ヤクザ娘

1―

 ―鬱陶しい雨。あたいは雨が大嫌いだ。今日に限って迎えも来ない。
ま、あたいは一人で帰るのも好きだからいいんだけどね。
滅多にない、一人での帰り道。どこか寄り道しようか?
そんなこと考えていたあたいの耳に何かが聞こえた。

「みゃあ~…んにゃ~」

 こ、これは?この声はまさか!慌てて周りを見てみる。路地裏の小さな段ボール箱にその子達はいた。
生まれたばかりと思われる可愛い子猫ちゃんが二匹。
ビニール傘をかけられているも横雨に打たれて震えてる。
……どこのどいつだ!ネコちゃん捨てやがったのはぁ!怒りに震えて段ボール箱へと駆け寄る。
……いや~ん!カワイイ~! 雨に打たれるのも気にせずにギュッと抱き締める。

「可哀想に……体か冷えきってまちゅね?ママが暖めてあげまちゅからね?」

 子猫を抱き抱え急いで家へと帰ろうとしたら……ヤツがいた。 

「………見た?」「………見た」

「………聞いた?」「………聞いた」

 う、うおおおお~~!見られちゃいけないものを見られちまった!
聞かれちゃいけないものを聞かれちまった! 
どうする?どうしたらいい?日本海か?それとも太平洋か?意表を衝いてオホーツク海ってのもいいな。どう口封じするか悩んでいたらそいつの姿が目に入った。
雨なのに傘もささずにずぶ濡れの姿。手には牛乳とスポーツタオルが入ったコンビニの袋。
そうか……段ボール箱を守るように置かれていた傘はコイツのか。
慌てて戻ってきたのか息を切らしている。コイツ……いいヤツだ。

「おう、とりあえずこの子達、あったかくしないといけないから家に持って帰るぞ」

「あ……そ、そうなんだ。このままじゃ危ないからね」

「じゃ、行くぞ」

「う、うん。あとはよろしくね」

「はぁ?テメエの持ってるタオルや牛乳は飾りか?テメエも来るんだよ!」

「え?えええ~?」

「デカイ声で叫ぶんじゃねぇよ!この子達がビックリするだろうが!」

「ゴ、ゴメン。けど僕が家に行ってもいいの?」

「なんだテメエ?最初に見つけたのはテメエだろうが!責任とれよ」

 あたいの強引な誘いに、うれしそうに頷いたコイツ。やっぱり子猫が気になるみたいだな。

 家に着いたら組のもんに見つかって『お嬢が男を連れてきた!』って大騒ぎになったんだ。
最初は否定するつもりだった。だけどな……

『天変地異だ!』やら『万馬券が来た!』や『いくらで買ったんですかい?』などど言われちゃ黙ってらんなくなって言っちまったんだ。

 『こいつは正真正銘あたいの男だ!』ってな。

 おかげでその日は組をあげてのドンチャン騒ぎ。親父も涙ぐんで喜んでやがった。 
ますます引っ込みがつかなくなったあたいはコイツに提案したんだ。

『形だけでいいからあたいと付き合ってくれ』って。

『そのかわり、この子達の名前を付けていいし、いつでも会いに来ていいぞ』って。

 普通なら断るその提案をコイツは受け入れやがった。
『子猫が気になるし、名前もつけてみたいからね』だとよ。
組をあげての宴会も終わり、コイツを門まで見送りに行った時気が付いたんだ。
大事なことを聞いていないってな。

「……そういやテメエ名前はなんてんだ?」

「僕の名前は……」

 その日から始まったあたい達の関係。
コイツにゃ秘密だけど、あたいは結構気に入ってんだ。
子猫達にとっちゃあ、あたいがママでコイツがパパか。
いつかは本当の夫婦に……ば、バカヤロウ!テメエ変なこと考えてっとカリブ海に沈めっぞ!

2―

 くっそ~、今週もアイツのせいで、つまんねぇ日曜を過ごしちまったぜ。
毎週子猫ちゃんの玩具を一緒に見に行くのはいいが、
たまには、で、でぇとにでも誘い……な、なんでもねぇよ!

 しかし、アイツが勧める映画は面白いのが多いな。
あぁ?なに言ってるんだって?玩具を買うのに付き合ってくれたお礼だって映画を奢ってくれんだよ。
もちろん昼飯付きでな。……あたいは別にいいんだけどさ。

 つぅかさ、映画と昼飯で毎週あたいを買い物に付き合わせるってなに考えてんだ?
特に玩具を買うでもなく、ただブラブラとデパートを歩いてさ。
なぁにが「この服似合いそうだね」だ!テメエは服屋の回しもんか!
ま、まぁ着る服がなくなってきたから買ったけどさ。
……なんでテメエが嬉しそうな顔してんだ?ニタニタしてっと沖縄の海に沈めっぞ!クソが!
試着したあたいを見てなにが「思った通りだ。縁さんは何を着ても似合うね、可愛いよ」だ!
ば、ばか言ってんじゃねぇってんだ!
あぁん?なんで買った服をそのまま着てるのかだって?
そのまま着てちゃ悪いのか?ゴタゴタぬかしてたらハワイの青い海に沈めっぞ!

 あぁん?さっきから沖縄やハワイの海って言っているって?言っちゃ悪いのか?
別にアイツと一緒に行きたいとかそんなんじゃねぇからな!勘違いすんなよ?
にしても……でぇとか。でぇとってヤツはいったいどんなことするんだろうな?

 バ、バカヤロウ!誰がアイツとでぇとしたいなんて言ったんだ!瀬戸内海に沈めっぞ!
おっと、こんなこと考えてる場合じゃねぇや。料理の練習しなくちゃな。
あぁん?あたいが料理したらいけないのかよ!別にアイツのためじゃねぇぞ?
来週の日曜日に子猫ちゃん達を連れて公園に遊びに行くことになったんだよ。
子猫ちゃんにママは料理が出来るってしっかりしたとこ見せてやんなきゃいけねぇからな。

 はぁ?誰がその料理を食べるのかだって?そんなもんアイツに決まってんだろ?
テメエバカか!子猫ちゃんが食べたらお腹壊しちゃうじゃね~か!
ふざけたことぬかしてっと黒海に沈めっぞ!
くっそ~、なんであたいがこんなモヤモヤしなきゃいけないんだ?
これも全部アイツがでぇとに誘わないから……な、なんでもねぇよ!

3―

 雲一つない、快晴の日曜日。あたいは猫ニャン2人を連れて公園に遊びに来ている。
もちろんパパ代わりのアイツも一緒だ。家族揃ってのお出かけって訳だ。

あぁ?テメエ勘違いすんじゃねぇぞ?猫ニャンを遊ばせたいから来ただけだ!
別にアイツと一緒にいたいとかじゃねぇからな?ヘンな事考えやがったら明石海峡に沈めっぞ!

 猫ニャンと一通りの遊びを終えたお昼時、
あたいは朝5時に起きて作ったお弁当箱を広げ、アイツに食べさせる。
……う、美味いといってくれんのか?不味いなんて言いやがったら紀伊水道に沈めっぞ!

 あたいの苦労して作ったおにぎりに手を伸ばすアイツ。
あたいはそれを猫ニャン2人をギュッと抱きしめて見守る。
アイツが不恰好なおにぎりをパクリと一口食べた。
思わずゴクリと唾を飲み込むあたい。

「……うん、とっても美味しいよ!縁さんって料理が上手なんだね」

「お、おおおお口におあいしましたでございましたでしょうか?」

「この麦茶も作ってくれたんだ?」

「ハ、ハイ!そうでございますですよ」

「……縁さんいったいどうしたの?言葉遣いがヘンだよ?」

「うっせぇバカヤロウ!せっかく5時に起きて作ったんだ、卵焼きも食えよ!」

 あたいが作ったお弁当をパクパク美味しそうに食べるアイツ。
ちくしょう、いったいなんなんだ?
メシ食ってるアイツを見てるだけで何でこんなに顔が緩んじまうんだ? 

「あ~、とっても美味しかったよ。縁さんって料理上手なんだね?」

「お、おう!あたいにかかりゃ料理なんざちょちょいのちょいだ」

「ははは、そうなんだ?じゃあ次のデートの時もお願いしようかな?」

「おう、任せときな!このあたいがしっかりと作って……で、でぇと?」

「うん、そうだよ。次はどこ行こうか?ショッピングや映画館でのデートはもうたくさんしたしね。
縁さんはどこに行きたい?美味しい料理を御馳走になるんだ、どこでもいいよ」

 は、はぁぁぁ?ショッピングや映画館でのデートだとぉぉぉ?
じゃ、なにか?この間まであたいをつれてぶらぶら歩いたり、映画見たりしてたのは……
で、でぇとだったのか?今日のこれも……でぇとなのか?

「縁さん?いったいどうしたの、顔真っ赤だよ?」

「う、うっせえ!テメエ、でぇととか軽々しく言うんじゃねぇ!
だいたいでぇとってヤツは最後にチュっとかがあるんじゃねぇのか?
チュウもしねぇでいい加減なこと言ってたらドーバー海峡に沈め……」

 でぇとという言葉に混乱したあたいは何を言っているのか分からなくなった。
ぎゅ……そんなあたいをアイツは温かく、大きな胸に抱きしめた。
なんだ?いったいなんなんだ?急にアイツがあたいを猫ニャンごと抱きしめてきやがった。
……抱きしめてきただとぉぉぉ?

「て、てめえ急になにすんだ!あんまフザケて……」

 突然の事でパニくるあたいに、アイツの真剣な顔が近づく。
何だ?いったい何が起こる?体中に緊張が走る。

 ……ちゅっ。

突然唇に感じた甘い感触。アイツの熱が唇から体中に広がり、あたいの熱になる。
あたいは目を見開いたままあいつに唇を奪われた。……奪われたあぁぁぁ?

「……ん。ゴメン、縁さんがあまりにもかわいいから我慢できなくなったんだ」

 あ、あれか?今されたのは『きす』とかいうヤツか?

「急にキスなんてしてゴメン。けど僕は本気で君の事好きだから」

 え~っと、きすってヤツはレモン味とかじゃねぇのか?味なんかしなかったぞ?

「形だけの付き合いなんてイヤなんだ。君と本当の恋人になりたいんだ」

 けど甘い感じはした。これが『きす』なのか?
あ、あたいがコイツとついに『きす』しちまったのか? 

「縁さん……君は僕の事どう思ってるの?
君が付き合うのがイヤだと言うのならキスをした責任、どんなことしてでも取るよ」

 確か『きす』したら次は『えっち』なんだよな?
ど、どうしよう?あたい綺麗な下着つけてないぞ?
え~っと、今日の下着は確か猫ちゃんプリントの……ふ、ふっざけんなよ!

「ダ、ダメだ!ダメに決まってんだろうが!てめぇあんま調子こいてっとマジ沈めんぞ!」

「そ、そうなんだ、やっぱり僕なんかじゃダメなんだ。
無理やりキスなんてしてゴメン、償いはなんでもするよ」

「て、てめぇ急に『きす』なんかしてきやがって……この子達がビックリするだろうが!」

 あたいは腕の中でもがいてる猫にゃん達をアイツに押し付ける。

「あたいはやられっぱなしは気に食わないんだ!
やられたら10倍にして返す、それがあたいの流儀だ!」

 猫にゃんを押し付けられて驚いているアイツの胸倉を掴む。
殴られるとでも思ったのか、驚いて目を瞑るアイツの唇めがけ………ちゅっ。

「こ、これでおあいこだ!
今日はこれで許してやるけどな、今度勝手にしてきたら倍にして返してやっからな!」

「え、縁さん……僕なんかでいいの?」

「あぁ?てめぇはさっきから何グチャグチャと言ってんだ?
……決めた、今度のでぇとはテメエの部屋だ。この子達に暴れまくってもらうかんな!」

 あたいは猫にゃん達を奪い取り、逃げるように走り去る。
やっちまった……ついにあたいは『きす』をしちまったぁぁ!
しかも2回もだぜ?世の中ひろしといえど、2回もしてるヤツはそうはいないだろ?

 走って家へと帰ると、マサが『お嬢、顔真っ赤ですぜ?なんかいいことしてきたんですかい?』なんてふざけたことを言ってきた。
ムカついたから、とりあえずは庭の池に沈めておいた。てめえ今度は黒海に沈めっぞ!

 その日の夜、マサからとんでもない事を聞いちまった。
な、なんで男の部屋に女が行くことがえっちする事になるんだ?
ど、どうしよう?落ち着け、落ち着けあたい!とりあえずは……下着を買いに行くか?

4―

(こ、こんな感じていいのか?それかもっと胸を強調させたほうがいいのか?エムジカイキャクってのはどうやるんだ?)

 快晴の日曜日、あたいは買ったばかりの下着を身につけ、鏡の前でせくしーぽーずをチェックをしてる。なかなかイケてんじゃねえのか?これならアイツも喜びそうだな。

……ば、バカヤロウ!何でもねぇよ!ヘンな勘違いしやがったら黒潮に流しちまうぞ!
にしても、ついに来ちまったのか。ついにこの日が来ちまったんだな。
先週勢いで約束しちまったアイツの部屋でのでぇと。ついにその約束の日曜になっちまった。
昨日の夜から心臓がバクバクで破裂しそうなあたい。落ち着くために庭の池のマサに餌をやる。

 そもそもあたいがこんなに緊張してんのはマサが
『男の部屋に遊びに行く。それすなわちSEXすることですぜ』
なんて言いやがるからだ!マサが変な事言いやがるから下着に3万もかけちまったじゃねぇか!
黒のスケスケ下着で悩殺……殺してやんよ!覚悟しときな!

 あぁ?アイツに見せる気満々じゃねぇかって?ば、バカ言ってんじゃねえ!
あたいはコイツと決めた男にしか体は許さないと誓ってんだよ!そう簡単にきすもさせねぇよ!

 あぁ?きすはしたんじゃねぇのかって?
……うるせぇ!あんま細かいことクダクダ言ってっと日本海溝に沈めっぞ!
だいたい、き、きすするにしてももっとこう雰囲気のいい場所でしてこいよ!
昼間の公園でなんかしてきやがって……ずっと待ってたかいがねぇじゃねえか!

 鏡から離れ、出かける準備を整える。
忘れ物はねぇな?弁当も気合い入れて作ったし、猫にゃん用のご飯も用意した。
これで準備はOKだな?おっといけねぇ、シャワー浴びなきゃな。

 ……あぁ?朝から三回目のシャワーじゃねぇかだと?
うるせぇ!あたいはキレイ好きなんだよ!体洗っちゃ悪いのかよ!
いきなり迫られたりしたらヤベェだろ?
……って何言わせんだゴラァ!クリオネみてえに流氷の下で泳ぎてぇか!

 シャワーを浴びたあたいは猫にゃん二人と弁当箱を入れたカバンを持ちアイツの部屋に向かう。
……一応予備の下着を持ってくか?もしもってことがあるかもしれねぇからな。
興奮したアイツが下着を破くかもしれねぇし……な、何でもねぇよ!

 あたいの家から電車で3駅、駅まで迎えに来たアイツと手をつなぎ、部屋まで案内させる。

「縁さん、そんなに強く握らなくてもいいんじゃないかな?」

「あぁん?知らない土地で迷子になるのはイヤだから、仕方なく手をつないでやってんだよ!」

「ははは、そうだね。縁さん美人だから、一人にしちゃいけないよね」

「び、美人?……テ、テメエあたいをからかうとはいい根性してんじゃねぇか!
ムカついた、もっと強くしてやる、覚悟しな!」

 ムカついたあたいはコイツの腕にギュッと抱きつく。
おお?結構筋肉質な腕してんじゃねえか。これなら枕にしてもいい具合なんじゃ……何でもねぇよ!

「縁さん?それはマズイよ、さすがに抱きつくのは反則だよ」

 何だコイツ?顔真っ赤にしやがって……さては照れてやがるな?ならもっと抱き締めてやんよ!
オラ!オラオラオラ!ますます赤くなるコイツの顔。ざまあみやがれ!あたいをからかうからだ!

 腕を組んで歩いた駅前商店街。見知らぬババアがあたい達を見て
『二人とも真っ赤な顔して初々しいカップルだねぇ、お似合いだねぇ』とかほざきやがった!

 カップルだと?お似合いだと?おいババア!テメエは別府温泉に沈めてやるよ!
おいテツ!チケットを手配してババアに渡してこい!たっぷり温泉に沈んできやがれ!ってな!

 駅から歩くこと10分、コイツの家に着いた。
閑静な住宅街にたたずむデカイ家。あたいんトコ程じゃねぇが、なかなかのでかさだ。
これならいつ嫁に来ても大丈夫……誰が嫁だゴラァ!
変なこと考えやがったらハワイの教会…じゃねえ、海に沈めっぞ!
……あれ?今気が付いたんだが、コイツって一人暮しじゃねぇのか?

「なぁ、テメエ一人暮しじゃねぇのか?親と住んでんのか?」

「そうだよ、両親と住んでるよ」

 はぁぁ?なら先にそう言えよ!お土産買ってきてねぇよ!

「テメエなんで早く言わねぇんだ!お土産買ってきてねえだろうが!
あたいが失礼な女と思われて交際を反対されたらどうすんだよ!
それによ、せっかく勝負したぎ……ったぎたにすんぞ、テメエ!」

「ゴ、ゴメン。両親は旅行でいないからいいかなって思って。
とりあえず中に入ってよ。子猫達も遊びたがってるだろうしね」

 あ、危ねぇ。思わず勝負下着なんて言っちまうとこだったぜ!
勝負下着穿いてるなんて知られたら……誰が勝負下着だゴラァ!
あたいはオシャレしたい年頃なんだよ!変な想像しやがったら鳴門の渦潮に突き落とすぞ!

「縁さんが交際に反対されたらどうするとか考えてたなんて嬉しいよ。
けど安心して。たとえ両親が反対しても僕は縁さんとずっと恋人でいたい。愛してるんだ」

 んな?テ、テメエ……クセェ台詞を真顔で言うんじゃねえよ!バ、バカかテメエは?
んなこと言われたぐらいであたいが喜ぶと思ってんのか?このボケが!

「え、縁さん?抱きつかれると、ドア開けれないんだけど?」

「うるせえ!抱きついてなんかねえ!躓いただけだ!」

ちっくしょう!くっだらねえことをペラペラ言いやがって!
ふざけすぎっと二人きりでの沖縄旅行で綺麗な空の下、青い海に一緒にダイビング……じゃねえ、沈めっぞ!

5―

「飲み物持ってくるから少し待ってて」

「お、おう、淋しいから早く戻ってこいよ……ね、猫にゃん達がだぞ!変な勘違いすんじゃねぇぞ!」

「うん、すぐに戻るよ。せっかく縁さんが遊びに来てくれたんだ、少しでも一緒にいたいからね」

「テ、テメエ……さっさと行ってこい!」

 あたいと猫にゃん二人をおいて笑いながら部屋を出ていくアイツ。
ふざけやがって……なにが少しでも一緒にいたいだ!
あんまふざけてっと、南国の青い海でテメエを浮き輪変わりにして一緒に泳ぐぞ!

 あたいはアイツが戻ってくるまでの間、部屋を見回すことにした。こ、これがアイツの部屋か。
六畳程の広さでベッドと机、パソコンが置かれてるだけの、アイツらしいシンプルな部屋。
あたいは机に置かれている写真たてに気が付いた。
猫にゃんと戯れてるあたいの写真。あのヤロウ……隠し撮りしやがったな?
テメエだけズルイじゃねぇか!テメエもあたいに写真よこしやがれ!
ムカついたあたいはアイツの枕を手に取り壁に叩きつけ……これに毎晩頭乗っけて寝てんだよな?
ちゃんと綺麗にしてんのか?涎で汚れてんじゃねえのか?
汚れてるか確かめるため匂いを嗅いでみる。……アイツの匂い。
なんでだ?なんでドキドキするんだ?

 あたいは思わず枕を抱き締める。やべえ、ドキドキが止まんねぇ、あたいいったいどうしたんだ?

「お待たせ、縁さんはコーヒーでよかったかな?」

「ふおおおおお~~~!!!!」

 ぶん!抱き締めていた枕をアイツに投げ付ける。テメエ、ノックぐらいしろ!

「うわ!いきなり何するんだよ!あ~あ、コーヒーこぼしちゃったよ」

 枕が顔に命中したアイツは持っていた盆を落とし、飲み物を床にぶちまけた。
どんくせえヤロウだ。やっぱあたいがいなきゃダメだな。

「うっせえ!急に入ってきて脅かすほうが悪い!
あたいが拭いててやるからテメエは飲み物入れてきな!」

 床を拭こうとしてるアイツからタオルを奪い、床を拭く。
あたいが床に這いつくばって掃除してやってんだ。コーヒーをふ~ふ~ぐらいはしてくれんだろうな?

「え、縁さん……その、見えてるよ」

「…は?何が見えてんだよ?」

「いや、だからその……黒い下着が」

「黒い下着?……ば、バッカヤロウ!テメエなに勝手に見てんだよ!
人が気合い入れてはいてきた勝負下着を勝手に覗くなんてふっざけんな!テメエマジで沈めんぞ!」

 クソが!ミニスカートをはいてきたのが裏目に出ちまった!

「ご、ごめん!わざとじゃないん……勝負下着?」

「んな?な、なななんでもねぇよ!テメエはさっさと飲み物入れこい!」

 慌てたあたいはアイツを部屋から蹴り出す。
や、やべえ、危なかったぜ。思わず口が滑っちまった。誤魔化せたか?
とりあえずはコーヒーを拭かなきゃな。猫にゃん達が舐めたらいけねぇ。
あたいにじゃれてくる猫にゃん達と格闘しながら床を拭く。拭き終わったと同時にアイツが戻ってきた。

「お待たせ、床を拭かしちゃってゴメンね。コーヒーでいいんだよね?」

「お、おう、気にするな。あたいは家庭的な女なんだ、掃除ぐらい屁でもねぇよ」

「そうなんだ?じゃあ時々掃除お願いしてもいいかな?」

「任せときな!あたいにかかれば綺麗さっぱりピッカピカよ!」

「じゃあこれからもぼくの部屋に来てくれるんだ?
嬉しいなあ、好きな子に掃除してもらうの夢だったんだ」

 んな?ば、バカヤロウ!んなこと言われたぐらいであたいが喜ぶと思ってんのか?
このヤロウざけやがって……二人きりの海岸で沈む夕日を見ながら海水ぶっかけんぞ!

「やっぱり縁さんって家庭的な人なんだね。お弁当すっごく美味しいよ」

「さ、さいでございますか、お口におあいしてよろしかったと存じ上げます!」

「……縁さんどうしたの?言葉遣いがとってもヘンだよ?」

「うっせえ!苦労して作ったんだ残さず食えよ!」

 お昼になり、あたいの持ってきたお弁当を広げ昼食を取る。
あたいとコイツ、猫にゃん二人の家族揃っての昼飯だ。

「さすがにこの量は食べきれないよ。晩ご飯でいただくね。今日は親がいないから助かるよ」

「なんだ?親がいねえとメシも作れねぇのか?」

「恥ずかしながらそうなんだ。洗濯もやらなきゃいけないんだけど溜まっていくいっぽうなんだ」

なんだよ、洗濯もできないのか?情けないヤツだな。……オジキに習ってて正解だったな。

「なっさけねぇな。おし!あたいが全部やってやんよ」

「えええ!そんな悪いよ、そこまで迷惑かけれないよ」

 あたいの言葉に首をブンブンふるコイツ。さては照れてやがんな?お~し、ちょっていじめてやるか?

「遠慮すんなって!なんなら朝飯も作ってやろうか?」

「そ、それはダメだよ!いくらなんでもそこまでは…」

 真っ赤な顔で照れ照れなコイツ。あっはっは!テメエ真っ赤じゃねぇか?

「な~に照れてんだ?あたいが作ってやるって言ってんだ、テメエは黙って頷きな」

「けど着替えなんて用意してないし……」

 着替え?朝飯作るのになんで必要なんだ?ま、一応持ってきてるからいいけどな。

「着替えなら持ってきてるぜ」

「ええええ!じゃ、じゃあ縁さん、最初から僕の部屋に泊まるつもりで?」

 ……んなにぃぃぃぃぃ~~~!!!!

 なんでそうなっちまうんだ?
あたいはただ着替えを持ってきてて、朝飯を作ってやるって言っただけだぞ?
……そういや朝飯って朝作るもんだよな?着替えることっていや泊まる時ぐらいしかねぇな。
……泊まらなきゃいけねえのか?
そりゃ一応はお泊りセットを持ってきてっけど、泊まるってことは……

「縁さん、本当にいいの?僕は君と一緒にいたいから嬉しいけど……」

「あ、あたいは……あたいもテメエと一緒に……いたい」

 ……おわ!なに言ってんだ!今のはあたいじゃねえ!
誰かがあたいの口を勝手に使い、しゃべりやが……んん!

 急に抱きついてきたコイツにきすで口をふさがれた。
な、なにしやがる!いきなり押し倒すなんて……ふああ!

「ダ、ダメだ!猫にゃん達が見て……あん!せ、せめてベッドで、ひゃん!」

 あたいの言うことを聞かず、唇から首筋、耳から唇へと這うように動くコイツの舌。
舌が触れるたび、吸い付かれるたび頭がおかしくなる。
胸を揉まれるたび、太ももを触られるたびにあたいじゃなくなる。
コイツのせいで別人になったあたいは、コイツを抱き締め、思ってもないことを口走っちまった。

「すきぃ……だいすきぃ、あたいを、あたいを奪ってぇ!」

「縁さん……ゴメン、もう止めれないよ!」

 ブラをはぎ取られ胸をしゃぶられる。
吸い付かれるたび声が出て、噛み付かれるたび電気が走る。
ショーツの中で蠢くコイツの指があたいを溶かし、ぐちょぐちょと音を出す。

「縁さん、黒くていやらしい下着だね。こうなることを期待してたんだ?」

「ばかぁ……テメエを喜ばそうと着てきたんだよ」

「ありがとう、すっごく嬉しいよ。もっとじっくり見ていたいけど……脱がすよ」

 無言のままあたいは腰を上げ、コイツにショーツを脱がさせる。
ショーツを脱がせ、あたい自身をまじまじと見つめるコイツ。

「ばかぁ、あんまりいじめないで……」

「綺麗だ……縁さん、すごく綺麗だよ」

「もう、あたいおかしくなりそうだ……早く一つに、お願い、早く抱いて」

「縁さん……いや、縁。僕の縁、僕だけの縁。愛してるよ」

 くちゅ……いつのまにか裸になっていたコイツがあたいに添えられる。

 ついに……ついにコイツと結ばれるんだ。
体のなかに入ってくる熱い異物。その異物が突き進むたびにあたいは喘ぐ。
体の中で『ブツン』と音がした瞬間、体中を激痛が駆け巡り、
あたいは我慢するためにコイツの背中に爪をめり込ませた。

「はぁはぁはぁはぁ……全部入ったよ。縁、愛してるよ」

「うん、感じてるよぉ、あたいの中がアンタでいっぱいになってる……
すきぃ、あたいもあいしてるよぉ」

「縁……動くよ」

「ふあ!んん、んああ!うそぉ?きもちいい!きもちいいよぉ!」

 あたいを貫く異物があたいを狂わせる。
初めて抱かれたはずなのに、貫かれるたび、引き抜かれるたびあたいは狂う。

「あ、いい!すごくいい!奥が気持ちいいの!胸噛まれながらがいいのぉ!」

「はぁはぁはぁ、縁、僕もうイキそうだよ、もう出すよ!」

「来て、あたいに出して!あ、ああ!イク!イクイクイク……んあぁぁぁぁ~~!!」

ドピュン!ドピュドピュ!ドクン!ドクドク…ドクン…ドピュ

 あたいを勢いよく貫いた異物から吹き出た熱い精液。
子宮の中を精液が満ちていく。その熱さを感じたあたいは体中が真っ白になり意識を失った。


6―


「その……縁さんゴメン」

「……こっちこそ悪かったな。朝飯作るって約束したのに、その……失神しちまってて」

「いや、それは僕が無茶したから」

「確かにそうだよな。初めてだったあたいを6回も抱いたんだからな。テメエは調子に乗りすぎだ」

 次の日の朝、ベッドの中でコイツの腕を枕にしながら文句を言う。アソコがヒリヒリして痛ぇんだよ。

「あんま調子にのってっと、夏休みに海に沈めに行くぞ?」

「そうだね、夏には二人で海に行きたいね」

「ん~?それはでぇとの誘いなのか?」

 コイツの胸に顔を乗せ、人差し指で胸をいじってやる。
気持ち良さそうな顔をしやがんな、男も胸が気持ちいいのか?

「そうだよ。縁さんの水着姿、とっても楽しみだよ」

「このすけべが!もしあたい以外の女を見やがったら……」

「『海に沈めんぞ!』だよね?」

「ば、バッカヤロウ……テメエはムカついた。
だいたいあたいを好き勝手に弄びやがって……食らえ、10倍がえし!ん、ちゅ」

 生意気なコイツの口をきすでふさぐ。ホントテメエは生意気なんだよ!
あたいの胸に伸びてきたコイツの手をピシッと叩く。

「テメエは猿か?一晩中やったんだ、いくら何でももういいだろ?
猫にゃん達も腹空かせてるだろうから……あっちゃ~、こりゃあ掃除が大変だな」

 あたい達が相手にしなかったのを怒ったのか、猫にゃん達がそこら中でオシッコやウンチをしている。コイツも気付き、ため息をはく。

「な~にため息吐いてんだよ。安心しな、あたいが綺麗に掃除してやんよ」

「え?いいの?部屋中で汚してるよ?」

「あたい達の子供がした粗相だ、かわいいもんさ。
ただな、こんだけ汚れてんだ、掃除に一晩はかかるわなぁ」

「え?今夜も泊まってくれるの?」

「おう、泊まってやる。その変わりにだな……今夜も頑張ってもらえるか?」

「うん!任せてよ!じゃ、早速今から……」

「コラ!まずは掃除だろうが!
掃除が終わったら猫にゃん達にご飯を食べさせて、あたい達も食べなきゃな」

 あたいの言葉にシュンとするコイツ。
コイツ、実はかなりのすけべじゃねぇのか?ま、いいや。あたいだけにすけべなら許してやる。


 けどな、もし浮気をしようもんなら……丸太に縛り付け、太平洋単独横断させっからな!
最終更新:2007年12月19日 21:57
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