『暗黒刑事ヘドロの魔法幼女大作戦』-4
第4話『白銀の真実』
突き抜けるような青空の下、幼女が砂浜を走り回っていた。と言っても監獄都市という
場所の性質上、脱獄の可能性も無いという訳ではないので、本物の海と接しているという
ことは無い。幼女が元気にはしゃぎ回っている場所は人工の砂浜であり、更に詳しく言う
ならばアミューズメントパークの一角であった。
水芸エリア『エン・ドルフィン』、幼女の最近のお気に入りの場所である。
「ぱぱ、早く早く」
「こら、そんなに走ったら危ないぞ」
「大丈夫だよ」
言った側から幼女、サユリは転びそうになった。だが地面に体を打ち付けることはなく、
背後から伸びてきた太い腕によって支えられる。サユリは腕の主を見ると、口元を緩ませ
笑い声をあげた。それを見て腕の主、虎蔵も笑みで応える。
今日、虎蔵は久々の休みを取って娘と一緒に遊びに来ていた。管理局員も公務員である
のだが、仕事の性質上、土日が休みという概念は無い。なので、平日に来るという結果に
なったのだが、虎蔵は幸運だと思っていた。下手に休日に来て混雑の中でサユリに苦労を
させるよりも、こちらの空いている日に自由に遊ばせる方が良いという考えだ。視線を回
してみても若いカップルや家族連れがそこそこ見えるだけの状況に、虎蔵は安心をする。
「サユリ、次はどこに行きたい?」
「あそこの流れるプールが良い!!」
指差した先にあるのは、大型の回転プールだ。頷くと、サユリを抱えて歩く。
「あ、良いなぁ」
「どうした?」
「あの水着、欲しい」
不意に固定されたサユリの視線を辿って見ると、若い家族連れが見えた。セリスが死に
母が居なくなったので、両親が揃っている家族が羨ましくなったのだろう。そう判断した
が、どうやら違ったらしい。羨ましがっている理由は、その家族連れの娘が着ている水着
だったようだ。デザインは普通のプリント付きワンピースだが、そのプリントがサユリの
心を捕えたらしかった。だが逆に、虎蔵は落ち込んでしまう。
「いつの間に売ってんだよ」
プリントされていたのはマジカル☆ヘドロ、虎蔵の変身した後の姿だ。虎蔵が変身する
事実を知らないが、サユリはマジカル☆ヘドロの大ファンだった。父がそんな格好をして
変態機械人形と戦っていることを知られたくないので、虎蔵は黙っていたが、それ故に今
はどう対処して良いのか分からずに苦笑を浮かべてサユリを見る。
「今のやつの方が可愛いぞ?」
「ぱぱは、こっちの方が良いの?」
「そうだな」
言って頭を撫でると、サユリは擽ったそうに首を縮こまらせた。その可愛いらしい仕草
に虎蔵の瞳が一瞬だけヘドロのように濁るが、見られてはいかんとすぐに戻る。家族を誰
よりも愛する虎蔵は、決して身内には暗黒面を出したり見せたりはしないのだ。逆に身内
以外に対しては何の遠慮も無く見せているので暗黒刑事という不名誉な称号が付けられて
いるのだが、そこはそれ、家族でも何でもない相手からの言葉なので多少は気にしながら
も、華麗に無視をしている。
流れるプールに着くと、サユリは浮き輪を抱えて飛び込んだ。歓声と水しぶきをあげて
遊ぶサユリを、虎蔵は持参した最新式の超高性能防水カメラで激写する。ムービーと同時
に写真も撮れるという機能も付いているカメラは、僅かな時間で容量を最大にする。
「畜生、まだ足りねぇ!!」
バミューダパンツのポケットに記憶装置をしまい込み、一瞬で付け変える。
「ぱぱ、ちゃんと撮れてるぅ?」
「勿論だ!! 宇宙で一番可愛いぞ!!」
二個目の記憶装置も満タンにして三個目に付け替えようとしたが、演出の一つである風
によって虎蔵の掌から溢れ落ちた。防水加工をしてあるので水に落ちても平気だが、娘の
姿を見る時間が減るのは不味いと判断し、慌ててしゃがみ込んだ。
衝撃。
「おぅ、すまん」
虎蔵は身近に立っていた少女の股間にうっかり顔面が正面衝突。柔らかな感触と塩素の
匂いで、昔セリスと遊びに来たついでに激しくプレイしたことを思い出したが、すぐに我
に帰ると白のビキニの主に謝ろうと顔を上げた。こんな場面で時間をロスするのは、虎蔵
の望むところではなかった。
直後。
虎蔵は硬直した。
ビキニが似合わない小柄でスレンダーな体に、金色の長い髪。青く大きな瞳が魅力的な
顔には、冷静な笑みが浮かんでいる。開きかけた口からは間も無く酷い言葉が出ることを、
虎蔵は今までの経験で知っていた。それが彼女の、一番の特徴である。
リリィ・ムーンブレア、魔法幼女変態のシステムを作った少女だ。
「楽しそうですね、そんなに濁った目をして……気持ち悪い」
「リリィちゃん、おまたせ……きゃあ虎蔵ちゃん来てたの!! 愛の力ね!!」
僅かに遅れて、薫がやってきた。その姿を見て、虎蔵は露骨に眉根を寄せる。リリィが
白いビキニを着ていたのは、似合わないが許容範囲だった。だが薫のものは完全に範囲外、
娘にも見せてはならないと思い力任せに脇腹を殴りつける。
薫が着ていたのは、属にブーメランビキニというもの。しかも幅が以上に狭く際どい、
少しでも波に揉まれれば大事な部分が見えてしまいそうなものだった。色も気合い充分な
ものでゴールドの地にシルバーのラメ入り、どんなアピールなのか中心部には派手な真紅
の薔薇の刺繍が施してあった。魔法幼女プリント水着を見たときとは、また別の驚きだ。
「で、お前らは何でここに来てんだ?」
「新しい機械の導入をするから、立ち会いを頼まれたのよ。詳しい人が居ないらしくって」
妙なポーズを取り薫が答えると、虎蔵は吐息をした。
が、すぐに娘のことを思い出し、記憶装置を探し始める。今の会話で大分時間を食って
しまった、結構離れた場所で流れている娘の姿を見て虎蔵は焦る。
「はい、ヘドロさん」
「おぅ、悪いな」
珍しく素直に記憶装置を渡してきたと思ったが、リリィは虎蔵が手を伸ばしてきた瞬間
に眉根を寄せ、その腕を掴んで持ち上げた。何かを決意したような表情を見せて、
「この人、痴漢です!!」
叫んだ。
「馬鹿野郎、俺が何をした!!」
「私の股間に顔面ダイブしたじゃないですか」
「ありゃ事故だろ!! それに毛も生えてねぇガキに欲情するか馬鹿!!」
振りほどこうとするが、何かの特殊なプログラムを使っているのかリリィの腕は外れず、
その間にもサユリはどんどん離れていっている。機械人形と戦ったときよりも大きな焦り
を感じ、虎蔵は苦い表情を浮かべた。あれだけ可愛い娘だ、もしかしたら妙な男にナンパ
されたり、悪戯されたりするかもしれない。そんな考えが思い浮かび、動けない体とは逆
に、気持ちだけが加速してゆく。瞳の濁りは、もはやヘドロを超越した暗黒物質の色だ。
我慢の限界が訪れ、魔法幼女に変身しようかと考えたときに急に腕のロックが外された。
「リリィちゃん、レディはそんなことするもんじゃないわよ?」
薫が外してくれたようだった。例え変態だとしても、リリィの上司を勤めているだけの
ことはある。技術開発に関しても飛び級で入ってきたリリィばかりが注目されているが、
薫は実力主義の管理局でリリィの上に立つ男であるのだ。伊達で開発課の課長をしている
のではないのだな、と虎蔵は改めて感心する。
「ほら、虎蔵ちゃん。サユリちゃんが来たわよ?」
「ぱぱ、お腹すいたぁ」
「よしよし、何が食いたいんだ?」
サユリを抱き上げ、虎蔵は一つ思い出した。
「おい、魔法幼女の版権はどうなってるんだ?」
虎蔵が指差した先に、先程の親子連れの姿があった。
「あれはウチから出したものなので、何の問題もありません。因みに売り上げは新装備の
開発費に回されているので、魔法幼女公開状態にも安心して下さい」
「出来んわ!!」
我儘な中年ですね、と呟いてリリィは歩き出した。三歩進んで振り返り、
「早くして下さい、これから食事でしょう? 勿論ヘドロさんが奢ってくれますよね?」
あまりにも当然のようにタカろうとするリリィを見て、虎蔵は溜息を吐く。
「お前俺より給料貰ってるだろうが」
「レディはいつでも金欠なんです」
「そんなレディ聞いたことねぇよ。それに満足に毛も生えてねぇのに、何がレディだ」
冤罪痴漢のときは気にならなかったようだが、先日のシャワー室でのことを思い出した
らしくリリィの顔が一瞬で赤に染まる。見られてしまっていたのだ、無毛の一本筋なロリ
マンコを。それはもう、ガッツリと、余すところなく。
「そ、そんなのは関係無いじゃないですか!! 体質なんです!! この変態中年!!」
「馬鹿、娘の前で何てこと言いやがる!!」
売り言葉に買い言葉、そのまま醜い口喧嘩が始まったが、
「ぱぱ、喧嘩はメッ!!」
サユリに言われて、虎蔵は口を閉じた。娘に言われては手も足も出ない、虎蔵はそんな
男だ。苦笑を浮かべてサユリの頭を撫でると、黙ってレストランへと向かった。
「御注文はお決まりデスか?」
「俺はカツサンドのセット、この可愛い娘にはチーズバーガーのオレンジセット」
虎蔵はリリィと薫を見て、
「この二人には新鮮な生ゴミを特盛りで」
「い、良いんデスか!?」
「心配するな、喜んでガツガツ食う。こいつらはエコロジストなんだ」
かしこまりました、と言おうとしたのだろうか、ウエイターが頭を下げた。だが言葉は
発せられることはなく、突然の物音に遮られる。重器が落ちたような大轟音の方向に振り
向くと、そこには水柱に包まれた巨大なステージがあった。
舞台の上に立っているのは二人組の幼女、新しいユニットの宣伝用ライブかと思ったが、
ウェイターの様子がおかしいことに気が付いた。何も知らされていなかったらしく、目を
丸くしてステージを凝視している。言葉を出さず、金魚のように口を開閉させているのは
驚きからだろうか。虎蔵は一瞬そう思ったが、視界の端で捉えたもので違うと判断する。
「あんにゃろう、人の休暇の邪魔しやがって」
ウォータースライダーの一部がステージに押し潰され、壊れていた。いくら許可無しに
ステージを出現させるとしても、ものを壊すような真似をしてはならない。寧ろゲリラで
ライブをするのなら、その辺りには尚更気を付けて行う筈だ。つまり相手は新人ユニット
などではない、更にステージ上に立っているのが幼女だということは、
「Dr.ペドめ!!」
視線で合図を送ると、薫は頷いてサユリを抱き上げた。
「サユリ、ちょっと仕事が出来た」
「そうなの? お仕事頑張ってね!!」
純粋に首を傾げるサユリの頭を撫でると、虎蔵とリリィはステージに向かった。
「おい、設備は足りないが……制御は出来るな?」
「ナメないで下さい。月の魔女を表す姓の意味、見せましょう」
それで良い、と頷いて虎蔵はバミューダパンツのポケットから腕輪を取り出した。勢い
のままに腕に填め、虎の叫びを思わせる音を鳴らし、腕輪を起動させる。既に周囲の者は
全員避難をしているので見られる恐れも無く、ステージが広いので間違って施設を壊して
しまう可能性も少ない。遠慮などというものは、消えていた。
『FullmetalTiger:Enter;』
跳躍しながら変身、虎蔵はステージに降り立った。
二人の機械人形はミリア・タリアのときとは違い、外見は異なっていた。しかし服装は
共通したもの、どちらもセパレートの水着に大きなパレオを巻き、僅かに見える足元には
サンダルを履いているのが確認出来る。色はポニーテールの方が橙、ツインテールの方が
青い色をしていた。二人は虎蔵を見ると、笑みを浮かべた。
『初めまして、ノイラです☆』
『初めまして、オリーブです♪』
『『二人合わせて『ノーブラ』です、応援宜しく☆(♪)』』
「したくねぇ!! 何だその珍妙な名前は!?」
すると突然、ステージに設置されているスピーカーからしわがれた笑い声が響いてきた。
巨大なモニターに白髪の老人の姿が映る、Dr.ペドだ。彼は歯を剥いた笑みを見せると、
『幼女にはブラなど必要無いのだよ!!』
叫ぶ。
虎蔵はそれを無視して、『ノーブラ』を睨んだ。変態に構っている余裕など存在しない、
ミリア・タリアとの戦闘のときは慢心が敗因だった。だから気を引き締め、今度は負ける
ことの無いよう、真剣に挑む。『ノーブラ』というふざけた名前にも、油断をしない。
二人が動きを見せた。
橙の幼女、オリーブが背負っているリュックから棒状のものを取り出し、
『『最初から全力でイくよ☆(♪)』』
『『DragneelSystem:Enter;』』
『BigWave:Open;(大演奏展開♪)』
『CatRider:Open;(波乗り展開☆)』
『『AirQeen:FullOpen;(女帝の空、大展開☆(♪))』』
空から巨大スピーカーが、ステージの四方を囲むように降ってくる。それはオリーブが
吹く棒、リコーダーの音に合わせ、音を響かせた。ウーハーの利いた音は衝撃波となり、
ステージ上には嵐のような突風が吹き荒れる。
それだけでは終わらない。
ノイラは抱えていたボードに乗ると、風の中を滑走し始めた。荒れ狂う大気に身を翻し、
体を捻りながら高速での移動を開始する。トリックをキめ、上下に回転し、自由に空中を
泳ぐ姿は正にサーファーだ。両手に大型の水鉄砲を構え、ノイラは高い声を響かせる。
『イくよ☆ 一曲目、『ボインをデストロイ』☆』
リコーダーとは思えない高速テンポの音を鳴らし、風が加速する。立体的な動きで旋回
しながら虎蔵の背後に移動、ノイラは水鉄砲のトリガーを引き絞る。撃ち出されたものは
超高圧のウォーターカッター、虎蔵はとっさに避けたが、立っていた場所は無惨にも切り
裂かれていた。それを見て虎蔵は舌打ちを一つ、苦い表情を浮かべた。
「リリィ、別タイプだ!!」
『了解です、こんなときの為に新しい装備を開発しました……勿論、魔法幼女の印税で』
『Type-W:Enter;(高速機動モード展開!!)』
装甲が弾け、服が変わる。
ワンピースだった服はスク水に変化し、体は薄くシャープなデザインの鎧に包まれる。
必要最低限にまで抑えられた重量と、空気力学を応用した二対の翼。脚部と背部には大型
の連重ブースターが取り付けられており、それが機動性を極限まで高めていると視覚的に
伝えていた。例えるのならば人の形をした戦闘機、音の世界の住人だ。
『WitchFire:Open;(虎箒展開)』
コマンド入力と共に、装備が組み上がる。
腕部パーツから射出されたロッドが連結、ブースターが外れ連結ロッドの柄尻へと結合
して生まれるのは鋼の箒だ。サーフボードのように乗ると爆音を鳴らして超加速、瞬間的
加速で一気に上空まで飛び上がった。
『ベクトルの調整はこちらで行います、ヘドロさんは好きに動いて下さい』
返事をする前に、ノイラが打ち上げられてきた。水鉄砲は速度によるブレがないように
脇でしっかりと固定され、正確にこちらを狙っている。
避ける。
『あ、惜しい☆ もう一発、もう一発、今度は当たって素敵な貴方☆』
音頭を取りながらの超連射に苦い顔をして、僅かな差で避けてゆく。だが、徐々にでは
あるが差が縮まってきていた。機械人形であることをフル活用したノイラのボード捌きも
当然厄介ではあるが、もっと恐ろしいのはオリーブの攻撃だ。巧みに風を吹かせてノイラ
の位置を調整しつつ、リコーダー単体の衝撃波で遠距離狙撃を仕掛けてくる。元々コンビ
で戦うことを前提に作られたのではないだろうが、その連係は抜群だった。
『どうだね、虎蔵君。オリーブちゃんの笛遣いは?』
「テメェが言うとエロいんだよ変態爺!!」
フリップをキめながら、虎蔵は眼下のモニターを睨み付けた。だがDr.ペドは楽しげな
表情を浮かべたまま指鳴らしを一つ、大きく前髪を掻き上げて笑い声を出し、
『勿論、そのつもりで言ったのだよ!! だがね、真にエロいのはオリーブちゃんではなく
ノイラちゃんだよ。さぁ、真の姿を見せてやるんだ!!』
『はーい☆』
直後、虎蔵は自分の目を疑った。
「絆創膏だと!?」
水着を脱ぎ捨てた下、ノイラの体は全裸ではなかった。左右の乳首とロリマンコを隠す
ように、計三枚の絆創膏が張ってある。しかも胸部分の絆創膏はガーゼの色が桃色、股間
に張ってあるものは全体が桃色なので、遠目から見れば全裸と変わりない状態だ。あまり
の驚きに虎蔵は落下しそうになったが、気合いで体勢を立て直す。
『しかも』
Dr.ペドは一息吸い、
『防水カットバンでは無いのだよ!!』
登場の瞬間は水に濡れていたからだろう、よく見れば端がふやけて剥がれかけていた。
それなのにノイラは強い風に身を踊らせ、寧ろ風の抵抗が少なくなったことで加速して、
勢いを増して攻撃を仕掛けてくる。
「畜生、どうすれば……せめてタイミングを」
思い付く。
「おい、リリィ。俺が合図したら箒を戻せ」
『え!? そんなの的になるだけじゃないですか?』
「俺を信じろ」
数秒。
『分かりました、任せます。失敗しないで下さいよ、まだ御飯を奢ってもらってないので』
「まだタカる気だったのか!?」
叫び、だが次の連射が来たことで虎蔵は真剣な状態に戻る。
狙いは、一瞬だけ。
それまでは縦横無尽に飛び回り、相手の攻撃を回避することに専念する。焦らなくても
機会はきっと巡ってくる、その確信はあった。相手が機械人形だからこそ、起きるだろう
と思い、いつでも作戦を実行出来るように飛び回る。
『ほら、背中がガラ空きですよ☆』
「今だ」
戻る。
ブースターは分離をして元の場所に戻り、ロッドは連結が解かれて掌の中に収まった。
その変化の瞬間ブースターが切れたことにより大幅に減速し、ウォーターカッターは虎蔵
の隣を空しく通過していった。時間にしても瞬きすら出来ない程の短い間、それが虎蔵の
狙いだったのだ。超高速での空中戦では、一瞬という時間でも長い距離を移動する。その
基本が思考の中にあり、相手の移動の先を読んで行動する者が勝利を得る。
虎蔵は、そのルールを逆手に取った。
相手が高い演算能力を持っている機械人形なら、行く先も見えていただろう。ならば、
その場所から少しでもずれれば良いという話だ。わざと背後を取らせたことによる慢心も
手伝い、『ノーブラ』は見事に罠に引っ掛かった。
虎蔵はすぐさま振り向くとロッドの先端からブレードを展開、背部と脚部のブースター
を全開で駆動させ、予想外の結果に固まっているノイラへと向かってゆく。
すれ違うのは限りなくゼロに近い時間、虎蔵は一直線にノイラを両断した。
「残るは貴様だ、縦笛幼女!!」
下から全力での衝撃波が襲ってくるが、唐突に一部が止んだ。
「勘違いしないで下さい、私は楽しみを潰されて縦笛幼女に腹が立ってるだけですから」
スピーカーに突き立っていたのは白銀の長杭、そして背後からの声で助けてくれた者が
誰かを知る。理由はどうあれ、助けてくれたリィタに礼を言いながらダイブを加速させ、
虎蔵は左右の刃を袈裟掛けに構えた。
振る。
ステージを半壊させる程の衝撃を与えながら、オリーブを打ち砕いた。
「それでは、私はこれで」
『待って、リィタ』
「何ですか、姉さん?」
もう隠す気も無くなったのだろうか、リィタは面倒臭そうに眼下のリリィを見る。
「どうして、生きているの? 貴方は確かに、あの時」
『死んだ筈なのに、ですか? 簡単です、その直前に魔法幼女プログラムを使いました。
私の意識はそちらに入り、姉さんが来たときには本物の体は死んでいたんです』
自分の体のことの筈なのに、あまりにも冷たい声。感情をどこかに置き忘れてしまった
かのような声に、虎蔵は小さく身震いをする。リリィは戦いの前『月の魔女』という言葉
を発していたが、それは寧ろ今のような状態を表すもののように思えた。
「今の私は亡霊です、もう忘れて下さい。それと、そこの貴方」
リィタは虎蔵を見て、
「あまり使わない方が良いですよ、戻れなくなるかもしれませんから。永遠に幼女の姿は
嫌でしょう? これは脅しではなく、忠告です。忘れないで下さいね。あ、それと」
「まだ何かあるのか」
「ヤキソバ、取って下さい」
言われた通りに出店のヤキソバを取って投げると、リィタは小銭を投げ返してくる。
「これこれ、これが良いんですよ」
初めて笑みを見せると、リィタは嬉しそうにヤキソバのパックを抱えて飛び去った。
『リィタ、どうして』
リリィはリィタが去った方向を見て、ひたすら立ち尽くしていた。
最終更新:2007年08月04日 17:28