるのも確かなものでそういった意味では自分を発見できるだろう。だけどもこういったお年頃になると周りの言葉が 欝々しく感じてくるのも確かなもので私も過去には周りを顧みずに突っ走った経験が豊富にある、だからこそ この2人には私とは違い、真っ当な大人になって欲しいのだ。
「だから、修学旅行が終わるまでもう少しだけ我慢してちょうだい。わかった?」
「・・わかったよ。暫く我慢する」
「ま、あなた達2人に余りこんな事は言いたくはないんだけどあのもう少しの辛抱よ」
私の言葉に聖の方は戸惑いつつも何とか納得した様子で完全に言葉の矛を収めていた、しかし今まで静止を保って いた中野の方が意外にも余り納得できていないのか私に対して反論をかます。
75 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:09:36.75 ID:JlTdUmSL0
「でもよ、言ってる事は分かるんだが抑えられないものは抑えられねぇんだよ」
「あのね、だからって・・」
「溜まった物はいつまで溜めても仕方ねぇよ!」
だんだんと中野の方が苛立ってくる、しかも相手があの中野であって私の方もだんだんと素に戻ってしまいそうで この口調のままでいるのがだんだんと辛くなってくる、聖の方はまだ少し気落ちしているようで普段のように中野を やり込めるのは難しそうだ。こうなったら一旦聖を元の部屋へと戻し中野と改めて話す必要があるようだ、そう判断すると 即座に行動に移す。
「・・さ、あなたは元の部屋に戻りなさい」
「あ、ああ・・わかった」
珍しく私の言葉に素直に従った聖はそのまま静かに立ち上がるとそのまま部屋から立ち去った。それを確認した私は 懐からタバコを取り出すと一本取り出し火をつける、心身を落ち着かせながらじっと中野を見据える。
76 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:11:11.23 ID:JlTdUmSL0
「俺だって何度も我慢してきたけどよ、やっぱこう何日もお預けを喰らっていると・・」
「言いたい事はそれだけか! 全く、おめぇらカップルはどれだけ人に迷惑を掛けりゃ気が済むんだ!!」
「だけどよ、俺は――ッ!!」
「うるせぇ! さっきからウダウダばっかり言いやがって・・そんなにしたけりゃ勝手にしろ!! その代わり全部てめぇが責任を負うことになるんだぞ!!!」
吐き捨てるように言葉と共にタバコの火を消すと辺りは妙な静けさが漂い始める、同時に中野の方も大人しくなった ようで先ほどの荒々しさは鳴りを潜めている。どうやら中野の方は一時の感情で動いていたようで今頃は冷静さを 取り戻しているだろう、それを静かに確認した私は2本目のタバコを吸い始めるとこう言い残す。
「悪い、少しヤキが廻ったみたいだ・・」
「・・さっきも言ったが自由にするのはてめぇの勝手だ。だけどな、自由には必ず責任がついて回るんだ、それをよく覚えて 置け。
さて今夜はもう遅い・・早い所、自分の部屋に戻って眠っておけ」
「ああ・・迷惑掛けた」
そう言って中野の方も静かに部屋から立ち去る、それを確認した私の方もタバコを吸い終え鈴木先生が眠っている 部屋へと戻る。それにしても最後の最後であの2人はとんでもない事をやらかそうとしていた、思わぬ修学旅行では あったがこれもまた別の意味ではこれも旅行の醍醐味の一つであろう。まさか私がこんな説教をかますとは一体誰が 想像したのだろう?
昔の私であったら絶対にこんな事は言わないし言われたら言われたで更に捻くれていただろう、これも人を導く教師の 仕事に違いない、そう私は静かに確信してしまう。ふと空を見上げると朧月夜がそう私に告げていたような気がした・・
77 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/03/29(土) 02:12:36.90 ID:JlTdUmSL0
「はぁ~・・今回はいろいろ疲れたな」
帰りのバスの中、私はそっとため息代わりに今回の修学旅行について考える。どうやら今年は忘れたくても 忘れられない思い出となるだろう、だけども余韻に浸るのも・・
「ゲッ、椿へのお土産買うの忘れてた!!」
「お前バカだろ! その点俺はちゃんと予算をやりくりして買うものは全部買ったんだぜ」
「どうせお前は自分のものばっかだろ・・」
「ち、違ェよ!!」
騒ぐ2組のカップル・・どうやら私はまだこの2人に関して更なる騒動に巻き込まれてしまいそうだ。 度重なる疲れの中、私は静かにそう思いながら帰りにバスに揺られ眠るのであった・・
-fin-
最終更新:2008年09月17日 19:25