はぁぁ~……切ないですわ。楓はとても切ないのです。
貴方と離れ離れで暮らすなんて、とても切ないのです。
きっと貴方も、切なくて悲しくて……眠れぬ夜を過ごしておいでなのですね?
ですが、もうしばらくお待ちになってくださいませ。
もう少しで私はこの学園を卒業できますわ。
卒業さえ出来れば、誰も貴方と私の関係に文句を言ってくる者はいなくなります。
あぁ……何故私たちは出会ってしまったのでしょう?
何故身を焦がすような恋に落ちてしまったのでしょう?
はぁぁ~……切ないですわぁ。楓はとても切ないんですわ。
「おはようございます、楓お姉さま」
「綾小路さん、いい天気ですね。その髪飾り、とても似合っていますわよ」
「まぁ!ありがとうございます!お姉さまに褒めていただけるなんて、とても嬉しいですわ!」
リムジンを降りるなり、朝の挨拶をしてくる綾小路さん。
私が来るのを待って、挨拶してくるなんて、毎日毎日律儀な方ですわね。
そんな綾小路さんは、私の褒め言葉に頬を染め、嬉しそうに俯いている。
なるほど。その可愛らしい仕草が、男性陣に大人気なんですわね。
この愛らしい仕草が、あの方のお心を惑わすかもしれませんわね……この女、要注意ですわ。
「伊集院さん、ごきげんよう。いいお天気ですね」
「ホント、いいお天気ですわね、三千院さん。
澄み切った青空を見ていると、心まで晴れやかになりますわね」
「まったくその通りですね。澄んだ空を見ていると、心が洗われるようですね」
眩しそうに空を見つめる三千院さん。
その空を見つめる横顔は、同性である私が見ても、綺麗と思ってしまうほど整っている。
さすがは私と学園の2大美女と並び称されるほどの方ですわ。
ですが……ふん!胸は私の圧勝ですわ!しかし、万が一という事も考えられますわね。
早めに手を打っておくべきかしら?
「では、三千院さん。私、一時限目の準備がありますから失礼しますわ」
「ああ、そういえば伊集院さんは学級委員でしたね?
プリント配りなんて先生がしてくださるのに、わざわざお手伝いするなんて……素晴らしいですね」
「三千院さんに褒めてもらえるなんて、光栄ですわ。では、ごきげんよう」
ふん!貴女なんかに褒めてもらっても、嬉しくともなんともないですわ!
私が褒めていただきたいのはただ御一人。そう、あのお方だけ……
あのお方のお役に立てる幸せを感じながら、職員室へと急ぐ。
あのお方は……いましたわ!コピー機でプリントを刷っていらっしゃいますわ!
「真柴先生、おはようございます。今日もプリント配り、お手伝いしますわ」
「おはよう、伊集院さん。いつも悪いね、助かるよ」
あぁ……その輝くような笑顔、素敵ですわ。
その笑顔を見るためでしたら、その笑顔を私だけに向けるためなら……なんだってできますわ。
「真柴先生、おはようございます。昨日はどうもご馳走様でした!」
私と耕一様の至福の一時を邪魔する女が一人。コイツは……確か新任の美術教師でしたわね?
「間宮先生、おはようございます。先生って、歌、上手いんですね、ビックリしましたよ」
……歌が上手い?どういうことですの?
まさかこの女……私の耕一様とお出かけしたんですの?
「またまたぁ~。わたし、そんなに上手くないですよ」
「ははは、自分なんかよりも相当上手かったですよ?また行きましょうね」
「もちろん先生の奢りですよね?」
「ええ~!マジですか?じゃあ給料日後にでも行きましょうか?」
「分かりました、給料日後にですね?うふふふ、楽しみにしてますね。では失礼します」
……この女、いったいどんな手を使って耕一様を誑かせたんですの?
いけませんわ!耕一様は純粋なお方。
きっとこの女の罠にかかってしまったんですわ!
私の耕一様を罠にかけるなんて……許せませんわ!
「はぁぁ~……間宮先生ってカワイイよなぁ。伊集院もそう思うだろ?」
「そうですわねぇ……でも意外とああいう純情そうな女ほど遊んでいるものですわよ?」
「おいおい、なんかトゲのある言い方だな」
「例えば……複数の男性と性行為を持っていたりとか?」
「お前なぁ……いくらなんでも言いすぎだろ?」
そうですわ。耕一様に手を出そうとする女なんか、淫乱な女に決まってますわ!
……そう、アイツはきっと淫乱なんですわ。
……そう、毎日毎日男を変えてSEXをしているんですわ。
……そう、だからそのSEX相手に耕一様を狙っているんですわ。
……そう、だから私は耕一様に毒牙がかからないように、あの女の相手を用意しないと。
……そう、耕一様に目が向かないように、もう二度と近づかないように、相手を用意しないと。
…………クフフ、クカカカカカ。そうですわ、さっそく用意しなければいけませんわ。
「間宮先生、お待ちしておりましたわ。今夜は曇っていて月もなく……男を狩るにはいい夜ですわね」
仕事も終わり、コンビニ袋を片手に帰ってきたら、マンションの前で話しかけられる。
この制服は……うちの生徒?何故生徒がわたしの部屋を知っているの?
「えっと、あなたは……あ!もしかして伊集院さんでしょ?今朝も職員室で会ったわよね?
伊集院さんがわたしに会いに来るなんて珍しいわね。で、いったいどうしたのかな?
……え?男を狩る?あ、あなた何を言っているの?」
男を狩る?この子、いったい何を言っているの?
「何を言っているのって……先生は複数の男とSEXをする淫乱な女教師なんでしょう?」
い、淫乱な教師?この子、いったい何を言っているの?
「ば、バカなこと言わないで!一体誰がそんなことを言っているの!」
思わず声を荒げて叫んでしまう。
いったい誰がそんな噂を流しているのよ!理事長の耳に入ったら、クビになっちゃうじゃないの!
せっかく決まった職場なんだ、こんな根も葉もない噂でクビになってたまるものですか!
「言いなさい。いったい誰がそんな噂を流しているの?さっさと言うのよ!」
「とぼけても無駄ですわ。私には全て分かっているんですの。
あなたがその汚らしい身体を使って、耕一様を陥れようと考えている事も。
たかが淫乱教師のクセに、耕一様に手を出そうとするなんて……身の程知らずにも程がありますわ」
「はぁぁ?あなたいったい何を言っているの?耕一様って誰よ?」
耕一様?この子、いったい誰の事を言っているの?
……耕一?そういえば真柴先生の名前って確か……耕一だったわね?
「ま、まさか、あなた真柴先生の事を?」
「私の婚約者に手を出そうとするなんて、とんだ淫乱女ですわね。
耕一様に目が向かないように、私がお相手を用意してさし上げましたわ。感謝しなさいな」
こ、婚約者?えええ?あのパッとしない真柴先生が?
この日本有数の大金持ちの、伊集院さんの婚約者?ウソでしょ?
「ちょ、ちょっと待ってよ!あなたが真柴先生の婚約者?
ダ、ダメよ!生徒と教師がそんな関係だなんて許されないわ!」
「そう、私たちは許されない、禁断の恋をしているんですの。
ですから耕一様は学園では私に冷たく当るんですの。
一度くらいは愛を囁いて下さってもいいと思うんですけど……お堅い耕一様も素敵ですわ」
ウソでしょ?なんであんなのが伊集院家の一人娘の婚約者なわけ?
「私が学園に入学して、そこで耕一様との運命的な出会いをしましたの。
真面目な耕一様、人目を気にしてか、出会ってから一度も愛を囁いてはくれませんの。
あぁ……楓は耕一様の愛の囁きを入学からずっとお待ちしているというのに……辛いですわぁ」
はぁ?この子、いきなり何を言い出すの?
「今だに一度も手さえ握って下さらない、お堅い耕一様。
私はいつでもいいですのに……教師と生徒という関係が私たちを引き離しているんですわ」
「伊集院さん、あなたが真柴先生と恋愛関係にあることは分かったわ。
でもそれがあたしに何の関係があるの?いったい何しにここに来たの?」
何なのこの子?頬を染めて惚気だして……これ以上訳のわからない話は聞きたくないわ。
「でも愛というものは、障害があればあるほど燃えるんですわ。
でも私たち二人は障害にも負けず、ゆっくりと愛を育んでいますの。
そう、私たち二人にはどんな大きな障害でさえも、恋の引き立て役にしかなりませんの」
ダメだ、目がイッてるわ。自分の話に酔っているみたいね。
まさか伊集院さんがこんな危ない子だとは思いもしなかったわ。
「……でもね。私たちの愛の引き立て役といえど、邪魔な物は邪魔なんですわ。
前任の美術教師も、同じく前任の保健医も。
私が生徒であるが為に耕一様と肉体関係を結べないのをいい事に、
身体を使って耕一様を誑かそうなどと……許せませんわ」
「ちょっと待って!何を勘違いしてるか知らないけど、真柴先生とは何の関係もないから。
全部あなたの思い違いよ。わたしをあなたの勝手な思い違いに巻き込まないで!」
前任の美術教師もってなによ?保健医もっていったい何よ!あなた、その人たちに何をしたのよ!
「少し話しすぎましたわね、先生も体が疼いてたまりませんでしょ?
お相手をたくさん御用意していますので、お部屋の方へ御案内いたしますわ。
白人、黒人、もちろん日本人も御用意していますわ。
道具もバイブやローター。ムチにロウソク、拘束具も準備させてますわ。
淫乱な先生の為に御用意いたしましたので、心ゆくまで御堪能してくださいな」
わたしの話を無視し続けた伊集院さんは、ニッコリと微笑み、その細い指を鳴らした。
すると、どこからともなく黒いスーツ姿の男達が現れて……
はぁぁ~……切ないですわ。楓はとても切ないのです。
貴方と交わる事ができないなんて、とても切ないのです。
きっと貴方も、切なくて悲しくて……眠れぬ夜を過ごしておいでなのですね?
ですが、もうしばらくお待ちになってくださいませ。
その時の為に私は、自分でも触っていませんの。自分で寂しさを慰めたりしていませんの。
私の身体を好きに触れるのは、貴方だけですの。
私の身体全ては貴方の物。唇も、胸も、首筋も、太股も、お尻も……全て貴方の物ですわ。
貴方に抱いてもらうことを、胸を吸われることを、お尻を揉まれることを、激しく貫かれる事を、
毎日毎日貴方に抱かれることを思い、切なさで枕を濡らし、眠れぬ夜を過ごしていますわ。
でも私たちは生徒と教師、禁じられた愛。交わる事は出来ませんわ。
でもあと少し……あと少しで私たちは真の恋人になれるんですわ!
その際には視線でではなく、言葉で愛を囁いてくださいませ。
いつものように目で愛を囁くのではなく、私の耳元で、とろけるような甘い愛を囁いてくださいませ。
愛を囁いてくださるまでは……邪魔なゴミを排除し続けますわ。
そう、媚びるような態度で、貴方に接しているあの女も……
「楓お姉さま、おはようございます」
「ごきげんよう、綾小路さん。その髪飾り、お気に入りのようですわね?
昨日は真柴先生にも褒めてもらってましたわね?先生が褒めるだけあって……とても似合ってますわ」
……そう、昨日、あのお方に褒めてもらっていましたわ。
この私でさえ、まだ口に出しては褒めてもらっていないというのに。
クフフ、クカカカカカ……そう、私はまだ褒めてもらえないというのに!
「まあ!楓お姉さまにまた褒めていただけるなんて……とても嬉しいですわ!」
「ウフフフ、そんなに嬉しそうにするなんて……とてもカワイイですわね。
そうですわ、綾小路さんにとても面白いものをお見せしたいんですの。
放課後の御予定、空いていますかしら?
もしよければ、1週間前から飼うようになったペットをお見せしたいんですの。
とても……本当にとてもいい声で泣くんですわよ?」
「ええ?わ、私なんかがお姉さまのお部屋に行ってもよろしいんですの?」
「ええ、是非来て下さいな。もしよろしければお泊りしていただきたいくらいですわ」
「ホ、ホントですか?是非お泊りさせて下さいませ!」
「よかったわぁ~。これであの子も喜びますわ。
新しいペットはとても寂しがりやなんですの。ですから他のオスと一緒に寝させていますの。
一人では寝ることが出来ない寂しがりやさんなので……あなたも一緒に寝てあげてくださいな」
そう、一緒に寝てあげてくださいな。一晩中ゆっくりと、たっぷりと寝てあげてくださいな。
クフフ、クカカカカカ……耕一様に近づくゴミは全て捨てますわ。壊しますわ。潰しますわ!
耕一様……今しばらくの御辛抱ですわ。貴方に近づくゴミは全て壊しますわ。
壊し終えるまでの間、辛いでしょうが御辛抱してくださいませ!
クフフ、クカカカカカ……ゴミはゴミらしく、野良犬にでも犯されなさいな。ねぇ、綾小路さん?
最終更新:2008年01月27日 21:21