『ご都合主義の秘訣』(9)

351 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:10:25.65 ID:IEy8BdfS0

そして・・運命の当日。俺にしては珍しく服とかを華麗に決めてこの日に望んだ。 昨日は十条にドーナツを奢ってもらった後、十条の家に行きとっておきだと 言われるブランド物の香水を貸してもらった。それから家に帰り服や持っていた 貴金属製品を厳選しまくって今日この日のためにばっちりと決めてきた。

なんだか待ちに待ったデートに臨む女性の心境というものがわかってきたような 気がする。さて・・後は本命の沙織が来るかどうかだな。これで今日という日で 俺というものは大幅に変わってしまう。今でも沙織を待ち続けているこの時間が 果てしなく長く・・痛々しくなってしまうほどな衝撃を感じてしまう。

そんなことを考えて早数時間・・俺は耐えた。

待ち合わせ場所では所々に人が変わっていっている。 俺以外でもここで待ち合わせている人はたくさんいた。その中で人の出会いが あって男女の関係へと発展するだろう。何も俺に限った話じゃない。 このまま帰ってもいいのかなと思ったりしたこともあった。だけど、俺は必死に 沙織を待った。もしかしたら沙織はあの女と一緒に出掛けてしまったのかも しれない、そんなことも考えたこともあったがすぐに考えることをやめた。

俺はただひたすらにもしもを・・“if”を必死に待った。

352 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:18:46.95 ID:IEy8BdfS0

「――もう、来ない・・のかな?」

じっと待って数時間後・・周りの人の流れが変わっていく中、俺は相変わらず 沙織を待った。けれど、そんな俺を嘲笑うかのように沙織は俺にその姿を現さなかった。

勝敗は・・あの女に決した――

そう考えられても仕方なかった。だって、こうして馬鹿みたいに来るはずのない 沙織をいつまでも待ったって無駄なことだ。 沙織は俺よりもあの女の誘いを選んだ。ただ・・それだけの話だ。そう考えると 悔しさと自分の不甲斐なさに怒りが込み上げてくる。 俺は脱力しながら、もう諦めてその場から帰ろうとしたとき――‥後ろから 何者かの聞き覚えのある声に体が即座に反応した、その声はとても清清しく 綺麗な声だった。

俺は思わず振り返ってみると・・俺が待ちに待った人物がそこに立ってくれていた。

         待って・・・

                                  ――待ち続けて・・

ハッとなった俺は恐る恐る、その待ちに待った沙織の第一声を耳を立てて聞いた。 沙織はそんな俺を見続けながら少し驚いていたものの・・すぐに元の静かな表情へと 戻り、静かにその口を開いた。

353 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:22:48.35 ID:IEy8BdfS0

「・・待たせたな」

「お、お前・・本当に沙織なのか?」

「・・お前の待っていた正真正銘の小林 沙織だ」

今にもこの光景が信じられないくらいだ。 目の前にいる沙織は結構なんてもんじゃなく、前に一緒に散歩したときよりも 断然に綺麗で美しかった。俺はそんな沙織に夢中になっていると、沙織は クスクスと笑いながら艶のある瞳で俺を見つめながら・・この俺を惑わせるかの ように言葉を発した。

「フフフッ・・本当にお前はおもしろい男だな。 まぁ、そんなことはどうでもいいさ。・・さぁ、早く映画に行こうか?」

「あ、ああ・・」

今までにも沙織に驚かされることはあったのだが、これはそれ以上・・ いや、なんだかよくわからないが俺の中ではかなりの衝撃の部類に入るだろう。 沙織があの女からの誘いを蹴って俺を選んでくれた・・それだけ考えると歓喜 溢れる想いだ。言葉ではよくわからないこの気持ち・・どう表せばよいのだろうか?

それに沙織のほうはよくわからないがなんだか気合が入っているようだ。

珍しく行動派になった沙織に引っ張られながら、俺は公演時間ギリギリの チケットを力一杯、握り締めたまま・・沙織と一緒に映画館の中へと入っていった。

354 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:34:57.08 ID:IEy8BdfS0

「なぁ・・なんで俺を選んだんだ?」

緊張したまま俺は沙織と一緒に映画館を出ると、そのままデートの お約束というべきか・・沙織と一緒に各ショッピングモールを一通り巡った後、 疲れたので喫茶店で一息入れることになった。 喫茶店に入った俺たちであったが・・俺には沙織に絶対聞いておきたいことがあった。

――何故、沙織はあの女ではなくなぜこの俺を選んだのか・・?

これを聞かないとこのデートの80%はただの“お遊び”なものだ、こればかりは俺の中で 絶対に知りたい理由だ。沙織は悩んでこの俺を選び抜いたんだ!・・と思いたい。

「さっきの映画・・おもしろかったな」

「ああ、お前にしてはいい選択だったと思う」

「おいおい・・俺だってこう見ても、一応はまともな映画は見ているんだぞ」

「フフフ・・お前も意外なところはあるんだな」

俺たちは適当に話しながら互いの気持ちをほぐしていくと、いい雰囲気となった。 そのままその雰囲気を持続していくと・・ある程度たって俺はすかさず沙織に直接 聞いてみた。

すると、沙織はそのまま一瞬驚いたような顔をしたが・・そのまま普段の清楚な 表情に戻り、コーヒーを啜りながら目を瞑り、静かな口調でその理由を述べてくれた。

355 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:38:26.81 ID:IEy8BdfS0

「なぁ・・なんで俺を選んだんだ?」

「・・そうだな、よくわからないが・・私にとってお前が良かったから。それじゃ駄目か?」

「あのなぁ・・俺はそこまでの人間じゃない。これでも自分の値踏みぐらいしているつもりだからな」

ますますわからなくなってきた。 沙織にとっては俺が良かったから・・こういっちゃ何だが自分の値踏みは ある程度はできるつもりだ。俺がそこまで人を引き寄せられるとは早々思えない・・

沙織には悪いが俺にとってはあまり納得のいく答えではなかった。沙織が 俺に対してどう思っているかはあまりよくわからないが、俺は不器用でパッと 見ても余り言い男じゃない。人一倍度胸もなければ相手を愉しませるぐらいの 話し上手でもないし、俺は平凡でどこにでもいるただの奴だ。 沙織に見たいな清楚で可憐な女性に見向き去れるような男ではないことは 自分が良く知っている。

だけど、沙織はそんな俺の思考などを見透かしたように再び艶のある視線で俺を見つめてきた。

「・・ここじゃ何だな、いったん外に出ないか?  そっちのほうがお前と直で話しやすい」

「ああ・・聞かせてくれ」

俺は無意識に首を縦に振ると喫茶店を出て沙織に従うことにした。

357 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:44:20.27 ID:IEy8BdfS0

店を出て、しばらく会話もしないまま俺たちはあてがいもなく2人きりで 歩いていた。もう都心から随分と離れており時刻はすでに夜だ。互いの歩調と 足音が嫌に響く中、俺は今までの沙織の積極的な行動について考えていた、 今日の沙織はいつもと違って、どことなく積極的でよく話をしてくれている。

いつも十条と3人で話しているときは必要以上のことは話さないという感じが するが、今日に至ってはよく話をするほうで、いつもとは違った雰囲気を 出していた。

それに話とはなんだろうか、それだけ考えるだけで俺の頭は一杯だ。 ――だけど!・・そんなことを考えれば考えるほど俺の中での不可解さは 更に増し、それは俺のまともな思考を毒しながら確実に麻痺させていた。 考えるのをやめた俺はそのまま体から感じる風の心地よさとしんみりとした 空気の流れをただ呆然としながら受け止めていた。

もう・・どれだけ歩いたのだろうか? 沙織は突然としてその歩みを止めた。

359 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:53:05.59 ID:IEy8BdfS0

「・・どうした?」

「あの後・・お前からチケットを受け取ったとき、どっちにしようかは私の中で既にお前で決まっていた」

「――なッ!!」

俺は驚いた。 まさか・・あの時で既に決まっていたなんて思いもしないことだ。あの時の沙織の 心は既に俺で決まっていたのだ。じゃあ何故、すぐにそれを俺に伝えてくれなかったのだろうか・・

何故・・今更それを伝えるのだろうか? 歩みを止めた沙織は再びそのまま声を紡ぎながらゆっくりと静かに再び語り始めた。

「あの時・・小林から誘われたときはどうしようかと迷っていた。最近よく話しているから 同姓として仲良くしておこうかと考えていたんだ・・

そしてお前からの映画の誘い・・これで迷いはようやく吹っ切れた」

「じゃあ!!なんで俺を選ん・・」

「ただな・・私は“女”としてお前の誠意が欲しかった。だから、その上でお前の反応を見てみたかったんだ」

「――“女”としてだと・・?」

ますますわけのわからなくなったものだ。 いったい目の前にいるこの人物は俺に何を望んで何をして欲しいのか・・普通の 男ならこんなことを聞いたら即刻に言い訳を作ってその場から帰ってしまうところ だが・・不思議と俺は沙織の言葉に重みを感じてしまい、その場にじっとしながら 沙織の言動に注意深く耳を傾けていた。

361 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 17:56:11.86 ID:IEy8BdfS0

「ここに来て、お前たちと出会って・・今まで閉鎖的な生活から一変して とても楽しくて刺激的だった。そうするとな・・徐々に自分の中でお前に対して よくわからないなんかの変化が起きてるんだ。おかしいものだろ?

でもな・・最近になってようやく自分の中でどんな風に変化してきたのかがわかってきた」

「もしかして、その変化って――ッ!!」

恐る恐る俺は沙織に聞いてみた。 沙織の感じていた自分の変化・・それはもしかしてもしかするかもしれない。 そう考えると今までの沙織の行動にも筋が通る。じゃあ、沙織の変化って もしかして――ッ!!いや・・そうと決め付けるのはまだ早い。 だけど・・いや、そう考えると俺が沙織に感じていた不可解なものの正体が・・

頭が混乱している俺に沙織は一呼吸置くと・・少し下を俯きながらこう一言。

「私は・・――お前が好きだ」

突発的な沙織からの一言に俺は自分の考えの限界を超えてしまった。


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最終更新:2008年09月17日 19:46
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