『ご都合主義の秘訣』(10)

363 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 18:03:22.46 ID:IEy8BdfS0

「・・・――ッ」

「・・もういいのか?」

「ああ・・」

俺は沙織を離すと再び元の場所へと立った。 俺が何していたのかはわからない・・自分の考えの限界を超えた俺は そのまま沙織にキスをしていた。俺は気がつくと唇から触れ合う度に 沙織独自の暖かさが俺の体へと伝わっていった。

意外だったのは俺のこの突発的な行動に沙織が何もせずにただ一心に受け入れてくれたことだった・・

「・・ファーストキスってこんなものだったのか」

「えっ、ファーストキスって・・」

気が動転してしまうが、今の俺にはそんな暇もない。 そうだ・・何がどう転がろうとここまで来てしまった。俺もここで沙織に想いを 伝えなければ・・じゃなきゃ後悔してすべてが無に帰してしまうかもしれない。 なぜかそんな気がしてならない、ここで目の前にいる沙織に想いを伝えなければ・・

いつもの様に深く考えてしまってはだめだ、ここは男らしくストレートに自分の 気持ちを沙織に伝えよう。でなければ沙織の想いを踏みにじるようになってしまう。

俺は胸に手を当てて、しばし無心になった。 すると・・自分の気持ちに素直になれてきたような気がした。

364 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 18:04:01.95 ID:IEy8BdfS0

(そっか、俺が今まで沙織に感じていた気持ちって・・なんで早く気づかなかったんだ。 今の今までこの気持ちを放っておいたなんて・・俺はバカだな)

俺は改めて自分の気持ちを再認識すると、今まで沙織に感じていたうやむやな 気持ちが全くなくなった。代わりにそれらがすべて沙織に対する想いやいろいろなものに 変換されており、俺は人間の神秘を実感させられてしまう。

――・・もはや沙織を俺の目の前・・いや、一生離したくなくなった。

絡み合う運命の糸・・ではないが、もう沙織と絡み合った俺の心は沙織から 離れられないような気がしてならなかった。

確信を持っていえる!俺は沙織のことが――ッ!!

そっと目を閉じ・・俺は沙織に今までの想いを告げた。

365 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 18:06:09.26 ID:IEy8BdfS0

「・・沙織、はっきりと今わかった。俺はお前が・・」

「その先は・・言うな。お前という存在の温もりを・・私の中で感じさせてくれ。それだけで・・私は満足だ」

「・・わかったよ。お前が満足してくれれば俺はそれだけでいいさ・・」

俺は沙織から強く体を抱きしめられると、再びセカンドキスへと移行した。 互いの体の中にいる自分の存在を改めて感じ合うために・・

帰り際・・夜の風は冷たかったが、火照った体を冷ますにはちょうどよかった。 キスだけでここまで体が温かくなったのは初めてのことだ、あそこまで冷め切っていた 俺の体は沙織を求めていたのだろうか?

まぁ、いいか・・俺たちはもう友人の間柄ではない、それだけは確かなことだった。 妙な興奮が高まってくる中、俺は横にいた沙織に改めて見惚れてしまった。

366 名前: 栄養士(広島県) 投稿日: 2007/03/27(火) 18:07:26.57 ID:IEy8BdfS0

「・・どうした?」

「いや・・なんか新鮮だなって」

沙織に見とれてしまった俺はついほろりと言葉を漏らしてしまった。 やはり・・今まで俺らはただの友人同士だったので、今こうして恋人って 言うものがえらく新鮮で余りそういった実感がなかった。

まぁ、互いに突発して想いを告げて・・それからくっついた結果だから仕方ないのかもしれない。

「新鮮・・?」

「ああ、俺・・今までにまともに女の子と付き合ったことないから こういったのは初めてなんだ。

前の彼女とは折り合いが悪かったし・・でも、沙織だったらなんだか付き合える気がするんだ」

「そうか・・ありがとう」

沙織の静かだが少し涙で入り混じった声を聞くと俺はふとこいつを好きになってよかったと安心してしまうのだった・・

583 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:13:50.02 ID:Rkna+BeC0?

「なんてこともあったな・・」

「どうした・・突然?」

「いや・・昔の事思い出してな」

ふと、沙織の一言で今の現実に戻ってしまった。 どうやらお互いにあの時のことを思い出していたようだ・・本当にあの時は俺に してはよく長々と沙織を待ち続けたと自分で自分を称えたい。

沙織をただ只管待ち続けたあの数時間は本当に俺の人生の中で最も長く・・ 辛い時間であった。そんな沙織はというと・・ただひたすらに薄ら笑いをしながら 俺を見つめてた。何年も一緒に暮らしているが・・この癖は昔から全然変わらない。

どうやら昔から俺をからかうのが好きらしい、薄ら笑いしているのがその最も たる証拠だ。まぁ、満更ではないがな・・

曖昧に昔の記憶に毒されながらも・・記憶も現実に戻り、甘い雰囲気も終わって 俺たちは一段楽した後、服に着替えて俺は部屋で1人まごついていた。 子供ももう大きくなったしこれからはゆっくりと夫婦の時間が持てる。しばらく 仕事のほうは静止する体制なので落ち着いた物となるだろう。今までは仕事の 忙しさで余り子供と接する機会がなかったからいい機会だ。

最近は本当に仕事の忙しさもあってか余りまともに接する時間すらなかった からな・・特に女体化して娘となった來夢はともかく、うちのバカ息子は沙織に よると昔の俺によく似ているというらしいのだが・・よくわからんものだ。

それに昔のことといえば、何思い出したんだろう。気になるな・・

584 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:15:10.90 ID:Rkna+BeC0?

「昔のこと・・いったい何のことを思い出したんだ?」

「お前と付き合い始めた時の事を思い出してな。今考えると・・おもしろいものだったな」

「あのなぁ・・俺だってそれなりに苦労したんだぞ。お前があの女選んだことを考えると死にそうだったぞ」

「ああ・・あれか、最初からお前に決めてあったよ。ついでに言っておくが、あの女のことは最初から知ってたよ」

「な、何だとッ!!」

俺は飲みかけた酒を噴出しそうになってしまった。 まさかあの女について最初から知っていたとは・・結婚して子供を儲けてからから きっかけなんてどうでもよくなってきたのだが俺で最初に決まっていたとはな驚きだ。

しかもあの女の本性を知っていたなんて・・あの時の苦労はいったいなんだったん だよ。

今となっちゃいい思い出の一つなのだが・・なんかしっくりこないのがあった。

585 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:21:06.48 ID:Rkna+BeC0?

「あの女のこと・・知ってたのかよ。なんかスッとしてきたような・・」

「ま、20年以上も前のことだからな。・・なんだかこう話していると昔のことを思い出してしまうな」

「あの頃はいろいろあったっけな。あれから高校卒業してお前が海外へ留学するって言ったときには驚きだったよ」

俺は酒を飲みながら昔を思い出していた。 高校卒業時、沙織は突然としてアメリカに留学をすると言い出し、高校卒業して 大学へ進学する俺たちを十分に驚かせた。 何でも本格的に演劇を極めたいと言い出して海外留学へと踏み切った模様だ。 突然のことで驚いた俺は沙織の心配や不安がたくさんあったのだが、彼氏と して恋人として快く沙織を送り出すことにした。その留学が功を奏したのか・・ 俺たちの会社が軌道に乗り始めたのと同時に沙織は徐々にその才能の頭角を 現し演劇の基礎を積んでこうして今の地位にいるのだと思う。

沙織本人も満更ではないのだが、留学してよかったと言っていた。あの時に演劇部にいれて本当によかったと思う・・

586 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:23:00.00 ID:Rkna+BeC0?

その後は、沙織から女体化シンドノームで女体化しているという驚くべき事実を 結婚する間近に聞かされたっけな。事実を聞かされたときは何を今更っと思って いたけど、沙織にしてみれば重大な告白だったのだと思ってみたりもする。

そりゃそうだ、女体化という病気は昔と比べてだいぶ緩和されつつあるものの・・ 未だに世間的な偏見とかもあって精神的にも結構堪えるものだ。思えば2人の 姉貴たちはよく結婚できたと思ってみたりもする。子供たちにその事を話した ときはある意味冷や汗ものであったが、來夢の女体化のこともあってか・・ 何の問題もなくすんなりと受け入れてくれたようだ。

沙織と一緒にあらゆる場合を想定して考えてあっただけであってそれだけは 一安心だ・・親である俺たちが見ない間にも成長したんだなぁっと実感させられる。

酒を飲みながらそんな戯言を考えていると・・沙織は再び何かを思い出したような 顔をしながら、静かな口調で重大なことを言い放った。

587 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:29:26.87 ID:Rkna+BeC0?

「そうそう・・もう一つお前に黙ってたことがあるんだ」

「何だよ・・まだあるのか?」

今日はやけに暴露することが多いな。酒の影響かな?  久々に夫婦で酒を飲んでその挙句に酒が全身に回って とんだ酔狂になってしまったようだ。もうこうなったらドンと来い!!

今の状態だと沙織のどんな秘密でも受け止められる自信がある。沙織は そんな俺を見ながら、少し憂鬱そうな表情のまま先ほどとは違った淡々とした 口調になりながら話してくれた。

それにしても・・今までに俺に黙っていたこととは何だろう? 金か・・それとも過去の恋愛沙汰やへそくりなのかな?

俺の頭の中はおもしろいぐらいに妻の隠し事に興味を持ってしまったようだ。

588 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:30:26.73 ID:Rkna+BeC0?

「実は・・な。今まで黙っていたことだが、私には7つ歳の離れた妹がいるらしんだ」

「なッ!!――・・妹だと?」

「・・ああ、腹違いの妹らしんだ。名前は・・麻耶って言っていたかな・・ 高校を卒業して海外へ留学したときに母さんから聞いたんだ。

“お前には腹違いの妹がいる”ってな・・

どうも父親のほうに引き取られて今はここアメリカにいるらしいんだ。 全く・・まさか私に腹違いの妹がいるなんて最初は驚いたよ」

「その妹に会いたい・・のか?」

俺は思わぬ事で驚いてしまった。 どんな秘密も受け止められる自信はあったのだが・・こればかりは流石に驚きは 禁じえない出来事だった。まさか・・沙織に腹違いの妹がいるなんて予想外もいい ところだ、もし実際にいたとしたらその妹とは戸籍上では義妹にあたる。 それに子供たちにしてみれば叔母さんがまた増えてしまう。留学と同時に母親を 亡くした沙織にとったらたった1人の肉親だ、妹に会いたいのも無理はない・・

589 名前: アリス(広島県) 投稿日: 2007/03/28(水) 18:31:15.43 ID:Rkna+BeC0?

今は時代は技術の進歩によって人の捜索とかもかなりスムーズに行われるようになった。 その手のプロに依頼してみれば早くても2週間以内には見つかるだろう。 でもなんで沙織はその妹を探さないんだろう・・いいマスコミのスキャンダルネタからは 避けたいのはわかるのだが、そんなものは知り合いでパパラッチに顔の効く知り合いに 揉み消してしまえばいいことなのだが・・

そんな俺の疑問に対して沙織はこの部屋の最大の特徴であるNYを一望できる 窓を眺めながら・・少し寂しそうにしながら呟いた。

「いいさ・・生きていたらそのうちに会えるさ」

「・・そっか。お前が生きてたらきっと・・―――ッ」

「その先は・・言わせないさ」

俺たちはそのまま情熱的なキスを交わすとそのまま秘密を胸に しまいこみながら、再び沙織の体をそっと抱き寄せた・・

fin


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最終更新:2008年09月17日 19:46
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