『蒼い炎』(4)

162 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 19:55:18.70 ID:huJc4Kp40

月日と言うのは流れるのも早いもので、当然のごとく俺も大学3年生に進級したのと同時に少しずつ就職の影も見え 隠れするようになってきている。まぁ、就職活動をするのはまだまだ先の話なので今のうちに内面を磨きつつ準備を 怠るのも悪くはない。今の時期はじっくり準備をして来るべき就職活動に望むのが一番なのだ・・ まぁ、その代わりに理嗚も進級したようで留年を願っていた俺の気持ちはことごとく砕け散ってしまう。 ここ1年以上も理嗚と一緒に昼飯を食べるなんて考えたくもない・・本気で昼飯を食べる場所を変えようと検討して みようと思う。

だけども空調が効いていてなおかつ1人ゆったりできるところと言えばあそこ以外ない、外で飯を食べるのも悪くない のだがこれ以上の出費は少々厳しいものだ・・値段も手ごろな学食で凌ぐしかないのだ。

「結局変えないのね」

「・・場所を探しているだけだ」

「ま、そういうことにしておくわ」

忌々しくも俺と食事をする理嗚には正直うんざりしてくる。 黙々といつものように腹の探りあいを続けるのも疲れるものだし俺の揺さぶりの言葉に耳を傾けつつもなんら反応を 表さないこの女に苛立ちが募ってしまうものだ・・

163 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 19:55:33.85 ID:huJc4Kp40

「どことなく飯が不味い・・」

「私と同じかけうどんでしょ、味は一緒でしょ」

「誰のせいだと思っているんだ」

「・・間接的には私が原因ね」

ここまで来るともう話すことさえ億劫になってくる。できるだけ視線を合わせずに飯を食いたいのだが、こいつの 存在感が体に纏わりついてなかなかできない。しかし心とは裏腹に俺の体はこいつの存在を日常と判断しているよう でなかなか脱ぎきることはできないようであった。こんな奴を既に日常の一部と認識してしまった自分が恨めしいもの で、こうなってしまえばこの女と最低限しか喋らない方法を考えるしかない。 それにここ以外に俺の条件の合う好条件の食事場所なんて早々ないだろう、気に食わないがこの女とはあと1年近く は辛抱しなければならないだろう。

考えるだけで胃が痛くなってくる・・

164 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 19:57:48.91 ID:huJc4Kp40

「就職が云々より卒論はどうするの?」

「・・お前に話す義務はない」

来年になると大学卒業と同時にテーマを1つ専攻して1年間は卒論を考えなければならなくなる。 でもまだ来年のことだし今はゆるくしながら単位を落とし確実に進級することを考えるほうが先決だ、将来のことを 考えすぎて目先のことを疎かにする奴には絶対に成りたくはない。それにこいつに卒論のことを話したらせっかくの アイディアを盗作されてしまうかもしれないし話す義理さえない。とりあえずは今までのように与えられた課題や レポートを順々にこなしていくのが尤も妥当で確実に俺をいい方向へと進めてくれるものだし、そう考えれば昼に なったら繰り広げられる理嗚との腹の探りあいもちょっとは楽になるだろう。

「ま、バイトでも頑張ってなさい。優秀なあなたなら何とかなるでしょ」

「俺が優秀・・そんなわけなかろう。ただえさえやっかみを受けてるんだからな」

「そう? あなたの論文結構受けがいいみたいじゃない、よほど優秀なのね」

「俺は今まで自分を優秀だと思ったことなど一つもない。勝手に周りが言っているだけだ」

「・・あなたって不思議ね、普通はそういわれると舞い上がるんだけど」

昔から俺は親や学校などには比較的優秀な人間と称されたことがあった。だけども俺は優秀な人間だとはちっとも 思っていないし勉強できれば即優秀な人間と判断されることに疑問すら感じていたくらいだ、俺はただ人一倍探究心が 強かったせいもあったのと勉強を遊び感覚でしていたもので、その過程でいろいろな本を読み漁りこの現実こそが すべてだと自覚したぐらいだ。

165 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 19:58:35.91 ID:huJc4Kp40

変に優秀な人間と決め付ければそれだけ考え方も偏ってしまうし、考えるだけ自分にとっては悪影響を及ぼし かねない者ばかりで変に失敗を人一倍恐れる典型的な天才児などにはなりたくはない。それに失敗を恐れずに どうやって前に進むと言うのだろうか・・? いつまでも失敗ばかりを恐れて後ろめたさを保ちながらビクビクしている 奴などただのバカにすぎない。

「今は失敗し続けて経験をするのがちょうどいい。 失敗ばかりせず成功し続けながら徐々に歪んだ性格にはなりたくはない」

「・・あなたに歪んだ性格って言われるなら既に大半の人が歪んでるわ」

「お前だってそうだろ、お前みたいな気持ち悪い女はそうそういない」

「そうね」

あっけらかんと俺の言葉に肯定する理嗚にそれ以上言葉は出るはずもなくいつものように静かにかけうどんを 食べ終えるとそのまま無言を貫いたまま食堂を後にした。


167 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 20:00:40.00 ID:huJc4Kp40

これから帰ってきてからバイト・・っと言いたいところなのだが、大学で俺が専攻している人間学で定期的に行われて いる討論会に参加しなければならない。俺が人間学の分野を選んだ理由はたいしたものではなく、人間の心理などを 知っておいても損はないだろうと判断して入ったまでなのとほかに大した部類のものがなかったので一番マシそうな 人間学を選んだに過ぎないのだが・・

今回の議論のテーマは犯罪者の心理・・教室ではそのテーマについて激しく討論が繰り広げられていた。

「罪を犯した犯罪者は何も世間から阻まれる様な人間ではありません。それ故に彼らの心理状態は様々です」

「ですが犯罪という行為は社会的からみても重大な罪で、アメリカのとある連続殺人犯の直筆で書かれた 手帳によると・・」

討論はまぁまぁの盛り上がりを見せながら資料を片手にそれぞれの言い分を言い合いながら白熱していく、一応この 大学の教授もいるのだが役目は非常に単純で適当に丸め込みながら論議を終わらせまた次の討論のテーマを出し ながら生徒は次の討論のために調べ物をしながら備えていく。やはり大学だと今までの学校の先生とは違いすべてを 生徒に任せるため場を仕切ることは一切ない、しかし逆に考えれば自分の言いたいところは遠慮なく言えるので ついつい熱くなってしまうものだろう。

「更に手記にはこう記してありました。“・・殺人を続けると血が見たくなる”これは死刑囚のもので少し極端な例ですが、 ほかの犯罪者も似たような感じだと思います。ですが罪にもよりますが、人間が罪を犯せば罪悪感という感情が沸き、 自分の罪を償おうと働くものです」

とある人間の主張が終わると少しだけ場は暗くなってしまう。 まぁ確かに普通の人間の神経でも連続殺人犯の心理など余り聞きたくない様なものだろう、だけどもここで静止を 保っていた俺もついに動き出すことにする。

169 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 20:02:51.27 ID:huJc4Kp40

「人間誰しもが侵した罪に罪悪感を持つとは限りません。この資料はとある受刑者での取調べの 記録ですが、資料にはこう記しています。

        “復讐で殺した・・”

っと、今はその女性はどうしているかはわかりませんが取り調べのときは罪悪感など まるでなかったと資料には書いてありました」

「ですが、時間が経つと自分が犯した罪を思い出しながら罪悪感が・・」

「・・そんなのは殺した人間に寄ると思います。殺した人間によほどの憎悪の感情を抱いてしまったら罪悪感など すっ飛んでしまうと思いますが? もう一つの資料ですが人間の心理にはあるパターンがあって・・」

俺の主張を言ったあとは適当に図書館でコピーした資料を片手に証拠を作っていく、こうすると大半の妙に納得して しまうもので、それに反論するといえば理性にガタが切れて感情的に身を任して言葉を吐くものなのだが証拠不十分 で言語も支離滅裂・・まさに俺にとっては格好の獲物だ。まぁ今回は犯罪者の心理という非常に限定された難しい テーマだったのでそういった本を探すのに苦労した人が大半であろう。俺も近所に数ある図書館を探し回ったが 犯罪者の心理を書き記した本など余りなくて苦労したのだが、幸いにも父親の親戚に看守をしている人がいたので その伝で取材をさせてもらうことができた。俺の主張を最後にちびらちびらとは発言が出てきたものの大した論議には ならずに討論は終焉を迎えた。そして教授が最後のお決まりの一言・・

「少し今回のテーマは難しかったね、だけどみんなよく議論に持ってこれた。次は女体化での孤立化した男性の 心理をテーマにやっていこうと思う、次の討論までに調べてくれたまえ」

教授の言葉を最後に今日は解散となり、荷物をまとめて帰ろうとしたときに教授が俺の方に歩み寄ると俺が調達した 資料を見ながら満足の笑みを浮かべていた。

170 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 20:03:28.77 ID:huJc4Kp40

「小林君の出す資料には信憑性を感じるよ。今日は難しいテーマだったのによくそれに見合った資料を探せたね」

「いえ・・」

「・・だけど討論に関してはもう少し抑えないと、相手をやり込めたい気持ちはわかるけどほどほどにね」

最後に余計な小言のおまけつきで教授は足早と立ち去って行った。そういえば小学校や中学校の授業の一環で 軽い論議をしていたのだが、俺はいつも論議をするための資料を念入りに集めてそれを提示しながらも相手を 丸め込んでしまい、ついには小学校の時には相手に泣かれてしまって先生からやり過ぎと注意を受けたことがる、 ちゃんとした証拠を突きつけて相手をどのような形で論破するのは自由だと思うのだが・・どうも俺はやりすぎなの らしい。

ま、思い出すだけでも下らないことなのだが・・少しばかり思い出してしまうのであった。

171 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 20:06:19.01 ID:huJc4Kp40

レジにたっているのももう日常の一部と化している。最初に入ったときはレジの昨日や客の要り足に戸惑ったことが あったのだが店長や先輩にレジの打ち方や客の対応などを教えてもらい1ヶ月ちょっとでようやくまともな業務も できるようになり今では店の中でもかなりの古参になってしまっている。ほかのバイトの連中とは仕事上でしか 基本的に会話をしないのが俺の心情で、仕事が終わり下らない飲み会とか参加するのは勘弁願いたいものである。 もともと金稼ぎのためにやったものなのだから明確な理由など不要なものでわざわざプライベートまではバイトの 連中とは仲良くなる必要はない。まぁ、大学と評価は余り変わりないのだがな・・

「・・在庫はこれぐらいか、業者に取り寄せてもらうか」

商品の在庫をチェックすると業者に出す分だけを書き記していく、こんな仕事ももう手馴れたものだ。

「あ、あの・・レジのほうは」

「・・そっちでバーコードを通してこっちで会計をするんだ」

バイトを長年していると店長の代わりに新人を教える機会も増えてくるもので帰って鬱々しい、一通りのことは 教えているのだが仕事をつかむにはまだまだ時間がかかりそうだ。しかし一通り作業をマスターしてもそれぞれの 都合でやめる新人や中には客と人騒動起こしたりして辞める奴もいるから困ったものである。もう3年近くもバイトを していると店長から業務のことよりも新人のことについて自然と会話が多くなるので少しだけ微妙な気分である。

それにしてもこの新人はあと何ヶ月持つのかと考えてみるのも人間観察の醍醐味であろう。

172 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/02(木) 20:07:26.25 ID:huJc4Kp40

「とりあえず今はレジでも覚えておけ。慣れてきたら納品のやり方を教える」

「わかりました・・」

新人とシフトを組むのも少しだけ疲れる、上に立つ人間も苦労するのだろうかと思うと少しばかり考えてしまう。 学ぶほうは簡単なのだが教えるのはそう簡単にいかなくミスをしてしまえば後々には俺の責任となって転がり込んで くるのだから別の意味で責任重大だから困り者である。今のところこの新人はまじめに仕事を覚えているような のだが、仕事を覚えてからどういった理由で辞めるのか少しばかり観察するのも別の意味では楽しいものだ。 ある意味ではこのバイトは人間観察が好きな俺にとって天職に近いのかもしれない。ま、だけども大学を卒業して 就職することには辞める予定なのでそれまでに観察するのはそれはそれでおもしろい。

時間と言うのはゆったりと早さを織り交ぜながら流れていくものである・・


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年09月17日 20:13
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。