8 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:21:00.37 ID:HtHfCGsT0
姉という存在がこれほどまでに俺の中で大きな存在となっているのは間違いはないだろう。思えば俺の両親は 共働きをしているので必然的に大きくなっているのも仕方のないことなのかも知れないが同時に姉達には逆らえない 体質が出来上がってしまっている、家族を持ってこうやって会社で社長をしているのも変なものではあるが、影ながら もやはり姉の存在が大きい。
「社長、今月の業績ですが例年よりも3,8%上昇しています」
「各部署の動きは?」
「今の所は通常どおり業務をしてくれています。内容の方も・・」
「・・もういい」
全く、会社が大きくなると言う事も考え物だ、若い頃は十条と一緒に我武者羅に働き続けとある人物の口添えの おかげでここまで会社を大きくしたのだが・・会社の売り上げや株の管理に経済の流れは無論の事、内部の体裁や 人員の育成管理などもこなして会社を維持しなければならないのだからかなり辛いものだ。 それにここ最近は中流の社員の横領や幹部の政治家への癒着が明るみになりいろいろと不正が多い、ここは 根幹部分を残して後は自由に流させるのも一つの手なのかもしれない。粛清を繰り返してそこから安定を 手に入れても皮肉な事にその証明が度重なる不正と腐敗である、やはりそろそろ一戦から退くことも この状況を打破する事ができるのであろうか? 貰った報告書に目を通しながら即座に不明な金の用途を見つける。
9 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:21:39.71 ID:HtHfCGsT0
「おい、この金は何だ? ここの州で予定していた開発計画の費用にしては大きすぎるぞ。担当は何処の部署だ?」
「け、建築課で・・」
「建築課と言えば・・マークの傘下だったな、これは幹部会議の時が楽しみだ」
どこの世界でも派閥はあるもので会社とて例外ではない、俺や十条を中心としてた派閥やその他幹部に取り付いて いる派閥・・中でも最年少で異例の出世と遂げた若手幹部であるマーク・ギルバイダー率いる派閥は一際目立つ 存在で活発に活動を続けている。俺が言える事ではないが若手の出世と言うのは異例中の異例ではあるが、背後に ああいった派閥があると何となく伺える。
「わかった、くれぐれもこの件の口外は控えるように」
「は、はい!」
そのまま部下を立ち去らせると、今度は俺専用のホットラインを繋げる。連絡先は何ら変哲のない課ではあるが裏では 社内の不正やその証拠を掴むいわゆる匿名の課だ、彼らは見た目こそ会社員ではあるが前のキャリアはプロの 諜報員やらいろいろな人物がいる。
「あー、私だ・・」
指示を与えながらも彼らの有給を増やすことを検討しつつ、俺はゆっくりと時間を消化していった。
11 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:25:13.40 ID:HtHfCGsT0
書類の決裁や昼食を済ませると、仕事の方もあらかた落ち着いてきたのでようやく一息をつくことができる。俺のような 立場の人間になるとさぞかし豪華な食事を取っていると思われがちなのだが、元々俺は高級志向には疎い方だし 余りそういったのには好きになれないのが現状だ。だからこうやってできるだけ安くてボリュームのある 軽食のほうがやり易いもので届いたランチを食べながら俺は暫しの休息を身体と頭に入れておく。
「・・そう言えば、昔は姉さん達が料理を作ってくれたっけか」
俺には2人の姉がいる、2人とも女体化経験者なのだがその性格は対照的なほど違う。まず一番の姉の留美は 男のころから喧嘩っ早く小学校の頃にはガキ大将クラスまで登りつめたらしい、中学生になると更にそれに拍車が かかって良くやり上げていたらしいのだが見た目にあわず面倒見の良い性格だったので俺が幼稚園に通っていた ときには十条と一緒によく帰りに留美が迎えに来てくれた事があった、今考えると都合の聞くサボり理由になっていた のだろう。ま、だけども小まめに俺を幼稚園から迎えにいっていたのだからその点に関しては長男としてキッチリと していたのかもしれない。それに俺が生まれてちょっとした頃に両親の仕事が忙しくなって来た頃だったので よく両親に代わって面倒も見てくれた事もあったしそれ故に俺達兄弟の中では常識力が高い、家事もこの頃から 出来ていたと記憶している、だから小学校の頃に留美が女体化しても何ら抵抗すら感じてはいなかった。
12 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:25:28.30 ID:HtHfCGsT0
もう1人の姉、真理はそれなりに年は離れていはいるが、性格は至って自由奔放で何事にもとらわれない考え方と 独特の観察眼を持っていた。真理の男時代といえばかなり奇異なもので男女問わず友達は沢山いるのだが女に 関しては特定の彼女は作らず普通の女友達として接していたり男に関しては少し艶を込めた視線で見つめていた こともチラホラあり、どうもそっち系を窺わせることが何度かあった。 普通ならそんな噂が出ればたちまちに何か嫌がらせはされそうだが、当時学校でもものすごい影響を持っていた 留美の弟と言う事実に加えて真理自身人付き合いはかなり巧い方であったのでそういった噂はあまり立たななく、 安穏と学校生活を過ごしていた・・今になれば俺はこのときに気がついて置くべきだったのかもしれない。 留美が女体化した時もかなりの騒ぎになったが、真理が女体化した時は騒ぎになる前に既に真理本人が勝手に 手続きを済ませ周りが騒ぐ間もなく事態は完全に終結を迎える。最も本人は女体化するのが昔からの念願だった らしくそのために色々な手腕を考えていたらしい・・
このような家庭環境のまま育った俺は両親の手料理と言うものを食べた記憶が余りない、だから食に関しては 必然的に姉からの料理が俺の根底にある。とはいっても両親の事をちっとも忘れていたわけではない、それなりに 世話になったことも覚えて居るし何よりも姉達が常に両親の事を俺にちらつかせていたので今にして思えば そういった面では両親と余り接していない俺への配慮もあっただろう。とにかく、俺は今でも姉達には頭が上がらない 部分も多々ある・・
(あの人達にはいろいろとしてもらったな・・)
2人の姉達のエピソードはあまりにも多すぎて文献本が軽く5冊ぐらい制作できるほどのボリュームがある。 ただあまりにも沢山印象にに残りすぎているためか思い出そうにも思い出せないのが事実な訳で記憶が曖昧に なるのだが、一番印象に残っているものと言えばやっぱりこれしかない。
13 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:26:30.10 ID:HtHfCGsT0
「俺この高校進学する予定なんだけど大丈夫かな?」
「えっ、ここって・・」
中学3年生の真ん中辺り、この頃と言えばチラホラと進路について話が出たりしていたのだが俺は即決で姉達が 通っていた高校への進学を決めたのだが・・思わぬところで真理がこんな事を聞いてくる。
「あのねぇ・・ここってかなり内定が高くないと進学はまず無理よ」
「そ、そんなに凄いのか・・」
「だって、ここ進学校でかなり有名じゃない」
俺はただ単に姉達が進学している学校であったために安易に選んでいたのだが、よほど頭が良いと入れない学校 だったとは正直思わなかった。それに俺も忘れていたことだったが、ああ見えて姉達は勉強もキッチリとやっており 何気に成績も中の上だったのをすっかり失念しており、小学校の頃はよく勉強を見て貰った事をすっかりと忘れて しまっており、進路相談の時に担任の教師がかなり難色そうな顔を示していた意味をようやく把握する。
「ま、他にも学校があるんだからそんなに・・」
「・・俺、ここ一本で受ける! そう言われると何だか燃えてしまうんだ」
この突発な決意に真理はきょとんとしながらもすぐに元の表情に戻りこう静かに言ってくれる。
15 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:27:56.76 ID:HtHfCGsT0
「決意は解った、あんたがそこまで言うならやってみなさい。でも後で泣きついたってこっちは知らないわよ」
「ああ、そこでとりあえず俺の指導を・・」
「悪いけどお姉さんは自分の事で手一杯なの、家事に大学の論文もあるんだから受験生の面倒を見れる暇なんて ないわ。それに十条君が頭良いんだから教えてもらえば?」
まぁ、その時は考えて見れば留美が嫁いでから真理は留美に代わって家事を引き継いでいたのだから苦労してた には違いないが・・ちょっとはそういった面での監督も期待していたのだが現実は相当甘くはないらしい。 でもよくよく考えてみれば十条もああ見えて成績はそれなりにいい方であったため、教えて貰える分には充分な 素質があり、一大決心を固めた俺はそのまま部屋に戻るとすぐさま携帯を取り出しいつものように十条の番号へ 電話を掛ける。
“よぅ、どうした”
「お前これからの進路はどうするんだやっぱり一人暮らしでもするのか?」
十条は昔から両親とは折り合いが悪いらしくその影響で昔から俺の家でよく寝泊りをしまくっており、この間も高校に 進学したら一人暮らしをするという計画をチラホラと話しかけてくれた事があった。資金面とかいろいろ苦労しそうな 感じもするのだがこいつの場合だと何とかなっている場合が非常に多いのでその点に関しても問題はないだろう。
16 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:30:42.69 ID:HtHfCGsT0
“何だよ藪から棒に、当たり前に決まってるだろ。進学するところもそれに合わせるつもりだしな”
「その年でそんな事も考えるとはお前もつくづく大変だな」
“ほっとけ。んで、何の用だ?”
「ああ・・実は前に言っていた高校に進学しようと思ってるんだ」
“はぁ!? お前自分の器量分かってるのかよ”
案の定、十条からも真理と同じような言葉を俺に投げかけてくる。まぁ、ある程度は予想はしていた事なのだが 実際に十条から言われるとショックもそれなりに大きく感じてしまう、それにこいつはチャランポランに見えても現実を 見据えているのである意味では真理よりもキツイ言い回しが予想されそうだ。
17 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:31:35.12 ID:HtHfCGsT0
「それでだな・・お前に頼みがある。何とか俺をあの高校に心学出来るような学力まで見守って欲しい!!」
“お前本気で言ってるのか? あそこの高校はそれなりに頭が良くないと進学なんて到底不可能だ。 それにあの2人はあんな為りをしてても元から頭は良かったから入れたわけで、先公よりもお前の成績を良く知る 俺からすれば絶対無理だな”
「それは俺だって充分承知だ、だからこうしてお前に・・」
“とにかく俺は絶対に無理だ。やるんならお前一人でやってくれ”
十条からはそう言われて電話を切られた、予想はしていたがここまでいわれると正直言って悔しさというか周りを 見返してやろうと言う気持ちが俺の中で瞬時に込み上げそれが炎と化して決意が更に固まる。 これを機に俺は当時付き合っていた彼女とも別れ、最後の中学生活を全て勉学に注ぎ込み、遊びも極力控えて 更に寝る間も惜しみながら毎日我武者羅に勉強を続けた。その成果もあってか、最後の進路相談の時には充分過ぎる ほどに合格範囲内に届いており俺は文句なしに入試をパスし見事に合格を決めた。この時の周りの反応を思い出す たびに内心から笑みが零れまくったのは言うまでもない。また十条が一緒に合格した事実は相変わらずの腐れ縁を 思わせてくれる・・
高校へ合格を決めた時に珍しく家族から合格祝いを貰える事が出来たのだが・・両親からは有名ブランドのスーツと 革靴、留美からもはたまた有名ブランドの財布・・真理からは限定物の有名ブランドの時計が合格祝いとして俺に 進呈された。
「こ、これって・・」
「ま、合格祝いとして受け取っておけ。正直真人から聞いた時はお前が頭がおかしくなったのかと思っていたんだが・・ お前なりの努力もあってここまで進学できた事は認める」
「全く、当初は入試すら絶望的だったのに今や平気でパス出来るぐらいに成長したんだから大した物よ」
正直言ってここまで姉達が本気で俺の事を思ってくれていたのだろうと改めて実感したものであった。
18 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:33:26.94 ID:HtHfCGsT0
「そういや、結婚するときもかなり突っ込まれたっけな・・」
思い出と言うのは思い出せば思い出すほど色濃く甦ってくるものである。俺が沙織との結婚を決意した時・・その時は 会社も軌道に乗ってようやく沙織との結婚を決めたときでも両親に代わり姉達からかなり突っ込まれた事があった。 今思えば懐かしい思い出だ・・
「俺、沙織と結婚する」
「何言ってるんだ? お前はまた変な事言う気か」
「いや、だから・・会社も軌道に乗って俺の生活も安定して来たし沙織も女優として道を切り開いている。 だから沙織と結婚する時期だと踏んだんだ」
結婚と言う人生の一大事に両親2人と姉2人に重苦しく囲まれながら、俺は沙織と一緒に勇気を振り絞って結婚を 報告した。前々から俺達は公然のように付き合っていたので反対は当然なかったと思ったのだが・・思わぬところで 留美が噛み付いてきた。
「お前、結婚って言うぐらいだからちゃんと相手を幸せにする保障はあるんだろうな」
「当たり前に決まってる! だから俺は沙織と・・」
「はあっ? お前は今の会社がどん底に落ちた時にてめぇの事が精一杯になったときに周りに構ってやれるのか!? そんな覚悟もなかったら結婚なんて所詮は夢物語だぞ!!」
そう言って一気に留美はお茶を飲み干すとそのまま俺に無理難問を着き返してくる、確かに言っている事はもっとも だが俺には余りよく分からないし実感も湧かない。でも実際そうなった場合はよく分からないが絶対に家族を見捨てる ような事はしないだろう、でなければ速攻で沙織は俺と別れているはずだ。
19 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:34:38.81 ID:HtHfCGsT0
「俺は絶対にそんな事はさせない!! それに俺は沙織と力を合わせて・・」
「アホか!! そんな綺麗事だけで済むほど世の中は甘くはねぇんだよ!!! 大体お前は昔から何の苦労も知らずに・・」
「だけども俺は――ッ!!」
暫くながらその時は俺と留美の言い争いが続く、しかしながら互いの信念が掛かっているのでこれが中々収まるはずも なく暫しは俺も沙織そっちのけで言い争っており重苦しい空気が更に重苦しくとなり周りがどこか見えづらくなっていた その時、今まで沈黙を保っていた真理が口を開く。
「まぁまぁ、兄さんも落ち着いて。相手が沙織ちゃんならこっちも安心だしね」
「あのなぁ!! こっちはそんな甘い事言ってるんじゃねぇんだぞ!! こいつの性根に・・」
「はいはい。とりあえずお茶でも飲んで落ち着いて」
俺が知る限り、唯一留美を引き止める事のできるのは真理だけだ。会社を設立しようと決心を固めたときにも家族中が 大反対で決心が鈍りかけていたときに唯一真理だけが俺の決心を認めてくれた、そして今回も・・
20 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:36:40.39 ID:HtHfCGsT0
「ま、私がどうこう言う事じゃないんだけど好き同士で結婚するならそれでいいんじゃない?」
「おい! お前は何を・・」
「だけどね、この世の中自分の都合だけでは物事は進まないの。 それが分かてるんならお姉さんはこの結婚については何にも言わないわ」
真理の言葉に俺は押し黙ってしまう。 何でも自由奔放にしている真理ではあったが彼女の口癖は「自由には責任がある」で、ある意味厳しい意見をいって くる事がチラホラとあり・・軽いようで深海よのように深い真理の言葉に俺はなかなか芯のある言葉を漏らすことが 出来ずにいた。しかしそんな時、沈黙を保ち続けていた沙織が全てを見据えているような力強い視線を保ったまま・・ 自分の中に秘めていた決意を放つ。
21 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:37:09.27 ID:HtHfCGsT0
「大丈夫です、私達は何があろうとも互いを見放したり飽きたりする事は絶対にありません。 これから先・・私達に様々な厳しい波があるとはおもいますが、2人で必ず乗り越えられると思っています。
- でなければ結婚なんて決意しませんし、私は自分を優先してこいつを見捨てます」
(沙織・・)
沙織の一言に俺は無論の事、周り全員が音も立たないうちに静まり返り奇妙な空気だけが流れる。 沙織の決心とも取れるこの言葉に俺は不思議と過去を割り切り無心に沙織と一緒に先へ進もうとするビジョンが 確信となって見えてきた、普通ならここまで妻に言われると性根のない男だと思われても仕方ないのだがそういった 周りの考えなどその時の俺の思考には全く入らず、ただ純粋に沙織と一緒に暮らして生きたいという気持ちが 願望となって俺のすべてを支配する。そんな気持ちを自分の中で自覚する前に俺は既に両親と姉にこんな言葉を 言っていたらしい。
「・・俺は沙織を絶対に幸せにするなんとは言わない。 一緒に生きて一緒に死んでまた一緒に夫婦をやって行く、それだけだ」
俺の子の言葉が決めてとなって両親は無論、留美も俺達の結婚を納得してくれた。今思うと俺はなにかしら決定的な ものが足りてなかったのかもしれない、だけども俺はこの言葉によって沙織と一緒に前に進もうと言う決心が宿って きたのだ。こんな自分に感謝をしたいのも山々だが何よりも俺を奮立たせるきっかけを作ってくれた沙織にはどんな 言葉でも言い表せない気持ちが無性に込み上げてくる。人生何があるのか分かったもんじゃない・・
22 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:39:00.15 ID:HtHfCGsT0
(ま、あの2人に関しては今更じゃないか・・)
飯も食べ終え食後のお茶を飲みながら社長室でまったりとしながらのんびりとくつろぐ、やっぱり食後と言うのは ホッとできるのではあるが家族がいないとやっぱりどこか寂しいものがある。このまま何事もなくのんびりと過ごせれば ベストなんのだが・・
「社長、お電話です」
「電話? 誰からだ」
「それが・・葉山と名乗る方からです」
「・・繋げろ」
葉山という名前に俺は即座に反応をする、葉山と言うのは平たく言えばお金持ちの家なのだが裏も表も問わず あらゆる分野に顔が利くのでそういった意味では凄い家なのだ。昔会社が倒産寸前になりかけたとき、偶然にも この家の当主に出会い俺は十条共に会社経営で生き残る術のすべてをこの人物からあらゆる技術を叩きこまれ 今ではこのおかげで今の会社が成り立って巨大企業へと君臨している。しかしその反面あらゆる意味で未だに この家の当主には逆らえないもので実権は名目上俺にあるのだが、傀儡のような扱いを受けており・・いつかは それをひっくり返すために黙々と反旗を翻したいと思うのだが俺に全てを叩き込めたと言うこともあってか隙と言う隙が 見つからない。
25 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:52:07.85 ID:HtHfCGsT0
「・・何の御用ですか?」
“こないだ貴様の会社の株が落ち掛けていたのでな、何の失態したのだ?”
「いえ、最近は幹部達と経済状況を見合わせながら協議した結果一時退くことを選択しました」
“ほぅ、だけどもそれだけではなかろう? 例えばそうだな・・幹部の失態とかな”
流石に俺の会社をよく知っているだけあって鋭い事を突いてくる、痛い所を突かれながらも苦笑しつつ何とか話を 元の方向に戻す。この人と喋っているとどこかボロガ出そうで怖いのもあるが、この人自身常人とは感覚自体が 違うのであまり話したくないのだ。
「それにあまり表立って電話をするのはやめていただきたい。あなたは表上では私のアドバイザーという肩書きです」
“貴様のアドバイザー? 笑わせてくれるな、俺は貴様が思っているほど老耄した下らん人間ではない。 この国を問わず、社交交流もしているつもりだ”
相変わらずこの人は俺の事を単なる若者としか見ちゃいない、それが余計に俺の思考を焦らす。俺が今この会社の 現役の社長で入る限り、この会社はある程度は葉山の支配から脱しつつある。会社の状況からいえば、今の俺は 既に会社から退かなければならない立場に近いが、俺が退ければこの会社は完全にこの人の手足となりいい用に 扱われるだろう。
26 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:53:09.87 ID:HtHfCGsT0
「・・奥方様は貴方の行為にはなんと?」
“ふん、あの女の立場は幽閉に近い。いくら本家の血を引くとはいえ、今更ちょこまかとされてもどうもならんよ。 今の時代は本家の血筋よりも力が重要なのだ、覚えておくといい”
「・・では、仕事もありますのでこれで失礼させていただきます」
“ふん、まぁ気楽にやるんだな。いくら言い訳しようと俺は貴様の会社など常に把握してる事を忘れるな”
強引に電話を切られ俺は何とも言えないような気持ちになる、唯一この人の妻に当たる奥方様であれば葉山の家の 血を引くので何とか力になってくれると思うのだが、何せん病気を患ってから変わり者になったと言う噂も聞くし、実際に 会ってみても俺の言葉に耳を傾ける可能性はないだろう。十条も奥方様に関してはあまり関わりたく内容で喋りたがらない。
やっぱり俺もいろいろな意味での力不足を身を持って痛感させられる・・
28 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:56:48.61 ID:HtHfCGsT0
いろいろな事を考えながら、昼飯も終わって仕事の残りを片付けているうちに深夜になってしまった、どうやら今日も 自宅で帰れないのは非常に辛いもので何とも心苦しいものになってしまっている。とは良いつつも社長室には ビジネスホテル並みの最低限の宿泊機能も兼ね揃えており家に帰れないときはいつも利用させて貰っている。 秘書も帰り仕事が一段落し終えるのを確認して仕事を黙々と片付ける、ヤバイ時には睡眠時間が3時間にも 満たないぐらいだったと思う。そんな生活を送っていると当然のように生活リズムが不規則になってしまい一時は ドクターストップまで掛けられたほどに自分では気がつかないぐらいに身体の体調を崩してしまっていた、まぁ最近は そういった事は滅多にないのだがあの時はまだ幼かった子供達は心配されるし、十条にはいつも以上に怒鳴られ・・ そして挙句の果てには沙織には泣かれた。
今となっては少し苦い思い出にもあるのだが当面は仕事も忘れられ家でのんびり出来たので良い結果にはなったと 思う、あれから俺は精神的に疲れをとるためとある事が日課になっている。それは・・
「・・もしもし、元気にしているか?」
“お前も大丈夫なのか?”
「何とかな、相変わらず仕事の量は膨大だが・・」
こうして仕事が一区切りした度に俺は毎日沙織とこうやって電話のやり取りをしている。会話の内容は非常に他愛の ないものなのだが、俺にとっては仕事を忘れられ疲れをとれる時間なので非常に心地が良いもので会話の内容も殆ど ある程度は決まっている。
29 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:57:59.63 ID:HtHfCGsT0
“・・いつ家に帰れそうなんだ?”
「難しいところだ、本当はこんな窮屈な部屋でなくて家に帰りたいんだが・・なかなか状況が許してくれない」
“そうか・・お前も大企業を経営してるから仕方ないな。子供達もそれなりに分かってくれているのが幸いなところだ”
やっぱり沙織との会話の内容は殆ど育児関係の話だ、結婚してからは互いの仕事に悩殺されながらも育児では手を 抜いたつもりもないし、それなりの愛情も注いできたつもりだ。だけども一番の気がかりは未知の病を抱え込んで しまった來夢でありそういった面では本来なら仕事を放り出して付きっきりで面倒を見てやるべきなのだが殆ど 子供達任せなのが自分達の未熟さを改め痛感させられる。
それは沙織も同じなようで何度もそういった悩みを俺や十条にぶちまけている、何とか2人きりで話し合いたい機会を 設けてはいたいのだが・・互いの仕事の都合で余りそれは出来ないのが現状だ。
「今度・・休みが取れたら2人でどこか行くか?」
“そうだな。なんだかんだ言ってもお前と2人きりでいれば安心できる・・”
「ああ・・」
俺達夫婦は一般的な夫婦と違って至らない点が多々あると思うが、俺達は俺なりに様々な問題を2人で乗り越えて きたし恥ずべきではないと思う。あの時の選択は決して間違ってはいなかったのだ、後悔などは絶対しない・・
31 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2008/05/18(日) 22:59:06.15 ID:HtHfCGsT0
“まぁ、これだけ悩んでると言う事は私達も大人になったという証しなのかもしれないな。 やっぱりお前と夫婦になれて本当に良かった・・”
「俺だってお前と夫婦になれて幸せだったよ」
“そうか・・おっと、もうこんな時間だ。またな”
「ああ、そっちも気をつけてな・・」
静かに電話を切ると俺はゆったりと一息つきながら天井を見上げる。これまで人生いろいろな事が連続して起きたが、 俺は今までいろいろな経験を積みそれを糧にして様々な土台を築き上げながらそれ相応の自分なりの存在を世間に 証明して見せた、今でも自分の行動に後悔もしていないし後悔すらしていない。だけどもそれ相応の代償は残って いるのも確かな事で、もしかしたらそれ相応に恨みを買われているのかもしれない。 でもそれはそれで傲慢な考え方であるがある意味では俺がそいつらに自分の証明を明かしたという確たる証拠なの かもしれない、それはそれで業と一緒に受け入れる。
いろいろな思考が混じりながら俺は残っていた仕事を再開した・・
―fin―
最終更新:2008年09月17日 19:55