『蒼い炎』(5)

107 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/04(土) 11:17:53.95 ID:VOMgzAvZ0

孤立無援・・この過ごしてきた日々にタイトルを名づけるのならそう呼んでもいいぐらいだろう、他人との係わり合い を拒絶する俺にとっては嫌な言葉だが4文字熟語で表すとなればぴったりの言葉である。とはいってもこれは 昼飯のときに限って言う言葉であって昼飯から脱した後は何も変わらないただ用意された日常と言う退屈な時間を 過ごしていく、この日常に関しては無味乾燥とでも言っておくべきだろうか? 

とにかく俺はこの平凡で退屈な日常に少々の嫌気が差してしまっている、そういった場合は何か自分で別のことを 探すべきなのだが無気力と言うのは妙なところで働いてしまい、なかなか探す気にはなれない。こういうときこそ 大学の論文や課題を片付けていたのだが・・ほとんど済ませてしまってもう何もない、日常と言うのは平和だけど 麻薬みたいな部分もあるようだ・・

(気がつけばもう夏か・・)

人間の文化の発達に伴いその報いなのか自然環境というのは悪化を見せているもので今の暑さも昔と比べると 異常らしい。まぁ、文化の発展に伴う代償と考えれば当然のことであり人間と言うのは必ずしもバカじゃないから それなりの知能を生かしてこの文化の進化と元ある環境の調和はできそうだろう。さてこんなこと考えている場合では なく何か外に出て膨大な時間を潰していきたいと思うのだが夏特有の照りつける暑さには行動する気も余り起きない もので俗に言う夏バテというものに陥ってしまうのであった。

108 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/04(土) 11:18:20.05 ID:VOMgzAvZ0

「・・図書館にでも行くか」

そういえば人間学の調べ物にはまだ手をつけていなかったのを思い出すと俺は図書館へと向かうことにする。 夏バテを解消するには勉強のほうが手っ取り早いものだ・・

空調の効いている図書室と言うのは夏にはうってつけのスポットなのだが本来の目的である勉学で使っている人は 少数であろう、大半はコンビニで涼みに言っている感覚で利用しているのだと思われる。

(確か次のテーマは女体化関連だったな。適当に女体化に関する本を2~3冊チョイスするだけでいいだろう)

女体化シンドノームは人間の概念をすら捻じ曲げてしまった病なようで、女体化がまだ発見されたときの世代である 祖父が話してくれるのだが、女体化が発見された当時は今の時代のように女体化に関する法律など全く皆無で日本の みならず世界的にもかなり大々的なものだったらしく国連でも非常に長い時間をかけて女体化に関する会議が 何度も開かれるようになり、不思議なことにその間は世界中に起きていた小規模な紛争などが一時的にストップして いたようだ。現在のところアメリカとロシアを主導とした国連は即座に加盟国のみならず全世界中に女体化に関する 法律や人権保護を盛り込んだ法律を制定するようにと命令を下した。国連が主導として国に命令することなど今まで なくそれだけ女体化は当時の世界にかなりの衝撃をもたらしたのだろうと容易に予想がつく。

だけども今の時代に女体化の差別や偏見が全くないとは言いがたく、国によってはひどい場合だと宗教上の問題から 女体化そのものを迫害する場合もあるし日本でも暗黙の差別は少なからず存在する。

ま、すでに女体化を逃れた俺にとっては関係のないことだ。適当に本を選んで資料としてチョイスをする・・

109 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/04(土) 11:22:54.35 ID:VOMgzAvZ0

(女体化の心理ね・・)

一応本に目を通すのだが、やはり女体化というのはどこか抵抗感を感じてしまうもので心理状況などもいまいち 掴みづらくて資料をまとめるのも少し骨を折りそうだ。まぁ、俺がほしかったのはこういった刺激なので夏バテの いい解消法となるもので今まで無気力気味だった俺の脳のほうもまるで子供が無邪気に遊ぶように探究心をフルに 働かせながら本を見つめていたのだが、どうもしっくりこない。やはり俺はどこか女体化に関しては本能的に癇に 障る部分があるのだろう、本能的に知能を求める探究心・・知的中毒とも言うべきであろうか? 

人間誰しも知識を欲するものでとある本には金よりも知識を優先することもあると書いてあったぐらいなのだが、それに ついては一部共感してもいいだろう。もしかすると昔からあった探究心はそういった知識中毒の一部かもしれない・・

「・・ま、それについてはまた別だ。今は女体化の事を調べなくては」

思考を切り替えた俺はまずは形か入るため女体化の歴史についてより詳しく調べることにする。 この手の歴史を調べると以外におもしろいことが書いてあるもので、学校から配られている教科書よりもより鮮明に 女体化シンドノームと言う病について書かれてあったのでついつい本来の目的を忘れてしまいそうになってしまう。 ついでに小説とかも見てみると女体化を扱ったものが多数増えてきており、女体化というのは人間の日常生活のみ ならずさまざまな分野に影響を与えているのが分かる。 でも女体化をどのように感じるかは人それぞれで体験しているかあるいは身内で女体化を見ている人でなければ わからないものであろう、それに俺は女体化というのはどうでもよく、男のときの名残を残してこない限りでは別に どうだっていい。そういえば最近のニュースでは女体化による精神的苦痛から自殺に陥るものもいるようで女体化に ともなる性犯罪も急激に増えていると言うのだから人間の心理状況はよくわからない。

それにしても女体化で自殺してしまうのはよくわからない心境だ、いくら現実がつらかろうとたかが女体化で自らの命を 落とすなどという馬鹿げた考えに至ってしまうのは全くもって哀れみ以上なもの感じてしまう。ま、俺の身近に女体化 した奴などいないのだからそういった心境を理解すること自体が到底無理な話なのだが・・

しかしまぁ、たかが女体化といってもさまざまな心理状況が鬩ぎあうのだろうかと思うと少しだけ感心してしまう。

110 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/04(土) 11:24:14.31 ID:VOMgzAvZ0

(女体化による今までの自我の可能性と自分の存在意義への矛盾ね・・いろいろあるんだな)

本を見つめながら俺は討論に役立ちそうな部分をチョイスしながら資料をまとめていく、だんだんと本を読み漁って いると、女体化というのは本当に奇怪な病らしく見ているだけで興味もわいてくる。どこぞのオカルト学者みたいに 人体実験とまでは行かないのだが少しばかり興味がないとは言えない・・そんなことを考えながら女体化のことを 調べているとふと思ってしまうのがあの理嗚のことだ、もしかしたあの女は女体化をしているのだろうかと考えてしまう・・

あの理嗚が女体化して女になったのなら考えただけで笑えてしまうのだがどうもしっくりとこない。あの人馴れした 物静かな身のこなしは明らかに女性のものなのだが、もし男のときからあんな感じだったらかえって気持ちが悪く 想像するだけで嫌なものだ。それにあんな気持ち悪い奴が男だったら女体化を迎える前にとっくの昔に自殺している だろう、とりあえずあの女のことは考えるのはやめたほうがよさそうだ。

「・・5時か、そろそろ帰るか」

夢中になって調べ物ばかりしていると外を照り付けていた太陽は徐々に沈んでおり空のほうも紅蓮の赤が広まり時計 のほうも見てみるとすでに夕方の五時を回っていた。どうやら閉館ぎりぎりまで図書館に居ついて調べ物をしていた らしい、俺は調べていた本をまとめるとそのまま借りることにする。職員のほうもやっと俺が帰ってくれることになり 心なしか少しうれしそうな表情であったのだが、目に付いたのだがあえて気にしないことにする。まぁ、職員のほうも 早く俺が帰ってくれなければ閉館できないのだから仕方ないだろう、それに俺も長居をしすぎた・・

111 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/04(土) 11:25:23.56 ID:VOMgzAvZ0

家に帰ると借りた本を机の上に置き布団の上に横になると暇つぶしにテレビを見ることにする。 たまたまあった貯金通帳を覗くと少しばかりの蓄えに少し不安になってしまう、通帳には100万程度のお金が記されて おり、しばらくは慎ましくやっていけば生活できそうだがそれも余り長くは持ちそうにもない。 早いところ大学を卒業してどこかの企業に就職すれば安定した給与と生活が手にできるのでとりあえずは一安心で あろう。

(そういえば俺は何を求めているのだろうか?)

ふと俺は変なことを考えてしまう、会社に就職して安定した安穏とした生活を手に入れられるのは大いに結構だ。 しかし今後の人生ああいった安穏とした退屈な生活をただ送っているだけではどこか飽き飽きもしてくるであろう、 いくら俺でも長々とした退屈な生活は流石にうんざりさせられてくる。だけども人と接するのはできるだけ最小限に 止めておきたい・・ 

「・・下らんことを考えてしまった」

考えるだけで糸のように絡みつく矛盾に嫌気が差した俺はそのままゆっくりと眠ることにした・・

384 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/06(月) 16:03:18.06 ID:R7nABdm/0

「ねぇ・・あなたって欲求とかあるの?」

「・・何が言いたい」

昼、俺はこの女が放つ忌々しい一言で忘れかけていた考えがふつふつと思い出してしまった。 もしやこの女は俺の知らないところでありとあらゆる人の弱みを握っているのかもしれない、普通ならこんなことは 到底不可能なのだが相手はいまだに俺に本性を見せない理嗚・・静かに相手を射抜くその視線は何かを 見透かしているように瞳が蒼々と輝いていた。

「別に、あなたにも普通の人が抱く欲求みたいなのはあるのかって思っただけよ」

「・・あるに決まってるだろ。ないほうが人間としてどうかしてるね」

「へー、あなたにもそういった感情があるのね。・・まぁ、どうせ性的欲求とかその辺りでしょうけど」

そういって理嗚はかけうどんを食べながらも瞳の色は変わらず俺の心を見透かしたかのような冷たい視線で俺を じっと見つめている。そんな理嗚と視線を合わせたくない俺はできるだけ持ってきてあった飼料に視線を集中していた のだが、理嗚の視線は気持ち悪さも徐々に帯びながら不気味さも加わって俺を威圧しているようだ。それにこいつは どこか得体の知れない物体で、一緒にいるだけでいいこともなければ得をすることもない。

こいつの周りに巣食っている人間に余計なやっかみが増えたと言うことだけだ・・

385 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/06(月) 16:05:10.88 ID:R7nABdm/0

「でもあなたってそういった欲求を満たそうとはしてないでしょ?」

「・・満たそうとしたってかえって虚しいだけだ」

「何故なのか教えてあげましょうか? ・・それはね寂しいってやつよ」

「馬鹿馬鹿しい・・」

こんな女の話に聞く耳を立ててしまった自分が恥ずかしい、それに俺が寂しいはずがない。 ずっと1人でいることが心地よかったしすでに慣れっこだ、他人の干渉などかえって鬱々しいだけだしくだらないと しか言いようがない。寂しいだけましなほうだ・・

386 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/08/06(月) 16:05:33.42 ID:R7nABdm/0

「・・案外、人と馴れ合うのもいいものよ」

「馴れ合いなんて最終的には所詮は利用するされるの関係だろ。俺はそっちのほうが気が楽だね。 ・・お前とはごめんだが」

「あなたらしい答えね。・・嫌いじゃないわ」

ここまで来るともうこいつの本性とかどうでもよくなってくるもので早いところ卒業してこいつとの関わりを断ち切りたい。 何気ない言葉でもこいつは表情を崩さずに冷静さを保ったまま俺に淡々と言葉を切り返してくる、表情のバリエーション も非常に乏しくただ俺を嘲笑うかのように微笑しながら常に俺の一歩先にいる感覚がしてたまらなかった。 そんなこいつとも大学を卒業すればおさらばできるのでそれまではじっと耐えるしかないだろう・・古き良き思い出の 一ページとまでは行かないが、忌々しくも記憶の奥底で永遠に眠っているがいいだろう。

俺より早くかけうどんを食べ終えた理嗚は薄ら笑いを浮かべると俺の耳に囁きながら静かに口を動かした。

「・・一つ、いいこと教えてあげる。私は卒業したら就職はしないわ」

「――ッ!!」

天使か悪魔か・・どちらともわからない理嗚の囁きが俺の心をくすぶりかけるかのように頭の中で永遠と木霊していた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年09月17日 20:14
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。