Le souhait ウィッシュ編9(完結)
ポチ「おや?起こしてしまいましたか」
そう言いながら、紳士的な猫は障子を閉める。
ハロ「いや、寒いから起きたんだ」
傍らでは、ウィッシュはまだすうすう寝息を立てていた。
ポチが歩み寄ってきて言う。
ポチ「可愛いですね」
ハロ「・・・お前にはやらんぞ」
ポチ「ふふ、そういう意味ではないです」
ハロ「ああ。可愛いさ。でも可愛いばかり言ってられないよな」
無垢なその顔を見つめていると、『可愛い』が『可哀想』に変わってきてしまうんだ。
ハロ「お前はあの滝に飛び込むの、怖く、ないんだよな」
猫の形をしているが、中身はやはり人間なんだろう。俺は試しに尋ねてみた。
ポチ「後悔はしたくないものですから・・・」
ハロ「後悔?」
ポチ「いえ。何でもありません。私は前も言ったとおり、このこの助けになるなら何でもする覚悟です」
ポチはとことことウィッシュの枕元のほうに歩いていき、そこに座った。
ポチ「その覚悟は、あなたも同じでしょう?」
ハロ「そうだ」
ポチ「なら、今更お互いに聞き確かめる必要も無いでしょう」
ハロ「・・・」
こいつ、ウィッシュの何だったんだろう。
色々謎は多い。すべてわかっているような口ぶりで、まるで以前も同じことを体験していたかのようだ。
ウィッシュがあの滝から落ち、人柱となった頃の、何百年も昔の話。そんな頃の事、俺には知る術さえも無い。
ハロ「ところで、何やってるんだ?」
ポチは、その目の前に揺れるウィッシュのアホ毛にむかってちょいちょいと手を出している。
ポチ「どうも気になってしまって」
猫の習性か。
ポチ「できれば、私をここから離して頂けませんでしょうか?」
ウ「ん、んん・・・」
ウィッシュは寝返りを打つ。俺もポチもびっくりとして一瞬硬直した。が、ポチはまた手を出さんとする。
ハロ「何がしたいんですか?」
ポチ「な、何もしたくないんですが、つい」
俺はやれやれといった感じで、ポチの腋のあたりを支えて持ち上げた。
ウ「ふぁ~・・・もう朝?」
そしてその時、ウィッシュは体を起こした。目をこすり、手を上げて伸びをしている。
やがて、枕元に立ってポチを抱えている俺に気付いた。
ウ「わっ!?何やってんの?」
ハロ「ジョギングしてるように見えるか?」
ポチ「それも的確な返事とは思えませんが」
ウ「何かいたずらしようとしたでしょ?」
ハロ「そんな事はない」
むしろ、助けてやったほうなんだぞ。
ウ「そういえば心なしか頭に違和感が」
ウィッシュはアホ毛をちょいちょいといじった。
ポチ「き、気のせいですよ」
ポチは俺を振り払い、綺麗に床に着地した。
ウ「そっか。ポチがそう言うならそうかな?」
うわっ、俺ってば信用無いな。今まで付き合った時間の差で圧倒的有利だった筈が猫に負けた。
すこし間があって、俺はその間に『さあ行こうか』という言葉を入れようとしたが、しかしそれが言葉になる事はなかった。
せっかくウィッシュを取り戻したと言うのに、別人格のウィッシュの期待を裏切り、まだ足踏みしていたい自分が居た。
ハロ「なあ、教えてくれ」
ポチ「何ですか?」
ハロ「お前とウィッシュが滝壺に落ちた後、どのくらいでウィッシュは転生するんだ?」
ウィッシュも、不安そうな顔をしてポチを見つめている。
ポチ「神が、それを許すまで」
ハロ「神?」
ポチ「そうとしか、言いようがありません。もともと非現実的な話ですから」
ハロ「そう、か」
本当に、望みの薄い話だったんだな。
ウ「で、でも、私は信じてるよ?きっとうまくいくって!」
ハロ「・・・ウィッシュ」
ウ「はえ?」
ハロ「俺、ずっと待ってるから。安心して行って来い」
ウ「・・・うん!」
ウィッシュは笑顔で応えた。
ハロ「さ、そろそろ行こうか」
差し出された手を、ウィッシュは力強く握り返した。
恐怖や不安は無いわけではなかった。況してや、それを無理して抑え込んでいると言うわけでもない。
ウィッシュの『願えばいつか実現するよ』という楽観的な考え方は、嫌いじゃない。『いつ』になるかわからなくても。
いつもウィッシュは人々に希望をくれる。自らがその願いを汲み、叶えていくことで。
でもその事は、ウィッシュを確実に人間から離れさせていく事だったんだ。やっぱり、そんなのはおかしい。
…なんて、真面目な事を言うつもりもない。
俺は単にウィッシュが好きで、だからここから連れ出そうとしているだけだと、そう言われたら真面目に言いわけするだろうが。
ああ、莫迦なやつだなあ俺は。
ハロ「どうせならもう一回くらい・・・」
ポチ「口に出てますよ」
ウ「バカ」
言われてしまった。
ハロ「い、今色々と思い出を振り返ってきたんだよ!そしたら、なんかさびしくなって」
ウ「むう。でもこんな時に言う言葉じゃないよ!」
ハロ「反省」
ウ「もう・・・」
落ち葉を踏みしめ、昨日ウィッシュを追って走ってきた道を通る。
昨日は真夜中だったから足元も見えないくらいだったけど、今はそうでもない。
だがこのあたりは鳥の声一つせず、なにやら物寂しい気分にさせる雰囲気があった。
ウ「ねえ」
ハロ「ん?」
ウ「昨日、ここ通ったよね?」
ハロ「ああ。追うのが大変だったぞ。もう必死だった」
ウィッシュは悲しそうな顔をして俯いた。
ハロ「おいおい、今更そんな事掘り返さなくてもいいじゃんか。俺は気にしてないって」
ウ「でも、ちゃんと謝ってなかったよね、その・・・ごめんなさい」
ハロ「謝んなって言ってんだろうがこのバカチンがぁ!」
ウ「えっ!?あ、ごめ・・・あ、うん」
慌てふためくウィッシュ。
ハロ「そりゃ、俺もあの時はどうすればいいか本気で悩んだけどさ、ウィッシュが戻ってきてくれた後からは、本当にもう
どうでもよくなってきたんだ。だから心配しすぎるな。ハゲるぞ」
そしてそのアホ毛が抜け落ちるぞ。
ウ「はっ、ハゲないもん!」
森を抜け、古い神社の裏手に回り・・・そこには、当然ながら塚と滝があった。
昨日見たときも十分薄気味悪い場所だったが、昼間でもその雰囲気はそのままだった。
忘れ去られた土地。誰も来ない、気にも留めやしないところ。
人々は、形だけの新しい神社で願い事を続け、ウィッシュの塚はここに置き去りにしてきた。
その事をそいつらは知りもしないだろうが、それでも俺はそう考えると腹が立った。
壁のような崖の、遥か上方に開いた穴から流れる、巨大な滝。
すべてを流してしまいそうなその流れは、小さな滝よりも潔くすべてを流してくれそうな感じがした。
それが前向きな感情であるか、後ろ向きな感情であるか――それを考えるのとは別にして。
ウ「儀式とかはないの?」
ポチ「滝の音にも負けない大きな音がする楽器があればいいのですが」
ハロ「何でそんなものが要るんだ?」
ウ「神様に『やるぞー!』って伝えるためだよ」
ウィッシュが答えた。・・・わかりやすい解説だ。
ハロ「でも、そういうことは出発前に言って欲しかった気がしないでもない」
皮肉をこめてポチに言う。だがポチはそれを無視し、大きく息を吸い込んだ。
ポチ「オァ――――ォン・・・」
渓谷に、ポチの声が響いた。
なるほど、ポチの声は昨日もよく響いた。
ファンタジーな感じに例えれば、その声はまるで心に直接語りかけるような感じ、と言うのがぴったりなほど。
猫の声であることを忘れさせるような神秘的な響きの余韻が収まった後、ポチはこちらを振り返った。
ポチは、真っ直ぐにウィッシュを見つめている。
ウ「え?あっ、そっか!」
ウィッシュは滝の傍に駆け寄る。・・・俺と手を繋いだまま。
ハロ「こらこら、俺も道連れにする気か」
繋いでいる手を指差して言った。
ウ「・・・一緒に行く?」
ウィッシュは首を傾げ、可愛らしく微笑んでそう言った。
ハロ「御免こうむる」
が、丁重にお断りした。
ウ「あはは。冗談だよ、冗談」
ハロ「笑えねーよ、バカ」
ウ「じゃ、繋いでてくれなくていいから抱っこしてくれない?」
ハロ「抱っこ?」
ウィッシュの手のジェスチャーによると、お姫様抱っこのような感じらしい。体重が軽いから、出来なくはないが。
ウ「えへへ・・・///一回やってもらいたかったんだぁ」
ハロ「それは良かったな」
満足げに微笑むウィッシュ。
ハロ「でもやっぱりこの体勢は『心中しろ』ってメタファーに他ならない気がする」
ウ「こう、『ぽいっ』てやればいいじゃん」
ハロ「出来るわけねぇだろ!」
ポチ「決まったようですね」
滝の前に歩み出るポチ。決まってないよ。
仕方なく、俺もそのまま滝の前に歩み出る。
ハロ「・・・」
眼下には、数十メートルはあろうという谷があり、その底に溜まる霧に向かって、この大きな滝が流れ込んでいる。
落下地点など見える筈もない。恐ろしい轟音とともに、冷気が下から吹きだしている。
端的にまとめれば、怖い。
足が竦み、その深さにくらんで吸い込まれそうになる。・・・本当に、洒落にならんな。
ウ「ハロ」
ウィッシュの呼びかけに、意識を取り戻す。
ウ「大丈夫だよ、私なら」
ハロ「で、でも――」
思わず、その言葉が出た。いい加減にしろ。俺はもう、やるしかないんだ。
ハロ「わかった。絶対、戻って来るんだぞ」
ウ「うん」
ハロ「約束だぞ、破るなよ!」
目を強く閉じ、あらゆる感情を押し殺し、そう叫んだ。
ウ「うん。ハロが待っててくれるんだもん、絶対、戻ってくるよ」
ハロ「――っ。待ってるから!!」
俺はついに、ウィッシュをその奈落へと放り込んだ。直後、三毛猫が俺の脇を通過し、飛び降りた。
俺はその場に、がくんと膝をついた。
ハロ「う・・・あ。うあああああああああっ!!!」
…。
目が覚めると、青空が俺を迎えた。
どうやら俺は、どこかの草原に寝っ転がっているらしい。
草原はさわさわと音を立て、風は俺の頬を撫でた。
ハロ「ここは・・・?」
俺は上体を起こした。
丘のようだ。目の前には、雄大な景観が広がっていた。緑に包まれた山々、その間に位置する集落。
身を乗り出し、目を凝らす。
明らかに、現代じゃないような。それに、俺のこの服・・・?着物?
?「あっ!」
女の子の声がした。
声のしたほうを振り向くと、彼女は居た。
ハロ「ウィッシュ!」
そう、ウィッシュだ。草原をこちらに向かって走ってくる、あの姿。
?「ほえ?『うぃっしゅ』?」
ハロ「『ほえ?』とか言う、アホ毛を立ててるようなやつはウィッシュしか居ないだろ」
びし、とそのとぼけた顔を指差す。
?「頭でも打ったの?」
ハロ「うーん、どうやらそうらしい。ここがどこかもさっぱりわからないんだ」
?「じゃ、教えたげるね」
ウィッシュ?は、くすくす笑いながら自己紹介をはじめた。
?「私は『うぃっしゅ』じゃなくて『萩(しゅう)』。あそこにあるのは私たちの住む集落だよ」
ハロ「・・・萩?」
萩「わかった?」
ハロ「あ、ああ。何とか」
萩「じゃ、遊びに行こっか!どうせ、お仕事怠けて来たんでしょ?」
ハロ「うん、まあ」
萩は俺の手を取り、草原を駆け出した。
ハロ「ちょ、ちょっと待・・・!」
――後から気付いた事だが。
ウィッシュは初め、精霊に転生した後自分の名前がわからなくなってしまっていて、人が言っているのを聞いて
『響きが好き』だとwishを名前にしたと言っていた。
もし、この萩っていう子がウィッシュなのだとしたら、ウィッシュの響きに萩の音が重なったんだろうな。
俺は記憶喪失のフリをして、まあ半強制的にそう決め付けられて。萩に色々な場所を案内してもらった。
やっぱりここは現代じゃない。けど、不思議と不安はなかった。
萩は、今のウィッシュと変わらない、いやそれ以上に元気で、明るくて、そして優しかった。
ついさっき別れを告げてきたウィッシュがまた傍に現れたかのようで、ちょっと泣きそうになった。
萩「ここが、私の神社」
にこやかに紹介されたその神社は、驚いた事に、俺がさっきまで見ていた朽ちた神社とよく似ていた。
裏手には滝があって、それでそこに塚が――
ハロ「う、うわああああっ!」
萩「ハル!?」
すぐ目の前で俺を心配してくれている人間の墓が、いずれそこに建つ。
ハロ「ウィ――萩、行かないでくれ。行っちゃ駄目だ!そしたらお前は何百年も・・・」
萩「ハル?」
嘆願する俺の顔を、怪訝そうに見つめる萩。
萩「・・・知ってるの?」
ハロ「え?」
萩「儀式の事」
ハロ「あ・・・」
萩は俯いて言った。
萩「その事は『悲しむから言うな』って村のみんなに言われてた筈だったんだけど、やっぱり誰かから聞いたんだ」
ハロ「う・・・」
萩は屈託のない笑顔で、更に続けた。
萩「でも私大丈夫。みんなのためになるんだもん。それに、これって私にしかできないらしいし。私がやらないと」
俺はおそらく、萩を止めることができなかったんだろう。俺は半ば諦観して、尋ねた。
ハロ「いつ、儀式なの?」
萩「・・・」
萩は急に悲しげな顔になって、口を噤んだ。
ハロ「そんな事も教えてくれないのか」
萩「明日・・・」
ハロ「へ?」
萩「あ、明日だよ!私だって怖いんだけど、でも、もう明日なの!」
萩は涙目になって、俺にそう吐き捨てた。
萩「あはは。でもさあ、何でよりによって、儀式の前の日にばれちゃうかなあ。せっかく隠してきたのに・・・!」
自らを嘲笑しながらそう言った。
萩「さよなら、だね。ハルとはもっと色々、お話したかったな・・・」
ハロ「あ、おい!」
言うなり、萩は踵を返し、神社へと走って行った。
俺はその言葉がまるで自分にむかって言われたかのようで、呆然とその場に立ち尽くした。
本物のハルもこんな気持ちだったんだろうか。それともすぐに追いかけて、説得しに行ったんだろうか。
『さよなら』なんて言って欲しくなかった。
必ず帰ってくるって、そう言ったじゃないか。錯覚させるような姿で言うな!
俺は神社に向かって走り出した。
強引に神社の中に入り、萩の部屋らしきところの戸を開け、驚く萩の両肩を掴んだ。
ハロ「約束してくれ、行ってもいい。だから、必ず帰ってくるって約束してくれ!」
萩「え・・・?」
よく見ると、萩の目は涙で濡れていた。泣いたために熱った体温も感じる事ができた。
?「何やってるんだ!」
前の部屋で払いのけた見張りが俺を取り押さえた。
そうだな。何やってるんだ。萩にそんな事を言ったところで通じるわけがない。ただの錯覚だ。俺は自分に嫌気すら差した。
萩「その考えはなかった」
ハロ「・・・え?」
萩「うん、戻ってくるよ」
その後、俺は外に放り出された。
しばらくすると、俺の父親らしい人物が俺を引き取りに着て、神主さんに頭を下げていた。
俺は帰った後もそいつに酷く叱られたが、その言葉が耳に入ることはなかった。殴られてもだ。
ただ、月を見上げ、ボーっとしていた。
父?「お前のせいで俺はとんだ一日を過ごす羽目になった」
父親らしき人物は、朝から酒をあおり、俺に文句を延々と言っていた。
父?「今日はこんな田舎にわざわざ都の徳の高い僧がお見えになって、一生、いや何百年に一度になるかもわからない
ありがたーい儀式を見せてくださるそうなのに、お前のせいでこのざまだよ!」
どん、と机の上に酒瓶を置く。
父?「儀式の変わりに辛気臭いお前を見てなきゃならねえなんてな、この世に地獄があるならこのことだぁな」
俺は立ち上がった。
父?「・・・何だ?妙な真似しやがったらただじゃおかねえぞ」
ハロ「萩が行ってしまう」
木の床を軋ませ、玄関へ向かう。
父?「待てこら!行かせるわきゃねえだろ!」
ハロ「でも俺は行く!」
父親らしき人物が立ち上がり、俺に追いつく前に家を飛び出した。
父親らしき人物は執念で俺のことをいつまでも追ってきた。
そこまで必死になって止めに来るとは、おそらく命がかかっているのだろう。俺も、ただじゃ済まないかもな。
このままだと過去を変えてしまうかもしれないが、ごめんな、ハル。もうちょっと付き合ってくれ。
どうせ、実際のお前もこうしたんだろ?俺には、なんとなくわかったんだ。
神社の奥からは、雅やかな雅楽の音が聞こえる。
――まだ終わってはいない。
俺は急いで神社の裏手に走った。
ハロ「萩!!」
突然現れた俺に、どよめく人々。見たこともない絢爛な衣裳を着た偉そうな人たちも居た。
その中に、萩の姿を認めた。萩もやはり、驚きの表情でこちらを見つめている。
?「ええい、続けろ、続けろ!」
誰かの声で、また笛の音が鳴り始め、萩は前を向きなおして、しずしずと滝のほうに歩き出した。
俺はあっという間に周囲の人に取り押さえられた。そして地に伏す俺の目の前に誰かが立ち、視界を遮った。
?「儀式の邪魔をするとは愚かですね」
ハロ「・・・」
どこかで聞いたことのある声だった。
だが、そんな事はどうでもいい。そこをどけ。せめて萩の姿を見せろ。さっさと失せろ!
?「あなたを今殺めてしまえば、巫女の儀式に障りを来たしましょう。終わるまで大人しくしていなさい」
そう言って、そいつは俺の前を離れた。
ようやく萩の姿を視界に捉えた頃には、萩のつま先は既に、地についていなかった。
萩は一瞬だけこちらを振り返り、いつもの笑顔を見せ、そして・・・その身を放った。
ハロ「しゅ、萩!!」
演奏が終わり、あたりに滝の轟音だけが残った。
ハロ「お前ら、よくも!よくも萩を殺したな!己の幸せを得るためだけに、よくもあいつにすべてを背負わせやがったな!!」
力を振り絞り、取り押さえていたやつらを振り払う。
さっき俺の視界を遮った侍の胸倉を掴む。
ハロ「お前!お前よくも萩を裏切ったな!味方じゃなかったのか!」
侍「・・・お前、何故・・・!」
――そこで、視界は真っ暗になった。
気がつくと俺は、先ほどの滝の前にうずくまっていた。
朽ちた神社、塚、・・・熾惺の制服。どう見ても、すべてが終わった、さっきの状態だった。
何が俺にあんな過去を見せたのかは知らない。
俺は昔のまま、ここで一人取り残される運命なのか。そして、消えていく運命なのか。
ハロ「・・・」
俺は愕然として、その場に立ち上がり、しばらく滝を見ていた。
萩、俺のもとにちゃんと帰ってきてくれたんだよな。
あの大晦日の夜に。願いの精、と姿を変えて。
ちゃんと、約束守ってくれたんだよな。
…。
――あれから、何週間が過ぎただろうか。
依然として、ウィッシュの消息は全くわからないままだ。あの猫の消息もつかめない。
居なくなって一ヶ月間くらいは毎日神社に通って様子を見ていたが、ウィッシュが戻ってきた気配は無かった。
最近になると、あれは俺が見ていた長い長い夢だったのではないかと思うようになっていた。
まるで真昼に見た夢のようだった。俺はそう例える。
ハロ「さ、授業も終わったし、帰るか」
ツン「私は別に構わないけど・・・部活は?」
ハロ「今日はいいや」
ツン「そんな事言うと、美佳ちゃんが怒るわよ?」
ハロ「・・・一緒に帰りたくないか?」
ツン「べっ、別にそんな事言ってないじゃない!それとは話が別でしょ?私がせっかく心配してあげてるのにあんたは・・・」
ハロ「わかったわかった。そう膨れるな
ツン「ふん!もういいわよ。さ、さっさと行きましょ?」
ユリ「お帰り、おにいちゃん」
ハロ「ああ、ただいま」
なんとなく、由梨の頬にキスをする。
ユリ「なななななななななな!?!??///」
ハロ「いや、なんとなく」
ユリ「おおおおにいちゃんったら、新婚さんじゃないんだからそういうことしなくていいの!///」
ハロ「いや、なんとなく」
動転する由梨を無視し、すたすたとリビングに向かう。
ユリ「はぁ・・・いつからそんなプレイボーイになっちゃったんだろ」
ハロ「お前がそんな言葉知ってるなんて意外だな」
今日は・・・十二月、三十日、か・・・。
ユリ「知ってるもんそのくらい!」
ハロ「ごめん。俺今日疲れてるから早めに寝るわ」
ユリ「え?うん」
俺は早めに自分の部屋に入り、明かりも点けずに月を眺めていた。
もうすっかり忘れた筈なのに、未練がましい俺は、今もこうやってあいつの影を心のどこかで追い続けてる。
でも、約束したよな?
同じ約束は二回も果たせないのか?俺の願いは届かないのか?
ハロ「答えてくれよ・・・」
急に寂しさに襲われ、目に涙が浮かぶ。窓の外に見たUFOの姿が懐かしい。
ハロ「ウィッシュ・・・」
できれば、あの頃に戻りたい。何も考えずに、ウィッシュと楽しく過ごしたかった。
俺は袖で涙を拭った。
コンコン(SE:ドアのノック)
ハロ「由梨か?」
ドアが開いた。
ウ?「わ、私は願いの精、ウィッシュ!本当は七夕のとき・・・」
ウィッシュ?・・・俺はあっけに取られた。何かのいたずらなら大成功だ。
ウ?「あ、あれ?リアクション薄いなあ」
ハロ「疲れてるんだな、寝よう」
俺はベッドの上に寝っ転がった。
ウ?「ちょっと待ったぁ!おかしいな、感動の再会の筈なのに?おーい、寝ないでよー」
俺はウィッシュが近付いてきたのを確認し、一気に抱きしめ、引き倒した。
ウ?「ひゃっ!?」
ハロ「お帰り、ウィッシュ」
ウ?「えーと、私ね、ウィッシュじゃなかったみたいなんだけど」
ハロ「え?じゃあ萩なのか?」
萩「どうしてわかったの!?あーあ、こっちが驚かせるつもりだったのに・・・」
ハロ「まあ気にするな。その事は後でゆっくり話そうな?」
萩「いいけど、その、なんでこんなに近いの?///」
ハロ「わかってるくせに」
俺は萩を仰向けに寝かせた。
萩「え、えっとね?私今人間だから、その、あんまり中に出しちゃダメだよ?」
ハロ「ほう。試してみるか」
ゆっくりと萩に覆いかぶさり、首筋を舐めながら、胸を触る。
萩「い、ぃやぁ~///」
全然嫌そうじゃないので、体を舐めながら胸のほうに下を這わせ、右手はいよいよ秘所へと向かった。
巫女の衣裳で来たのが運のつきだっただろう、手はすぐにそこへ到着した。
萩「ひゃ!あっ、そんな所触っちゃ・・・!///」
ハロ「何言ってんだ。ここが弱点だったろ?」
萩「あうう・・・そんな事ばっか覚えてる・・・///」
すでにそこは濡れていて、俺はわざと音を立てるように割れ目をいじった。そして空いてるほうの手で袴の帯を解き、
頭をそこに向かわせていく。
萩「あ、あぅ・・・え、ええ?///」
今度は舌で割れ目を愛撫する。溢れ出る愛液が、俺の口元を濡らしていく。
萩「やあっ!ひゃ、あぅ、ダメ、そんなの・・・ダメぇ・・・!///」
萩は悶え、俺の顔に太ももがガンガンあたる。いつぞやもあったような気がするが、もちろん気にしない。
萩「は、はぁ、あぅ・・・は、はろ、も、私・・・///」
それを聞いて俺は口を離した。
ハロ「一人でイくなんて駄目だぞ?」
俺は既に我慢しきれなくなった息子を取り出す。
萩「で、でもそれ入っちゃったら多分」
返事も最後まで聞かずに、俺は挿入を試みた。
萩「あ、ああ、ぁぁああああぅぅー・・・!///」
案の定、萩は挿れた直後に震え、イってしまった。
相変わらず萩の中はきつく、長くは持ちそうにない。
萩「はあ、はあ、うう。あのね、中に出しちゃったらね、妊娠しちゃうからね、えと・・・///」
必死で説得を試みる萩。が、俺はそんな忠告を無視し、腰を動かし、萩を味わいはじめる。
萩「あっ、ああっ、だ、ダメぇ!えっちしちゃ・・・!///」
シーツを掴み、必死に耐えようとする萩。
俺はその姿に興奮してしまって、中には出さないつもりが、そんな気分も変わりそうになった。
萩「あ、あぅ。ま、また・・・!///」
きつい肉の襞に擦られ、俺の竿も限界に達しようとしていた。
ハロ「俺も・・・」
萩「だ、ダメぇ、はろ、抜いてぇ!///」
――寸前のところで竿を引き抜き、俺は萩の体に向かって射精した。その数発は、顔にもかかってしまった。
萩「あ、あぅ・・・///」
萩はとろんとした目で、天井を見つめていた。
萩「もう、帰ってくるなりするんだからなあ!」
俺たちはその翌日、新しいほうの神社にやって来た。
ハロ「はは、ごめん。つい」
萩「『つい』、じゃないよ。もう」
ハロ「ところで、向こうにあるお前の墓、どうする?」
萩「あ。どうしよ。気味が悪いね」
まさか生き返るとは誰も思わなかっただろうしな。戻ってくるなんて考えたのは俺くらいだし。
いや、正確には『止まった時が動き出した』と言うべきか・・・。
萩「・・・あれ?」
ハロ「どうした?」
萩「あんな所に、猫の像なんてあったっけ?」
萩が指差す先、縁の下に、小さな猫の像があった。
結局、あいつの本名は聞けなかったな。俺たちに対して妙に恭しかったのも、せめてもの罪滅ぼしだったのだろうか。
紳士じゃなくて、武士だったんだな。
俺は縁の下からそれを拾い上げ、土ぼこりを払った。失礼だが、見れば見るほど、あいつに似ている。
ハロ「神社に奉納してもらおう。ここにはまだ、願いを持った人たちが来る」
萩「・・・だよね。願い、叶うといいね!」
無理をした感じではない。萩はいつもの屈託のない笑顔でそう言った。
ハロ「まさか、こんな願いが叶うなんて思ってなかったよ。お前が人間に戻るなんてさ」
二人は縁側に座り、延々と語り合った。
萩「そんなの私も思ってなかったよ。ハロが過去の世界に行って来たのも信じられなかったけど」
ハロ「そこなんだよな。結局ハルはお前を助ける事ができなかったし、おまけに殺されたし」
萩「え、死んじゃったの!?」
ハロ「確か。そっか、見てないんだったな。あのあと後ろから刺されたんだと思う」
萩「じゃあハロは誰の子孫なの?」
ハロ「・・・ん?じゃあ死んでなかったんかな?刀でみねうちされて気絶したのかも」
萩「びっくりさせないでよ、もー・・・」
ハロ「・・・」
萩「でも、その後誰かと結婚したってことだよね」
ハロ「(ギクッ)だ、だろうけどそれはそのー・・・」
萩は、ふふっと微笑んだ。
萩「そんなのどーでもいっか。今、こうして結ばれたんだし」
ハロ「そうだな、あー、遥かな道のりだったなぁ・・・」
萩「・・・そろそろ冷えてきたね。風邪引いちゃうよ、帰ろ?」
ハロ「ああ」
十二月三十一日夜、自室。
床に座ったまま、二人で一つの布団にくるまり、その時を待っていた。
俺が手に持ったデジタルの腕時計を、二人で見つめる。いつもは由梨と過ごす、くだらない行事の筈だった。
でも今は違う。きっと、これからも、この日は記念すべき日になっていく事だろう。
萩「もうすぐだね」
ハロ「ああ。・・・一分でも、待ってると長いな」
あったかい。お互いの鼓動が聞こえる。
ハロ「ウィッシュ、いや、萩」
萩「ほえ?」
ハロ「『ほえ?』じゃない。真面目に聞け」
萩「聞いてるよ」
ハロ「あのな、・・・今まで、お疲れ様」
一瞬間があって、萩は俺に寄りかかりながら返事をした。
萩「・・・うん」
時計の針が、十二時を指した。
-Le souhait-
最終更新:2007年08月04日 10:42