『樹』(9)

231 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/13(火) 05:32:18.56 ID:UT8wowNP0

その後、俺たちの関係も微妙に発展しながら日常を過ごしていた。 後でわかった事なのだが、やはりあのチケットはやはりあいつと來夢が組んで いたことだったらしい。まさかとは思ったが來夢が一枚噛んでいたとは・・

本人曰く、「2人がいつまでもくっつかないから悪いんだよ」ということらしい。 まぁ、今までの俺だったら少し驚いてしまうのだが・・まぁ、ここは惚れた奴の 弱みってことで済ましておこう。しかしまぁ、有り得なかったことはいえ、あいつと 恋人同士になってしまうとは昔の俺なら夢にも思わなかっただろう。 ま、來夢の癌の事実よりもこっちのほうが気楽でいいもんだ。

んで、俺たちの間でもう1つの変化といえば・・

233 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/13(火) 05:33:17.57 ID:UT8wowNP0

「早くしなさいよ!!」

「・・わかった」

幼馴染の彼女に朝を叩き起こしてもらうシチュエーション・・そんなことは 今までにも少なからずあったのだが、その場合はあいつが家に泊まった時ぐらいのものだ。

あいつと付き合う事が発覚した当初、あいつの親父があいつの荷物ごと俺の家に 送りつけてきた。

引越し当時、あいつの親父さんは俺の姿を見つけると俺の肩にドンッと勢いよく 両手を置いた。何のことだかさっぱりわからなかったのだが・・ あいつの親父はかなり喜んでいたことは覚えている。その姿は少し不気味だった・・

まぁ、そんなこんながあって・・漫画でよくある公認の同棲生活の始まりである。 いきなりのことで俺も驚いたのだが、あいつの母親はあいつを産んだ時に 亡くなったらしいのと父親が仕事で忙しいこともあってか、あいつは今までは 実質上1人暮らし状態だったのだ。俺の家も部屋に余りはあったし何より両親や 來夢もあいつとの同棲に快く賛成してくれた。 まぁ、俺としても嬉しい誤算ではあったが・・それはともかく俺の家に転がり込んだ あいつはなんら問題なく生活に馴染んでいた・・というか、この家にいること自体が 長いあいつにとっては遊びの延長線上といったところであろう。

ま、そんなこんなでこれからこんな生活が毎日これが続くだろう。

234 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/13(火) 05:37:35.62 ID:UT8wowNP0

「あ、兄貴おはよう」

「ああ・・」

俺はそのまま眠気まなこで台所へと向かうと、來夢が出迎えてくれた。 今日は和食オンリーで味噌汁とご飯、魚焼きといった典型的な日本の 朝食だった。まぁ、俺は洋食よりも和食派なので嬉しいものだ。 あいつと俺は隣同士の席に座りながらそのままご飯に箸をつけると來夢は じっと俺たちを見つめていた。

「2人とも・・ようやくくっついたって感じだね」

「な、何言ってるんだよ・・」

俺は思わず味噌汁を持っている手を止めた。來夢ってこういった色沙汰が好きだったのか・・?

ちょっと意外だ。來無は男のときはこういった色沙汰に興味がないかと思って いたのだが・・女になってから性格が変わったのかもしれないな・・

俗にいう性格改変か?

238 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/13(火) 06:10:57.34 ID:UT8wowNP0

「だって、兄貴が鈍かったから香織さん今までやきもきしていたんでしょ? 傍からみればいつくっついてもおかしくなかったのに・・」

「あのなぁ・・」

「來夢、あんたは彼氏とかは見つけないの? あんたみたいなかわいい娘を引っ掛けない男のほうがどうかしているわよ」

確かに・・來夢はかなりの魅力の持ち主だ。女体化してるという事実を隠せば 十分にもてるだろう。どっちかというと守ってあげたい癒し系・・という感じか? まぁ、男とは付き合いづらいという事もあるだろうが・・学校とかでも告られている 可能性は十分にある。

なのになんで來夢は誰かと付き合わないのだろう・・別の意味で心配だ。

「う~ん・・今はそんな気分じゃないな」

「あんたもせっかく可愛くなったんだから積極的に行かないと損よ」

「うん、まぁ・・いずれね」

そういって來夢はご飯を食べ始めた。まぁ・・確かにあいつの言うことも一理ある。 癌のことがあるとはいえ、それを感じさせない生活を送っているのは変わりない。 來夢のほうも恋愛については憧れているはずだ。 初恋はどうなのかはわからないが、來夢もそういった願望は人並みにあるはずだ。

俺は静かに味噌汁をすする來夢を見ながら朝のひと時を過ごした・・

530 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:41:18.08 ID:YTDstmju0

「ねぇ、あんたは今の來夢の事どう思っているの?」

「えっ?」

いつものように学校の授業中・・あいつから話を振られた。 正式にあいつと付き合うようになってから、多数の男子の僻みと 女子の祝福みたいなのを同時に買うことになったのだが 今のところは目立った様子はない。

それよりも話の内容は今の來夢についてだった。確かに 今の來夢にはなんていうのか・・新鮮味が欠けるといったそんな雰囲気だ。 あいつとの取り決めによって、いつもとは何ら変わりない 生活を送ってはいるのだが、同じことの連続で飽きが着てしまう。

    • ちょっとした刺激がほしいところだ。

「そうだな・・なんかを求めている。そんな感じかな?」

「あんたにしては上出来。そうね、あたしたちはこうして 毎日は十分といっていいほどの刺激はあるけど・・來夢にはそれがないのよね」

「おい、刺激って言ってもそんな風にすればいいんだよ」

刺激といっても様々だ。こればかりは人に寄るからなぁ・・ 俺みたいに恋人を見つけてやるのもいいんだけど 時間がかかるし、なおかつ來夢にぴったり合う人を見つけるには至難の技だ。 とてもじゃないがそんな芸当できやしない・・

532 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:42:21.04 ID:YTDstmju0

「何考えてるのよ・・まだ誰も恋人とかそんなこと言ってないわよ。 あんた1人で話を飛躍させないでよ・・」

「あ、ああ・・でもどうするか?」

刺激を与えるにもほどほどにしておかないといけない。 ひょんなことから癌が一気に進行してしまえばかなりまずいことになる。 だけど、その程々がとても難しい・・それにあらかじめ來夢の希望も 聞いておかなくちゃならない。やることが難しいな・・

「今日は確か検査の日だったよな・・俺が帰りに來夢に聞いといてやるよ」

「じゃ、頼むわ。ご飯も今日はあたしが作ってあげるわ」

「決まりだな」

俺たちは行動パターンを決めると放課後を待った。

533 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:45:38.58 ID:YTDstmju0

そして放課後・・予定通り俺は來夢の検査に付き合うこととなった。 まぁ、前々から検査の内容にも興味があったので身内として同行する ことにした。この研究施設の最大の特徴は病院と同時に平行して 運営されているところであり、今でもなおこの施設は女体化で悩む 元男性たちが多数訪れていた。 流石に大規模な施設とあってか、かなりの設備と人員であった。 じっと見ていると医者と研究員の人が多数いるようだ。見た目でもよくわかる。

「どうしたの兄貴?」

「あ、ああ・・ここの施設あんまり見たことなくってさ。ついな・・」

「なるほどね。まぁ、ここは部署によって大雑把に別れてるからね・・ んじゃ、僕は検査するから兄貴はそこで待ってて」

そういって來夢は検査をするために病室へと消えていった。 まぁ、検査といっても特殊な機械でガンの状態を調べるだけで特に言って 時間が掛かることじゃない。検査が終わると医者がカルテに來夢の体の 様子を事細かに書いていく・・まぁ、そんなことの繰り返しだ。 医者の先生は俺たちに結果を伝えてくれた。

「癌の進行は今のところなし。僕たちとしてはこのままで止まってほしいところだけどね・・」

「今日もありがとうございます」

來夢は軽く先生にお礼を言うと結果をしみじみと見つめていた。 俺は先生に癌のことについて聞いてみた。

すると、医者の先生は少し苦笑をしながらも俺の質問に答えてくれた。

534 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:47:16.26 ID:YTDstmju0

「あの・・癌のほうは何かわかったんですか?」

「・・ああ、主任も何とか頑張って原因究明に力を注いでいるよ。 あの人、ああ見えても子持ちだからね。 僕らと違ってなかなか休暇も取れないもんで故郷の日本に帰れないみたいだよ」

「そうなんですか・・」

意外だった。まさか、あの徹子さんがそこまで苦労しているとはな。 人って意外なものだとつくづく思う。それから俺たちは他愛のない雑談をした後、病室から立ち去った。

「まさか、意外だったな・・」

「うん・・僕もほかのスタッフの人からちらりとは聞いたことはあったよ。 徹子さん、ああ見えて子持ちでなかなか日本に帰れないらしんだよね。 時々、病気について話すときはそんな風には見えないけどね」

「ま、現場の最高責任者らしいからな。かなり忙しいだろうな・・」

現場の責任者は技術力もさることながら指揮力も非常に問われるものだ。そうそう、簡単に休みなんて取れないだろうな・・

おっと、意外な話に夢中になったところで本来の目的を忘れるところだった。

535 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:48:25.23 ID:YTDstmju0

「なぁ、來夢・・お前なんか退屈してないか?」

「どうしたんだよ。いきなり・・退屈なんてしてないよ」

「いや、そうじゃなくて・・お前は今の生活に退屈してないかなって思ってな」

何とか怪しまれずに尋ねられたと・・思う。 まぁ、俺はあいつみたいに回りくどい言い方はできないのでこういった風に ストレートで言ってみる。だけど本当に來夢はこのありきたりな日常に 退屈などしているのだろうか・・よくわからないものである。

そんな俺の考えなど露知らず・・來夢はぽそっと言った。

「まぁ、退屈ってわけじゃないけど・・なんか、すべてを忘れられるぐらいの刺激は欲しいね」

「そうか・・」

俺は思わず來夢の言葉に頷いた。 來夢が求めているもの・・それはすべてを忘れられるぐらいの刺激だ。 俺じゃ到底役不足だ。こればかりはどうしようもないか・・來夢には俺と違って恋人がいない。

できる限りは俺も協力はしてやりたいがな・・

536 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/15(水) 04:49:55.57 ID:YTDstmju0

「あ、そんなに深く考えなくてもいいよ。僕は今のままの生活で十分だよ」

「わかってるさ・・」

口ではああ言ったものの・・來夢の刺激をどうするか必死に考えてた。 やはり來夢は退屈していたのだろう・・俺たちも何とか來夢に馴染みやすい 環境を作ってやったつもりのなのだが、刺激だけはどうすることも できなかったな。しばらくは俺たちだけで何とかなると思うのだが・・いずれは それにも限界が来てそれも飽きてしまうだろうな。

だけど・・こればかりは時間に身を委ねるしかないか。 幸いにも時間はたっぷりあるんだし、楽観的ではあるが何とかなるだろう。 ここは気楽に行くとするか。そしたらいい答えもおのずと出るかもしれない。 あいつもそれで何とか納得してくれるだろう。

そう俺は開き直ると、來夢と一緒に家へと帰っていった・・


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最終更新:2008年09月17日 19:35
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