『姉と妹』

149 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 13:53:53.91 ID:kozPv/T00

離れ離れになっている肉親との再会、実に感動的なもので 今までのつっかえが取れるものだ、一緒に触れ合っている回数は少ないのに まるで何度も触れ合っているかのような錯覚に陥ることがあるらしい。

それに血の繋がっている妹の存在を後で知らされると実に奇妙である 種の驚きが体中から込み上げてくるものがある。だけどそれは徐々に好奇心に 変わっていき、知らない妹へ興味を抱いてしまう。 妹の存在を知らされてからは、私は密かに顔を見てみたいと思ってしまった。

何をどこでどのような人生を・・

「・・さん、平塚さん!!」

「あ、ここは・・そうか、もう少しで映画の制作発表だっけか」

「ええ・・まさかご気分でも悪いのですか?」

「いや、少し考え事をしていただけだ」

誰かに呼ばれて私は思考を現実に戻した。 私が現在いるのはとある映画館に備わってある関係者用の 控え室でこれから私が出演した映画の制作発表を行うのだ。 確かその後はドラマの撮影とテレビの出演が後を控えている、多少のことでは 絶対に休まれないものだった。

150 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 13:54:34.14 ID:kozPv/T00

「では、もう時間ですのでよろしくお願いします」

「ああ・・」

私はふと立ち上がると制作発表を行う会場へと向かった。 私は平塚 沙織・・今はアメリカどころか世界中に名の知られている女優だ。

制作発表の会場へと向かうと、私に向けて一斉にフラッシュの嵐が放たれた。

151 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 13:56:56.03 ID:kozPv/T00

私は今日のスケジュールをすべて消化するとそのまま ソファにぐったりと座ってしまった。やはりなんだかんだ言っても歳は 取っているもので、こういったものに疲れているのかもしれない。

「沙織、今日もよかったわよ。やっぱりあんたは私が見込んだとおりに活躍してくれるわ」

「部長がよく私を鍛えてくれたおかげですよ」

「ノンノン、今の私はあなたの専属のマネージャーよ」

彼女は私の専属のマネージャーの新藤 茜・・高校時代の演劇部部長で、 私に演劇の基礎を叩き込んだ厳しい人物だった。 この人は女優業もさることながら、脚本を書く能力がずば抜けてすごかった。

高校時代に演劇部の発表があったのだが、彼女は激の脚本を担当する傍ら、 部長として主役はもちろん裏方もまとめて私たちにかなりの指導を施してくれた。 正直、この人の指導がなければこうして自分の中にある演劇の才能を開花する のかわからないほどだ。 その指導力と見事ともいえる舞台の脚本を書く能力を買われて、一時は世間でも かなり有名な一流の劇団に所属していたのだが、たった1ヶ月程度で辞めて しまっており何がどうなったのか・・私のアメリカ留学に強引に付き添ってこうして 大成するまでの間、ずっと私に付きっ切りになって演劇の指導を買って出てくれた。

だからこの人は私にとって単なる専属のマネージャーではなく、この人のおかげで ここまでやってこれたといっても過言ではなかった。

152 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 13:59:08.39 ID:kozPv/T00

「そういえば・・今日の沙織はどことなく疲れてる感じがしたわね。何かあったの?」

「あ、いや・・家庭のこと考えてたらちょっと」

実際は離れ離れになっている妹のことについて考えていたのだが、部長には 余計な心配を掛けたくはなかった。妹についてはあいつにしか話して いなかったのでそのまま私の胸にしまってある。

子供たちについても同じで、これ以上個性的なおばさんが増えても なんだろうと思って喋るのをやめておいた。

しかし、ここ最近は未だ分からぬ妹に対して興味を抱いてしまっている。 前までは歳が経つごとに余り関心はなかったのだが、ここ最近はその 興味が再び増大している傾向がある。

(離れ離れになった肉親との・・再会か)

「どうしたの?」

「あ、いえ・・次のドラマの台本でも読んでおきます」

強引に台本を取ってじっと見つめていたが、ふと漏らした言葉が妙に響いた私であった・・

153 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:01:58.28 ID:kozPv/T00

「母さん、今月は休みはいつなんだ?」

「そうだな・・このまま急な仕事がない限りは3日程度は休めるぞ」

「そっか・・」

たまの休日、家の長男坊が珍しく私の休日の日取りを聞いてきた。 立派に私と同じでまこと奇妙な病気で女性となった次男坊とは違い、 この長男坊は父親であるあいつの血を最も濃く受け継いでおり 性格や言動もかなり似ていた。

「来夢はともかく・・お前が私の休日を聞いてくるなんて珍しいな。何かあるのか?」

「いや・・たまには母さんと過ごしたいなっと思ってな」

「ほぅ・・ま、親としてはお前らの進展が気になるかな」

「―か、母さん・・」

やはりあいつと同じ血を引くことだけあってか反応やタイミングも あいつと寸分同じで困らない。これだからからかい甲斐があるというものだ。

それにもう長男坊は18歳といういい年なんだし、親の私から見ればそろそろ 特定の彼女でも作ってほしいものだ。 でもまぁ、ちゃんとした彼女候補はいるらしいのだが・・鈍感なところもあいつ そっくりだ。昔のあいつの生き写しとも言える長男坊をからかっていると、 台所から女体化した次男坊・・基、長女がこちらの様子を伺うためにやってきた。

154 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:03:41.34 ID:kozPv/T00

「母さん、あんまり兄貴をからかっちゃ可哀想だよ」

「来夢、私はからかってなんていない、ただちょっと鎌をかけただけさ・・」

「ハハハ、母さんらしいね・・」

長女に妙な納得されると、ぐぅの字が出ないほど私に凹まされた 長男坊がかわいくて仕方なかった。可愛さ余って何とやらという奴だ・・ そんな和やかな光景が続く中で突然、和やかな空気を変えるかの様に インターフォンの音が鳴り響いた。

155 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:04:05.44 ID:kozPv/T00

「お客さんだ。僕が出るよ」

「いや、私が出る。来夢は早くお昼を作ってくれ」

「う、うん・・」

私は椅子から立ち上がるとそのまま玄関のほうへと向かっていくことにした。 玄関に向かう途中、私は奇妙な胸騒ぎを感じてしまった、まるでドア越しにいる 人物が誰のなか分かったような感じで、体中から好奇心に近いものが湧き出てくる。 インターフォンの音に反応した私はそのままドアを開けると・・ドア越しには見ず 知らずの若い女性が立っており、その女性をじっと見ているとなんだか自分の胸が どことなく反応していた。

「あの、沙織さんですか?」

「ええ・・」

まるでこの女性とはどこかで会ったような・・そんな感覚が体中から伝わってくる のを肌でひしひしと感じていた。体中から溢れ出てくる感情を何とか抑えながら 私は冷静を保ったまま女性に切り返すことにした。

156 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:07:56.44 ID:kozPv/T00

「あの・・私に何か?」

「・・小林 沙織さんですね。突然押しかけてすみません・・

          私は・・――麻耶です

私は小林 麻耶・・あなたの妹です」

その女性は黙々と私に礼をしながらこう呟いた。 麻耶という名前は他ならぬ私の生き別れの妹の名前だ、小学生の頃にアメリカへ 行ったと言うだけでほかのことは全然分からなかったのだ。 この女性が本物の妹だとすれば・・もう数十年ぶりの再会となる。 そう考えてみると、あまり実感がわかないものだ・・

突然のことで私はしばらく固まってしまったが、瞬時に元に戻ると 麻耶と名乗る女性に向かって戸惑いを覚えながら冷静に女性に切り替えした。

157 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:10:16.09 ID:kozPv/T00

「・・・私には確かに妹がいるが、人間違いではないのか。だとしたら私は――・・」

「聡・・生前、父がそう呼んでいました。女体化する前の貴方の名前ですよね」

「――そ、それは・・」

私は思わず唖然となってしまった。聡・・この名前はかつて、私が女体化する前に 名乗っていた名前で忘れようにも忘れられない名前であった。この女性が この名前を知っているなんて考えられる理由は只1つ――この女性は紛れもなく 私の妹だからだ。おそらくこの女性は私の父親と思われる男性と暮らしていたのだろう・・

女性から昔の名前を尋ねられると、私はあいつと出会う前の遥か昔のことを思い出し そうになってしまった。

あいつと出会う前の昔のことなど余り思い出したくはないのだが、余りいいものではなかった。 幼少の頃から経済的にもあまりよくなく、母も私を養うために必死に働いて・・――その結果 体がボロボロになるまで機械人形のように働き続けていた。

私は母の笑顔が見たかった・・

158 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:15:02.74 ID:kozPv/T00

「嫌なことを思い出させてしまって・・すみません。私は父からよく貴方のことを聞かされて いました。“お前には生き別れの兄がいる”・・っと。

父は昔、あなたの母親と関係をもって貴方ができるのと同時に貴方の家を出たと 伺っております。・・私は成人してから兄の存在を探しては見たのですが、なかなか あなたの名前が見つからなくて・・

ですがここ最近、兄が女体化して女優をしているということを聞いて・・ ――私ッ!!つい、それを知ったら我慢ができなくて・・・」

女性の言うことを私は黙々と聞いていた。その影響か・・徐々に昔のことを 思い出してしまった。

私は物心ついたときから父親という存在がいなかった、母に聞いてもはぐらかされ てなかなか父のことは答えてくれなかった。学校でお父さんの似顔絵を書く宿題を 出されたとき、私はいつも父の顔が書けなくて画用紙は真っ白だった。 1人寂しそうに俯いている母に何とか楽をしてもらいたくて中学校の頃は年齢を 偽ってよくアルバイトに精を出していた。だけど母はそんな私を見ていつも寂しそうな顔をしていた・・

159 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:15:44.39 ID:kozPv/T00

15歳の誕生日、私は女体化シンドノームによって女体化してしまった。 不思議と女体化してもショックという感情は湧かずに女体化による自身の混乱より も母の笑顔が見たかった。元々、アルバイトのほうに精を出していたためか 私には友人と呼べる存在が1つもなく、女体化してもそれは変わらず黙々と いつもと同じようにして、ただ母と同じように機械的にバイトをこなしていた。 そんなときについに母が病気に倒れて、私はその影響であいつのいる 学校へと転校することとなった。

それから私の生活は一変して、刺激的で新鮮味の溢れる鮮やかな生活になった。 演劇という楽しいものや友人という存在にめぐり合えた。・・そして最大の出来事と いえば恋人という大きな存在ができたことだ。

そんな私の劇的な変化を見てか・・母は知らずに笑顔で新しく変わった私に応対してくれた。

演劇にどっぷりとのめり込んだ私は次第にそれを極めたくなって 高校を卒業後、単身アメリカへ留学することを決意した。そのときに母は私に 父のことと生き別れの妹の存在を私に教えてくれたのだった・・

160 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:19:05.24 ID:kozPv/T00

「私は・・私はとある人物に出会うまでは幼い頃から母親が病気で 父親が仕事で家庭を顧みなくなってから寂しく退屈な日々を送っていました。

頑張っても両親からは褒められることもなく、喋ってもらえることすら 稀なことでした。私は人と付き合うことの術を知らずに友達はいなく、 両親の愛情に飢えて・・寂しかったです。

だけど、ある人物に出会ってから閉鎖的だった私の人生は 大きく変わりました。その人は私に両親に代わって愛情を与えてくれて、前に進む ことを私に教えてくれました。

貴方の存在を父に聞かされてから私は会いたいという好奇心と興味が湧いて・・それでやっとここに来れました」

女性の話を淡々と聞いていると・・私と過ごしていた境遇がかなり似ていた。 見た感じや雰囲気はともかく過ごしてきた環境や周りの人間関係などが私とかなり 酷似していた。ただ1つ違うのは、麻耶には両親という存在がないことだった。 私は病弱ながらも母の存在がいたのだが・・麻耶には実質上、両親の存在は形だけであった。

麻耶のそんな人生を私は黙々と聞いていると、麻耶は十分満足したのか笑顔でこう言ってくれた。

161 名前: ネット廃人(広島県) 投稿日: 2007/04/07(土) 14:21:08.92 ID:kozPv/T00

「今日は本当に突然、押しかけてすみませんでした。ただ私はあなたに逢えて本当によかったです・・ もう私と逢うことはないでしょう・・」

          “サヨウナラ・・オ姉チャン”

そういって麻耶は私の前から姿を消そうとした。 その姿に私は堪らなくなり麻耶の手を止めて、その歩みを引き止めた・・

「――待て!!・・子供たちにお前のことを紹介しなければならない。 家の親戚が増えるからな。ここはアメリカでも私たちは日本人だ、家との 親戚付き合いは昔からの伝統だ。

麻耶・・家に上がってくれないか?」

「お姉・・ちゃん・・・・ありがとう」

麻耶の手から伝わる震えは悲しみではなく喜びであるのはすぐに理解できた・・

       fin


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最終更新:2008年09月17日 19:51
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