『ご都合主義の秘訣』(6)

173 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:18:12.18 ID:P/+ltKYl0

「これが台本かよ・・まるで本格的な舞台だな。 それにセリフ以外にも細かいところがいろいろ書いてあるな。

これもしかして・・全部覚えるのか?」

「まぁな・・あの部長見かけによらず結構きつくてな。部に入って間もない私にも容赦なかったよ」

「確かに、こんな台本や脚本までこなしているんだからかなりの才能はあるな」

沙織に台本を返すと、沙織は再び台本に夢中になって読んでいた。 台本に書いてあった沙織のセリフはたくさんとは言えないがそれでもかなり あった。それにアドリブや発声などの基礎練習・・これから沙織とは今まで のようには会えないのかもしれないな。

なんだか沙織が近いようで遠い存在になってきた・・

174 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:19:23.44 ID:P/+ltKYl0

「何嘆いてるんだよ。お前が小林に言ったんだろ」

「そうだけど・・な」

帰り道、いつもなら沙織が一緒なのだが・・部活の練習で帰りは別々になった。 沙織の演技は確かに素晴らしい・・それを何度も見たい。だから俺は沙織に 演技をやるように進言した。だけど演劇部の活動が忙しく、なかなか俺たちと 一緒に帰る時間が取れないようだ。

最近は沙織との接点がないから少しばかり寂しいものだった・・

「ま、その分俺がいるぜ」

「・・野郎に好かれてもちっとも嬉かねぇよ」

「ごもっともで・・」

十条は俺の方にポンッと手を置くとそのまま一緒に俺の自宅へと向かうことに したようだ。十条を引き連れてそのまま家に入っていくと、真理がいそいそと ご飯の用意としていた。

真理は俺と十条の姿を見るといつものように出迎えてくれた。

175 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:22:31.24 ID:P/+ltKYl0

「あら、お帰り。今日は多めに作っておいてよかったわ」

「いつもご馳走になってすみませんね」

十条は軽やかに答えるが、そもそもの原因はお前の金欠だろ。 大抵十条が家のメシにあやかる時は金欠によるものがほとんどだ。十条は 家の都合で中学のときから1人暮らしをしている。そんなもんで友達の好と いうことで一緒に飯を食っていたのだが、中学卒業後バイトもできる年代に なってくると経済的にゆとりがでてきたようで、自分で飯を買って食べているらしい。

それからはめっきりと十条と一緒に家の飯を食べる機会が減ってはきているのだが・・金欠になるとこうして家の飯を食べに来ていた。

「ま、別に食卓が賑やかになるのはいいけど、少しは節約しなさい。これはお姉さんからのご忠告」

「うっ・・は、はい」

さらりと真理は十条に釘を刺す。 十条の顔は明らかに引きつっていた・・どうやら今日も金欠だな。真理はそのまま 俺たちの周りをじっと見ていると誰かを探しているようだった。

俺は真理の行動をすぐさま把握するとここ最近の沙織の行動を伝えてやった。

176 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:23:45.28 ID:P/+ltKYl0

「あら、そういえば・・あの子は今日も来ないの?」

「あ、ああ・・沙織なら最近は部活で忙しいんだって。最近は帰りが別々だからな・・」

やはり、沙織が傍にいないのは少しばかり寂しい。 真理も沙織はかなりのお気に入りのようで沙織が来ないのを知ると 少し寂しがっていた。

やっぱり同じ同性として気が合うんだろうな・・

「本当はあんたが一番寂しいんじゃなかったりして~」

「バッ・・バカいうなよ!!!沙織は・・部活で忙しいから仕方ないんだよ!!!」

十条の次は俺かよ・・全く、勘違いされても困るんだよな。 沙織がいないのは寂しいが、事情が事情なだけに仕方ない。 それに沙織がどんな演技をしてどんな風になっていくのか見てみたい気もする。

けど・・考えれば考えるほどなんだか気持ちがもやもやとしてきた。

「と、とにかく・・出来たら呼んでくれよ。行こうぜ」

「おう」

俺は少し強引に十条を部屋に連れていきその場を後にした。 沙織のことを考えるとなぜか興奮してしまう・・少し部屋で落ち着くことにしよう。

177 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:27:34.45 ID:P/+ltKYl0

部屋に十条を連れ込むと、俺は先ほどの興奮を抑えることにした。 やはり最近は沙織関連となるとこうした興奮がちらほらと目に付くようになる。 もしかして・・異性として意識しているのか?

十条はそんな俺を見ながら漫画を取り出し、聞き役に徹していた。

「あのなぁ・・あれだけ興奮すると誰だってお前と小林に何かあるのかって疑うぞ」

「ま、まぁ・・少し大人気なかったと思う」

まぁ、十条の言っていることはもっともだ。確かに少し興奮してしまった・・ 我ながら少し反省の余地ありだ。普段どおりにしていけばいいはずだ! って・・何俺は慌てているんだよ。落ち着け・・ここはクールに行こう。

しかし、そんな俺の意識に反してか・・感情はなかなか制御できなかった。

178 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/05(月) 04:28:00.07 ID:P/+ltKYl0

「俺はな!!別に・・」

「・・わかったから、少しは落ち着け」

十条は俺をフォローしながらに諭すように俺を宥めた。こうしてみるといつも 俺と一緒にいる十条が雲の上の存在に見えてしまう。

なんだかんだ言っても十条はこういったことでは俺よりも上なのか・・?

「ま、しばらくして都合がついたら小林のほうから言ってくれるだろう。だからしばらく待て」

「だから、そんなんじゃねぇよ!!」

「はいはい」

前言撤回、やはり十条は十条だった。 俺は改めてそれを実感すると同時に真理の声が響いた。どうやら晩飯のご飯が 出来上がったらしい、俺と十条は自然とそれを確認すると台所へと歩を進めた。

738 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 17:45:58.32 ID:mbRDJglZ0

台所へ向かうといつもより少し多い料理の数々が並んでいた。 俺たちは真理の作ってくれた料理に手をつけると、その味は食べたものを ほんわかさせるような感じでとてもおいしかった。

このまま行くと本当に冗談抜きで留美を超えてしまうかもしれないな・・

「いや~・・真理さんの料理はうまいね」

「おだてたって何もでないわよ。・・ところで、学校はどうなの?」

真理たちは俺たちの学校の卒業生だったのでよく学校の事情を知っている。 俺が入学したときは真理の弟だということで少し騒がれていたが次第に収まった ものだ。デートの螺旋とかもよく来たのも覚えている。

「実はな・・小林が部活始めたんだよ」

「ああ、それで寂しがってるのね」

「アホか!!・・あのな、沙織を演技に引き入れたのはほかでもない俺だ。だからこうなるのは仕方ないのさ」

そういって俺はご飯を無理矢理流し込んだ。 こうなることはわかっていたさ・・わかっていた。それに、暇ができればいつだって 遊べる。

それまではしばしの我慢だ。そう俺は自分に言い聞かせていた。

739 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 17:47:46.68 ID:mbRDJglZ0

「はいはい、わかったわよ。・・それよりもあの子、あの演劇部に入ったの?」

「ああ・・知ってるのか?」

うちの学校の演劇部の存在は前々から有名だったが、ここ最近になって からかなりの注目を浴びるようになって来た。真理もその演劇部の存在を もちろん知っているわけで、かなり厳しい練習についてもよく知っていた。

「ああ、あそこ練習には人一倍きついからね。 ・・そういえば、確か今は茜ちゃんが部長やっているはずよね」

「え、真理さんあの部長知ってるの!?」

十条は驚きながら真理を見つめていた。確かに真理があの部長を知っている なんて驚きだ。

何か昔にあの部長といろいろと遇ったのだろうか・・?

740 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 17:54:07.17 ID:mbRDJglZ0

「あの部長のお姉さんはね私の友達なの。 卒業してから忙しくてお互いに出会ってないけど・・あの茜ちゃんねとても すごいらしいのよ。なんでも演技力もさることながら、脚本やそういった文才能力もすごいんだって。

今までの演劇の脚本や監督は全部彼女がやったものらしいわよ」

「人は見かけによらず・・って奴だな」

「へぇ~・・あんな人が」

俺は思わず感心してしまった。あの部長のことは余り知らなかったの だが、ここまでとは思いもよらなかった。演技力については・・あの眼鏡を取れば いい線はいくと思うな。だけど・・あの台本を見る限りかなりの才能だと思わせ られる。それに細かいところまでちゃんと書いてあったしな。

どうやら責任者として人の上に立つ才能もどうやらあるようだ。

741 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 17:54:56.10 ID:mbRDJglZ0

「まさか、あの茜ちゃんに目をかけられるなんて・・よほど演技の才能があったみたいね。あの子は・・」

「まぁ・・な。前々から沙織に目をつけていたっていうし・・」

俺は沙織がその才能を活かせるのはすごいと思っている。だけど・・なんで寂しいんだろうな?

「お前もそう何も深く考え込むな。小林だって息抜きしたい時だってあるさ」

「あら、金欠者にしてはいい事言うじゃない?」

「ま、真理さん・・」

2人は笑いあっていると、なんだかさっき抱えていた不安や寂しさなどが 一気に吹き飛んでしまった。

やはり、たまにはほどほどに物事を考えることにしよう・・

744 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 18:00:13.06 ID:mbRDJglZ0

「なぁ、明日は暇か?」

「・・ああ、暇だ。それがどうかしたのか?」

ある教室内での会話・・沙織は相変わらず舞台の台本を読みながら 俺たちと応対してくれていた。何でも文化祭に向けて舞台を公演するらしい。 稽古も今までとは格段にに増えておりなかなか休みが取れない状況だ。 それに・・あの部長も沙織を引き入れてからかなり気合が入っているようだった。 そんな中で俺は沙織とどこか遊びに行きたいと思い、思い切って誘ってみた。 久しぶりに沙織とも交友を深めたいし、最近になって激化する演劇部の稽古を 一旦、休めてリフレッシュして欲しいという友人ならではの心遣いという奴だった。

「どこに行くんだ?」

「あ、ああ・・良いところだ」

「・・フフフッ。ま、期待しておく」

実のところ、沙織を誘うのが目的で行き先はまだ全然決めていなかった。 沙織はそんな俺の思考など見透かすようにしながらクスリと笑いながら誘いを快く 受けてくれた。

しかし、いざ行き先を考えるとなかなか頭に浮かばないもので・・ 俺は明日、沙織とどこへ行こうかと結構迷っていた。1人で考えれば考えるほど 余り浮かばないもので・・

ここは不本意ながら十条の力を借りることにすることにした。

745 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 18:05:06.01 ID:mbRDJglZ0

「で、俺に白羽の矢が立ったと・・」

「まぁな・・どうすりゃいい?」

「どうすりゃいいって言われても・・」

体育の授業・・これなら男同士、十条と2人でしゃべれる時間だ。 俺は大方のことを十条に話すと、十条は少し戸惑いの表情のまま少し考え事を していた。

こればかりは流石の十条も戸惑っているようで俺にいくつかの提案を出してくれた。

746 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/07(水) 18:05:45.80 ID:mbRDJglZ0

「一応お前の希望を聞いておこうか」

「そうだな・・街ってのもいいけど沙織はそういうの苦手そうだからな。 アウトドアってのもいいんだけど前にキャンプで行ったしな・・」

「・・じゃあ、何がいいんだよ。それだけ出尽くしたらもうほとんどないぞ」

十条は少し呆れながら沙織のいる教室を見渡した。 男女の授業は別れており女子は家庭科をやっているはずだ。古い仕来りかも しれないが、なぜかこの学校は男子は体育、女子は家庭科と昔ながらの 授業風景である。それに男女の体育は一緒の時間でやることは余りない。 こんな古い制度など教育関連の機関とかが黙ってはいないが、なぜか今までに 口出しはしてこなかった。大いなる謎の一つだ。

おっと、今はそんなこと関係ないか・・それにしても明日は本当にどこへ行こうか?

「ま、頑張れよ」

「おい・・」

十条はふと立ち上がるとグランドで再び走りこみをはじめた。 もう、こうなったら・・自分で決めるしかないのか。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月17日 19:43
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。