ツルとカメ-15
調理実習である四時限目が終わり、いつもの如く僕達は集まって談笑していた。しかし
普段と違う部分がある、いつもならば率先して喋り僕を蔑んでくるコイが黙り込んでいる
のだ。普段が饒舌なだけに、何とも表現しにくい違和感のようなものがある。意気消沈と
しているコイは、例えるのなら電池切れの玩具のようなものだ。見ていて何となく寂しい
気持ちになってくる。
「どうした?」
「何でもない」
何でもないという様子ではないが、言いたくないのならば仕方がないだろう。無理矢理
に言わせるのはあまり好きではないし、そんなことをしたところで誰も喜ばない。敢えて
気にしないようにして、机の上に広げてあるクッキーのを口に入れた。先程の調理実習の
ときに皆が作ったものを混ぜてあるが、誰が作ったのかは味で大体分かる。
「また外れか」
「あの、美味しくなかったデスか?」
そんな訳ではないが、ツルが作ったものが未だに食べれていないことが悔しい。センス
が作ったものもそれなりに美味いけれど、味は関係なく二番目になってしまうのだ。因み
に一真のものと水樹のものは班の混ぜる係だった娘が砂糖と間違えて塩を入れてしまった
せいかしょっぱいもので、その娘には悪いけれど正直美味くなかった。そのせいもあるの
だろうが、基本的に慣れているのだろう。センスのものは美味い。
「良い出来だな」
そう言うと、センスは不安そうな表情を一転させて笑みを浮かべた。
「はい。向こうでは休日はいつも、ママと一緒に作ってまシタから」
なるほど。やはりアメリカ人は休日に家族と菓子を作ったりするのか。そうして家庭の
味は受け継がれ、やがてビア樽のような体型になったセンスが自分の娘に高カロリー菓子
の作り方を教えるのだろう。それが永遠にループする、何とも微笑ましい光景だ。
胆っ玉母さんになる前にしっかりと今のセンスの姿を目に焼き付けるようにしながら、
また新しいものを口に含む。こちらに向けられるのはツルの視線、ついに当たりを引いた。
「美味い、愛情入りがこれ程に美味いとは思わなかった!!」
「黙って食べなさい!!」
噛み砕く前に強制的に全てを口の中に叩き込まれ、思わず吐き出しそうになる。しかし
大事なツル手作りの愛情たっぷりクッキーだ、粗末にしてはいけない。粉々になったもの
が広がり口がやけに乾くが、それを我慢して飲み込んだ。
「やばい、ツル、その珈琲、くれ」
「何で片言なのよ。それにカメには自分のがあるでしょ?」
「ツルの唾が混じったのが良い!!」
「うるさい、せめて口を付けたのって言いなさいよ!!」
照れているんだろう、可愛い娘だ。
そのまま幾つか食べていて気が付いた。
「コイのが無いな、どうした?」
コイは気不味そうに目を反らし、
「何でアンタのクッキーが一番美味しそうなのよ」
漸く口を開いたかと思えば妙なことを言われた。そんなこと言われても、普通に作って
いて上手く出来たのだから仕方がない。僕はツルと二人暮らしである為自然と家事が身に
着いたからということもあるだろうが、教科書に従って作ればこのくらいは出来るだろう。
一番美味そうに見えるのも、多分たまたまオーブンの温度が丁度良かっただけだと思う。
「だから気にするな、皆のと味は大して変わらん。僕のあげるからさっさと出せ」
混ぜたものの他にツル専用として取っておいたクッキーの袋を開き一枚差し出すと、脅
えたような視線を向けられた。そして少し躊躇った様子の後、おずおずと受け取ってゆっ
くりと口元に運んでゆく。だが一筋縄ではいかなかった。まるで小動物のような仕草で匂
いを確かめ、舌で舐め、それを何度か繰り返してからやっとかじりだした。クッキーを一
つ食べるまでに、随分とかかったものだ。
「で、小芝居はもう良いからさっさとお前のを見せろ」
「嫌」
この野郎、折角ツルに全てあげようと思っていたクッキーの内の一枚をやったというの
に、何て奴だ。五枚の内の一枚、約二割分の大損害なのにも関わらず、コイはすました顔
で僕のクッキーを美味そうにかじっている。
「見せろ」
「嫌よ、この腐れチンコ。何で見せなきゃいけない訳?」
こいつめ。
「クッキー返せ」
僕が言うなりコイは残りのものを全て口に含み、紅茶で流し込んだ。そして一息吐くと
こちらを真顔で見て溜息をつく。ティッシュで口元に付いたカスを拭いながら一言。
「無理よ」
「だったら黙って見せやがれ!!」
「カメ、あまりコイを責めないで」
いや、今回ばかりはツルがどんなにかばおうが勘弁ならない。
「仕方ないのよ。コイは、その、料理がかなり苦手なの」
「だからってなぁ」
「本当に、下手とかそんな次元じゃないの。粉ジュースもまともに作れないの。中学の頃
一度だけ試したけど、あれは本当に危険なのよ。だから許してあげて」
「ツル、フォローになってないわよ」
「え、あ、ごめん」
しかし粉ジュースで失敗なんて、現実的に有り得るのだろうか。ただ粉に水を注ぐだけ
なのだから、失敗するも何もそんな余地が存在するとは思えない。だがコイに視線を向け
ると、悔しそうな表情で目を背けられた。どうやら本当らしい。
「ねぇ、カメは料理の下手な女ってどう思う?」
呟くようにコイが言ってきた。ツルやセンスの視線も向けられて、ここは上手い具合い
にフォローしなければと考える。個人的な考えとしては、正直どうとも思わない。それは
得意ならばそれに越したことはないけれど、誰にでも苦手なものはあるものだし、個性の
一つだと思っている。只ひねくれ者のコイのことだから、ストレートにそう言ったとして
も素直に受け取らないだろう。数秒考えて、僕は結論した。
コイの目を真剣に見つめ、
「料理に大事なのは味じゃない」
「おぅ、カメさんがまともなことを言ってマス」
「たまには普通の答えも出すのね」
センスとツルには何か大きな誤解があるようだが、今は放っておく。
「コイ。料理に一番大事なのは何だ?」
「えっと……味の素?」
話にならない。僕は黙ってツルとセンスを見た。代わりに答えろと理解したらしい二人
は少し考え込み、同時に顔を上げた。どうやら二人は分かっているらしい、と言うかツル
には分かっておいてほしいと思う。
「はい、センス」
「砂糖、塩、酢、醤油、味噌デスね?」
この馬鹿め。巨乳が馬鹿だという俗説は、実は本当なのだろうか。
「はい、ツル」
「愛情?」
「正解だ!!」
やはりツルは分かっていてくれた、嬉しさのあまり抱き締め頭を撫でる。次の瞬間には
強制的に振りほどかれたものの、それでも僕の嬉しさは止まらない。今夜は御馳走を作り
盛大に祝わなければいけない、メインはツルの女体盛りやワカメ酒だろうか。いや、ツル
は生えていないから、正確には鮑酒か。
「カメ、何で私の股間を凝視しているの?」
いかん、つい興奮して慎みを忘れてしまった。
僕は咳払いを一つ、改めてセンスとコイを見る。この二人は言われてやっと気が付いた
らしく、感心したような目でツルを見つめていた。
「分かったか。愛情さえあれば、正直あまり美味くなかったクッキーでも世界ランキング
ぶっちぎり一位になることが出来るんだ。つまりだな……」
「カメ、後で話があるわ」
ツルから誘ってくれるなんて、どんな用事だろう。今から心がわくわくしてくる。
数時間後。
「何でこんなことになってるんだ?」
楽しいことをしてくれるというツルの言葉に騙され、僕はリビングの椅子に縛り付けら
れている状態だ。しかも目の前にはエプロンを装備したツルとセンス、そしてコイ。気の
せいかもしれないけれど、もしかして料理でもするつもりなのだろうか。しかも多分僕が
毒味役、あれだけヤバいと言っておきながらツルは何を考えているのだろうか。
「止めろ、僕はまだ死にたくない!!」
「大丈夫よ。多分死なないわ、カメは変態だし」
何てことだ、穏やかな表情をしているが目が笑っていない。このままいつものように、
ツルは何の躊躇いもなく僕を酷い目に遭わせてくるだろう。いつもなら相手がツルという
だけで無条件で受け入れるが、今回ばかりは駄目だ。
ツルに救いを求めるのが駄目なら、センスはどうだろうか。
「これは何デスか?」
「粉ジュースだ、水を入れるだけで不味いジュースが出来る」
口を開き、不思議そうに中を眺めている。
自分で言って気が付いたが、何故こんなところに粉ジュースがあるのだろうか。まさか
作る料理というものは、粉ジュースだとでもいうのだろうか。それは確かに調理する必要
はあるが、料理なんてレベルではない。これは、さすがにコイを馬鹿にしすぎではないの
だろうか。同情したくなってくる。
「さ、作るわよ」
だから、作るも何も。
まずは手本にと、ツルが作る。と言っても袋の口を開き、水道水を中に入れ、ストロー
で掻き混ぜるだけの作業だ。これは失敗の仕様がないだろう。センスもツルと同じように
作り、飲んで不味そうに眉を寄せている。アメリカ人には受けが良さそうだと思っていた
けれど、どうやらおきに召さなかったらしい。
コイを見ると、まだ何もしていなかった。
「早くしろ、大丈夫だ。仮に妙なもんが出来ても僕が責任持って飲んでやる」
更に数秒躊躇い、漸くコイは粉ジュースを作り始めた。そんなに緊張しなくても、失敗
のしの字もある筈がない。そう思って言った言葉だったが、それは僕の勘違いだった。
コイはゆっくりと袋を開き、水道水を恐る恐る入れた。その直後、何故か核爆発か何か
が起きたようなキノコ雲が吹き出した。更にストローで掻き混ぜると、白かった煙が黒く
変色して不気味にゆらゆらと揺れている。煙の形がなんとなく頭蓋骨に見えているのは気
のせいだろうか。ごく単純な作業の上に失敗の余地などないと思っていたのだが、それは
僕の間違いだったらしい。こいつはこんなものでも失敗しやがった、ツルの言った通りに
下手などという言葉では済まされない。世の中には不思議なこともあるものだ。
「……飲む、わよね?」
脅えた表情でコイが差し出してくる。
煙がやけに目に染みるが、それを我慢して中を覗き込むと、何故か紫色のどろりとした
液体が見えた。目の錯覚かもしれないと思いパッケージを見れば、メロンソーダの文字が
確認出来た。間違ってもグレープソーダではない。仮に何かの製造ミスでグレープソーダ
が入ったとしても、普通ならば、もっとさらさらとしたものではないだろうか。見る限り
では一発で窒息してしまいそうな粘度で、しかも炭酸とは別の大粒の泡が不思議な音を響
かせながら幾つも弾けている。突っ込み所は満載だ、これは本当に飲み物なのだろうか。
視線を僅かに上げればエプロン越しでも分かる程の大きな乳、ではなく悲しそうな表情
が視界に入ってくる。自分でもこれは無理だと悟っているのだろう。
「無理しなくても良いよ、捨てるから」
だが、ここで断れば男じゃない。こんな辛そうな女の子を見捨てる程、僕は鬼ではない。
「待て」
僕はストローを口に含み、一気に吸った。ゆっくりとした速度で上ってきた謎ドリンク
が口に入った瞬間、悶絶する。甘味、塩味、酸味、苦味、旨味、その他様々、人間の舌が
感じることが可能な全ての味が一編に襲いかかってきた。脳が大音量でエマージェンシー
コールを鳴らし、体は毒素を排出しようと物凄い勢いで嘔吐を促してくる。
「だい、じょうぶ?」
「うん、美味い」
あれ、なんだろう。
目が霞む。
体を揺すられて、目が覚めた。眼前に広がるのは泣きそうなコイの顔、先程のことは夢
だと思っていたが、どうやら現実だったらしい。粉ジュースを飲んで倒れた人間なんて、
恐らく僕が人類史上初だろう。あれが本当にジュースに分類して良いのかは疑問だが。
「良かった。もう目を覚まさないのかと思った」
思うなよ。
首を回して周囲を見てみれば、他には誰も居ないことに気が付いた。
「皆は?」
「薬を買いに行ってる」
大袈裟、という訳でもないか。現に意識不明の重体になった訳だし。
「そんなに酷かった?」
酷いなんて次元ではなかった。
「ちょっと試しに」
いきなりコイが唇を重ねてきた。抵抗しようにも体を椅子に固定されているせいか身の
自由がきかず、只されるがままになってしまう。コイは僕が抵抗出来ないのを良いことに
強引に体を押し付け、口の中を思うままに貪ってくる。頬の内側、上顎、更には歯茎や舌
の裏側までねぶりつくされ、そこで漸く唇を離した。
「うわ、不味」
「失礼な!?」
叫び、気が付いた。
「あ、ジュースの方か」
いがらっぽかった口内の感触が消え、すっきりしている。コイは僕の口に残ったものを
舐め取っていたらしい。紛らわしいにも程がある、と言うか、
「顔を赤らめるな!!」
意識しないようにしたところで、無理だろう。
「うぁ、初キス」
「ノーカンだ、ノーカン!! 今のは無しだ!!」
今のはキスの内に数えてはいけない、飽くまでも応急処置だ。今までにも何回かエロい
ことをしたが、これでは後戻り不可能だ。そうでも考えないと、発狂しそうになる。
だがコイは僕の葛藤を知ってか知らずか、とろけた表情で体を擦り付けてくる。駄目だ
と分かっているのに、何故だかどんどん可愛く見えてくる。これはいかん、いかんですよ。
官能的な弾力が体の各所に当たり、思わず股間が反応してしまう。
「おい、待て」
「待たない」
コイは悪どい笑みを浮かべ、ジッパーを下げてくる。
制止の言葉を言う前にコイは僕のものをくわえ、巧みな動きで舐めあげてくる。
「あは、大きくなってきた」
いつもの展開だ、こうなったコイはもう止められない。
コイは胸元をはだけ、ブラを外して迫ってくる。柔らかな感触が僕の顔を挟み込んで、
女性特有の甘い匂いが鼻孔を擽ってくる。乳の気持ち良さに溺れそうになる思考を無理に
奮い立たせ、僕はコイの顔を見つめた。
「これ以上は」
「うん、分かってる」
そう言いながら、コイはゆっくりとパンツを下げてゆく。どう考えても分かっていない、
エロモードに入ったコイは正に無敵状態だ。あげく僕は身動きのとれない状態、もう観念
するしかないのだろうか。
「観念しなさい」
僕のものを舐めながら、コイは自分の股間に手指を這わせ、細い息を吐いた。そして
指先で割れ目を広げると、軽い音をたてて愛液がフローリングの床に落ちる。
「ね、もうこんなになってるの」
股間を撫でていた指を僕の眼前に掲げて、広げて見せてくる。指先は蜜が光を反射して
いやらしく輝き、その間には銀色の細い橋が何本かかかっていた。コイは目を三日月の形
にすると僕の唇を割って手指を押し込んでくる。少し塩味のする独特の風味が広がって、
改めてコイが濡れていることを実感する。
「もう、大丈夫だよね」
何が、と訊く前にコイが僕の太股の上に乗ってきた。亀頭が割れ目に当たったかと思う
と、一気に飲み込まれる。入口は狭く、しかし奥行きは広い。今までの誰よりも高い温度
で締め付けてくるそれは、名器というものだろうか。多分初めてだからなのだろう、少し
動かすだけでも辛いものがある。コイは自ら腰を振り初めているものの、その額には僅か
に汗が滲んでいる。だが快楽が遥かに痛みを上回っているらしく、熱い吐息が首筋を撫で
コイの体の反応を伝えてくる。
大丈夫じゃない。何が大丈夫じゃないかって、縛られて動けない奴を相手に、しかも逆
レイプをして初体験をしようなどという危険思考が大丈夫じゃない。これが正気の行動だ
とは思えないが、よく思い出してみれば今までも全て似たようなものだった。あの毒飲料
が原因かと一瞬思ったが、どうやら違うようだ。もしこれが毒飲料が原因だったならば、
どれだけ気が楽になっただろうか。
「この変態娘」
「だったら、こうして、元気に、なってる、アンタは、何なのよ?」
一言ごとに腰を揺すり、その度に強い快楽が加えられる。とても初体験だと思えない程
の激しい動きに、僕は言葉が出てこない。喋ろうとする度に刺激が与えられて、結局何も
言えなくなる。悔しいが、それだけコイの膣は恐ろしい程の動きで僕を襲ってくる。
「それに、さっきから、あたしの、胸ばっかり、見てるし」
あまりにも楽しそうに揺れるものだから、つい見入ってしまった。多分両手が自由なら
今頃は揉みに揉んでいただろう、何とももどかしい話だ。それなのに僕の目の前では巨乳
が揺れ放題、思わず顔を埋めてしまう。ふかふかの感触が快い。
「そんなに胸が好きなの?」
「大好きだ!!」
いかん、つい本音が漏れてしまった。
コイは嬉しそうに目を細めると、両腕で胸を寄せた。只でさえ大きなものなのに、これ
によって更に谷間が強調される。揺れることはなくなったが、外見的な凶悪さが増した。
目に毒なんてもんじゃない、それはもはや煩悩直撃型凶器だ。
「どう?」
僕は何も言わずにむしゃぶりついた。コイは今までより高い声を漏らすと、腰の動きを
激しいものにする。必死に我慢していたが、これではすぐにでも出してしまいそうになる。
「あ、ビクビクしてる。もう出そうなの?」
もう、とか言うな。これでも標準時間だ、多分。
「出して」
直後。
コイの膣内に放出し、脱力する。
僕にもたれながら、コイは不安そうな目を向けてきた。
「ありがと。ね、クッキー食べてくれる?」
朦朧とした意識の中、僕は頷いた。
コイがポケットから取り出したのは、不思議な小型の円盤だった。これはクッキーなの
だろうか。普通の生地とココア生地を使ったものだと思うのだが、何故だかピンクと灰色
のマーブル模様になっている。どのような調理をしたらこうなるのだろうか。
「……いただきます」
僕は覚悟を決めて謎クッキーをかじる。
「……どう?」
ヤバい、目が、霞む。
「カメ……カメ? カメーェッ!?」
最終更新:2007年08月04日 11:15