567 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:18:23.92 ID:ZbhK6WOd0
「社長・・各部署からの報告書です」
「ふむ・・ん、経理の明細に不透明な部分があるな。早急に調査させろ」
「わかりました。そのように手配しておきます・・秘密裏に」
「頼むぞ」
そういって秘書は社長室から立ち去る。 俺の名は平塚 明人・・ここの社長だ。大学を卒業して友人と一緒に 会社を設立してから早数年・・よくここまで成長したなと思う。 いまや押しも押されぬ大企業にまでなっている。
でもまぁ、設立当初はかなり苦労した。なにせ所詮は大学出・・素人に 毛の生えたようなものそう簡単にうまく軌道に乗るわけがない。 何度も何度も倒産を覚悟した。だけど、何度もめげずに諦めなかった 俺は信念を貫いた。そしてそれに応えるように徐々に俺の周りには人が 集まってきた。友人と一緒にうまく人と付き合った結果、資金援助と 会社のプロジェクト成功により一気に会社の名は轟いた。
その後は勢いに任せて仕事をこなしていったり、時には落ち着きを 払って慎重に行動した結果・・ここまで成長した。
568 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:22:07.21 ID:ZbhK6WOd0
「ふぅ・・会社が大きくなるのも良いことばかりじゃないな」
「とんだご挨拶だな・・平塚若社長」
「・・十条か」
この会社の副社長にして俺の長年の盟友である十条 英彦・・元々、交渉術に 長けているようで俺と一緒に会社を陰で支えてくれている。 そもそも、俺が大学を卒業したときにこの十条と一緒に会社を設立しようと 言い出したのが事の発端だった。 最初はこの無茶な提案に大反対を喰らったのだが・・何とか説得してここまで こぎつけた。そこから十条の才能が発揮されたといってもよい。会社の人材や 上との交渉・・はたまた契約の取り付けなどその並外れた交渉術の才能でかなり助かった。
「もうカナダから帰ってきたのか・・で、どうだ?」
「大丈夫だ、大方契約は取り付けた。・・でも、しばらくは経済の状況から見てじっと待ったほうがいい」
「そうだな・・株価もジリ貧だし、ここはいったん退いて様子を見てみたほうがいいな」
最近は経済の状況が著しくない。この契約でしばらくは様子を見たほうがいいな。 ・・しかし最近は不正が多い、さっきも経理の予算に不透明な部分がある。やはり 会社が大きくなるとその分に不正が多くなる。それに今は経済的にもジリ貧状態 ・・それが焦りを生んで不正を生み出す。そんな悪循環の繰り返しだ。
現場では何とかまとめているはずなのだが、やはり1人では限界は見えているな。
570 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:22:32.15 ID:ZbhK6WOd0
「どうした・・公の場では威厳たっぷりのお前がここまでなるとはな」
「自分を押し殺して公の場に合わせるのも疲れるものだ」
「ま、しばらくはゆっくりできる・・子供にも会えるぞ。楽天的に考えろ」
考えてみれば・・仕事の忙しさで確かにここしばらく子供たちにも満足に会っていない。 まぁ、いい機会だから家族で触れ合えるのも悪くない。
妻も女優業で忙しそうだったからな。むしろ、結婚してから仕事が増えたというべきか・・
571 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:24:32.54 ID:ZbhK6WOd0
「珍しいな・・お前から誘ってるなんて」
「まぁな。たまには夫婦2人でいるのもいいだろう・・」
とある高級レストラン・・仕事も終わりたまには妻である沙織との 食事を楽しむことにした。 沙織はいまや世界中で注目の大女優・・とある理由ではじめた演技がここまで 開花するとは結構すごいものだ。確か映画の撮影が終わったって言っていたな。 食事には子供たちと一緒にいたかったのだが、その子供たちに勧められて こうして沙織と食事を共にした。
もう2人きりで食事をするのは何年ぶりだろうか・・。
若いときはよく一緒に食事を共にしたのだが、子育てと仕事の激しさが重なって 自ずと2人で食事をすることが少なくなった。この世には女体化シンドノームという 変な病がある。15、16才のときに童貞だったら女体化してしまうという病気だ。 現に俺の妻は女体化している。だけど俺たちの間には語りつくせないほどの いろいろなことがあって結婚までこぎつけた。そして現に・・息子が女体化してしまった。
「どうした・・何かあったのか?」
「・・いや、まさか來夢が女体化してしまうとはな。幸いにも元から來夢はお前の血を濃く受け継いでいるしな」
流石に息子が女体化してしまうとショックは隠しきれない。 兄弟でも衝撃的だったが自分の子供だと別の衝撃を覚えてしまった。 俺としては女体化は妻だけでよかったんだけどな。
572 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:25:17.01 ID:ZbhK6WOd0
「お前らしくないな・・來夢を妊娠したとき娘も欲しいってお前言っていたじゃないか」
「だけどな・・」
「それに・・昔、結婚するときに私に向けて言った言葉を忘れたのか? “結婚するときには何があってもお前と家族を守り抜く”・・そうお前は言ってたな」
そんなこと・・言ってた気がするな。しかしまぁ・・よくそんな昔のこと 覚えているよな。あの時はプロポーズの焦ってあんな言葉しか出なかったけど覚えててくれていたのか・・
「よく・・覚えていたな。俺もあの時はあやふやしてたのに・・」
「長年、女優やってるからな。台本の台詞覚えるぐらい造作でもない・・さ」
「俺も敵わんな・・」
音楽が優雅に流れる中、俺は時の流れをふと感じてしまった。
574 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:26:45.27 ID:ZbhK6WOd0
「よぉ、平塚・・聞いたか。例の女の登校」
「例の女・・礼子ってやつか?」
高校時代・・俺は極普通の平凡な高校生だった。 ありふれた日常に何気ない会話・・すべてが味気ないもの だったが、それでも俺たちは今の日常に満足していた。 十条とは小学校のときからの付き合いだ。 何度もクラス替えがあったが、決まって俺たちは同じクラスになった。
「そうだ。何でもここ数年は学校に登校していなかったらしいからな・・噂だと元暴走族らしいぞ」
「へぇ・・確かに髪染めてるしどこか近寄りがたい雰囲気だな。ま、興味ねぇな」
礼子というのは元々このクラスにいた幽霊生徒だ。 今までにその沈黙を守ったように登校はなく誰も姿を見たことになかった人物だ。 それがついこないだようやく登校した。その姿は美しい女性・・なのだが、髪は染 め上げており雰囲気もどことなく威圧的・・とてもじゃないが近寄りがたい。 だけど、それに見合わずかなり優秀でテストでも上位に入っている。
「転校生・・こねぇのかな」
「・・さぁな、神のみぞが知るという奴だ」
青々とした夏特有の空と暑さ・・少しいい刺激が欲しかった今日この頃だ。 転校生なんてやたらめったに来るものじゃないということはわかっている。 だけど、少し出会いが欲しかった。前の彼女とも別れたばかりで少し人肌が 恋しくなっていた頃だ。十条は中学からの彼女と今でもよろしくやっている ということらしいし・・なんか不満だ。胸がもやもやしている。
575 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:32:35.32 ID:ZbhK6WOd0
「ただいま・・」
「お帰りなさい。ご飯できてるわよ」
家に帰ると姉貴が出迎えてくれている。 俺には姉貴が2人いるのだが・・元々兄貴であったのだが2人とも 女体化してしまって今では姉貴だ。唯一、彼女という存在を作っていた 俺は女体化は間逃れた。 今俺を出迎えてくれたのは2番目の姉貴・・真理。1番目の姉貴・・留美は 結婚して家へと出て行ってしまった。真理のほうも彼氏とよろしくやっているようだ。
今までにも女体化した奴は俺の周りにも結構いるし物珍しいことじゃない。 俺も女体化に偏見は持っていないつもりだ。兄貴たちが女体化したときはいそいそと 改名の手続きをしていたな。特に真理のほうはあらかじめ自分で考えていた というのが驚きだった。
俺も女体化していたら・・真理に改名されていただろうか。今でも考えると末恐ろしい・・
576 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:34:07.52 ID:ZbhK6WOd0
「・・父さんたちは?」
「仕事よ。だから今日は2人分」
そういって姉貴は俺の分の飯を差し出してくれた。父さんたちは仕事でなかなか 手を離せないことがある。だからこうして姉貴たちと食事を共にするのは珍しいこと じゃない。前は3人で飯を食べていたのだが、留美の姉貴が嫁いで言ってから こうして真理の姉貴と2人きりで食事を共にするようになった。 姉貴はよく喋り、母親みたいに親身になって学校のことを良く聞いてくれた。
「あんた、ちゃんとまじめにやってる?」
「当たり前だろ・・じゃなきゃ進級なんてできねぇよ」
俺は姉貴が作ってくれたコロッケを食べながら姉貴とささやかな 雑談を楽しんでいた。姉貴のほうも大学で何とか頑張っているらしい。 だけど、恋愛に関しては俺と同じく少し停滞気味のようだ。まぁしかし、兄貴が 女体化して姉貴になったときはかなりの衝撃を覚えたもんな。 留美のほうは女体化は望んじゃいなかっただろうけど、真理のほうは よく俺に女性について会話していたから元々、憧れていたのだろうと思う。
長年一緒にいるけどわからないところもたくさんあるもんな・・
578 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 18:35:54.51 ID:ZbhK6WOd0
「転校生・・本当かそれ!!」
「ああ、何でも女の子らしい。刺激が得られてよかったな」
翌朝の学校での出来事だ。何でもこのクラスに女の子の 転校生が来るらしい、男子は総出で盛り上がっている。俺も本能的に 少しわくわくしてしまう。どんな人が来るのだろう・・少し楽しみだ。 宇宙人と遭遇するときはこんな気持ちでいるものもなのか?
周りのざわめきが大きくなる中・・噂の転校生が先生と一緒に教室へと入ってきた。
「小林 沙織さんだ。仲良くしてあげてくれ」
「小林・・沙織です。よろしくお願いします」
それが俺たちのファーストコンタクトの始まりだった。
噂の転校生は口数が少なく、積極的に行動を起こそうというものではなかった。 だけどうちの幽霊生徒とは違い、まだ比較的に近寄れる雰囲気はあった。 それに静で黙っていればいい線を行く・・その模範となるぐらいに美しいもの だった。何とか会話をするきっかけがほしかったのだが・・なかなかきっかけというのは生まれなないものである。
数週間が経った後も、沙織は男子たちの願望を集めていた。
581 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/21(水) 19:05:00.79 ID:ZbhK6WOd0
「はぁ~・・」
「どうしたんだよ。そんなに小林に近づきたいのか?」
「いや・・ただなんとなくな」
沙織を見るとだんだんとため息は増えるばかりだ。 十条も少し呆れ顔だったのだが・・まぁ、そこはスルーすることにする。 自分でもよくわからない、ただ俺は沙織と何か接点がほしかった。 物静かでどこか物寂しげな表情が離さない。誰かと積極的に行動する わけでもなく、かといって全く誰かと話そうともしない。 そんな行動が俺の脳裏に焼きついて離れなかった。
ただ、なんとなく呆然と毎日を過ごしていたある日・・チャンスがやってきた。
その日、俺は沙織と日直だった。うちの学校は中学校みたいに2人で 日直をやるため2人きりで会話を得る機会が多いのだ。そのときには 沙織が転校してからほんの数日しか経ってなかったため、俺が仕事をする 割合が多くなった。沙織は黙々と仕事をこなしている・・
だけどその表情はやはりどこか寂しげだった。だけど俺は勇気を出して会話に望んでみた。
134 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/22(木) 17:31:19.22 ID:0bd404Xy0
「な、なぁ・・」
「・・何?」
しばらくの静寂の後・・俺は思わず会話の内容を忘れてしまった。 だけど何とか自分の頭をフル回転に働かせて喋るネタを思い出していた。 沙織のほうも珍しくきょとんとしており、じっと俺を見続けていた・・
「あのさぁ・・なんでみんなとあんま喋んないんだ?」
「・・気分が乗らないからだ」
これが始めての会話・・原稿用紙の半分にも満たない文字数だろう。 向こうもほうも余り俺にいい印象を持ってはいないだろう。だけど、当時の俺は これがチャンスだと思った。せっかく会話をできるようになったのだ。 次を少しずつものにしていきたかった。それに、どこか物寂しげだった沙織の 別の表情も見てみたかったのかもしれない。
ただ、それだけだった。そのことを姉貴や十条に話したら・・大笑いでバカにされた。
135 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/22(木) 17:34:59.46 ID:0bd404Xy0
「・・日誌はどうだ?」
「ああ、書いて職員室に出しておいたぞ」
あれから2人で日直をするようになってから俺は小林 沙織という人物をおおよそ 掴みかけてきた。最初は日直の時に喋る淡々とした会話だけだったのだが、 日直が終わり振り出しに戻ろうかと思っていたときに俺は沙織と喋ってみる ことにした。最初は日直のときと同じように原稿用紙1枚にも満たないような 会話であったが、これは俺の勝手な推測なのだが沙織は人と付き合うということに 余り慣れていない人間だと思う。
その証拠に当人もぼぞりと言うだけで少し戸惑っているといった感じであった。
「そうか・・」
「全く・・姉貴もひどいものだぜ」
「姉・・か」
沙織の表情を見て、俺はしまったと思った。この表情だと彼女は家に何かしらの 悪い事情があるのだろう。それを思い出させてしまったのかもしれない。 俺はたまらず後悔の念に押されてしまった・・人の家庭の事情を聞くは余りいいものではない。
沙織はそのまま呆然したままであった。
136 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/22(木) 17:36:15.89 ID:0bd404Xy0
「てなわけだ」
「・・で、俺にどうしろというんだ? 言っておくが小林とは俺よりもお前のほうが接点あるじゃないか」
あの後、気まずくなった俺は十条のほうへと逃げ込んでいた。 流石に長年俺の友人を務めているだけあってか俺が簡単に事の 顛末を告げると、そのままずばりと先ほどの光景を見事に言い当てた。 十条は弁当を食べながら俺の話を聞いた上でこう言って来た。
「ま、いずれにせよ。お前は深く考えすぎだ」
「でもよ・・なんか嫌なこと蒸し返してしまった気がして悪い気がするんだよ」
俺はメロンパンに噛り付きながらぼそりと言った。確かに十条のいうように 深く考えすぎなのかもしれないが、家族の話題が出た時点であのときの沙織の 表情は少し寂しげだった。
きっと何かしらの事情があるのだろうと予想されてしまう。 俺も両親が共働きで余り構ってはくれなかったがその分、兄貴たちが 何かしらと俺に構ってくれた。兄貴たちが女体化してからもそれは変わりなく 俺は充実した家族関係を築いていたのだが・・どうも沙織は1人っ子で 余り兄弟と言うものがわからない気がする。
だから少しうらやましく感じていたのかもしれないな・・
137 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/22(木) 17:39:44.57 ID:0bd404Xy0
「なら、素直に謝ればいいじゃねぇのか・・」
「それができるなら端からお前のところになんて来ない」
「・・そりゃそうだな」
俺はそのままメロンパンを一気食いして、机に置いてあった コーヒー牛乳をそのまま飲み干した。
だけど、勢いに任せてもやはり心に残ったしこりはなかなか消えようとはしない。 十条もそんな俺の様子を見ながら弁当を食べている。俺たちに空しさが 流れる中・・その空しさを切り返すように女性の声が聞こえた。 俺たちはふらりと声の主のほうへ振り返ってみると何と、先ほどの会話の主役を 飾っていた当人であった。
沙織は少し考えながらその声を発した。
139 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/22(木) 17:46:32.10 ID:0bd404Xy0
「あの・・さっきは悪かった」
「へ?」
「・・さっきは悪かったって言っているんだ。その・・気まずくさせて」
いきなりの沙織の発言に俺は思わずぴたりと体が止まった。 十条のほうも箸が止まっている・・先ほど流れていた空しさがぴたりと 止まり、今度は別の静寂が流れてきた。そんなあっけらかんとしている 俺たちに比べ、沙織のほうは少し戸惑ったような感じだった。おそらく勇気のある行動だったのだろう・・
「ま、まぁ、あの時はお前の反応に少し驚いたが別に気まずいとかそんなんじゃない。だから安心してくれ」
「そ、そうか・・」
俺は戸惑う沙織をフォローしてやった。ふと周りを見てみると、 十条の姿がどこにもいない。どうやら気を遣ってくれたらしいな。後で自慢の香水でも 分けてやるとするか・・
そこからしばらく俺たちはなり崩して気に会話の続きを始めた。 そこから原稿用紙数行程度だった会話が2枚ぐらいまでに比較的に増えていった。 まぁ、これが俺たちが親しくなったきっかけでもあろう。 少し不備というか何と言うか・・そういった部分もいがめないのだが、思い出として 再認識させられる部分もある。
最終更新:2008年09月17日 19:40