『樹』(4)

127 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:05:18.38 ID:AB1dteus0

そして・・待ちに待った旅行当日。昨日の夜のことも 気になるのだが、ここは気分を変えて來夢の誕生日を祝って あげることにしよう。忘れ物がないことをチェックした俺たちは そのまま母さんのマネージャーが運転する車でワシントン D.C.国際空港へと向かった。かの有名な大女優が空港内に いたらかなりの大混乱に陥っていた!!・・のようなことはなく、 一般客とは別の搭乗口で手続きを済ませた。それに混乱を 避けるため乗るところはファーストクラスなので 一般客と早々会うこともないであろう。

「飛行機って融通が利かないわよね・・それに持っていけれるもの限られるし」

「仕方ないだろう。飛行機は鉄道とかと違って結構シビアだからある程度は我慢しろ」

「わかってるわよ!!・・來夢、暇だから何かしましょ」

「うん」

あいつはそのまま横にいた來夢を引き連れると飛行機に備わっていた チェスで遊び始めた。N.Yからローマの空港までは3時間ちょいあるので かなりの時間的余裕があった。母さんのほうも今回公演する舞台の台本を 食い入るように見つめていた。どうせ外は空ばかりだ。少し見ただけで飽きてしまう。

俺も飛行機に備えてあった小説を手に取ると3時間を過ごそうとしていた・・

129 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:06:48.31 ID:AB1dteus0

「はい、チェック・・それにしても飽きるわね」

「香織さんが強すぎるんだよ。僕が勝てたとしてもまぐれによるものだし」

「あんた、女体化してから性格変わった?」

「元々、こんな性格だよ。2人の間にいれば自然とこんな性格になるよ。 ・・そうだ、兄貴!ちょっと代わってよ」

突然、來夢からお誘いを受けた俺は場の空気で逆らっても無駄と把握すると そのまま読みかけの小説を閉じ、そのまま來夢をどかすとチェスの駒を元に 戻した。突然の俺の行動にあいつも少し拍子抜けしたようであった。

まぁ、小説もほとんど読んじゃったしかなり暇だったことも事実だ。

130 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:07:17.07 ID:AB1dteus0

「あんたが乗る気だったなんて意外ね・・」

「まぁな、ほとんど読んじゃったし。暇だったことは事実だ」

暇なのは事実ではあるのだが・・どうも最近はあいつといるだけでペースが 乱れてしまう。そこのところが勝負に影響されないか少し心配だ。 まぁ、ここはそういった感情をすっぱ抜いて娯楽程度に楽しむというのがベターと いうものであろう。俺たちは無言で先攻後攻を決めると 準備を始めた。

「言っておくが・・手加減はしないぞ」

「当たり前じゃないの!!」

かくして、空港までの到着の間・・俺らはチェスを打つのであった。

131 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:09:29.67 ID:AB1dteus0

「・・チェックだ」

「ろ、ローマまでにはまだ時間があるわよッ!!!」

そういってあいつはそのまま駒を戻すと再び俺と対峙した。 俺たちがチェスを始めてからかれこれ数分してからか・・こんな光景が 何度も続いている。俺は昔からチェスをしているのでかなりの心得があった のだが・・対するあいつのほうはようやく初心者を脱したばかりのレベルだ。

戦略やらまるでなっていない。おそらく來夢に勝てたのも來夢が初心者だった からであろう。俺も手加減をしたかったのだが、なぜかあいつは俺が 手を抜くときはわかるらしくなかなか俺は手を抜けることができなかった。 それが重なってか・・俺はこの状況が結構気まずかった。

そしてまた俺はあいつのキングを詰めた。

132 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:09:53.51 ID:AB1dteus0

「はい、チェックメイト・・いいかげんにほかの遊びを」

「うるさいわね!!!!・・まだまだよ」

「わかったよ・・」

こんな状況が続き、初心者を脱したばかりのあいつが手加減できない 俺に勝てるはずもなく、あいつは黒星ばかりを刻み続けていた・・俺も何とか 気づかれないようにあいつが勝ちやすいようにしているのだが・・それでも俺は あいつに勝ち続けてしまっていた。

あいつが引き分けなんて絶対に認めるわけがないし・・俺はどうやったらあいつに 勝たせてあげれるのか考えていた。横にいた來夢もこの状況が気まずいのか あいつに聞こえないように小声で俺に喋ってきた。

133 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:10:59.83 ID:AB1dteus0

(どうするんだよ兄貴・・このまま勝ち続けたら香織さんに悪いよ)

(仕方ないだろう!!・・・こっちが手加減するとあいつは怒るからな)

「2人とも余裕そうね!!!」

「ち、違う!!」

「いいわよ!!絶対に勝ってやるから!!!」

あいつは俺たち2人を指差すとすぐに自分の場をと戻った。 ここまで勝ち続けるとあいつはかなり不機嫌になってしまう。何とか 俺はあいつが勝ちやすい状況を作っていたのだが余り功を奏さなかった。

俺が勝つたびにあいつはますます不機嫌になっていった。それが堪らなくなった 俺は母さんに助けを乞うが・・ 母さんはまるで俺らを楽しんでいるのか?「自分でやれ」っと視線で俺に切り替えしてきた。

こんな状況が続く中・・俺は何とかしてあいつに気がつかれないように自分の不利な状況を作っていた。

135 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:11:35.70 ID:AB1dteus0

すると、神はそんな俺の願いを叶えてくれてくれたのか・・僅かな俺のミスで あいつが徐々にではあるが切り返してきた。俺も何とか対処するが、こういった 場合のミスはなかなか取り戻すのがとても難しく俺はあいつにチェックを喰らってしまった。

「やったわ!!」

「ああ・・俺の負けだ」

それと同時か、飛行機は着陸態勢に入るため乗客にシートベルトの装着を 車内アナウンスで促していた。來夢のほうは疲れた俺を労ってくれた。 もう当分はチェスなんてやりたくない。

このときばかりは俺は神の存在をいつものをにわかに信じざる得なかった・・

136 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:13:27.53 ID:AB1dteus0

「ようやく着いたわね!!ま、ちょっと早いけどお誕生日おめでとう來夢」

「ああ、おめでとう」

「ありがとう。2人とも」

ようやく空港に着いた俺たちは少し早いが來夢の誕生日を祝ってあげた。 來夢自身もまんざらではないようで結構うれしがっていた。盛り上がっていた 俺たちであったのだが・・母さんが少し申し訳なさそうにしながら俺たちに言ってきた。

「3人とも余り目立った行動はするなよ。何せここは外国だからな・・ それに私自身もお忍び状態だから余り目立った行動はできないからな。 くれぐれもパパラッチのネタにされないように行動には気をつけてくれ」

まぁ、当然といえば当然だ。母さんの立場上はかなり目立った行動はできない。 日本では余り目立ってはいないが、外国にはパパラッチという非常にめんどい 人種がいる。よく俺たちを嗅ぎまわってそれをネタにするものだ。それに母さんは 世界中に名が売れている女優・・パパラッチにとったら記事の格好のネタだろう。 それゆえに俺たちの服装も一般人に紛れ込みやすいものとなっている。

そんな申し訳なさい一杯の母さんにあいつが・・

137 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/29(月) 21:14:03.50 ID:AB1dteus0

「何言っているんですか。そんなことは昔から承知です。だから、今回はそんなこと 忘れて楽しみましょうよ。せっかくの來夢の誕生日なんですから・・ね?」

「ま、そうだな。たとえそんな奴らが来たとしても俺たちにはガードがいるんだし、今回も大丈夫だろう」

そうだよな。今までだってそういったことは何度かあったわけだし、そうならないために 俺らの影で必死に守っているガードの人たちがたくさんいるだろう。 今回も多分そうだ。きっと、今この中にいる人だかりでもガードはいるだろう。 俺たちの言葉が効いたのか・・やっと母さんはいつもの表情へと戻った。

「・・そうだな。來夢、誕生日おめでとう」

「母さん・・みんな、本当にありがとう」

來夢は俺たちにそういいながら自分の誕生日を噛み締めていただろう。

46 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:46:48.51 ID:rFgi44th0

さて、俺たちは母さんと一緒にイタリアを観光していた。 主にローマを中心とした首都を観光していた。幸いなことにいまだに誰にも 騒がれることもなくパパラッチの類とも遭遇していない。 どうやら母さんの地味な変装が想像以上に効いているようだ。流石に母さんも 伊達に女優はやっていない。やはり首都を兼ねた観光地なので 人はごまんといる。これといってたいしたトラブルもなく俺たちは観光地を 歩きながら途中で店に売っていた本場のピッツァを食べながら歩いていた。

「それにしてもやっぱイタリアのピッツァは全然違うわね。前にマンハッタンでピザの店食べたけど全然違うわよ」

「まぁ、本場だからな」

俺は自分のピッツァを食べながらあいつに説明する。 それにしても、かのイタリアの民衆はいいものを開発してくれたとしみじみ思う。 本来はこうした立ち食いで食べるものらしいからな・・

「ねぇ、來夢!次あんたの家、来た時はこれ作ってくれない?」

「えッ!!・・そりゃできなくもないけど生地から作るにはかなり時間かかるよ」

「大丈夫よ。昔から料理がうまいあんたならできるわよ!!それにちゃんと私も手伝うから」

「うん、じゃあ今度ね」

來夢は渋々ながらも承諾したようだ。数々の料理ができる來夢はピッツァなら 楽勝だろう。まぁ、本人は和食のほうが得意と言い張っていたが異国の料理でも 來夢ならできると思う。後ろにいる母さんも俺と同意見だろう。

47 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:48:10.25 ID:rFgi44th0

「それにしても・・來夢は将来は料理のほうへと志すのか?」

「うん、そのつもりだよ。なるべく自分の特技を活かしたいからね」

「そうか・・」

突然の母さんの言葉・・そういえば俺は将来のことは全然考えてなかったな。 とりあえず大学へ出て就職といった感じだろうか・・それにしても來夢はちゃんと 自分の将来について考えていたんだよな。 我が弟・・いや、今は妹か。女体化にめげずに頑張っているんだな。強い精神だ・・

「あんたはまだ考えてないよね~」

「う、うるさい!!・・お前だって俺と一緒だろう!!」

「なんですって!!!!わ、私だって・・将来のことは考えてあるわよ!!!」

「まぁまぁ・・2人とも」

來夢のおかげで何とか俺たちは何とか言いとどまった。 まぁ、ここであいつとくだらない言い争いをしていれば主役である來夢が心配 してしまうからな。まさか俺と一緒だと思っていたこいつが自分の将来を考えて いたとは・・少し意外だった。てっきり、OLあたりだと思っていたからな・・

そんなこんなで俺たちは母さんと残り少ない午前中を有意義に過ごしていた。

48 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:49:52.48 ID:rFgi44th0

そして、時間が過ぎていく中・・母さんはチラリと時計を見始めた。 気がつけば時刻はもう夕方の4時だ。最初は母さんは午前中と いっていたのだが忙しい予定を無理して俺たちに付き合ってくれたのだろう。

本来なら過密なスケジュールに翻弄されて休暇もままならない状態だろう。 舞台とかの役作りの合間に俺たちに付き合ってくれた母さんにはつくづく感謝だ。

母さんは俺たちを再びローマの駅に連れて行き、來夢にプレゼントを手渡した。

「來夢・・改めて誕生日おめでとう」

「母さん・・これ」

母さんが來夢に手渡したのは世界でも有名なジュエリーショップの アクセサリーであった。多分、日本円に換算したら数百万ぐらいは余裕で 超えるだろう。來夢は母さんから受け取ると笑顔でプレゼントを受け取った。

50 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:52:33.27 ID:rFgi44th0

「母さん・・今日は忙しい中、本当にありがとう。いろいろと無理言ってごめんね」

「何言ってるんだ。こっちもいい休暇になった。 本来ならもう少しいたい所だったんだけどな・・駅に車置いてあるから そこからあいつの元へと向かえ。・・じゃあな」

「ああ・・ありがとう母さん」

「小母様、お仕事頑張ってください」

「ああ、頑張ってくるさ」

そういって母さんはあらかじめいたマネージャと一緒に駅のホームへと消えていった。 母さんの姿か見えなくなるまで俺たちは母さんを見送った。こうしたことは小さいころから 慣れていたので大して感情もわかなかったのだが・・母さんのほうは辛いのだろうな。

51 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:53:56.64 ID:rFgi44th0

「母さん、行っちゃたね・・」

「・・ああ、ドラマとか映画でもこういった光景やっているから慣れているって本人は言っていたけどな」

また会えるといってもいつになるかはわからないな。 最後に家族全員で揃ったのは來夢が女体化したときだったけな? あれから親父、母さんとサイクルで家にいたのだが・・家族揃って会うのは2人の職業柄かあまりなかったな。

「あんたたち!しんみりするのもいいけど早く車に乗り込んで小父様と合流しましょ。 早くしないと厄介な連中が来るかもよ」

「あ、ああ・・そうだったな。來夢、行くぞ」

「うん」

俺はそのまま來夢を引き連れると駅から急いで車に乗り込んだ。 手早く乗り込まないといつ激写されるかわからないからな。 アメリカや日本だったら何とかなるかもしれないが、ここはローマだからな。 そういった手合いがよく多いと聞く。

激写されでもしたら平穏な生活がすべてパァだもんな。

52 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 18:57:36.07 ID:rFgi44th0

車に乗り込んだ俺たちはそのまま親父の会社の支部へと向かった。 本社はアメリカなのだが、ちょうどヨーロッパのほうへと視察に行っていたらしい。 俺らは会社の中にある別の部屋で待たされると・・しばらくしてか、親父が俺らの元へとやってきた。

「やぁ、待たせたな」

「父さん・・本当に仕事抜けて大丈夫だったの?」

「フフフ、私の優秀な右腕が本社を守ってくれている」

父さんの言う優秀な右腕・・誰なのかは大体想像がつく。 いくつもの会社を統べる平塚グループの頂点に立つ親父の仕事量は生半可では ないだろう。世界中に数多くの支部を持つ大企業の会社に停滞は許されない。

53 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 19:00:09.11 ID:rFgi44th0

それに父さんの立場上、余りほいほいと会社を抜けるわけにはいかない。それは 小さいころから熟知していたつもりだ。社長の膨大な仕事、それを1人でこなす存在といえば・・

「もしかして・・私の父ですか?」

「そうだ。まぁ、十条には少し酷だったのかもしれなかったな」

親父の右腕にして企業のNO.2・・俺の横にいるあいつの父親は今頃、悲鳴を 上げているだろうな・・何せ、自分の仕事に加えて社長である親父の仕事を やってのけているのだからすごいものだろう。あいつの親父は何度か会ったことがある。

とても人当たりの良い人物で社交性がかなり高いともわれる。 聞いた話だと若かりし頃の親父と共にこの会社を創立したようだ。 やっぱり、駆け出しの頃はかなりの苦労したらしい。 あいつの親父さんは俺の親父の影に隠れながらも縁の下の 力持ち存在で裏方から会社を大きくしたようなものだと言っていたな。

しかし・・毎度会う度に俺に何かを期待する視線が日に日に強まるのは正直やめてほしい ところなのだが、なかなか言えないものだった。

54 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 19:02:30.95 ID:rFgi44th0

「さて、もう夕方か・・ディナーにするとするか」

窓から見る空は夕暮れの紅色から漆黒の黒へと交代しようとしていた。もう夕食時であった・・

「そうだな・・どこにするんだ?」

「そこに抜かりはない。ちゃんとレストランに予約を入れてある!!」

行動派の親父の素早い行動により、俺たちはレストランへと向かった。

「ハハハッ・・ま、毎年恒例だが。誕生日おめでとう來夢」

「ありがとう。父さん」

ここはイタリアでも有名なホテルに内蔵されている高級レストラン・・ 俺たちは高級イタリア料理を味わっていた。セレブ御用達の高級レストランの 名を出しているだけあって料理はどれも全部おいしいものであった。 何でもここのシェフは三ツ星レベルで素材からかなりこだわっているらしい。 特に來夢は味わって食べていた。

「喜んでもらってうれしいぞ」

「小父様・・父からは何かありませんか?」

ナイフを止め、あいつは親父に話しかけた。まぁ、そうだろうな。こいつの親父は 今、ここにいる親父の代わりに会社で膨大の仕事をこなしているだろう。 もしかしたら託を頼まれているのかもしれないな・・

55 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 19:05:03.12 ID:rFgi44th0

「あああ・・十分に楽しんで来いって言っていたぞ。 まぁ、やつの代わりに十分楽しむんだ。なんだかんだ言っても十条には 昔から世話になっているからな」

「ええ、確か小父様と小母様の昔ながらのご関係とか・・」

そういえば・・親父たちもそんな関係だっけな。だから俺たちはこうして 3人まとめているんだなっとしみじみ思うな。 親父が思い出話に浸る中・・フレンチの数々を食しながら突如として 俺に向けこんなことを切り出した。

「そういえば・・お前は彼女は作ったのか」

「ブッ!!!!・・いきなり何言うんだよ!!!」

俺は思わず料理を戻しそうになった。母さんからともかく 親父からそんなことを聞かれるなんてかなりの意外であった。 普段めったにそういったことを聞かない親父にそんなことを聞かれた俺は 來夢に支えられながらも、どう答えていいのか全くわからなかった。 それになぜかあいつも少し顔もうつむいていた・・

56 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/01/31(水) 19:05:28.59 ID:rFgi44th0

「で、どうなんだ?」

「う、うるせぇな!!・・別にいいだろ!!」

俺は置いてあったワインをそのまま一気飲みすると再び料理に手をつけた。 しかし・・俺はなぜか料理があまり喉が通らなかった。そんな俺とは対照的に 親父は料理を摘みワインを飲むとこういいのけた。

「・・お前の反応はおもしろいものだ」

「息子で遊ぶな!!・・部屋に戻る」

「あ、兄貴!!」

俺はなぜか気分が悪くなったので先に部屋に戻ることにした。

162 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:48:21.38 ID:2zxWvLTK0

「チッ・・糞親父が」

俺は部屋に戻るとそのままベッドに寝転んだ。 俺たちは一応部屋は同じにしてある。特にこの部屋はスイートルームのようで ほかの部屋のベッドとはかなり違い、高級感溢れる造りとなっていた。 俺はそのまま部屋にあった酒をグラスに注ぐとそれを口に含んだ。 理由などない。ただ・・酒が飲みたかったからだ。まるで現実から逃げ出すように・・

俺はそのまま火照った体を仰向けに向けると呆然としながらさっきの光景について冷静に考えていた。

「・・彼女なんていねぇよ」

俺は自棄気味になりながら酒を飲みテレビの電源をつけた。正直テレビはおもしろくもなんとも なかったのだが、このうざったい気分を紛らわすにはちょうどいいものだった。 しかしまぁ・・來夢には悪いことしちまったかなぁ。

酒のおかげで感情がストレートになった俺は少し自棄気味になりながらベッドに寝転んでいた。 しばらく酒を飲みながらテレビを聞いていたのだが・ここで部屋のドアがばたりと開いた。

俺は來夢だと思い、そのまま静止していたのだが・・部屋に入ってきたのは思いがけない人物であった。

164 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:50:17.68 ID:2zxWvLTK0

「お、お前!!なんで・・」

「別に・・」

部屋に入って来たのは今頃親父たちと食事をしているであろうあいつであった。 あいつがこの部屋に入ったってなんら不思議ではなかったのだが、今の俺には さっきの光景やこの気まずさが重なってそういった常識が少し欠落してしまって いるようだ。だから余計に人一倍に慌てている。 そのおかげか気まずかった部屋の空気は更に気まずくなってしまった・・ テレビをBGMにしながら・・俺はなかなか言い出せなかった。

男女がホテルにいるには甘い雰囲気とかが充満してくるものなのだが、そんな ものは微塵もなくあるのはテレビの虚しい音と気まずい空気だけであった。 しかし、あいつの艶のある空気を俺に送りながらこの気まずさを少し中和していた。

だけどこうあいつと2人きりでいると、どうも話しかけづらかった。

「・・親父なんていってた。怒ってたろ?」

「いや・・普通だったわ」

「そうか・・」

非常に気まずいものだった。あいつの口調も重く感じてしまう。來夢がいないと ここまできついのかと思った。それに來夢はまだ親父と一緒に食事としていると 思うしまだ帰ってこないだろう。それまであいつと同じ部屋で2人きりで過ごすのは 精神的にきつすぎるものだった。あいつは俺の横のベッドに座りながら雑誌をちらりと見ていた。

165 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:51:29.30 ID:2zxWvLTK0

「ねぇ・・」

「・・なんだよ」

非常に気まずい空間・・俺は何とかこの状況を打開したかった のだが、あまりいい言葉が浮かばなかった。

テレビが部屋の中で虚しく響く中・・あいつは俺に驚くべきことを言い放った。

「あんた・・この状況で何もしないの」

「はぁ?」

「・・・あんたはこの状況でいて何もしないって言ってるの?」

今までにもこいつの言動や行動にはたびたび驚かされてきたが、この時ばかりは 驚きという言葉では足りないぐらいに俺の体全体が硬直した。

166 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:53:03.61 ID:2zxWvLTK0

俺は体が硬直したまま恐る恐るあいつに切り返した。あいつも俺と一緒に ワインを飲んだから酔っていると思っていた。

「な、何言ってるんだよ!!・・お前、あんな飲まない酒飲んだから酔っているのか?」

「・・あんた、今飲んでるんでしょ?私にもお酒ちょうだい」

「はぁ?」

「だから、あんたが飲んでいるのと同じのちょうだいって言っているでしょ!!!」

あいつはそのまま俺が飲んでいる酒を指で指すと俺にくれといってきた。 俺は普段は來夢に隠れながら家にある酒を飲んでいるので自分がどれぐらい 酔うかはちゃんと自負いている。 目の前にいるこいつはどれぐらい酒が飲めるのかは気になったのだが、一応俺は制止した。 悪酔いされては後が困るからな。

167 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:53:19.47 ID:2zxWvLTK0

「やめとけ・・この酒、結構きついぞ」

「いいから頂戴って言ってるでしょ!!じゃないと來夢に言いつけるわよ!!!」

「わかったよ・・作ってやるからちょっと待ってろ」

俺はベッドから立ち上がるとグラスを取り出し酒を作り始めた。 來夢は非常にまじめな性格をしているのでと芝に満たない俺の飲酒は 許せない性格のようだ。前にもちょっとした手違いでばれてしまってえらい 怒られた気がする。なんとか親には黙ってもらえるように頼み込んだのだ。 それ以来・・俺は証拠を残さずに家で酒を飲んでいる。 俺が飲んでいる酒は結構きついブランデーで俺はストレートで飲んでいるのだが、こいつの 酒に対する耐性が全くわからないままでストレートで飲ませるのは非常に危険だ。 だからここはあえて水割りで飲ますことにする。

俺はあいつに水割りを渡すとそのままあいつは俺から水割りを受け取った。

169 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:55:35.64 ID:2zxWvLTK0

「どうだ?」

「別に・・」

「おいおい、この酒かなりの銘柄らしいからな。ちゃんと味わって飲めよな」

「私にそんなことわかるわけないでしょ!!!」

あいつは怒鳴りながらも水割りを飲んでいるようだ。 まぁ、なんとか先ほどの気まずい雰囲気はさっきよりかは随分をましに なっている。俺たちは部屋にあったチーズをつまみながら酒を飲んでいた。 まさかこいつと酒を飲めるなんて思っても見なかった。何せ、こいつとはそういった 付き合いが余りなかったからな。それに周りの情報によると、こいつは酒とか タバコとかのドラッグには手を出していないらしい。

日本では当たり前の光景だと思うが、アメリカでは地域ごとに違うが未成年が そういったものに手を出すのが後を絶たない。 それにそういったのは特に女性にが多いらしいから余計に意外だ。 まぁ、こいつがそうならないで安心した瞬間でもあるのだがな・・

170 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:55:51.21 ID:2zxWvLTK0

「だ・か・ら~!!來夢がいるからあたし達はいるわけであって・・」

「おいおい大丈夫か?」

早くも水割り3杯近くであいつは酔いが廻ってきたようだ。 まさかあいつが酒がこんなに弱かったなんて意外だ。これ以上飲ませたら二日酔いしてしまう。 現にもうあいつは訳のわからないことを言っていた。

「大丈夫に決まっているでしょ!!!なんてたってこの私だから・・おっとと」

「お、おい!!無理するな!!」

俺は無理して立って歩こうとしたあいつをすかさず抱えた。あの時のように あいつ独特の体の感触が抱えている俺に伝わってくる。 それにこれ以上飲ませるのは危険だ。俺は酔っているあいつを抱え込むと そのままベッドへと運び込もうとした。

するとあいつは・・酔っているのかとんでもないことを言い出した。

171 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 00:57:14.46 ID:2zxWvLTK0

「ねぇ・・しよっか?」

俺には激痛が走った。それ故か俺はあいつを抱えながらしばし歩みを止めた。 正直言ってこの言葉は俺を硬直させるに十分な威力があった。先ほどの酒の 効力がスッとなくなっていくのが嫌ほど感じた。空気は先ほどの気まずい 元の空気へと逆戻りした。俺は高鳴る体を無理矢理抑えながら この状況をどうしようかと考えていた。酔った勢いとはいえ少なからずとも 今のあいつには理性があるはずだ。 いや、待てよ・・普段のあいつは絶対にこんなこと言わないはずだ。 もしかして・・酒によって理性が吹き飛んでしまったのか!!

あいつは更に潤んだ瞳を維持しながら声を震わせながら・・

「別に・・相手があんたならいいわよ」

「・・・はぁッ!?お前そこまで酔っているのか!!!!」

俺は半分自分自身に言い聞かせながらあいつに言った。 今のあいつの姿は普段のどぎつい雰囲気など微塵もなかったからだ。 慌てに慌てまくった俺はどうしていいのか全くわからなかった。 そんな俺を差し置いて抱き寄せているあいつからは俺を握る力が先ほどよりも ぐっと増していた。どうやら答えが出るまで俺を離さないらしい。

俺はあいつを抱えたままその場を立ち往生せざる得なかった。

173 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 01:01:08.82 ID:2zxWvLTK0

「お前・・自分が何言っているのかわかっているのかよ!!」

「・・・」

今度はだんまりかよ。どうすんだ・・俺? このまま無理矢理、俺の体にしがみ付いているあいつをどかせて ベッドに寝かせるということも可能なのだが、なぜか体が言うことを利かない。 まだ酔っていないと自分でもわかっているのだが・・それにあいつは更に俺の体に しがみ付くように体を密接させている。女性特有の体の柔らかさが 俺の体を刺激するように伝わってくる。

「お、おい!!・・お前はそ、その・・俺と」

「・・別にいいって言っているでしょ。・・どうすんの?」

「お、俺は・・」

俺は思わず口を噤んだ。こいつは異性としてみればかなりの魅力的な女性で あろう。完成されたスタイルは男心をくすぐるものがある。過去にもよく周りから 仲を取り持ってくれと依頼されたこともあった。

174 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/02(金) 01:02:31.89 ID:2zxWvLTK0

だが・・今の俺にはこいつを異性としてみているかどうかはわからない。 何せ、昔から付き合っているからこいつをどういう感覚で見ていいかわからない といったところか・・ 異性としては余り意識していないと自分でも思う。いや、そう思いたい。 その証拠に2年前、とある女性と付き合って抱いた仲までいった俺だ。 女性の感情というものは多少はわかっているつもりだ。まぁ、関係は それっきりで自然消滅してしまったのだが・・

何せこいつとは幼馴染という関係だからな。そういった感情なんて湧くはずがないさ。

「・・おい、慣れない酒だからきつかっただろう。だからもう寝ろ。付き添ってやるからよ」

「・・・わかった」

意外と素直に従ったあいつを俺はベッドに降ろしてやるとそのままあいつが飲んだ グラスを元の場所へと戻ろうとしたのだが・・あいつが俺の服の裾を力いっぱい 抑えるものだからなかなか移動ができなかった。 仕方がないので俺は酒を片手に眠っているあいつの寝顔を見ていた。 俺は思わずあいつの長い髪を触るとさらさらとして心地よい感触であった。 当のあいつはというと俺の裾を抑えたままスヤスヤと眠っている。 その姿は普段をあいつとは全然違う姿であった。

(結局・・どうなんだろうな)

俺は残っていた酒を飲みながら感傷に耽っていた。 その時の酒はいつもの味と違い深みのこもった不味い味であった・・


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月17日 19:32
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。