173 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/07(金) 08:52:53.10 ID:w553suA30
店を出た後、夜の街を走りながらも静かで異様な雰囲気が車内を覆っている。もう俺のタバコの箱も空だしうまい ところ気を紛らわしたくたくても助手席にいるこの女の存在がどうも気になって仕方がない。それにあんなことが 目の前で起きれば気にしないほうがおかしいもので、俺はこの後どのようにしてこの女と過ごせばいいのだろうか わからなくなってくるもので、話をしようにもどうも気まずくなるもので虚しくも車の音だけが響いている・・
「どうしたの・・何か喋ったら?」
「何を」
「ま、いいわ。それよりも適当なところ走ってどうするつもり?」
このまま考えもなく周辺を走り続けるのも飽きてくるもので何かきっかけを見つければいいのだがそう簡単にきっかけ など見つかるはずもないしタイミングも掴めない。それにこいつとこのままうだうだしながら夜の街を当てがいもなく 走っているのもつまらない・・
やはりこっちから何かを提供するしかないのかもしれないな。
「仕方ないか・・おい、どこか行きたい所はないのか?」
「そうね、じゃあ大通り沿いにまっすぐ進んでその後は右に回ってちょうだい」
珍しく道案内をしてくれる理嗚に少しばかりの怪しさを感じながらもこのまま夜の道を永遠と走り続けるよりははるかに ましなのでここは理嗚の言葉に従いながら車を走らせることにする。だけども心なしか嫌な予感を体で感じてしまうの は気のせいではあるまいがそんなことを考えていても何も始まらないもので、無駄ということはわかっているのだが・・ どうも腑に落ちない部分がある。
174 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/07(金) 08:53:45.86 ID:w553suA30
「どこに行く気なんだ」
「大したところじゃないわ。それにしてもさっきは面白いぐらいに愉快だったわね」
「何が愉快だ。まぁ、あいつも哀れと言えば哀れだったな」
あの出来事を愉快と評するこいつの神経もすごいものだがああいった奴を軽くあしらうこいつにもある種の関心を 覚えてしまう。それにしてもああいった手合いにはよほど手馴れているのか済ました顔で間髪スタンガンを放つ こいつはおそらく何も考えていないだろう。
「全く、ああいった金持ちの男は頭が弱いから困るわ。いっそのこと女体化してくれれば安泰するのに・・」
「ああいった金持ちは女体化なんか嫌ってそうだが・・」
「そうとも限らないわ、逆に女体化を利用して力をつけている家もあるぐらいよ。向こうにとっては力の象徴となる 跡継ぎがいればそれでいいわけ」
「まるで藤原家だな」
「そうね、摂関政治の縮小ヴァージョンともいえるわ」
結局それ以外しか話すこともなく、俺はただひたすら理嗚の言ったとおりの道を走らせるしかなくふと頭の中から 予定調和という言葉が思い浮かんだのであった。
175 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/07(金) 08:55:25.27 ID:w553suA30
車を走らせると周りの景色は大通りの中でも最も華やかで数多くのビルが立ち並んでおりイルミネーションが目の 保養となり自然と気持ちもどこか余裕を感じてしまうものだ。それに伴い無数に立ち並ぶ鉄の塊は赤々と光る塔を 畏怖しているかのように止まっており、これを渋滞を見受けるのもそう時間はかからなかった。 車の歩みも自然と遅くなり数多くのビルが織り成す模様が俺の心を落ち着かせてくれるのだが、それもすぐに飽きて しまうものだ。理嗚に案内された道順を通っているが周りの景色はかなりの高級感を嫌でも醸し出しておりどことなく 微妙だ。
「どこに連れて行くつもりだ? まぁ、お前の言うことなんざまともに思ってはいないが・・」
「そうね、でもとってもいい所よ。着いてからのお楽しみってところね」
聞くだけ無駄だと判断した俺は車の運転に集中すると理嗚が指定してきた場所へと向かうのだが・・目的の場所に 到着をしたとき俺は驚きを隠せないものであり、到着したことを確認すると理嗚は助手席から降りると澄ました顔で じっと周りを見つめていた。
「・・お前ふざけているのか」
「何? ただの高級ホテルじゃない・・」
あっけかんしながら冷静にこの場を状況を語る理嗚に俺はため息しか出なく、今でも理嗚を置き去りにして車で この場から立ち去ろうと思ったのだが受け取ってしまった金のこともあるし何よりもこいつに逆らうのはあまりよくない とひしひしと体で感じてしまうもので体が思うように動かないのが現状だ。不服ながらも結局はこいつの言うことに 素直に従うとしか選択肢は存在せず、少し考えながら俺はキーを抜いてゆっくりと運転席から出ると理嗚の後から ついていくことにした。
176 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/07(金) 08:56:18.92 ID:w553suA30
「料金の心配ならしなくていいわよ。予約も入れてあるから後は鍵をもらうだけ・・」
「言っておくが少しだけだぞ。これ以上変にお前と2人きりでいたくはない」
「変に考えているのかもしれないけど別に大したことはしないわ。ただお酒飲んで過ごすだけよ」
俺の考えなどまるでお見通しと言うかのように理嗚の言葉は俺の心に響いていたのが少しだけ恨めしいものだ。 中に入りフロントから鍵をもらうと理嗚につられながらホテルの部屋へと入っていくのだがだんだんと身の危険という ものを感じてしまうもので危機感を感じずにはいられないものだ。部屋に案内されると部屋の中は豪華ながらも それなりの設備が整っており綺麗な模様からみてこの部屋がスィートルームであることが用意に伺えられる。
理嗚は適当にカバンを置くと棚から酒を取り出し器用に水割りを作りながらこの状況を愉しんでいるようで空を見て みると暗い夜空が余計に不気味さを醸し出していた・・
「あなたも飲んだら? 結構いいお酒よ」
「・・」
理嗚から酒の入ったビンを強引に受け取るとグラスに氷を入れて酒をロックで楽しむといい気分に体が火照ってくる。 たまにはタバコ以外でで気をまぎわらすのもいいのかもしれないがまだ俺には酒の味を愉しむ期間も余りないし どのようにしていいのか全くわからない。だけども酒の魔力と言うのは恐ろしいもので少し気持ちがあやふやになってくる・・
177 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/07(金) 08:57:12.41 ID:w553suA30
「どう? ロシア産のブランデーのお味は・・」
「別に・・」
「我慢しなくてもいいわ。酔いたいうちは思いっきり酔ったほうがいいわよ」
「・・うるさい」
必死に否定したくても火照った体を動かすのは一苦労で立ち上がるのも力が要る。こんなにも自分が酒に弱いとは 思いもよらないもので頭にも余り呂律が廻らない状況だ、前にこいつとワインを飲んだときはそうでもなかったのだが ブランデーとなるとどうも体の反応が違うようだ。何とか俺は懇親の力を振り絞って立ち上がり不意に懐を確認する とうまいところこの状況から逃れる絶好の口実を思いついた。
「タバコ買ってくる」
「そう・・行ってらっしゃい」
何も言わずに黙って俺を見送る理嗚に一抹の不安を覚えてしまうのは気のせいではないだろう。酔っ払った体に 何とか言うことを聞かせると部屋を出た俺はタバコを買いに行くためいったんホテルの外に出るのだがどうも嫌な 予感がしてならない。離れにあった自販機でタバコを買うのだがこのままあの女を部屋に置いておいて帰ってしま おうと言う手も考えられる。言い訳ならいくらでも作れるしこのまま道に迷ってしまった言えば渋々ながらも納得して くれるだろう・・
だけどもそれをわかっていても体のほうは理嗚のいるホテルへと向かっていく、まるで何かを求めているかのように・・
310 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/09(日) 10:31:39.20 ID:FkAyyKaO0?
「お帰りなさい・・」
結局俺は理嗚がいる部屋へと戻ってきてしまい、再び酒を作って飲みながらじっと自分の行動を見つめなおすの だが再び酒が入ると考えるのが少し億劫になってしまい頭がボーっとしてしまう。酒が廻ってきたのかだんだんと 体にも力が入らずフラフラと歩きながら備え付いてあったキングサイズのベッドに倒れこんでしまった・・ ベッドはとても柔らかくまるで体を包み込んでくれているかのような感覚で火照りついていた体が急激に冷めてくる のが確認できる。よほど酔っ払ってしまったようだ・・
「・・こんなに酔ってしまうとは」
「少し休んだらどう? 私は少し酔いを覚ましてくるわ」
この女が何をするのかはどうだっていい・・すでに俺は理嗚の行動に突っ込む余裕すらなくなっており、それだけ 今の俺は酔っ払って思考が停止しているのだろう。今はこのベッドでただ何も考えずに眠っているだけでどれほど 心地よいか・・体制を変えて横になりじっと部屋を見つめてみるが目の終点がぼやけてしまっていつものように物事を 考えるのが不思議とめんどくさく今はただひたすら酒を飲みながらベッドで横になるだけでいい・・何も考えずこう やってのんびりするのは初めてだろう。
酒を飲み続けて数分後か・・理性は保ちつつも酔っ払ってしまった俺は死体のように呆然としながら窓に映る景色を じっと見つめていた。柵に開放されたとき、俺は考えることをやめると静かに目を瞑りながらこの心地よさをぐっと 感じながら穏やかに流れていく記憶の日々をじっと見つめながら、改めてここ最近の日常を見つめる。就職も決まり このまま安定した生活を手に入れられる俺はまさに勝ち組と評しても言いぐらいだろう、兄貴のように女体化して 大学も出ずに水商売で金を稼ぐより何百倍も名誉あることだ。それから・・だけども俺はそれ以上のことは考えるのは 止めた、女体化を経験していない時点で俺は正真正銘の男としてあり続けている。だからこのまま・・
311 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/09(日) 10:33:01.18 ID:FkAyyKaO0?
「・・何考えてるの?」
「――ッ!!」
自己矛盾で満ちた自問自答から俺を現実に戻したのはバスローブ姿で俺をじっと見つめていた理嗚であった。 思わぬこいつの行動に俺は一時的に酔いが冷めてしまい折角のいい気分が台無しだ、だけども理嗚はそんな俺の 気などこれっぽっちも考えてなく、その視線の先にはきょとんとした情けない姿の俺が鏡のように映っていた・・
「随分と酔っ払ったみたいね」
「そんな気持ち悪い格好で俺に近づくな。さっさと服を着ろ・・」
「私がどんな格好でいようと私の勝手よ。・・あなたも酔い覚ましにシャワーでも浴びてきたら?」
正直言って俺はこの場から消え去りたい思いだ。 だけどもここまで酔っ払ってしまったら車は運転できないし、タクシーを予備にもこの時間はもうやっていないだろう・・ よくよく考えてみれば立て続けにおき続けている出来事には全部理嗚が絡んでいる。あの男のことは流石に イレギュラーのようだがここまでスマートにことが運びすぎている時点で考えるだけでどこか気持ち悪さを帯びている。 ここまで考えるとすべてはこいつが裏で糸を引いている感じがしてならないが・・酒のせいかこれ以上俺は考える ことができず理嗚の言うように酔いを覚ますためにシャワーを浴びることにした。
312 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/09(日) 10:36:07.05 ID:FkAyyKaO0?
(すべてが出来すぎている・・)
シャワーの音が響く中で俺は少しの間だけ考える時間を得ることができた。今回の出来事を冷静に振り返ってみると すべては理嗚によって事細かに仕組まれたこととしか思えないほどだ、この件を引き受ける前だってあの女は何も 言わずに俺に金を渡した。あの時はあの女の行動に気を取られすぎて何も思い浮かばなかったのだが、今考えると あれは俺に何かしらの心理的圧迫をかけていたのだと思う。もしかしたらあの夕食のときに俺はワインを飲んで 酒の強さを試していたのだろう・・
だけどもこれ以上、考えたって仕方ないし今日は不本意ながらもこのホテルで理嗚と一泊しなければならない。 シャワーを止めると濡れた体を拭いてそこら辺においてあったバスローブを羽織ると静かにソファへと座り再び酒を 飲むことにする。
酒の味が鬱々しさ全快の俺を少しは解してくれるだろう。酒を飲めば飲むほどゆったりとした気持ちになってくるのが 理解できる・・
313 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/09/09(日) 10:36:40.35 ID:FkAyyKaO0?
「もう止めたら? いい加減飲みすぎよ」
「誰のせいだと思っているんだ」
「私はお酒は勧めたけどそこまで飲んだのは他ならぬあなたよ。まるで酔っ払いね・・」
「・・なんだと!!」
この理嗚の言葉に俺は何かが切れてしまい。その場からゆっくりと立ち上がると理嗚をベッドへと押し倒し着てあった バスローブを引き離しゆっくりと理嗚の首に手を掛ける。まだ殺人を犯すつもりは毛等もなく力も入れていない、 意識があるうちにこいつの引きつっている顔を拝みたく脅しで無理矢理でもこいつの表情をいつも冷徹で無表情の 顔から本能的な恐怖で引きつる表情を見ておきたかったのだが・・理嗚はそんな俺をまるで嘲笑うかのようにしながら いつものように静かに微笑み、自身の首に俺の手が掛かっていると言うのに俺をそっと抱き寄せて静かにこう一言・・
“それが・・本当のあなたね”
「何が言いたい」
「――別に・・」
理嗚に抱き寄せられた俺は自然と首から手を離すとそのまま裸の理嗚に抱きつきながら暗い意識へと堕ちていく・・
最終更新:2008年09月17日 20:18