『女将』(2)

桜も散って早、数日・・人々は今日も健気にたくましく日を浴びながら生きております。相変わらず私は学業と旅館を平行してこなしていっています。新学期というのは新鮮で気が引き締まるものです。今年は私も高校2年生・・何とか明美さんのおかげで進級することができました。

未だに恋一つもしていませんがこんな私でもいつかは巡り合えると信じたいです・・

 「女将、何ボーっとしてるの? 今日は早く終わりそうだからカラオケ行かない?」

「カラオケですか・・いいですね。旅館のほうもまだ時間に余裕がありますし」

「それじゃ決まりね。みんなにもそう言っておく」

「はい、ありがとうございます」

カラオケですか・・楽しみですね。それに久々に友達と遊ぶのは非常にうれしいです、ここ最近はなんだかんだでお客の数が多くてどことなく息苦しかったですから・・いいリフレッシュにはなると思いますね。それに今日は入学式だけですから早く帰れますから時間はたくさんありますし、学校帰りにカラオケは今風で少し洒落ていますね。お金にも少し余裕がありますから何とか大丈夫そうです。やはり、遊ぶときは常に懐が暖かいうちに限りますね。

 早く学校が終わるのが待ち遠しいですね・・



そして放課後・・予想通りに実行委員以外の生徒は素早く帰ることができました。今日は入学式だったので早く学校が終わりました、後は明美さんたちと一緒にカラオケへと行きましょう。あ、でも・・ちゃんと時間チェックしないと母に叱られてしまいますね。それだけは勘弁してほしいです・・

 「あ、女将何歌うの?」

「あ、そうそう。女将って旅館とかやっているから歌うのは演歌とかなの?」

「いえ、皆さんと同じのですよ」

私の番が回ってきましたね。私はこのとおり旅館で働いているので皆さんから演歌とかそういった少し古い歌を嗜んでいると思いなのでしょうが、こう見えても私は皆さんと同じような歌手やアーティストを好んでいます。確かに演歌も人並みに歌えますが・・どっちかというと最新の歌手やアーティストなんかが好きですね。

 今日は日ごろの鬱憤を晴らすために歌いまくりましょう。



「うわぁ・・女将って歌うまいんだね」

「本当ね、やっぱ明美が言ってたとおりだわ」

私は歌い終えると、明美さんを除く皆さんから賞賛の嵐が飛び交いました。こう改めて褒められるとなんだか照れてしまいますね。毎日、曲を聞いている成果でしょうか・・慣れている曲を聴くとテンポとかは自然と体が覚えているものなのですね。こう見えても私の家族は演歌以外でも歌に関しては最新の流行に敏感なほうなのです。

それにカラオケってなんだか不思議で歌ったらスッキリします、日頃は私も自分の見えないところでいろいろな鬱憤が溜まっているのでしょうね。

 「相変わらず女将は歌がうまいわね」

「いえ、それほどまでには・・」

「女将は謙遜しすぎだよ。ほら、もっと歌おう」

「はい。では・・今日はたくさん歌わせていただきます」

私はぺこりと一礼をすると再び元の位置に戻ることにしました。やはり人は礼に始まり礼に終わる・・日本特有のなんとも素晴らしい礼儀ですね。礼儀については母から厳しく仕込まれましたが、思わぬところでやってみると気持ちよいものです。

 その後も私たちは時間を忘れるまで久々のカラオケを堪能してきました。



「お、楓!!間に合ったんだな」

「あ、鳴華さん・・心配をお掛けしまってすみませんでした」

あれから私は急いで家に戻るとすぐにいつもの着物に着替えました。どうも・・ちょっとはしゃぎ過ぎたようですね、おかげで時間ギリギリでいつもの様に一息つく間もなく急いで皆さんのところに向かいました。

母は時間にはとても厳しい人なので間に合わなければ何を言われるかわかりません。だからこうして時間に余裕がないときは命がけです・・

 「ヘヘヘ・・友達と遊ぶのは久々なので羽目を外しすぎてしまいました」

「まぁ、楓はまだ高校生なんだからある程度は仕方ないぞ。それに遊ばない学生のほうが異常なものさ」

「・・そうなのでしょうか?」

「学生の本業は遊ぶことさ。俺も男のときはよく遊びまくったものだぞ」

「そうなんですか・・」

私は少し苦笑しながら鳴華さんと話しました。ギリギリとはいっても後一歩遅ければ間に合わなかったのですから今後は気をつけたいものです。



そのまま鳴華さんと微笑しながら話していると母がやってきていつものように挨拶をしました。何度見ても旅館の女将として高々と威厳を放っている母には敵いません。本当に私の母なのか疑ってしまうときすらあります・・

「では、今日も一日、頑張ってもらいましょう。皆さん、よろしくお願いします」

「「「「はい!!!!」」」」

母はいつものように皆さんに渇を含めた挨拶をするとそのまま現場のほうで指示を飛ばしていました。



 この旅館には一般の旅館のような大女将が居りません、本当なら祖母がなるはずだったのですが、母が女将になったのと同時に病で急死してしまいました・・そのときは母もまだ女将としては若すぎたのと祖母のような立派な女将さんがそうそう簡単に見つからなかったことが重なって大女将は保留ということになってしまいました。

以後、この旅館では名実共に母が女将ながら大女将の立場にいるのです。母も祖母が亡き後は立派に皆さんをまとめていて今ではこの旅館にいる全員が母を大女将として認めているのです。私も将来は母のような人望溢れた人物になりたいものです・・

 「では、鳴華さん。今日もよろしくお願いします」

「おお、こちらこそな」

皆さんの気合の入ったところで、今日も一日私も頑張りたいと思います。では、またのお越しをよろしくお願いします。











―fin―


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最終更新:2008年09月17日 20:24
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