91 名前:
◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:14:53.89 ID:qNrhI0cr0
あれから数週間・・少しの時間が経ち、俺たちは共に暮らしてきた。藤川から小林に性を変えた律子は俺と交わした 契約もきちんと守り俺の支障にならないように常に後ろで着いている、俺に文句も言わなければ黙って家事を しながら見守り続けている。時折、夫婦のスキンシップはするのだがその時は余り互いの顔を見つめていないので よくわからない。俺たちの関係は夫婦と言うより家政婦と主人といった関係といったほうが正しいだろう、だけども 心なしか律子のほうはどことなく充実しておりこの澄み切った生活にそれなりに満足はしているようだ。
「・・今日もお仕事ですか?」
「ああ、帰りはいつになるかわからん」
「では今夜も晩御飯を支度した後、先に寝かせていただきます」
一般的からみれば淡々とした冷え切った夫婦だと思いがちだがこれ以上俺は人と会話をしたくないがための 出来事で律子からは不満といった表情など一切出ていない。朝はこうして必要な分だけの会話をした後は律子が 作ってくれた朝食を黙々と食べるといった最も味気ない生活から始まる、何事もなく今までのように穏やかで1人で 仕事に集中できる生活を続けてはいるのだが、どことなく不気味さも感じてしまう。
俺の言うことだけを愚直に従い続ける律子に満足感は感じるもののどこか物足りなさを感じてしまうのはなぜだろうか・・?
92 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:15:37.63 ID:qNrhI0cr0
「どうかなさいましたか・・」
「いや別になんでもない。・・行ってくる」
飯をきちんと食べ終え、鞄と律子が作ってくれた弁当を持つと大よその帰宅時間を伝えてそのまま家を出る・・ 互いが互いに干渉しないなんて俺にとっては最高の生活だ、そこには愛などというものは存在しない。ただ人と人が 安穏と暮らしているただの生活だ、いつものように自分の生活を割り切りながら電車に揺られ会社へと向かう。 満員電車の中で俺は今日取り掛かる仕事のイメージを軽く固めておく、ゆらりゆらりと満員電車に揺られながら 歩いて会社に向かう。決められた時間、決められた仕事を毎日こなしながら殺伐とした毎日をやり抜いていく・・
黙々とパソコンで企画書を作成しながら当てもなく動いていく日々を思い浮かべてみる、こんな状態でも 別の場所では女体化が進んでいるのだろう。
(ま、俺には関係ないか・・)
こうやって仕事をする充実感も感じている、今の生活に不満もなければストレスも感じない。時々物足りなさは 感じてしまうのだがこうやって仕事に実を打ち出すことでそれを解消している、人間疲れがたまればそういったことを 考える余裕などなくなるのでちょうどいい・・
93 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:16:55.77 ID:qNrhI0cr0
「部長、企画書です。目を通していただけませんか」
「うむ」
黙々とパソコンと格闘して数時間後、一通りチェックをして満足のいく出来に仕上がった企画書を部長に提出する。 部長は厳しい視線で提出された企画書に目を通すと無言で俺にこう一言・・
「・・よし、これならいいだろう。上に通しておく」
「ありがとうございます」
「最近の君は目覚しいものを感じるからね。どうだ、今度のプロジェクトにも参加してみないか?」
前のプロジェクトは会社に多大な利益をもたらし一気に会社に知名度も上がるほどの成功で終わり会社のほうも だんだんと大きくなっている。あのプロジェクト以来、俺にはちょくちょく仕事が舞い込んでくるようになったのだが 大きな仕事は余り手をつけていないもので、こういったやりがいのある仕事にも参加してみるのもいいかもしれない。
96 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:18:23.52 ID:qNrhI0cr0
「わかりました。お引き受けします」
「君にはまた期待してるよ。可能な限り頑張りたまえ」
「ありがとうございます」
部長に一礼をすると俺はそのまま自分のデスクへと戻り市場調査とライバル会社の商品データをまとめておく、 プロジェクトは今のところ何をするのかはよくわからないがこうやってライバル会社の商品のデータをチェックして おいても損はないだろう。 それに律子が俺に嫁いでから心なしかゆとりが持てたような気がする、味気ないと感じていた日々がだんだんと 色あせて来るのは気のせいなのだろうか?
一旦、作業をやめて外を見ると・・日は相変わらず眩しいままであった。
97 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:19:57.16 ID:qNrhI0cr0
会社も終わる夜頃、下らない付き合いもなくまっすぐ家へと帰る俺・・朝とはまた違う帰宅ラッシュを身をもって 体感しながらいつものように朝来た道順と同じ歩きながら家へと向かう、景色のほうも朝から夜になったもので 大して変わりはないが見栄えには困らないだろう。
会社から支給された家へと向かいいつものように自宅へ帰っていく、前だったら誰の声もなく1人で淡々と飯を 食べながら仕事をしていたのだが、今では律子が俺を出迎えてくれて晩御飯やお風呂の準備を完了した状態で 黙って俺を出迎えてくれる。まさに日本の妻を具現化しているこの律子が女体化した女性だと聞くと驚くべきもの だろう、俺自身も本当に律子自身が女体化しているのか疑問視してしまうぐらいだ。
黙ったまま食べる淡々とした食事は大して意味がない、俺たちに会話などは必要程度しかない。
「・・今日は早かったですね」
「ああ、これを食べたらまた仕事だ・・」
「いつも、お疲れ様です」
こんな冷め切っている会話にも不満の一つすら零さない律子にはどうも不気味さを感じてしまう。だけどもこうして 俺の生活に干渉しないと言うことを考えると気にしないほうがいいのかもしれないがどうも目移りしてしまう・・
だけども今までの俺自身の性格からすればそんなことを言うなど人に弱みを見せているようで余り良いものではない。
98 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:20:51.53 ID:qNrhI0cr0
「・・さて、風呂に入る。それから仕事に移るからお前はもう寝ていいぞ」
「わかりました」
そのまま飯を食べ終え風呂に入る、飯のほうもまともに料理をしなかった独身時代と比べればずいぶん人並み ぐらいまでには進歩していると思う。風呂に入り湯船につかりながら俺は今までのことをそっと思い浮かべてみる、 今まで否定し続けた家族と言う存在について少し考えてみてもいいのかもしれない。
(ま、今からじゃなくてもいいか・・)
やはり風呂に入るとすべてを忘れられて心地がいい、仕事で溜まった疲れが吹き飛んで一時的にだがすべてを 忘れられる。ここ最近は仕事で休む間もなかったから余計にこの時間がゆったりと感じられる、人間やはり休日も 織り交ぜていかないと効率よく仕事などできないもので休日を全くとらない人間は本当にどうかしているだろう。
こうして仕事がひと段落着いたらのんびりと休暇をとって過ごすのも悪くはないだろう、今の俺にはどこか心の ゆとりと呼べるものができつつある。もしかしたらこの調子で子供ができるのかもしれない・・だとしたらそれだけは 阻止しなければならないだろう。子供なんてただの迷惑なだけの存在なのだから・・
もうすぐで25になる俺・・このままゆったりと流れる時間に身を任せてもいいのかもしれない。
99 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:22:01.85 ID:qNrhI0cr0
風呂から出るとそのまま仕事のまとめをしようと思ったのだが、あんだけのんびりしてしまうとあまり気が進まない もので、そのまま律子が用意してくれた服に着替えてベッドに向かうと俺の言いつけどおりに律子が先に寝息を 立てて眠っていた。
(こんな生活・・息がつまらないのか?)
「んっ・・一樹さん?」
「起きたのか?」
どうやら眠っていた律子を起こしてしまったらしい、なんで起きてしまったのかは良くわからないがもう少しで俺も 寝るのでこのまま寝てもらわなければ朝飯が食べられないので困る。
「お仕事はどうなされたのですか?」
「今日はもう取り止めにした。お前も早く寝ろ」
布団に入り俺はゆっくりと睡眠を促すことにするのだが、律子のほうは余り寝付こうとはしない、もしかしたら 中途半端に起きて寝付けなかったのかもしれないのでここは一緒に寝ることにする。俺は律子に眠ることを促す のだが・・律子のほうはなんだか少し下のほうに俯きながらも照れながら俺に驚くべきことを進言してきた。
102 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:23:27.52 ID:qNrhI0cr0
「・・どうした早く寝ろ」
「一樹さん・・私お願いがあります」
「お願い・・?」
「実は・・私、一樹さんとの子供がほしいです」
「何だと――ッ!」
律子の発言に俺は驚きを隠せないものでお風呂で決意したばかりなのにこんな話題が出るのは思ってみない ことで、何とか律子を説得させて就寝につきたいものだ、俺はパニくっている頭を何とか落ち着かせるとやんわりと 話しかける。
「俺たちはまだ子供は早すぎじゃないか・・」
「・・私、一樹さんと結婚してから前々から子供がほしいと思って」
珍しく照れながら俺に説明する律子にどうも心苦しくなってしまうものだが、ここは俺の本意をちゃんと伝えなければ 勘違いしてしまうだろう。今の俺たちの間に子供なんてまだ早すぎる、俺自身もこの歳ではまだ父親になりたくは ないし、子供というは余り好きではない。
103 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:25:03.37 ID:qNrhI0cr0
「一樹さんの気持ちもわかります。ですが、ご迷惑は掛けないように私が責任を・・」
「1人で子供の面倒は無理だ。それになぜ子供がほしいんだ・・?」
少し恥ずかしそうにしながら律子はゆっくりとその理由を話し始める、その表情はどこか照れくさそうなものなのだが どこか嬉しそうなのは気のせいだろうか? それにしても普段は大人しく自分の意見は余り言わない律子が申し出る とは珍しいことだ、こんなことはあのときの結婚前の出来事以来かもしれない。
「・・実は、女体化してから誰かと結婚して子供ができるのを楽しみにしてたんです。女体化して女となった 私の取り柄といえばこれだけしかありませんし・・ね」
どこか寂しそうなその雰囲気は俺の心をどこか揺るがしてやまないものでさっきの考えもどこか揺らいでしまう。 今の時代、女体化についてはある程度認知はされているものの現在の風潮だと女性は仕事よりも結婚して家庭に 入るのがよしとされている。確かに社会復帰という制度はあるにはあるもののそれは正真正銘の女性のみ・・存在が 中途半端な女体化した男性など快く採用する企業が少ないのが現状だ。 それに結婚に関しても普通の女性と比べて婚約率が高くないのも一因している、女体化という病に世論が対応して 共存するにはかなりの時間を要するのかもしれない。女体化を経験しつつも就職するなんて今の時代ではすごく 難しいことで、前のプロジェクトの責任者の女性なんてかなり珍しい例だ。
そんなお堅い家柄な律子の家は俺の家よりも人一倍世間体を気にするのだから律子が子供を望むのも無理は ないのかもしれない。
105 名前: ◆Zsc8I5zA3U? 投稿日: 2007/10/14(日) 23:26:25.18 ID:qNrhI0cr0
「もしかして俺と結婚したのはそのためか?」
「いえ、それは断じて違います。・・ですが、ここ最近になって子供が欲しいと感じているのです」
この律子の言葉に俺は少し考える時間を持てた。さっきの考えを貫くかこのままこの場を適当にやり過ごして 不貞寝をするか・・よくわからないものだ。今の俺たちに子供ができても余裕はそれなりにあるし貯蓄もある程度は 蓄えているので経済面では問題はないだろう、だけども精神面では付き合えたもんじゃない。何年も暮らすとなると かなりの精神的苦痛が俺の体に蝕みつき気がつけば仕事さえままならぬ状態となってしまう。 いくら律子が子供の面倒を見るとはいえ1人じゃ到底たかが知れているものだ。それに子供の存在はそんなに軽い ものじゃない、親戚にだっていろいろ説明しなければいけないからいろいろと面倒だ。
「いくらお前が子供が欲しいといってもそう簡単には・・」
「責任はすべて私が持ちます。でないと母親になる覚悟はもてませんから」
「お、おい・・」
真剣な表情の律子に俺は驚きながら再びじっくりと考えることにする。律子がこんな覚悟を秘めているからにすると もう適当にやり過すことはできないだろう、こうなったらもう納得させるぐらいしかないだろう。どうせ子供ができる なんてそう簡単なもんじゃないし割り切れば心も気も晴れるものだ、律子だって時が過ぎれば諦めてくれるだろう。 そう割り切ることにした俺は今後一度きりになるであろう子作りに励むことにする。
「仕方ない。・・いいか、一度きりだからな」
「はい」
その後の展開は予想しなくてもいいだろう、子供なんてそう簡単にはできない・・律子を抱きながらも俺は体中から 一抹の不安を感じてしまうのが不思議でならなかった。
最終更新:2008年09月17日 20:21