167 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/11(日) 14:47:22.86 ID:fimqTbem0
「・・どうしたんだよ」
「いや・・なんでもない」
あの女からの呼び出しから帰った後、十条は奇妙な顔つきのまま 俺の顔を覗き込んだ。十条も伊達に俺の友人をやっていない・・俺の顔を見ると そのままいつものように俺に接してくれて先ほど沸いていた怒りを覚ましてくれた。
「まぁ、さっき何があったかはわからないが。・・とりあえず聞いておこうか?」
「・・ああ、次は体育だったな」
俺は真剣になりながら十条に先ほどの事を話すことにした。 幸い、次の授業は体育なので十条と2人きりで相談ができる。きっと十条ならいい意見をもらえるだろう・・
そう期待しながら俺は次の体育の授業に向かった。
168 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/11(日) 14:48:43.15 ID:fimqTbem0
「・・なるほどな」
「あの女から沙織を守るにはどうすればいい?」
「どうもこうも・・相手があの石塚 亜美だとはな」
俺は十条から昼にあったあの出来事をすべて話した。 すると、十条からあの女について意外な事実を聞いた。あの女・・石塚 亜美はかなり 有名な女だったらしい。どうも過去に付き合っていたのがすべて女性で最初から そっち専門だったようだ。どうも、最近になってフリーになり始めたので転校してきた沙織に 目が掛かったらしい。全く迷惑な話だ・・
そんな十条は深々と考えながらあの女の対策を必死に考えていた。
170 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/11(日) 14:53:54.86 ID:fimqTbem0
「あの女は女子の中でも例外中の例外の存在だからな。 噂だと彼氏持ちの女でさえも落としたって言う噂だぜ」
「そんな女だったのか・・」
俺は十条の言葉に重みを感じると、ふと女子のいる教室へと見上げた。 今頃・・あの女は沙織に近づいているのだろう。そう考えると危機感を感じて しまう。・・こりゃかなりの強敵だ。
早く、あの女に対策を考えんと・・
171 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/03/11(日) 14:54:20.76 ID:fimqTbem0
「・・どうすりゃいい?」
「どうすりゃいいっていわれてもな・・ そういったのは俺も苦手なほうだからな。こうなったら真理さん辺りに 聞いてみればどうだ?
真理さんって男のときはそういったものに興味がありそうだっただろ。俺よりはいい意見が出るはずだぜ」
「確かに・・」
俺は思わず思わず首を頷いた。 真理は男の時には確かにそういったのに詳しそうだった。男のときはよくそういったビデオを 持っているようだったし、俺や十条よりもよっぽど詳しそうだった。
「ま、一応聞いてみるかな・・」
「まぁ、あの真理さんだったら俺よりも大丈夫だろう。・・さて、こんなところでサボっていると いつどやされても仕方ないぞ」
「あ、ああ・・」
俺はやりきれない気持ちを抱えたまま十条と一緒に立ち上がると再びランニングを始めた。
366 名前: カメラマン(広島県) 投稿日: 2007/03/19(月) 14:33:41.65 ID:lkrczc/70
さて一旦あの女のことは無理矢理胸に押さえ込むと期待の放課後だ。 俺たちは演劇部が練習をしている体育館へと向かうことにした。沙織からの 知らせであの部長からOKを貰えたらしい。俺は期待を胸に膨らませると必死に 頑張って演技をしている沙織の姿を考えると心なしか楽しみになってきた。
「さて、沙織はどんな風になっているのか・・楽しみだ」
「ハハハッ・・そうだな」
俺たちは和気藹々としながら沙織たちが練習をしている体育館の扉を開けた。 すると、体育館の中は熱気溢れた雰囲気になっており、沙織も真剣な表情と なりながら台本を見ながら体育館の舞台の上に上がって練習していた。 体育館にはほかのスポーツのクラブが練習をしていたのだが、この時間になると 演劇部が独占して練習をしていた。道理で沙織との時間がなかなか取れるはず がなかったわけだ。
367 名前: カメラマン(広島県) 投稿日: 2007/03/19(月) 14:34:07.10 ID:lkrczc/70
「すげぇな・・」
「ああ・・噂には聞いていたがすごいものだ。 部員のほとんどが発声練習や舞台に上がって念入りに練習している」
「小林も・・練習しているようだな」
十条の言うようによくよく見てみると沙織は熱心に練習していた。 いつもの物静かな沙織とは全然違い、舞台の上では人が変わったような感じで 熱心にセリフを言い放っていた。その活き活きした表情に惹かれてしまったのも また事実だ。
俺らがそんな沙織に夢中になっていると・・例の部長が台本片手に俺らのほうへ 寄ってきてくれた。その表情にはかなり余裕があり、チャームポイントである メガネがまた一層と光っていた。
369 名前: カメラマン(広島県) 投稿日: 2007/03/19(月) 14:37:30.31 ID:lkrczc/70
「あら、話は聞いてるわ。よく来てくれたわね。 ちょうど、全体的な舞台の練習やるのよ見ていってくれない?」
「もちろんですよ。なぁ?」
「ああ、せっかく沙織が頑張るんだからな」
全体的な練習というと舞台のリハーサルという奴だな。 どんな舞台になるのか楽しみだ。
「じゃ、準備するわね。全員!今からリハするわよ!!」
部長の掛け声によって全員がすぐさま持ち場を変更して舞台のリハーサルが 始まり厳しくなっていた場の空気はさらにこの部長の一言によって更に厳しいものになった。
この人は本当にすごいなっと思った瞬間でもあった。
リハーサルが進み、一通りに舞台が始まり・・そして終わった。 感想としてはかなりすばらしくこのまま本番でもいけそうな気がした・・というか 本当にリハーサルなのか疑わしいぐらいの出来で本番となんら変わりないぐらいだ。
これがリハーサルとは到底思えないほどの出来で、それに話のテンポも すんなりとして見るほうの俺らもすぐに話しに入り込みやすいし、衣装まだないようだが それがなくても十分にいける。沙織以外の周りの人間もかなりすごく、あの膨大な 練習量に耐え抜いた成果だといえるだろう。
俺と十条はそんな演劇部の一面を見ながら自然とその努力に感心してしまった。
370 名前: カメラマン(広島県) 投稿日: 2007/03/19(月) 14:39:29.24 ID:lkrczc/70
「すごいな。小林だけじゃなくほとんどの部員も光ってか輝いている。 話のほうもテンポがよくて飲み込みやすい・・何よりも話の内容が おもしろいぜ、万人受け間違いなしだ。
本当に、あの部長がこの脚本書いたのかよ・・」
「ああ、本番かと思ってしまうぐらいだ、沙織やほかの部員もすごいのが 素人の俺にもよくわかる・・やはり、時間かけて練習するからかなりのものだな」
沙織も脇役ながら存在感を放っておりかなりのものだった。 やっぱりあの時に演劇に進ませて本当によかった。もしかしたら本当にとてつもない 女優になるかもしれないな・・それにしても・・この舞台をほとんど作っていたのが あの部長だと考えるとかなりすごいな。
そんな部長は俺の横に立っており舞台の出来に満足していた・・ような表情ではなく少し厳しい顔をしていた。
371 名前: カメラマン(広島県) 投稿日: 2007/03/19(月) 14:43:44.69 ID:lkrczc/70
「ま、リハーサルとしてはこんなものでしょ。本番だったら駄目だけど・・」
「「駄目って・・これ本番じゃないんですか!!」」
俺と十条は部長の衝撃の発言にかなり驚いた。 あれでまだ駄目だったなんて・・素人目から見てもほとんど本番と寸分なく 進んでいたと思っていたのだが・・まだあれでも反省点があるなんて 思いもしなかった。
「ま、細かいところを突っ込んだら結構あるものよ。 あの子がこの演劇部に入ってくれてからすごいものよ。部長として私にも 自然とやる気が出るわ!
それにしても、あの子の才能にはすごいものね。 目に見張るものがあるわ・・もしかしたら将来はすごい成長をするかもよ」
あの部長がそこまで言うぐらいだから沙織は演技に関してはすごい才能を 秘めているのだろうな、それは俺にもよくわかる。 もしかしたら・・でもそれを考えるのが少し怖い。沙織は女性としてスタイルは 決して悪くないのだが・・ まぁ、それは自慢の演劇力で何とかなるだろう。
今日はえらい機嫌がよかった部長の計らいで久しぶりに3人で仲良く帰りましたとさ・・
384 名前: 自衛官(広島県) 投稿日: 2007/03/22(木) 03:44:05.41 ID:kiredYe30
さて・・昨日はすばらしいものを拝見させてもらったものの、あの女のことを すっかりと忘れるところであった。あの女が沙織を虎視眈々と狙っているので 油断はできないのもだ。かといって・・常に沙織とコミュニケーションが図れると 思ったらそうはいかないもので俺も焦りそうだ。
「なるほどね・・あんたも厄介のものに巻き込まれてしまったわね」
「まぁな・・どうしようかな?」
今日も授業が終わって家に帰った俺は真理にすべてを説明した。 大方の話を聞いた流石の真理もこれには少し困惑していた。
385 名前: 自衛官(広島県) 投稿日: 2007/03/22(木) 03:46:16.16 ID:kiredYe30
「そもそもあんたさ・・あの子のことについてどう思っているの?」
「へっ? ・・そ、そりゃ沙織はただの友達だよ。 それよりもあの女だけは別だ!あんな性格が悪い女にだけには沙織を渡したくはない」
この決意にはなんら変わりはない。 あの女に沙織は渡したくはない・・まだ沙織に対する意識があやふやなのが 仕方ないのだが、あの女にだけは沙織を絶対に渡したくなかった。俺は真理に 自分の決意を述べると、真理は驚きながらも・・ご飯を食べながらこう進言してくれた。
「まぁ、あんた異性だから大丈夫じゃないの? 同性愛って結構アドバンテージがあるからね・・
それよりも、あんたも早いところあの子に対する自分の気持ちにちゃんと けじめをつけなさい。そうじゃなきゃ・・後々、大変あんた自身がなことになるわよ。
これは優しいお姉さんからの忠告・・」
「・・よくわからんがわかったよ」
余り言っていることはよくわからなかったが・・俺もけじめをつけなければならないらしいな。
170 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:35:31.01 ID:YZkZFbi20
あれから、俺の水面下での戦いが始まった。 あの女は早速沙織にアプローチをかけ始めていたので、流石にこれはまずいと 思い俺も何とかそれを引き止めるという、まさに互いの足の引っ張り合いを繰り返していた。
状況はまさに一進一退・・進展が良いとも悪いとも言えずに何とか原点までに 持っていける状態だった。後で沙織から聞いた話だが、何でもあの女とは よく話しているようで、度々会話の中にちらほらと出てきていた。 ああ・・忌々しい!まずは外堀から埋めようという魂胆だな。本当に油断できない女だ。
十条が“女の中でも例外中の例外”と評したのがわかる気がするな。
「どうするんだ・・このまま、一進一退になっているのは構わんが。いづれは厄介なことになるぞ」
「わかってるけどよ・・」
十条の言うようにこのまま言っても所詮はジリ貧だ。いつまでも停滞しては意味がない。 何か沙織を引き込む大きな物がほしかった。それは多分向こうも同じだと思う。沙織をこちらの 心に引き込む大きな物が欲しかった。だけど、そう簡単に大きなものなんて生まれるはずがない。 この均衡になんとか脱出しないとな・・
「なら、小林をデートに誘えばいいじゃねぇか。前に一度やっただろ?」
「ちょっと待てよ。・・前のはあくまで友人として沙織のメンタルケアをしてあげただけだ。 俺はともかく沙織に恋愛感情なんか・・」
「・・お前な、あの光景をデートといわずなんと言うんだよ。ま、気が向いたらセッティングしてやるよ」
十条の奴・・人事だと思って楽しんでるな。ま、せっかくセッティングしてくれるっというんだし。 もしものときにはこいつに頼ってみるかな。
171 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:36:45.86 ID:YZkZFbi20
「えっ・・今なんて言った?」
「だから、石塚に誘われたんだ。”今度、女同士で一緒に遊ぼう”って・・それがどうかしたのか?」
放課後・・俺は沙織の口からがく然とした言葉を聞くとになった。 あの女・・ついに仕掛けてきやがった。普通の女の友達が沙織を誘ったんなら 問題はないが、あのバイ女が誘ったのなら話は別だ。あの女が女同士で遊ぼうって 言い出したら、沙織の貞操が危ない。何とかしてこの状況を・・
「今度って・・いつだ?」
「そうだな・・部活とバイトの休みの日だな」
「それに行くのか・・」
俺は珍しく真剣になりながら沙織の動向を伺った。も しかしたらもしかしなくもない。所詮あの女は沙織とまだ出会ってそこそこだ、俺よりも 断然に付き合いが短いはずだ。だから、沙織は絶対にあの女の誘いを断るはず!! ・・そんな自信が今の俺を支えていた。
しかし、沙織からはそんな俺の自信とは裏腹に衝撃の言葉を吐いた。
174 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:40:48.45 ID:YZkZFbi20
「そう・・だな。まだわからないけど・・行くかもしれないな。 石塚って結構いい人そうだしな。言ってみてもいいかなって・・おい!どうした?
こんなこと聞くなんて今日のお前はいつもとは少しおかしいぞ・・」
「い、いや・・楽しんでこいよ」
俺の自信はガラスが砕けるように音を立てて崩れていったのが はっきりとわかった。俺は精一杯の虚勢を張ると体の力が抜けるように 歩いてその場から立ち去った。しばらくふらふらと1人で歩いていると人気が してきた。
俺は力なく思わず振り返るとあの女が勝ち誇ったような顔をしながら堂々と立っていた。
「フフフ・・無様ね。別にあなたが心配しなくてもあなたの分まで小林さんは私がたっぷりと可愛がってあげるわ」
「・・クソッ!!」
あの女は嫌味たっぷりに俺を見下しながら言ってきた。 このまま何もできない自分が歯がゆい・・この目の前にいる女よりも積極的に 行動できない自分に怒りが沸いてきた。本当に真理の言っていたように早い ところ沙織に対する気持ちにけじめをつけなかったのが災いしたな・・
175 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:41:58.88 ID:YZkZFbi20
「ま、でも・・過去にあんたみたいな彼氏持ちの男とやりあったこともあるけど・・ あんたは長く持ったほうかしらね。
あ、ごめんなさい。あなたは小林さんの彼氏じゃなく只の“お友達”だったわね」
「て、てめぇ・・」
「せいぜい・・新しい友達を受け入れて祝ってあげることね。じゃあね」
嫌味たっぷりに俺を見下すと・・女は俺から立ち去った。 ふつふつと湧き上がる怒りに燃える俺は無言で家に帰った後、自然と十条の 携帯へと手をかけた。ここまで自分に対して怒るのは本当に初めてだ。 人間とは思わぬところで自分がもっている大きな負の感情を見つけてしまうものだ。
俺はメールで十条が言ってくれたセッティングの件を頼んでみることにした。 大方の内容をメールを送信した後、この状況を見回してみた。もう本当にこの状況だと もう俺には十条しか頼るべき人物がいない。
しばらくしてじっと十条からのメールを待つと・・すぐに返信が帰ってきた。
177 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:44:51.02 ID:YZkZFbi20
“任せろ。最高のセッティングで相手と同じ日付で合わしてやるよ”
短い内容であったが、このときの俺は神の存在を信じてしまった。
「ほい、これ映画のチケットだ。・・後はお前次第だ」
「ああ・・いろいろと済まない」
俺は十条から映画のチケットを受け取った。 やはり、こういうときの友人は頼りになるものだ・・十条はすべてを察したのか 何も言わずに俺を見守ってくれた。やはり生半可な決意じゃだめだ。あの女から 沙織を取り戻すためにはそれ相応の舞台を用意しなければならない。
決意を胸に俺は沙織の元へと向かった。
178 名前: DJ(広島県) 投稿日: 2007/03/23(金) 22:46:00.22 ID:YZkZFbi20
「えっ・・この日は」
「わかってるさ。お前の好きなほうに行けばいい・・」
俺は意を決して沙織を誘うことにした。 すべてを話した後、沙織はかなり迷っていたが俺はあえて沙織に どっちがいいか選ばせることにした。
あの女か俺がいいのか・・雌雄がこれで決する、すべては沙織に託されたんだ。 ・・後は当日になったらじっと沙織を待っていればいいだけだ。 俺は男なんだから何時間・・いや、何年間でも沙織をちゃんと待ってやる自信はあるさ!!
「・・わかった。どっちにするか考えとく」
「ああ・・待ってるぜ」
格好良く決まった!!・・と思いたい。俺は沙織に映画のチケットを渡すと 沙織はチケットを受け取りそのまま部活へ行くため立ち去った。 沙織がいなくなるのを見送った俺はそのままどっぷりと力が抜け風船みたいに 萎れてしまったまま、待ってくれていた十条のところへと向かった。 十条はそんな俺を見るとすべてを察したのか、沙織については何も言ってこずに いつものように接してくれた。本当に友人ってのはありがたいなぁ・・
「なんか食うか? 今日はちょっと余裕があるから、お前にもなんか奢ってやるぜ」
「ハハハ・・じゃあ、ドーナツでも頼むわ」
友の優しさが体に染みる1日であった・・
最終更新:2008年09月17日 19:44