『参観日』

429 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:32:01.73 ID:OMdwDGyc0

人の思い出・・それは個々によって様々だが、僕・・平塚 來夢には決して忘れら れない思い出が1つだけある。もうあれから何年になるだろうか・・

僕が女体化して数ヶ月の時が流れた後、騒いでいた周りもどうにか落ち着いて、 いつものように平凡だけどありふれて刺激的な日常を謳歌していた。 僕も女体化してから一部騒いでいる男子を除いたら、今までどおりにスクールに 通っていた。女体化してから、男のときはあまり話しづらかった女子と急速に 打ち解けあえるようになっており、この病気の真の魔力かと疑ってしまうほどだ。

そんな風に日常を感じていた僕だけど、スクールからある通知が届いた。それは・・

「授業参観か・・」

「うん、今年も欠席かなっと思ってね。ほら、父さんと母さんは忙しいし・・」

「まぁな・・」

いつもどうりに家族の朝食を作っていると僕は兄貴にスクールから来たある 通知について伝えることにした。 スクールからきたある通知・・それは毎年行われている授業参観についてだった。 やはり国は違えど、授業参観というのはどこの学校でも行われているものなのかも しれない。だけど、僕の親が授業参観に来れない理由は両親の職業にある。

僕の両親は父親が大企業を束ねる社長、母親が全世界中で知名度のある 大女優で・・とてもじゃないが授業参観にこれる時間が余り取れないのが大きな理由だ。

この強大な難関にどう立ち向かうか苦労させられる・・

430 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:36:40.51 ID:OMdwDGyc0

「それに父さんか母さんがどっちかが来たって学校のほうがパニックになっちゃうよ」

「確かにそれはあり得るな。特に母さんが来た場合はかなりのもんだろう・・」

兄貴はお茶を啜りながらご丁寧にも、もしも両親が学校に来た場合であろうの 場面を想定してくれた。兄貴の言うように母さんは顔と名前がアメリカ中はおろか 全世界中でも知れ渡っており、もしその母さんが学校に来た場合はパニック どころでは済まされないものだろう。 父さんの場合は母さんほど余り知名度はないものの警備上の問題からして没だ。

今年も両親に告げようか迷ってしまうところだ・・

「どうしよう・・去年は2人の仕事が重なったから中止になったけど、今年はどうだろう?」

「それだったら・・あいつのおじさんに頼んでみたらどうだ?」

「――ええッ!!・・兄貴、何言ってんだよ。 たとえ十条のおじさんでも会社では父さんの次にお偉いさんだからだめだよ・・」

十条のおじさんとは・・父さんと母さんの昔からの友人で、昔から面倒見て もらっている香織さんの父親だ。何度も一緒に出会っているが、兄貴はどうも苦手らしい・・

まぁ、そんなことは置いといて・・今、僕にとって重要なのは僕が穏便に授業参観を送れるかどうかだ。

431 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:39:57.70 ID:OMdwDGyc0

「ねぇ兄貴・・なんかいい案ない?」

「んなもん、ねぇよ・・」

そういって兄貴はお茶を啜るとすぐにスクールに行く準備を始めた。 いい案出してくれたらせっかく香織さんとの関係を後押ししようと 思ったんだけど・・もうしばらくは自分で考えてもらうしかないようだ。 本当に他人からみてもこの鈍感さは異常で、もう10年近く続いている 香織さんのアプローチに気がつかないなんて鈍感もいいところだ。 前に母さんに聞いてみたところ、どうもこの超ド級の鈍感は父親から来ているみたいだ。

香織さんには悪い気もするがここはしばらく兄貴1人で悩んでもらおう。 僕は頭を抱えながら自分で作った朝食を食すのであった・・

「授業参観か・・一回、保護者として行ってみるのもいい機会だな」

「えっ!!母さん・・大丈夫なの?」

翌日・・たまたま家にいた母さんに授業参観のことを話すと意外にも母さんは 行く気満々のようだった。家では忙しい父さんと比べて母さんがいるほうが 何かと多いのでよく話すほうなのだが、まさか母さんが僕の授業参観に興味があるとはかなり意外だった。

432 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:42:28.55 ID:OMdwDGyc0

「ああ・・たまたま映画の撮影が終わったからな。大丈夫だ、1日ぐらいは時間が取れる」

「うん・・」

母さんの言に思わず僕は頷いてしまったが、実際に母さんが来るとなると 本当に無事にスクールを過ごせるかどうか不安になってしまう。 ただえさえ、同世代のお母さんよりも非常に若い母さんの存在は人一倍目立つだろう。

女優だってばれなくても何かしらの注目は浴びるだろうな。やはり・・おじさんに頼めばよかったのかな?

433 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:43:31.42 ID:OMdwDGyc0

「來夢・・どうしたんだ?」

「あ、ああ・・なんでもないよ。 兄貴は今は香織さんとどこか行っているらしいから少し遅くなるらしいから、ご飯何がいい?」

「・・そうか、じゃあ何か適当なもの作ってくれ」

「うん」

台所に向かうと冷蔵庫を開けて適当に食材をチェックする。 最初に比べると、もうこんな光景は慣れたもんだ、包丁を握って野菜を切っている と、ふと料理を始めた頃のときを思い出してしまう。

物心ついたときから家は全員が家事不適応者で料理はもちろん、炊事洗濯すら もままならない状態だった。母さんのほうはドラマや映画でそういった演技をして いるので素人からみれば料理はできるのだと伺ってもしてしまうのだが・・それは 所詮テレビの世界の出来事で、現実では余りできたものではない。

父さんや兄貴も同様で、包丁を握らせたら危険なのは目に見えている。 だからこうして僕が家事をするようになったのだ。確か初めて包丁を握ったのは 小学生の頃だったかな、気がつけばどんどん料理を作ってしまって今では 和洋中何でも来いという感じだ。

「授業参観・・大丈夫かな?」

いそいそとご飯の準備をする中、来るべき授業参観に複雑な思いをするのであった。

434 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:46:35.13 ID:OMdwDGyc0

結局、何の具体策も出ないまま時間は無常にも過ぎてゆき・・これから激動の 混乱を予想させる、授業参観の日へと進んでいった。母さんも行く気は満々の ようで、それなりに授業参観の準備をしているようであった。このときは珍しく家に いた父さんも少し困惑気味のようであった。

「・・なんだか、張り切ってるな」

「まぁな、アメリカでも授業参観している学校があるのも驚きだが・・保護者として参加するのは初めてだしな」

妙にわくわくしている母さんを尻目に僕は台所で朝食を作りながらこの1日を 無事に平穏に過ごせるか不安になってきた。多分、極力母さんも配慮はして くれるだろうが・・普通に服を着ても目立ってしまうから、ある程度の混乱は 予想されるだろう。

僕は少し憂鬱になりながらサラダを作っていると兄貴が同情の眼差しでこちらにやってきた。

435 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:47:00.11 ID:OMdwDGyc0

「ま、このとおり母さんもやる気だし。今日は頑張れな」

「兄貴も他人事だと思って・・」

「だって、俺だって前に母さんと買い物に行ったときは大変だったんだぞ。 それと比べればまだましなほうじゃないか」

「そうだけどさ・・なんか少し恥ずかしいよ」

前に兄貴と母さんが買い物に行ったときは、ちょっとしたパパラッチに 見つかりそうになってかなりの大騒動になりかけたらしい。幸い、兄貴と周りの ガードの人たちの機転によって何とか抜けたらしいけど・・ やっぱり、改めてみると母親と2人きりでいるのは少し恥ずかしい気もする。 まぁ、今回は学校の授業参観ともあってか兄貴のときのような大騒動にはならないと思うけど・・

「気楽にいけよ。母さんだって今日は楽しみにしているはずさ」

「まぁ、頑張るよ」

僕は軽く吐息をつくと、完成したサラダを運んで今日の授業参観に望むのであった。

437 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:50:35.33 ID:OMdwDGyc0

学校内・・いつものように、女体化してから僕のファンと自称する一部の男子を 友達と一緒に軽くいなしながら授業が始まった。やはり教室に保護者が来る ということもあってか、少し周りがざわついたまま授業参観が開始された。 いつもとは違った授業のせいか、少し緊張気味の周りがざわめくの中、後ろに 設置されてある保護者の席のところを見てみると意外にもまだ母さんはまだ来て いなかった。

朝はあれだけ張り切っていたのにいったいどうしたのだろうと心配になってきた のだが、僕たちが先にスクールに出かけた後も母さんは少し遅れながらスクール に向かうらしいのだが、やはり母さんの役職上、急な仕事でも入ってしまったのかと 思ったりもしてしまう。

母さんには悪いが僕にとっては気楽に授業ができる利点があった。

438 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:52:50.63 ID:OMdwDGyc0

(母さんには悪いけど・・今日も気楽に受けられるようだ)

この僕の安易な考えはものの数分で陥落することとなる。 母さん不在のままいつものように授業を受けてながらのほほんとこの平穏を 少なからずとも味わっていた。 授業が始まってからものの数分してか、静かに音を立てて教室のドアが 開かれた。

また新しい保護者だろうと僕はそのまま平然としたまま授業を受けていた のだが、その保護者が登場してから数分間・・先生はおろか周りも水を打ったよう に静かなので奇妙な違和感を感じた。余りにもの静けさだったので思わず 保護者席のほうを振り返ってみると・・そこには保護者の中でも一際かなり目立っていた母さんの姿があった。

40代という老けも目立ってき始めた年齢に反して20代~30代を思わせる ような若さを際立たせており、周りの視線は母さんに集中していた。 そんな母さんは僕の姿を確認すると少し手を振ってくれたのだが・・余りにもの 恥ずかしさのあまりにすぐに視線をそらすと前を向いた。

(授業が終わったらある程度の質問は覚悟しなきゃいけないな・・)

授業が終わったら真っ先に質問が来ることを覚悟しながら・・僕は嫌に 時計の針を意識しながら授業を受けるのであった。

439 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:53:58.19 ID:OMdwDGyc0

「來夢のママって・・すごい若いわね。あれで本当に40代なの?」

「俺なんて見てかなりびっくりしたぜ。先生なんて唖然となったしな」

「うん・・やっぱり初めて見ると驚くよね」

授業も終わりささやかな休憩時間・・僕の予想通りに授業が終わるのと 同時に全員が僕の席で英語での猛烈な質問攻めが殺到した。 母さんたちは保護者同士の話し合いという奴で別の教室に移っている。 やはり大抵の人は母さんを見ると驚いてしまうようだ、僕は英語で丁寧に 質問の数々に答えながらこの息苦しい休憩時間を過ごしていた。

そんな中で、1人の同級生が僕にこう投げかけた。

440 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:56:49.29 ID:OMdwDGyc0

「そういえば・・お母さんの職業は何だ?」

「――へっ? ああ、母さんの職業ね・・」

ここで本当のことを話せばクラス中はもとより、教師をも巻き込んだ かなりの騒然としてしまうだろう。僕が大女優であるあの平塚 沙織の子供だと ばれてしまえばかなりの騒動になるだろうし母さんたちにも迷惑がかかってしま う。

事実、入学したときもマスコミとかの対策のために厳重に隠し続けていたの だから無理もない。それだけ母さんの名前は大きいのだと自覚してしまう。

それに僕は兄貴とは違って格闘術はそこまで強くないし、それに平然と周りの 環境に合わせて適応する能力があまりない、ばれてしまえば軽く一週間は スクールはお休み状態となって引越しもままならない状況になるだろう。

女体化しても変わらずに僕を受け入れてくれたこのクラスとは別れるのは 惜しいし、慣れ親しんだこの街とも引越しはしたくない。だからここは適当にごまかしてみる・・

441 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 13:57:38.03 ID:OMdwDGyc0

「母さんは・・インストラクターしてるって言ってたよ。 あ、でも流石に場所までは教えてくれなかったな」

「へー・・意外だけど容姿もそうだし体つきもよさそうだから納得しちゃうわ」

「そうだな。てっきりあのSAORIに似ているからもしやって思ったけどな」

「そんなわけないじゃない。第一あのハリウッドの大女優がこんな学校にこれないわよ」

「確かにそうだな」

一部の意見は確実に的を得ていたのだが、何とか功を奏したのか 母さんの職業についてはみんな納得してくれたようだ。本当にこれが通らなかったら なんて言い訳しようか本気で迷ってしまったぐらいだ。

親が有名人だとここまで苦労してしまうなんて思いもよらないだろう、とにかくそれ以上の 深入りはみんな無用ということで円満に納得してくれたようであった。

442 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 14:01:20.93 ID:OMdwDGyc0

帰り道・・保護者の話し合いを終えた母さんと歩いて帰ることとなった。 意外にも車とかは用意してなかったので驚いたのだが、こうして母さんと 2人きりで帰るのも悪くないと思った。もう母さんと2人きりで歩くのは何年振りかな?

そんなことを考えると母さんが突然、口を開いた。

「今日は・・いい日だった。 久しく映画の撮影が長引いていたから、家で見れない來夢の様子がなかなか 見れていい機会だった」

「そうかな? 僕は父さんよりも母さんのほうが家に長くいる気がするんだけど・・」

「家では・・な。 前にあいつと話していたことがある、お前たち子供たちにとって 本当に私たちは親でいられてるか・・ 慶太はともかくとして、來夢はよくあいつや私に懐いていて、昔から人見知りが 激しかったからな。

だから女体化して余計に不安になったんだ」

母さんの言うように、僕は男の子にしては活発な兄貴と比べて少し人見知りの 激しいほうで、よく母さんのほうに向かっていったのを覚えている。小さいころは 母さんが仕事でいなくなる時なんかは泣いてしまったこともあるぐらいだった。

しかし、年齢が経つにつれて現実というものを理解できるようになり、元々あった そういった部分は影を潜めていたのだと自分では思っていたのだが・・母さんの見立てだとまだ残っていたらしい。

僕もまだ自分を見れていないな・・

443 名前: 果汁(広島県) 投稿日: 2007/03/31(土) 14:04:38.53 ID:OMdwDGyc0

「だから、私は親としてそれを確認しに来た。・・お前は文句なしに 立派に成長しているよ。流石は私たちの子供だ・・」

「母さん・・」

母さんの言葉は先ほどの恥ずかしさなど微塵も感じさせないものだった。 少しほかのお母さんと比べたら若いけど、考え方や僕たちを想ってくれる 気持ちは今でもちゃんと変わりないものだというのを改めて僕に実感させる ものがあった。

そう考えると、この日までいろいろ考えていたのが考えていたのがくだらなく 感じてしまい、返って恥ずかしいものだ。

「今日は・・久しぶりに2人きりでご飯でも食べに行くか」

「え? でも、それだと兄貴たちが・・それに今日は父さんも帰ってくるんだよ」

「たまにはいいさ・・あいつらも似たもの同士で苦労するのもいい」

「・・そうだね」

今、僕の横にいるのは誰にでも誇れる立派な母さんであることは間違いない。 そしてこの1日はそれを僕に認識させるものであり、それは僕の思い出として永久に刻まれるであろう・・


                 ―fin―


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最終更新:2008年09月17日 19:50
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