『活動記録 波乱の序奏』

17 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:50:16.15 ID:Gk6kZVhq0

野外活動・・それは学校に通う上で必ずといっていいほどやってくるイベントで言ってみれば修学旅行の練習みたいな ものでどこの学校でも必ずあるだろう。のどかな自然の中で人としてのありのままの生活を送るなんともまぁ退屈かつ めんどくさいイベントだ。

そんな恒例の学年行事が回ってきた高校2年生の出来事である・・

あの奇妙な性格の悪い女からエスコートされてた沙織を何とか引き離し、俺と付き合い始めてから早1年弱・・最初は なり崩し的に沙織と付き合っていたものの、徐々に月日を重ねるごとに相手の距離とかも徐々にわかっていき、 今では周囲もほぼ公認と認定して余り関与はしてこない。ようやく俺も誰にも邪魔されずにこうして彼女と付き合えるよう になったのだと思うと嬉しくてしょうがない。

さて、そういうわけで沙織との付き合いも慣れてきた高校2年生の秋、この時期に最大の行事と言えば野外活動が 相場と古くから決まっている。前々から思っていたことなのだが、なんで中学と高校2年生になったら毎年この秋が 深まり始めるこの時期に野外活動なんかが行われるのだろうか不思議でならない。

「おい、彼女と惚気るのもいいけどな・・班は決まったのか?」

「あ、そうだったな。俺と十条と沙織・・そこは変わりない。ただ後1人がな・・」

野外活動の班はいまどき珍しい男女混合の4人制で俺は念願どおり沙織とおまけで十条と一緒の班になり、 もう気分は最高にルンルン気分真っ盛りなのだが・・どうしても後もう1人を思い出すと何処となく気分が暗くなってしまう。

18 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:52:14.68 ID:Gk6kZVhq0

「後1人誰なんだよ? 別にたいしたことないだろ・・」

「・・あいつだよ」

静かに俺は黙ってある方向に指を指す。俺が指した方向にはどぎつい金髪が印象的の何時ぞやの謎の転校生・・ 礼子であった、静かにしていてもその存在感は人並みを外れており、常に物静かなその姿勢が逆に不気味に見えて 仕方ない。噂じゃ有名な暴走族の総長だったらしく、辞めるときに暴力団とのごたごたに巻き込まれていたと言うらしい・・

まぁ、しかし人と言うのは見てくれで判断してはいけないもので、ああ見えても成績は全学年の中でもトップクラスだと いうから驚きだ。

「あれって・・もしかして礼子か?」

「・・ああ、班決めるときに余ってな。仕方なしに俺たちの班に編入されたんだ」

野活の班決めの際、休んでいた十条と俺と沙織・・後は適当に誰かを待っていていながら悪戯に時間だけが過ぎていく 中で人数調整の際にあまったのがあの礼子であった。1班は4人が最低の原則であったため、仕方なく俺たちの班に 転がり込んできたと言うわけだ。沙織のほうは別になんとも言っていなかったのだが・・予定外の決定に俺は今でも しおりに書いてある班のメンバーの名簿が見れなかった。

20 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:53:42.81 ID:Gk6kZVhq0

「まぁ、決まったもんは仕方ないじゃないか。それに向こうだって俺たちが何もしなきゃいいんだしな」

「お前の気楽さは羨ましい・・」

簡単に割り切ってしまう十条を尻目に俺はしおり越しから物静かに読書をしている礼子の姿をただ見ながらこの 野外活動が平穏かつ無事に成功できるかどうかと考えると不安になってしまう。まぁ、今のところ何にも問題は起こしては いないらしいのだが・・さてさて短い期間とはいえ無事に過ごせるのかと考えてしまうと心なしか心配になってくる。

俺にとって沙織や十条と一緒の班になったのが何よりも救いなのかもしれない・・

21 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:54:51.78 ID:Gk6kZVhq0

授業がすべて終わった後、俺は体育館へと向かった。沙織と付き合うようになってから俺は演劇部の練習が行われて いる体育館へと足しげく通っているようにしている、沙織も演劇のほうにのめり込んでいるというし帰りに彼氏である 俺と一緒に帰れれば精神的にも気が楽になるだろう。 しかし演劇部での沙織はかなり人気が高いらしく些か嫉妬みたいなのも覚えてしまうこともあるのだが、部長さんが 要所要所に気を遣ってくれて2人きりにしてくれている。どうやら向こうも沙織の精神状態にはかなり気を遣っている みたいであった・・

そんなこんだで2人きりの帰り道、付き合ってることは少し緊張したが今はこれがあるから今日も1日頑張れるのである。

「野外活動か・・」

「意外だな、そんなに楽しみなのか?」

「今まであんまり気の合う集団に馴染めなかったからな・・」

意外にも沙織は野外活動に興味を示しており、理由を聞くと意外な答えが返ってきた。余り沙織の過去は聞いていない のだがどうも俺と付き合う前までは人見知りをしてしまうほうらしい、今まで男の人と付き合ったことがないと聞いたとき 妙に納得してしまった。野外活動は沙織と同様に俺も非常に楽しみなのだが、班のメンバーについて考えるとどこか 不安になってしまう・・

思わず俺は沙織に今の心境をぶつけてしまった。

23 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:56:57.22 ID:Gk6kZVhq0

「なぁ・・あのメンバーで大丈夫かな?」

「私を心配してくれてるならそんなものは不要だ。 ・・それにあいつはなんだか私と一緒の感じがする、そこまで心配しなくても大丈夫だ」

不思議と沙織は落ち着きを払っていた、班決めの際にも結果に文句も言わずにただただそれを受け止めていた。 それにしても沙織はあの礼子にいったい何を感じているのであろうか・・? 一緒の感じがするというがいったいどういった感じなのだろうか気になっても見る。まぁ、俺も考えすぎなのかも しれないな・・

「今日はお前の家にでも行こうかな」

「お、そうか。歓迎するよ」

どうも沙織は俺の家が心地いいみたいで、付き合ってからもよく俺の家で晩飯を共にすることが多くなっており、 俺としては大変嬉しい状況である。流石に家の事情もあってかお泊まることはないものの幸せな雰囲気が俺の中を 包み込み幸せと言うものを十二分に与えてくれていた。 2人きりで食事する時も真理がいるのである程度は退屈しないのだがやはり彼女である沙織が一緒にいると 雰囲気もがらりと変わって、幸せ一杯の気分で飯も食えて心地よいものだ。

沙織を連れて家に帰った俺はいつものように台所のほうからいいにおいが鼻を程よく刺激する中で俺たちは 真理の存在をきっちりと認識した。

24 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 22:59:10.61 ID:Gk6kZVhq0

「もう少しで晩飯ができるみたいだ。それまで俺の部屋で待つか」

「ああ・・そうさせてもらおう」

晩飯ができるまで俺の部屋で待つことにした俺たちなのだが、部屋に入るとどうも緊張してしまう。 沙織とは恋人としてやることはすでに経験済みだったのだが、改めて付き合ってもなんだか付き合う前を思い出して しまい、どうも緊張してしまう。この調子だとまた真理にからわれてしまうな・・

「な、なぁ・・」

「・・何だ」

緊張した俺は何とか沙織と話したかったのだが、緊張しすぎて言葉が詰まってしまう。対する沙織のほうはそんな俺を 面白おかしそうな視線でじっと見つめており、緊張してしまう俺とは対照的にかなり落ち着いていた。

25 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:00:58.64 ID:Gk6kZVhq0

「フフフ・・本当にお前はおもしろいやつだ」

「あ、あのなぁ! 俺は別に・・」

「でも私はそんなお前が大好きだ」

「お、おい!!」

触れる唇と唇、そこから互いの舌が絡めるこの瞬間・・この緊迫した状況を一気にぶち破るには十分すぎる ほどであり、急に沙織にキスされた俺は今までの緊張感が吹っ飛んでしまいゆっくりと女性特有な体つきとなった 沙織の体をぎゅっと抱きしめた。 しばらくキスをしたまま互いの体を抱きしめる状態が続くと俺の体は火照り始めていた。このまま行くとこまで 行っちゃおうかという男の本能が働きかけたのだが、今の状況だと非常にまずいし何よりも真理が下にいるため、 何かと俺の部屋から声が響いて気を遣わせてしまう、だからここは溢れ出す気持ちを抑えてキスで我慢だ。

しばらくキスの味を楽しみながら台所から匂う、食欲をそそる匂いが俺の体を刺激した。

26 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:01:48.09 ID:Gk6kZVhq0

「これでだいぶ落ち着いたろ?」

「・・舞台とかではキスシーンとかあるのかよ」

「嫉妬してるのか?」

もし沙織が女優になったらある程度のキスシーンは間逃れないものとなるであろう、俺以外の俳優が沙織とキスするのは いくら映画の撮影とはいえどこか心許せないものを感じてしまう。でも女優になるのだったら必然的にそういったシーンに 出くわす可能性も大なので割り切らなきゃいけないのかもしれない。

「あるよ。キスシーンぐらい・・」

「ま、マジかよっ!!」

あっけらかんと言う沙織に俺は驚きを隠せなかった。やはり沙織は女優としてキスシーンを見つめなければいけないのか・・

「・・フフフ、嘘だよ。ちょっとからかっただけだ」

「お前な・・」

含み笑いをしながら俺を見つめる沙織に僅かにだが自分の将来を確信してしまった。

27 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:04:51.56 ID:Gk6kZVhq0

「2人ともよろしくやってた?」

「うるせぇ・・」

俺はご飯をかき消すように放り込むとそのまま静止を突き通した。 ただえさえ沙織を家に上がらせてからかわれてるのに先ほどの光景を知られてしまったら絶対にからかわれてしまう こと間違いなしに違いない。それに沙織に思うがままにおもちゃにされたのだから機嫌が悪くなるのは当然だ。

「もう10年近くもお姉さんやってるのにつれない弟ね。その点、沙織ちゃんはご機嫌みたいだけど」

「なんだか最近はおもしろいことばかりなんです」

「へ~・・お姉さん気になっちゃうかも」

今度は沙織に話を振ってきた、どうやら女体化すれば男のときに感じていた妙な抵抗感から脱出することができる みたいだ。 この世界にはとある奇病に近い病気が存在していり、15、16歳で童貞を捨てなければ女体化してしまうと言う 女体化シンドノームという奇妙かつなぞめいた難病が存在している。この病気は人間・・男性という存在を根底から 捻じ曲げてしまうものであり、もう数十年近くもこの世界に忌まわしくもその名を欲しい儘にしている。

現に俺の兄2人がこの病気にかかっており2人とも二次元世界真っ青なぐらいに見事なまで女体化を果たしてしまった。 それでもこの病気を受け入れ、新たな人生を前向きに生きている2人の姉は大物なのかもしれない・・

28 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:07:23.58 ID:Gk6kZVhq0

「そういえばあんたたちも野外活動の時期よね」

「ああ・・」

そうだ、自分のこといろいろ考えているうちに野外活動のことをすっかり忘れてしまっていた。

「野外活動なんて懐かしいわ。2人とも一緒の班なの?」

「ええ、3人一緒ですよ」

「それっていいわね。恋人と一緒の班になれるなんて運がいいわよ」

まぁ・・沙織と付き合っているのは周知の事実だしそれを踏まえると俺の場合は運がいいのかもしれないな。 考えてみれば沙織と同じ班になれた俺はかなりの幸運者なのかもしれない、それに加えて長年の友人も 一緒の班なんだからそう卑屈的にならなくてもある程度は楽しめそうだ。

しかし・・あの礼子と一緒の班になったのは変わりはない、俺は無事に五体満足のまま野外活動を満喫できるのかと 思うと不安になってくるのも無理はないだろう。

29 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:08:04.02 ID:Gk6kZVhq0

「しかしこいつはどうも不安がっていたようですけどね。まぁ、そこが可愛いものですが」

「さ、沙織・・」

正直、沙織は程々と言うものを知らないところがある、俺をおもちゃにして嬉しいのはわかるのだがそう言ってしまうと また真理にからかわれるのが落ちだ。でも少し照れくさい部分も感じてしまうもので嫌ではない気持ちなのは確かである。

「2人とも仲良いわね。羨ましいわ・・」

「そうか? 俺はあんまり実感がないが・・」

「・・何言ってんのよ。あんたもいずれわかるようになるわ」

真理の言葉に俺は思わず疑問を覚えてしまうが、それだけ俺は幸せ者だということだろう。

楽しい夕食は衰えをみせぬまま、盛り上がりを上げていった・・

32 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:17:16.06 ID:Gk6kZVhq0

泣いても笑っても時間と言うものは一定の時間に進んでいくものであって、ご都合主義のごとく野外活動の日取りは 順々に決りスムーズに日にちがいたずらにすぎていくものであり、今日から行われる野外活動に高らかな期待と 残り続けていた不安を入り混じらせながら昨日に荷物をまとめた鞄をじっと睨みながらこれから始まる野外活動に 緊張していた。

「・・忘れられない思い出になればいいがな」

本来野外活動は修学旅行よりも面白みがかけてるし自然ですごすのはどうもやる気になれないものだ、 前にキャンプに出かけたときは気の合うメンバーと一緒だったのでそれはよかったのだが、クラスのメンバーと共に 過ごすのはどこか気が引けてしまうものがある。 でも、うだうだ考えても仕方ない、ここは気分を変えてポシティブに行こう。

「よしッ! あの礼子と一緒の班だが沙織と一緒に頑張っていくか!」

気合を入れて俺は野外活動への希望を願いながら朝食を食べると勢いよくドアを開けて学校へと向かうことにした。 予定より早い時間についたのだが、学校に着てみるとすでにバスが来ており、荷物をガイドさんに預けてそのまま 乗り込むとすでに沙織と十条が席をうまい具合に確保してくれており、俺の姿を確認すると手を振って律儀にも 俺を待ってくれていた。

「よぉ、朝から楽しそうな面してるな」

「どこがだよ。それにしてもお前はいつものアホ面だな」

「楽観的といってほしいね」

十条のマイペースさには時々尊敬するときもある。もう腐れ縁ともいえる仲で何十年も一緒にいるのだが、よくここまで 自分を維持でいるのか知りたいものだ。まぁ、十条のおかげで少し不安が和らげた・・

34 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:21:40.73 ID:Gk6kZVhq0

「おぅ、早いな」

「まぁ・・な」

俺の隣の席には沙織が座っており心なしか少し楽しそうな口調であった。 バスの席は自由に決められているので好きな席に座れるのだが、なかなか沙織と2人きりで座るのは簡単なようで すごく難しいものだ。 そこは十条が気を利かせてくれたのか結構おいしい席をキープしてくれたようで、俺はいつものように沙織に挨拶を 交わす。

「今日は2泊3日、よろしく頼むぜ。それにしても朝は意外に早かったんだな」

「ああ、今日は寝起きが良かったからな。その顔だと行くとき真理さんに何か言われなかったのか?」

「いや、向こうは大学だから俺よりも朝早いしな。今日も俺の朝食だけ作って大学へ行ってるよ」

こうして沙織と日常のことを話してるだけでも随分と気が晴れて楽しいもだ、やっぱり彼女と話すというのは これだけでも楽しいものなのだろう。前の女とは余りそういった楽しい会話がなかったのから余計に楽しく感じてしまう。 やっぱり互いが心身ともに充実できたらこれ以上のない幸せはないだろう。

35 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:22:54.76 ID:Gk6kZVhq0

「今日はいつぞやのキャンプみたいに楽しい野活になるといいな」

「あ、ああ・・そうだな」

慌て気味に答えた俺は折角、和らぎかけた不安を思い出してしまった。やっぱりあの礼子と一緒の班だと考えると どこか心が重い、十条も沙織もちゃんと物事を割り切れているからいいもので元来、物事を深く考えすぎてしまう俺に とっては少し不安なものだ。自分の悪い癖とは認識しているもののなかなか抜け出すことができない。

バスが施設に向かって走る中で俺はチラッと一瞬だけ物静かに本を読む礼子の姿を見ると心の奥底に据わってる 不安という石をどけるのに必死になっていた。

37 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:24:40.41 ID:Gk6kZVhq0

「ここか・・前に真理さんたちとキャンプしたとことは別の場所だな」

「そうだな。思えば真理さんはよくキャンプなんて提案したな」

「確かにそうだな・・」

沙織と十条が楽しく会話をする中で俺は都会一辺倒だった住宅とは違い、小鳥の囀りが響き渡る自然一杯に囲まれた 施設の中を見回る暇などなく不安を片付けるので必死であった。そんな俺を見かねた十条がどこか呆れたように 俺を見つめていた。

「おいおい、バス酔いでもしたのか?」

「うるせぇよ・・」

不安を解消するためにエネルギーを使い果たした俺はすっかり元気をなくしてしまい、いつものように十条に言葉を 返す気にもならずに呆然としながら空を見つめていた。そんな俺をじっと見てた十条は長年の付き合いからすぐに 俺の不安の原因を突き止め、呆れたような口調でこう言いのけた。

「お前まだ気にしてるのかよ。ここまで来るとバカだぞ。いい加減割り切れよ」

「あのなぁ・・」

十条の言ってることは尤もすぎて俺は反論する気力もなくしてしまい意気消沈となっていた。

38 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:26:18.16 ID:Gk6kZVhq0

「そんなに考えすぎても仕方ないだろ」

「そりゃそうかもしれんが・・」

「まぁ、十条もそんなにいじめないでくれ。もうすぐで集合だぞ」

沙織が指を刺すと先生が集合の号令をかけていたため仕方なしに集合をするが俺の心は気が晴れぬまま力を なくしてしまい、意気消沈しながらトボトボと集合場所へと向かっていった。指定の場所に集合して先生に話を聞くが そんなものはどうでもよかったため、適当に聞き流しているのだがやっぱり俺の心はどっしりと不安で重く行きしなの バスみたいに沙織と話すだけではのしかかる重みからはなかなか逃げれることはできないものである。

そんな状態の俺だったが、隣にいた沙織が先生の目をかいくぐり小さく声をかけてきてくれた。

「・・また思い出したのか」

「悪いな、お前までに心配かけちまうなんてな・・」

「それはお互い様だ」

意外にも沙織から話し掛けて来たことに驚いたのだが、それだけではどうにも俺の気が晴れない。 何よりも沙織に余計な心配をかけてしまったことが申し訳ないものだ・・ しばらくの間、俺たちは周りに合わせて声の ボリュームを極力小さくしながら話していたが、沙織からこんな申し出をされた。

40 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:35:23.83 ID:Gk6kZVhq0

「・・今夜、時間が空いてたらお前の携帯に連絡してやる」

「何するんだよ?」

「フフフッ・・それはお楽しみだ」

微笑みながら簡単に言う沙織ではあるが流石に先生の夜の包囲網はかの有名警察の警備ごとくかなり厳しい。 去年、この野外活動で女子の部屋に入り込もうといした不届き者がいたらしいのだが、先生の連携かつメジャーリーグも 真っ青なほど素早いプレーによって部屋に入り込む前に全員を捕まえて説教三昧だったという。こんな強靭な先生が 一緒に滞在している環境の中では連絡をとることすら難しいのだが・・沙織はどこか自信ありげであった。

「お前の気持ちはありがたいが・・」

「私には自信がある。だから今夜の連絡を待ってくれ」

自信ありげに微笑む沙織に俺は思わずその瞳に吸い込まれそうになったが、沙織の真珠のような漆黒を表すかの ような艶をした瞳をじっと見つめ続けてると・・不思議なことに目は言葉以上に俺に語りかけてくるもので、落ち込んで いる俺を瞬く間にいつもどおりに奮起させようとする力がある。それに俺は沙織の心遣いがたまらなくうれしかった・・

41 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:36:54.84 ID:Gk6kZVhq0

しばらく沙織を見つめていると・・なんだか俺の心の中に沙織が入り込んでくるのを考えると今まで俺の心の中に 何時までも据わっていた不安が一気に消し飛び、燃え上がるかのように力強い鼓動を感じしまった。 俗に言う愛の力と言うやつなのだろうか・・?

「・・よかった、いつものお前だ」

「沙織・・」

「お前がそんな調子だとこっちも嫌だしな」

ようやく心の重石が取れた俺は改めてしおりをじっくりと読み直すと今後の予定を頭に入れながらメモ帳の部分に 密かに沙織との約束を書き入れた。

42 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:42:39.56 ID:Gk6kZVhq0

さてこの野外活動の施設は宿泊棟が備わっており、当然のごとく男子と女子の部屋に分かれている。 もちろんしおりにも異性の部屋には入室禁止と固く書かれており、あらかたの準備が終わった俺はしおりを片手に 余った時間で十条とポーカーをしながら俺たちは適当に時間を消化していた。

「女子の部屋には入室禁止だとさ。・・まぁ、当たり前だけどな。 去年も俺たちの先輩が女子の部屋に入り込もうとしたらしいが・・失敗したみたいだしな」

「そりゃそうだろ。それにしても自由時間すぎたら次は班で昼飯作りかよ・・めんどくせぇな。 ちくしょう・・ブタかよ」

「ぼやくなぼやくな。・・お、悪いなストレート」

この野外活動は珍しく昼飯も自分たちで支度して作らなければならない、料理など一切手をつけてことがない 俺にとってはかなりの難関でかなりの労力と時間が要求されるだろう、鞄から米を取り出すと集合場所へと向かった。

ポーカーの結果に不満をたらしつつも集合場所に向かうとすでに沙織がビニール袋に入ったお米をもったままで 待機していた。ここからは班行動が原則なので俺たちだけで行動するのだが・・1人十条がとあることに気がついた ようだった。

「よぉ、あれ・・小林だけか?」

「私も今来たところだが・・どうかしたのか?」

宿泊等から少し離れたところに調理場となる場所があり、周りをよく見ると昔ながらのお釜やすぐそこには薪を置いて ある場所があって本格的な野外活動を彷彿とさせたものとなっていた。先生の話を適当に聞いた俺たちは置いて あった食材を取り出すが、十条が1人メンバーが足りないことに気がついたようでよくよく見てみると、礼子の姿が どこにもなく、代わりにビニール袋に入った米だけがちょこんっと置いてあった。

どうやら出席はするものの作業には全く参加する気がないらしい・・

43 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:45:05.58 ID:Gk6kZVhq0

「・・あ、あの野郎ッ!!」

「どうするよ? このままやるか・・それともあいつを連れ戻すのか」

班のメンバーがいなくなったのにもかかわらず十条は冷静に放って置かれたお米をじっと見つめていた。 このままだと俺たちが連帯責任で先生に叱られてしまうことは必然だ。こうなったらあの礼子を見つけるしかないな・・

「俺が探してくる。多分そう遠くには行っていないはずだ」

「わかった、俺は小林と一緒に料理作って待ってる。しばらくは先公が来てもやり過ごせるが余り時間かかりすぎるなよ」

「ああ、できるだけ連れ戻してくる」

持ち場を十条と沙織に任せると俺は礼子を探しに施設内を捜索することにした。 班同士の集まりのときはいたので多分先生が説明しているときにバッくれたのだろう、そう遠くは行っていないはずだ。

44 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:47:50.73 ID:Gk6kZVhq0

礼子を探すため施設内を奔走した俺は礼子の性格からしてなるべく一目のつかないところを重点的に探すこと 早数分間、十条が先生を誤魔化し続けるのも限りがあるのであいつのためにも早めに見つけようと何とか頑張る 俺であったが・・なかなか見つからないものである。

それにこういうときに限って時間と言うのは早く経過してしまうものでそれが焦りを生み、必死に探したのだが 人影すら見つけることができないものであった・・

「はぁ・・仕方ない、十条のところに戻るか」

肝心の礼子も見つけられずに時間が急かされた俺は諦めムードになってしまい、重い足取りで十条たちのほうへ 戻ろうとしたときに俺の鼻からタバコの臭いがした。もしかしたらと思い、俺はきつめのタバコの臭いがする方向へ 向かってみると・・そこには人目を惜しんで静寂と言う言葉が似合う顔つきのままで何食わぬ顔で堂々と喫煙を している礼子の姿があった。

45 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:48:32.32 ID:Gk6kZVhq0

(・・あ、あいつ――ッ!!)

俺はタバコを吸いながら上の空で見つめていた礼子に軽い憤りを覚えたのだが、十条との約束もあるため俺は 思い切ってタバコを吸っている礼子のほうへと向かっていった。いきなり俺が現れたことで礼子はその冷静な顔を 一瞬変えてくれたのだが、元の冷徹な顔に戻ると沙織のとはまるで違う、そのぎらついた瞳から氷のような 冷たい視線を俺に容赦なく当ててきた。

「・・何だ」

「お、お前・・何してるんだよ!」

「それぐらいみりゃわからねぇのか・・」

吸っていたタバコを踏み消し、つばの悪い顔をしながら礼子は冷静に受け答えするものの静かに喫煙の邪魔をされた 怒りを言葉以上にこの空気に出していた。絶対零度の空気と染め上げた金髪に今まで相手を容赦なくひれ伏せた 鋭い視線の3重攻撃が容赦なく俺に向けられており、礼子に言おうとした言葉が頭の中に詰まって息苦しさを覚えてしまう。

46 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:51:46.99 ID:Gk6kZVhq0

「・・で、何のようだ?」

「お前、俺たちと一緒の班だろ!! だから・・その、なんだ?」

「・・米なら置いてるだろ。俺なんかほっといてお前たちだけで勝手に作れよ」

礼子は再び箱からタバコを取り出すと火をつけて煙を俺に吹き返してきた。早くこいつを説得しないと俺のために 待ってくれている十条たちにも迷惑がかかってしまうし、何よりもこの場所を誰かに見られるのは非常にまずい 。 しかしこの礼子・・俺の姉で実質上家の支配者だった長女、留美とは雰囲気や空気ともにまるで違うものであり、 留美の場合は女体化しても男の部分が強かったため独特の闘気がこめられて威圧感がものすごかったのだが、 それは兄弟として弟たちを見守る優しさから構築されるもので、まだおぼろげにしか両親の事情も知らずに 母親離れができなかった幼い俺に優しさと言うものを暖かく与えてくれた。

しかしこの礼子の場合は違う。威圧感や闘気は感じられるのだが留美のものとは違い、優しさなど欠片もなく ただ相手を押さえつける純粋に力によって構築されたものだったので自然と金縛りにあったかのように悪寒に 近い身震いを起こしながら体が言うことを聞かずに全く動かなかった。

「用がないならとっとと帰れ、俺は俺の好きにさせてもらう。あんな下らない班行動なんざ真っ平だ・・」

「だ、だけど・・な」

思ったよりも重圧がすごく、俺は自然と呪縛されたようで思いのほか言葉を言い出せなかった。 はっきり言ってこいつは恐怖を感じてしまう、純粋に怖い・・今までもこうやって相手を冷徹ながらも威圧的たっぷりな 視線と静かな言葉で相手をねじ伏せていたのだろう。俺には到底わからないことだ、多分こいつは他人なんて 一切信用しちゃいない、信じきっているのは自分だけでそれだけで生きているのだろう。 体から感じているこの場の張り詰めた空気が目の前にいる礼子という人物をよく俺に語りかけてくれた。

礼子は吐き捨てるように言葉を吐くとそのまま俺から視線を外し、タバコを咥えたままあさっての方向に向けていた。

48 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:53:44.71 ID:Gk6kZVhq0

「お前なんかに俺のことがわかるかよ・・」

「・・・」

礼子の周りから出てる恐怖に屈してしまった俺はもうこいつに何も言い返せなく、説得は無用と判断した俺は 悔しさの余り奥歯をぎゅっとかみ締めながら礼子から出る鋭いナイフのような切れ味の視線を受けた体を気力を 振り絞って精一杯動かしながら無言でその場を後にしようとした。

悔しいが、俺とこいつじゃ持っているものも違うし人間としての度量も違う、友との約束も守れない己の無力さを痛い ほど痛感した俺はその場から逃げるように立ち去ろうとしていた。

“お前、怖いんだろ――?”

「誰だ・・」

「こ、この声・・ッ!」

俺が諦めかけてた時に一閃が通った、強くも静かな声・・この声は忘れるものか・・――この声は!!

49 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:56:15.86 ID:Gk6kZVhq0

「さ、沙織!! お前、十条と一緒じゃないのか!?」

「・・悪い、心配になってお前の後をつけてきたんだ。すべてを押し付けた十条には悪いことをした」

突き刺さるかのような怒りをこめた物静かで聞き覚えのある言葉・・礼子への恐怖で支配されていたこの場の空気が 一変して変わり始めていた時、俺と礼子が声のするほうに視線を移すと・・そこには十条と料理をしているはずの 沙織が立っていた。沙織は礼子とは対照的な生き生きとした強い瞳で礼子を見つめていおり、礼子もこれには 予想外だったのか・・その心情を表に現すかのように溜まっていたタバコの灰がポトリと落ちていた。

体制を維持しながら沙織は申し訳なさそうに俺に謝ると、そのまま礼子を見つめていた。沙織に見つめられたままの 礼子もこれで終わるはずがなく、先ほどと同じように感情を殺しながら静かに喋り始めた。

「いちいち癇に障る奴だな・・」

「お前だって似たようなものじゃないか。・・自分から逃げてるんだろ?」

礼子の棘のある言葉にも物応じず、沙織は何の躊躇もなく礼子に押し返した。沙織の言葉に耳を傾けると明らかに 怒りとも取れる口調でその瞳には別の意味で黒の艶が増していた。めったに怒ることのないあの沙織がこうも礼子に 自分の怒りを表に現すなんて・・これも似たもの同士の宿命と言うやつなのだろうか?

50 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:58:02.21 ID:Gk6kZVhq0

「チッ・・」

「お前がどんな風になってるのかはわからないが・・女体化しようが何だろうがお前と違って私は逃げない」

「逃げない・・だと? 知ったような口ぬかしやがって」

沙織の冷静な受け答えに礼子のほうもただでは負けず、じっと静かに切り替えしていた。そういえばさっきの沙織は 女体化がどうのこうのとか言っていたのだが、もしかしたら沙織も女体化になっているのであろうか・・? 仮にそうだとしても俺に隠す必要なんかこれっぽっちもないのに・・

「・・私はお前とは違う」

「言ってくれるな。・・ますます、気に入いらねぇ」

そう言いながら礼子はタバコを再び踏み消し、ゆっくりと立ち上がると沙織のほうへ歩みを進めていた。 互いに雰囲気が似ている2人だが性格のほうは全く違うもので、唯一共通しているところと言えば自分の信念を決して 曲げないというところであった。

そういえば怒りをはっきりと表す沙織は始めて見るな。今まで俺は沙織と言う人物を余り知らなかったのもあったの だが、この表情は嫌に新鮮で礼子のそれとはまた別なものであった。

51 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/21(木) 23:59:56.37 ID:Gk6kZVhq0

「お前らは何でそこまで俺に食い下がる、そんなに俺にこんな下らない活動に出てほしいのか?」

「・・私は自分の思い出を台無しにしてほしくないだけだ。お前にとってはバカらしいと思うが、こうやってお前を探す だけに無駄骨を折って私たちはここまで来たんだ。お前が人が信じられないのはわかる。無理に私を信じてくれなど とは言わない・・

だからせめて食事ぐらいは一緒に出てくれないか?」

「俺が誰も信じられないだと・・てめぇに俺の何がわかるんだよ!!  俺は俺の好きにやらせてもらう、誰が好き好んで俺よりも弱いてめぇらなんかと一緒に行動するか」

苦々しげに言葉を吐いた礼子はそのまま立ち去っていった。礼子が立ち去ったと、空気も元に戻り目に見えない 金縛りから解けた俺は急いで沙織の元へと向かったのだが珍しくも沙織は少し息を荒げており俺が来たことで安心した のか一気に体の力が抜けて俺の体へと寄りかかってしまい、俺はそのまま倒れ掛かった沙織を受け止めると あの言葉の真意について聞いてみることにした。

「悪い・・連れ戻せなくて」

「心配するな。それにしてもさっき女体化がどうのとか言っていたな、あれは一体・・」

「あ、ああ・・た、大したことない。気にしないでくれ」

珍しく口をつぐむ沙織に俺は妙な疑問が浮かんだのだが、この状況を考えると今の俺にそんな暇すらない。 早く戻らないと班のメンバーが3人もいなくなれば十条も先生相手にかなり苦い言い訳をしているだろう、ここは自分の ことよりも早いところ言い訳に苦労している十条を何とかしてあげないといけない。

52 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/22(金) 00:00:43.42 ID:4FlhqyRU0

「歩けるか・・?」

「・・ああ、ここまで怒ったのは自分でも初めてだ。これもお前のおかげだよ」

「はぁ? 俺は別に・・」

「お前は確実に私を良いほうへ変えていってるよ。お前を好きになって本当によかったよ・・」

沙織の体が寄りかかったことでよりいっそうの感触と温かみが俺に十分な満足感を与えていた。 力強く俺に微笑む沙織を見てると俺はなんだか少し照れくさくなってしまうが、こうして俺と言う存在で満足してくれて いる。 礼子と応対した時はその余りにもの恐怖に屈してしまい、情けなくて動くことすらできなかったのだが、沙織が 現れてくれたおかげで何とか俺の心にゆとりができた。今もこうして沙織が俺に寄りかかってくれることだけでなんとも 言えない幸福感を感じてしまう。

しかし礼子については思わぬ確執を生んでしまった。俺としては正直言ってあいつとはもうこれ以上関わりたくない・・

53 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/22(金) 00:03:11.72 ID:4FlhqyRU0

「・・しかしあの野郎ォ!!」

「言うな、あいつも可哀想な奴なんだよ。 あいつは今でも自分の心の闇に閉ざされたままで誰にも心が許せる奴がいない、多分昔からいろいろ周囲から裏切られ続けてたんだろうな・・」

俺が礼子に怒りをぶつけるのに対し、沙織はあれだけ礼子に怒りを表していたのに酷く礼子に同情的で視線のほうも どこか哀れんでいた感じである、まるで沙織がどこか礼子のことを知っているかのような口ぶりで俺は気が気で いられない状況だ。

そういった気持ちを抑え込むと俺は静かに沙織に尋ねてみることにした、ところが・・俺の意を聞いた沙織からは 意外な答えが返ってきた。

54 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/22(金) 00:04:05.19 ID:4FlhqyRU0

「何でそこまでしてあいつに同情的なんだ?」

「・・わからない。だけど、あいつは私と違って何かに打ちこめれるものもないし十条やお前みたいに 気の許せる者の存在がしないんだよ。私もお前たちと出会えなかったらああなってたのかもしれない・・」

沙織の意味深な返答に俺はその理由を聞いてみたかったのだが・・ しかし、なんだか今はその理由を聞いちゃいけないような気がしてしまい、結局のところ胸にしまい込むことにしながら まだ疲れている沙織を抱えながら一緒に十条の元へと向かう、きっと十条のことだからうまい具合にやっているで あろう。 あいつは元からそういう奴だ、マイペースながら器用でのほほんと俺たちに振舞いながらもよく人間関係をじっと 見つめている。俺よりもできた奴だ・・頑張ってくれている自分の半身同然の友人を思っていると、今まで俺に 抱えられながら歩いてきた沙織は体力的にも楽になったのか独りでに歩き出すと急に立ち止まるとじっと青々とした 色合いの晴天を保っていた空を見つめていた。

55 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/06/22(金) 00:05:25.81 ID:4FlhqyRU0

「どうした? 早く十条のところに・・」

「私は・・私はお前と一緒になれて本当によかった。 ここまで私と言う人間を変えてくれたのは他ならぬお前だ。 ・・ありがとう」

「おいおい、それは年老いた夫婦が言う台詞だろ。俺たちはまだ若いんだからさ、気楽に行こうぜ」

「普段から考え込むお前にしては珍しい意見だな。・・まぁ、たまにはいいだろう」

止まったまま沙織に俺は手を差し伸べ、沙織のほうも何も言わずにそっと手を差し出してくれてそれに応えてくれた。 その時の沙織の顔は太陽のように眩しく燦々としたものであった。

野外活動はまだまだ終わらない・・


―fin―


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最終更新:2008年09月17日 19:51
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