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『暗黒刑事ヘドロの魔法幼女大作戦』-5

  • 作者 ロボ氏

第5話『空の騎士』

 第5監獄都市の外れにある、広大な敷地を持つ山。樹々が繁る豊かな自然が人気の土地
であり、その麓にある開けた河原は暑い今の時期はキャンプに来る人々で賑わっている。
家族で自然を堪能しに来ている者や、一人静かに本などを読んで過ごしている者、様々な
タイプの人が思い思いに楽しんでいた。そんな心安らぐ風景は、人間は確かに人間である
と実感させてくれる。だから、人気の場所となっているのだ。
 その一角に、中年の男と金髪の少女という二人組が居た。
「おい、本当に来るんだろうな?」
「大丈夫です。リィタの大好物がヤキソバなのは変わってないでしょう、だったら匂いに
誘われてフラフラと寄ってくるでしょう。それは私が保証します」
 鉄板の上でヤキソバを炒めながら尋ねる虎蔵に頷きを返しつつ、リリィはおたまで掻き
混ぜてカレーの煮込み具合いをチェックする。虎蔵の得意料理のヤキソバも、キャンプの
定番であるカレーも、どちらも良い匂いを放っていた。確かに食べてみたくなる匂いだが、
「本当かねぇ」
 リィタがやってくるのか、と思い首を傾げた。リィタの双子の姉妹であるリリィの言葉
を疑う訳ではないが、いまいち現実的な話とは思えなかったのだ。
 虎蔵とリリィがキャンプに来たのには、理由があった。
 ヤキソバを嬉しそうに抱えていったリィタを見て好物なのかとリリィに尋ねたところ、
昔からの大好物だと答えたのだ。サユリに野菜を食わせつつ、本来の色や味に慣れさせる
ために何度も作った結果、虎蔵の得意料理はヤキソバとなっていた。そのことを思い出し
リリィに話してみると、試す価値があると言い出した。そして今の作戦が決定した。この
場所を選らんだ理由はサユリを楽しませたいという虎蔵の強い意見と、万が一Dr.ペドの
襲撃が来たときに被害を少ないようにしようという意見からだ。
 皿にヤキソバを移す頃、川で遊んでいたサユリと相手をしていた薫が戻ってきた。前回
保護をされていたときにサユリは薫に懐いてしまったらく、今ではべったりな二人を見て
虎蔵は複雑な笑みを浮かべた。良い人間だとは思っているが、悪影響が少し心配だ。

「あら、美味しそうね」
「あたし、ぱぱのヤキソバ大好き!!」
 抱きついてくるサユリにキャベツを一切れ渡すと、嬉しそうな笑みで食べる。
「こっちも出来ました」
 強化コンロの火を止めると、レトルトのパックから白飯を出して皿に盛る。人数分の皿
に一つ追加してレジャーシートの上に並べ、虎蔵は空を見た。後はリィタが寄ってくるの
を待つだけだ。運転担当なのでアルコールは飲めないが、リリィの作ったカレーを食う。
「お、美味いな。この年でやるじゃねぇか」
「べ、別にヘドロさんに誉められても嬉しくありません。それに説明書通りに作っただけ
ですし、カレーなんて誰が作っても同じようなもんです」
 素直な感想だったが、リリィは頬を染めてそっぽを向いた。薮の中へと入ってゆく若い
男女が見えるが、それを見た訳ではないだろう。誉められるのが苦手なタイプだ、と思う。
セリスもそうだったな、と虎蔵は妻のことを思い出す。誉めすぎずに良い評価をするのが
難しく、よく照れ隠しのフライパン殴打などを食らっていたな、と瞳を濁らせた。
「あら、野菜もよく食べるわね。あたしは沢山食べる子は好きよ」
「ぱぱのだったら、お野菜も美味しいもん。それにリリィお姉ちゃんのカレーも好き!! 
リリィお姉ちゃんがままになってくれたら良いのに、そしたら美味しいの沢山だもん!!」
 ストレートに言われて、リリィの顔が限界まで赤くなる。何故か姿勢を正座に変えると
強く握った拳を膝に乗せ、俯いて小さく何かを呟き出した。血痕がどうとか未経験だから
血を見ることになるとか、物騒な単語が聞こえてきて慌てて虎蔵は身を乗り出した。自分
だけならまだ良いが、娘を危険に晒す訳にはいかない。Dr.ペドのことについて分かった
ことがあり話し出したのだとしたら、言葉の意味はもっと重要なものになる。
「あの、ヤキソバ一皿貰って良いですか?」
「構わん、まだまだあるから好きなだけ食え」
 横から聞こえてきた声に答え、ヤキソバを盛ってある大皿の方向を指差して、
「ん?」
 虎蔵は疑問を持った。
 聞き覚えのある今の声は、一体誰のものだっただろうか。

 振り向けば、リィタがサユリに割り箸を手渡されているところだった。口の端から大量
の唾液を垂れ流し、超山盛りになっているヤキソバ皿に向いた瞳は、星や銀河と言うより
飢えた獣のような鈍くギラついた輝きを放っている。どれだけヤキソバが好きなのだろう、
外見は涼しげな銀髪美幼女だというのに今や全てが台無しになる程の有り様だ。
「リィタ!!」
「何ですか? 今は忙しいので後にして下さい」
 言いながらまずは麺を一束、箸で摘んで小さな口へと運ぶ。
「こ、これは!?」
 目を大きく見開くと、ガツガツと一気に掻き込んでゆく。その姿はまるで野生の飢えた
獣のようだ、否、それすらも生温いだろう。大量のヤキソバを一気食いするなんて、この
ままでは喉が乾いてしまうというのに。心配そうな目で麦茶を差し出した薫に目も暮れず、
一心不乱に小麦色の炒め麺を貪ってゆく。こんなに炭水化物を摂取するなど有り得るのか、
カロリーは大丈夫なのだろうか。外見は幼女と言えどリリィの双子というからには思春期
真っ盛り、年頃の少女である筈なのに。
 重量にして3㎏ものヤキソバを数分も掛けずに食い終えると、虎蔵が渡した紙ナプキン
で優雅に口元を拭い、そこで漸く麦茶を口に含んだ。
「ありがとうございました、こんなに美味しいヤキソバを食べたのは初めてです」
 丁寧に礼をすると、リィタは背を向けた。
「では、私はこれで」
「待てよ」
 ヤキソバ効果か、いつもなら無視をして去ってゆく筈の足が止まった。
「これだけ食ったんだ、礼に話でも聞いてけや」
 面倒臭そうに戻ってくると、リィタは虎蔵の隣に腰を下ろす。薫は虎蔵に目配せをし、
サユリの手を引いて立ち上がった。これからの邪魔にならないように、との配慮だろう。
変態の癖にそんな部分があるから、こいつは開発課の課長をやっていられるのだ、と素直
に感心した。だが娘をやるつもりはない、と虎蔵は固く決意する。
 そしてリリィといえば、
「何おっかない顔してんだよ」
 睨んでいた、虎蔵ではなくリィタを。

 別に、と言うと立ち上がって虎蔵の隣、リィタと反対側の場所に腰を下ろす。両手に花
の状態だが、妻一筋の虎蔵は気にならない。近くに居たいが素直に妹と話が出来ないのだ
ろうな、と苦笑を溢してリィタを見た。彼女は、夢の跡であるヤキソバ皿をじっと見つめ
ている。あれだけ食ってもまだ食い足りないらしい。もしかしたら単純な容量だけでなく、
魔法幼女と何か関係あるかもしれないと思う。
「まだ材料はあるから、後で作ってやるぞ?」
 言うと、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「その代わり、と言っちゃあ何だがよ。もっとリリィと仲良くしてやってくれねぇか」
 望みはある、と思う。口では忘れた方が良いなどと言っているが、こんな場所まで来て
会うということは偶然では済まされない話だろう。最近の戦闘のこともそうだが、自分の
前に現れるのも、狙っているのではないかと思う。証拠が何も無いので真実は分からない
けれど、きっといつもリリィを陰から見ているのではないかと考える。もし、そうだった
ならば、後は軽く背中を押してやるだけだ。
「俺にもよ、弟が居る。馬鹿で、いつも無茶をして、どうしようもない奴だ。それでもよ、
やっぱ家族ってもんは不思議なもんで、離れて暮らすと寂しいもんだ。お前らは双子だろ、
ずっと隣あって生きてきたんだろ? 離れて別れて突っぱねて、寂しくねぇ筈はねぇだろ」
 無言。
 沈黙が空気を重く沈め、川の流れる音や他の家族連れがはしゃぐ声が遠く聞こえる。
「本当に」
 ぽつりと、リィタが口を開いた。
「またヤキソバ作ってくれますか?」
「何回でも作ってやるさ、お前がリリィと仲良くしてたらな」

 素直じゃない、と小さく笑い声を漏らして虎蔵は立ち上がった。あんなに大量に食うの
だから、作るにも時間が必要だ。ヤキソバが出来るまでは親交を深めるという意味もあり、
リィタの分のカレーを皿によそって手渡してやる。
 だが、
「カレーは嫌いです」
 あっけなく突き返された。
「お前、少しは努力しろよ」
「カレー、美味しかったでしょう? 当然です、リリィはカレーしか作れないんですよ。
だからスクール時代はリリィが料理当番のとき、殆んど毎回カレーでした。夏休みで食堂
が連続で休みになると、毎日カレー地獄だったんです。それは嫌いにもなりますよ」
「ヤキソバしか作れなかったリィタよりはマシです!!」
『ヌワッハッハッハ!!』
 突然、下品な笑い声が響いた。
 声の出処に目を向ければ、飛行船がある。そこに取り付けられた巨大モニターに映って
いるのはDr.ペドだ。今回は山登り気分を演出しているのか、山高帽を被っていた。
『カモン今日のプリティベビィ!!』
 Dr.ペドの叫びと共に、飛行船の真下にある森が割れた。地面に巨大な穴が空き、そこ
から木造の大きな建築物が競り上がってくる。虎蔵にとっては見慣れたもの、道場だった。
森の中にひっそりと建つ道場、そんな風情のある景色を見て素直に感心する。
 扉が開き、中から数人の幼女が現れた。全員共通して白の胴着に黒の袴姿、長い黒髪を
侍のように後頭部で結っている。先頭の者は拳にバンテージを巻き、二人目は刀を、最後
に出てきた者は槍を持っていた。どれも道場と同じ、虎蔵には見慣れたもの、戦い慣れた
ものだ。しかし侮るつもりはない、寧ろ危険な部分を知っているので強く心を構える。
『代表して儂が名乗ろう。竜鳴館師範、ランコじゃ。刀の者がセイコ、槍の者がミツコ。
照れ屋なので表には出てきておらんが、弓を使うチンコも居る』

「待て」
 正々堂々とした名乗りにうっかり流してしまいそうになったが、虎蔵はDr.ペドを見た。
もしかして、という疑問を含んだ視線にDr.ペドは満足そうに満面の笑みを浮かべて頷き、
『そうさ、漢字で書けば卵子、精子、満子、珍子、夢のコラボレイトなんじゃよ!!』
「下品な名前を付けるんじゃねぇ!!」
『何が下品じゃ? 命の誕生は、その下品の集大成じゃぞ!!』
 虎蔵は無視をした。
『行くぞ、虎蔵殿』
『『『『DragneelSystem:Enter;』』』』
『『『『TetoraglamSoul:Open;(四仙共鳴展開!!)』』』』
 それぞれが構えを取り、陣形を組んだ。
「ヘドロさん、こちらも」
「分かってる」
『FullmetalTiger:Enter;』
『MoonBrea:Enter;(魔法幼女展開!!)』
 虎蔵とリィタも変身をして、構える。
 先に仕掛けたのは、虎蔵だった。
 ブレードを展開して、ランコに斬り掛る。相手が武道家であることは、それだけ苦戦を
する可能性がある。武道に精通をしていればしている程に、自分の行動に対策を立てられ
やすいからだ。相手に刀を使う者が居るのなら、それは尚更だろう。リィタがどの程度のレベルで武道に対する戦い方を
知っているのかは分からないが、虎蔵は守崎流の免許皆伝の腕前だ。だから、一気に畳み
掛けようと迫ってゆく。
 刃を振り上げ、
「くたばれ!!」
『良い太刀筋だ。だか、まだ足りん』
 振り下ろされたブレードに拳を当てると体の回転を使っていなし、その流れを利用して
カウンターの肘を腹へと叩き込む。相手の攻撃の勢いを利用した一撃は装甲を砕き、更に
樹々を巻き込みながら虎蔵の体を吹き飛ばした。
 強い、と虎蔵は舌打ちを一つ。

 リィタは大丈夫かと視線を向けると、セイコとミツコの連携攻撃を一身に受けているの
が見えた。至近距離で刀の連撃が来て、それを受け止めた瞬間にセイコの背後から伸びる
ように槍での突きが来る。一子乱れぬコンビネーションが、彼女達が使う能力なのだろう。
それぞれが持つ高い技術を完全に生かす超連係、四仙共鳴の名に恥じないものだ。
『よそ見をしている暇があるのかのう?』
 直後、空間が消失した。
 道場の方向から放たれた矢は、軌道上にある障害物をことごとく貫通しながら飛来し、
虎蔵が立っていた場所を通過する。その矢を避けれたのは偶然、奇跡に近い。長年培った
経験から来る勘が上手く働いた結果だった。だが、音速超過で来る矢を次も避けることが
出来るとは限らない。当たればそこで終わり、次の瞬間には自分は存在していないだろう
と小さく身震いをする。
「リリィ、Type-Wだ!!」
『Type-W:Enter;』
 一瞬で換装を完了、ランコの背後に回り込む。
 しかし、
『甘いわ!!』
 胴着を突き破って、ランコの背から大量の線が伸びた。多重間接機構によって生まれた
長大な機械の触手は全方向から襲いかかり、やがて虎蔵の体を絞めつける。動きを重点的
に設計されたのか力は強いものではない、薄い装甲でも負担がかかるものではなかった。
しかし、動けない。それは恐らく、次の攻撃の為の準備なのだろう。道場の方向に視線を
向ければ、チンコが既に弓を引き絞っていた。
 もう駄目か、と目を閉じた。
 衝撃。
 ぶちぶちと何かを引き千切る音がして、拘束が緩んだ。間一髪で脱出した僅か後には、
空間を矢が付き抜けていった。助かった、と安堵の吐息をしてリィタを見ると、
「勘違いしないで下さい。あなたが死ねば、美味しいヤキソバが食べれなくなりますから」
 そっぽを向いたリィタは、すぐにセイコ達との戦闘に戻る。しかし先程と同じように、
やはり苦戦を強いられていた。このままではジリ貧だ、と苦い表情を浮かべ虎蔵はランコ
から距離を取る。このままでは、いつまで経っても勝てない。

「おい、不味いぞ。バラバラに戦っても、負ける」
「リィタ、新しい装備がありますから、それを使って下さい。基本設計は同じ筈ですから、
きっと適応出来る筈です。と言うより、そうしないと勝てません」
 沈黙。
「リィタ!!」
「おい、言えよ。一緒に頑張ろうって。姉妹だろ、家族なんだろ!? お前は何だ!?」
 掴みかかってきたランコの拳を避け、虎蔵は叫ぶ。
 このまま終わって良い筈が無いのだ、死んだら全てが終わりなのだ。このままでは全て
が駄目になってしまうのだ、そう想いを込めて、息を荒げながらも全力で言葉を発する。
虎蔵は家族を何よりも大事にする男だ、セリスが死んでからその想いは余計に強くなった。
大切にしている者が消えるとどうなのか、それを誰よりも知っているから。偽善だと言う
者が居るかもしれない、押し付けだと非難する者が居るかもしれない。しかし虎蔵は迷う
ことなく言葉を口にする。自分の信条が間違っていないと、正しいと思い、それを他人に
伝える為に。空に響く程の大音量で、虎のように叫ぶ。
「私は」
 リィタはリリィに視線を向け、呟いた。
「私はリィタ・ムーンブレア。月の魔女、誇り高い空の騎士の血族です!!」
「よく言った!!」
『Type-D:Enter;(高速演算モード展開!!)』
 リィタの装甲が弾け、服装が変わる。
 簡素なワンピースは、胸当てと長い腰布へ。
 漂うように現れた金属製のタロットがリィタの周囲を囲うように展開し、胸の前に出現
した球状の大型クリスタルが青白い光を放つ。ジプシーとダンサーの中間点のような姿は、
神秘的な印象を与えるものだ。
 リィタがクリスタルの中の正四面体フラクタル回路を起動させると、タロットが意思を
持つかのように飛んだ。素早く展開し、ミツコとセイコの斬撃を受け止める。

 そして、
「虎蔵さん、1m右です」
 言われた通りの動きをすると、全方向攻撃だと思っていた触手を抜けた。
『HotShot:Open;(夢幻砲撃展開!!)』
 タロットは一直線に道場へと向かうと、チンコを撃ち抜いた。それだけに止まらずに、
ミツコとセイコも次々と撃ち抜いてゆく。残るは只一人、ランコだけになった。
 リィタはクリスタルを起動、ランコの動きを高速で予測する。
「虎蔵さん、私が合図をしたら右下から30度の角度でブレードを振り上げて下さい」
 タロットがランコの触手を防ぎ、虎蔵が一歩踏み出し、
「今です」
 ブレードを振り上げる。
 切断。
 あんなに苦戦をしていたというのに、ランコの体は一瞬で両断された。

 ◇ ◇ ◇

 青空の下、リィタはカレーを食っていた。表情は苦いもので、何度も吐きそうになって
いるのだが、全て食べるまでヤキソバはお預けという虎蔵の言葉によるものだ。目の前に
置かれたヤキソバを眺めながらの作業は、さぞや辛いものだろう。
「ほら、食べました。だから、ヤキソバを」
「美味かったか?」
 一瞬言葉に詰まり、そっぽを向き、
「カレーは嫌いです」
 ぽつり、と言う。
「でも、食べれないこともありません」
 その言葉に笑みを浮かべ、虎蔵はリィタの頭を撫でた。
「これからも、よろしくな?」
 ヤキソバの皿に手を伸ばしながら、リィタは小さく頷いた。

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最終更新:2007年08月04日 17:33