187 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/25(日) 01:47:44.15 ID:+Xq9egLd0?
あれから・・俺に家に連れ込んで一緒に晩御飯を食べた成果もあってか、 沙織は徐々に俺に心を開くようになった。沙織も姉貴の料理をかなり気に入った のかたびたび家に来ていた。傍観を決め込んでいた十条もこれには少し驚いたようだ。
今日も授業が終わり家へと帰り玄関先をふと見上げると見慣れた靴があった。 俺は確信を胸に抱きながら自分の部屋に入り込むと・・部屋の主である俺よりも かなりくつろいでいた十条がいた。まぁ、こんな光景も日常に一部なので大して 気にならない。友人がある故だ。余り気を使わなくてもいい利点があるのだが・・ 部屋の主である俺よりも自分の部屋にいるのかのごとくかなりくつろいでいるのは 少し疑問なのもまた事実である。
「よぉ、おかえりさん」
「やっぱお前か・・」
俺はベッドで漫画を読んでいる十条に語りかけた。 ご丁寧にも台所から取り出したと思われるジュースを飲みながら漫画を読んでいた。
そんな十条がここ最近、俺の家に来る理由はただ一つ・・
「で、今日は彼女と喧嘩したのか?」
「いや、今日は向こうは塾だからな。んで、暇だったからお前のところに来てみたわけだ」
「なるほど・・」
何だ、てっきり前みたいに喧嘩していたのかと思ってしまった。
188 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/25(日) 01:48:54.32 ID:+Xq9egLd0?
「それにしても・・最近のお前は積極的だな」
「あのなぁ・・ただ、俺は放っておけなかっただけだ。そんなもんねぇよ」
第一、沙織にとって俺はただの気のいいお友達程度しか見ていないだろう。 だけど俺はそれでよかった。別に彼女じゃなくても最近は沙織と肩を並べる だけで十分に満足していた。それに向こうはようやく俺に慣れてきたばかりだ。 このまま話をするだけでも十分に満足してきている・・と思う。
「だから、恋愛感情とか差っぴいて・・俺は素直に友達として付き合いたいだけだ」
「友達・・ねぇ。ま、頑張れよ」
部屋でくつろぐ十条の言葉に引っ掛かるものを感じたが・・ それと同時に何と言うか、よくわけのわからないものがゆっくりと 構成され始めた。
189 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/25(日) 02:04:06.64 ID:+Xq9egLd0?
あれから、俺の中でわけのわからないものはまだ表には薄っすらとしか 出ていないものの徐々に構築されていった。だけど支障は全然ないので今は 放っておくことにする。そんなことを呆然と考えていると沙織がいつものように 俺の机の前に来てくれた。
「・・どうした?」
「いや、呆然としているから何かあったのかと思ってな」
「平和だなっと思ってな」
よくもまぁ、ここまで会話ができたものだ。沙織が来た当初は周りが結構騒いで いたのだが今は潮が引いたように沈静化している。 俺たちの関係も既成事実化され始めてきたようで取り入って誰も俺たちの会話を 背景の一部として取り入れているようだった。
「平和か・・私としては何か刺激がほしいところだな」
「えっ・・」
俺は少し驚いた。あの沙織が少し前の俺みたいに刺激を欲しがっているなんて 思ってもみなかったことだ。
「ま、気長に待つさ・・」
「そうか・・」
その時の佐織の憂鬱そうな顔を見て・・少し心が痛くなる。 夏休み間近の出来事であった。
190 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/25(日) 02:05:41.45 ID:+Xq9egLd0?
「ふぅ・・」
立ち上る湯気がゆっくりと俺の体を包み込む。 帰ってからのお風呂は格別だ。昔の人はよくこんな至高のものを よく作ってくれたとよく思う。湯船に浸かれば嫌なことなど一時的に忘れられる。 だけど、所詮は一時的・・現実に戻れば嫌でも思い出してしまう。
あの沙織があんなに憂鬱そうな顔をしていたと言うことはかなり退屈していたんだろうな。 俺も何とかしてやりたいのは山々だがそう簡単に転がっているとはいえなかった。
「ま、今からでなくてもいいか」
そう俺は開き直ると湯船から出て風呂からあがった。風呂から上がった俺はそのまま ゆっくりとくつろいでソファに転がりテレビを見ながらだらだらと過ごしていた。 だけど、やはりあのときの沙織の顔はなかなか離れようとはしない。 そんなことを考えていると・・台所でちょうど片付けをし終えた姉貴が俺の目の前に やってきて驚くべきことをを提案してきた。
192 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/25(日) 02:07:44.55 ID:+Xq9egLd0?
「ねぇ、あんた。今週暇?」
「暇だけど・・どうした?」
姉貴からこんなことを言われたのも久々だな。 昔はよくこんなこともあったのだが、ここ最近はすっかりご無沙汰だ。 ここは素直に聞いておくとしよう。
「実はね、今週の休みにキャンプでもどうかなって・・? たまたま友達に誘われたんだけど、なんだか中止になっちゃってね。 キャンセルするのも惜しいしあんたも一緒に行かない? 何なら友達誘ってもいいわよ」
なんというタイミングだろうか? キャンプなら現実を忘れていい刺激を与えられるしな。まさに天からの恵みだ。これは是が非でもものにしたい。
「で、気になる返・・」
「行くぜ!!ほかも誘うからいいだろ?」
「え、ええ・・」
姉貴は驚きながらもキャンプの日時を伝えてくれた。 幸いにも当日は休みだったし一泊二日の軽いものらしい。俺は姉貴に お礼を言うとそのまま部屋に戻り携帯を片手に持ちながら誘っておく人物に メールを送った。すぐにメールは返ってきて、2人とも問題なく行けるということだった。 沙織のほうもバイトがたまたま休みで予定が空いていたらしい。
携帯をしまうと、思わぬ予定が入った俺はだんだんと胸が高鳴ってきた。
463 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/26(月) 18:23:43.19 ID:Pg+mK9jU0
「んじゃ、全員いるわね」
姉貴が俺たちを確認するとそのまま親父の車に乗り込んだ。 キャンプ場はここから車で結構時間がかかるらしい。姉貴は車の免許を持って いたのと、俺たちはまだ未成年であったため姉貴が保護者を兼ねて同行することとなった。
姉貴が車を運転する中、俺たちは他愛もない会話で盛り上がっていた。
「そういえば・・十条は彼女がいたんじゃなかったのか?」
「ハハハ、本来なら誘おうと思ったけどなんか向こうは家の事情で来れないって言っていたからな」
(どうせ喧嘩でもしたんだな・・)
彼女持ちの十条が1人で来ることなど絶対にありえないので、俺はまた喧嘩でも したのだろうと思った。何でも中学の時からの彼女らしいが・・本人たちは 満更でもなさそうなのだが、ここまで続くのはすごいと思う。 まぁ、今日はせっかくのキャンプなんだし余計なことは水に流すか・・
俺たちが車の中で他愛のない会話で盛り上がっていると俺たちを乗せた車は目的地であるキャンプ場へと着いた。
464 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/26(月) 18:29:55.57 ID:Pg+mK9jU0
自然が一杯の山々の食材をうまく使いながら人との交友を図る・・ これが本来のキャンプの醍醐味だと俺は思う。事実俺も来るまでには川に 釣りして釣った魚も食べるのかとばかり思っていた。 夜天輝く星空の中・・俺たちは1つになろうとするのだろうか?
そんなささやかな妄想を現実というのは容赦なくぶち壊す。
「なんで、キャンプなのにスーパーで食材揃えるんだよ・・」
「たまたま近くにスーパーがあったからよ。 ま、ぶつくさ言ってないでどの道外で作っているようなもんでしょ?
ぶつくさ言ってないであんたは2人と一緒に薪とって来てちょうだい」
「わかったよ・・」
スーパーの袋を置くと、俺は十条と沙織と一緒に薪をとりに行くことにした。 着いたキャンプ場は自然が豊かでこじんまりしていたのだが・・どうやら姉貴が 頼んだのはアウトドア初心者とかがよく行く施設なのようで、道具とか一通りの ものはすべて揃っている。さらにご丁寧にも近くにスーパーがあったほどだ。
それでも本来ならこうした自然が育んだ食材を味わうのがキャンプの 常ではあるのだが、何を思ったのか・・姉貴は近くのスーパーで今日の分の 食材を買っていた。
全く、雰囲気をせっかくの壊すなよな・・
466 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/26(月) 18:34:58.65 ID:Pg+mK9jU0
「ま、いいじゃねぇか。今夜はバーベキューだろ?」
「全く姉貴にはほとほと困るぜ・・ってあれ、どうしたんだ?」
十条と手分けして薪を運んでいる途中・・沙織は呆然と座りながら 川のせせらぎが流れる光景をじっと見ていた。もしかして・・沙織はこういった場所にあまり着たことがないのだろうか?
俺は薪を持ちながら沙織の元へと向かった。
「どうしたんだよ。川なんかじっと見て・・」
「いや、こういったのは久々だからな。・・なんだか新鮮だ」
そう言いながら沙織は俺たちがいつも住んでいる都会とはまた違った立派な 自然に見惚れていた。沙織はそのまま清らかなせせらぎの流れを見た後、十分 に満足したのかそのままいつものように俺たちと合流して姉貴の元へと向かっていった。
夜天輝く星空の元、俺と十条の苦労の末・・火をつけた薪の上に鉄板を乗せて その上に具材の刺さった鉄串を置く。肉の焼ける音がなんとも無意識に俺たちの 食欲をそそる。料理のできない俺たち男は肉体労働が主な仕事だ。 沙織は姉貴の簡単な手伝いだった。手伝いといってもメニューがバーベキュー なので食器を運ぶとか具材を揃えるといった比較的簡単なものであった。
467 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/26(月) 18:42:34.66 ID:Pg+mK9jU0
「やっぱ、真理さんは料理うまくなったよな。 留美さんが嫁いでいったときは正直どうなるかと思っていたけど・・時間の経過というのはすごいもんだ」
「あのなぁ・・」
肉片手に十条の小声を聞きながら俺は呆れたのように吐息を一つ・・幸いにも 真理は沙織と盛り上がっているようだし聞かれてはいないようだ。 もし会話を聞かれていたら十条は唯ではすまなかっただろう。 ああ見えて真理は留美と比べられるのを非常に嫌っていた。昔・・謝って俺は 口を滑らせて口にしてしまったことがある。その時の真理の表情は顔は いつものように明るい表情を保っていたのだが、目は全然笑っていなかった。 その後、真理は神速のごとく俺の前に移動していきなりチョークスリーパを 掛けられた。真理が男のときに掛けられたので力がかなり強く力ずくで 抜け出せるものじゃなかった。その後も静かに怒りに燃えていたプロレス技を 掛けられた俺は当時、まだ見えるはずのないお花畑が見えた気がした・・ 俺の家の事情をよく知っている十条もそれは承知だった。
「でも、真理さんもいずれは嫁いで行ってしまうんだよな・・」
「あら・・寂しいかしら?」
「えっ!!」
十条がポツリと小言を言っていると、沙織と話していたはずの姉貴が十条の 背後へとやってきていた。幸いにもさっきの会話は聞かれていなかったようで 機嫌もすこぶるいい。だが、あんな会話をしていたので十条はいきなり姉貴の 出現に少々驚いていたようだ。まぁ、あんなこといってしまったから仕方ないといえば仕方ないな。
俺はさっきまで姉貴と話していた沙織の元へと向かうことにした。
469 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/02/26(月) 18:44:36.09 ID:Pg+mK9jU0
「どうだ?」
「こういったのも悪くないな。お前の姉さん・・おもしろい人なんだな」
沙織はその小ぶりの体で肉をゆっくりと食べながら薄っすらと微笑していた。 ふと空を見てみると時刻はもう夜・・青々としていた空が漆黒の闇を象徴するかの ような黒の色に染まっていた。昼間の暑さとは対照的な夏の夜の独特な涼しさを まとった風がどことなく心地よい。 しかし、真理の社交性には感心させられる。俺でも沙織とここまで打ち解ける のに時間かかったのに姉貴は物の数分で沙織と打ち解けていたもんな。 少しは見習わなければ・・
「今日は・・ありがとうな」
「へっ・・い、いや別に」
沙織がぎこちない感じでお礼を述べてくれた瞬間、一瞬俺は固まってしまった。 いや、見惚れてしまったというのが正しいだろう。するとそんな俺の姿を見た沙織は薄っすらと笑いながらこう言った。
「フフフ・・おもしろいなお前は」
「あ、あのなぁ・・」
わけのわからないうちに沙織のおもちゃにされた俺を星空は何も言わずに見守るのだった・・
最終更新:2008年09月17日 19:41